寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

219 / 289
第219話 永遠亭急襲 ―先手必勝―

「―――アリス!」

「妖夢、ここに来たのは誰の指示?」

「夢月ってとんでもない悪魔から。アリスのこと知ってるみたいだったから信じたよ!」

「そう、助かるわ…そうね、一応紹介しておきましょうか」

「へ?」

 

妖夢が私の家に到着したのだけど、霊夢と魔理沙はまだ守矢神社から動いていない。それならこの少ない時間でも出来ることは済ませておきましょう。

 

「リリー、聞こえるかしら?」

『聞こえるのですよー!どうしましたかアリスさん!』

「戦力になる協力者と合流出来たから、サリエルと幻月にも紹介しておきたいわ。繋いでくれる?」

『聞こえてますよ。もしかして夢月と接触していた片割れでしょうか?』

「そうよ。…妖夢、豹の協力者と繋がってるわ。リリーは知ってるでしょうけど、サリエルと幻月との面識は無いわよね?お互いに声だけでも把握しておいて」

「あ、うん…?この人形に話せばいいのかな?

えーっと、白玉楼の魂魄妖夢です。よろしくお願いします」

『はい、夢月の姉の幻月です。よろしくお願いしますね』

『魔界から来たサリエルだ。よろしく頼む』

「…ねえアリス、ものすごい相手と私話してないかな?」

『そこまで気にしなくていいですよ。夢月が協力者と認めてくれたのでしょう?

妹がそう認める相手を邪険にすることは無いですから』

『ヒョウの助けになってくれる者には最大限の助力を惜しまないさ。私を信用してくれとは言わん、ヒョウの力になろうとしている皆に、君が信じられる相手がいるのであればその者を信じてくれ』

「は、はい…と、とりあえずアリスと一緒に霊夢と魔理沙を止めればいいんでしょうか?」

 

妖夢が変に緊張してるけど…サリエルも幻月も思った以上に穏当なのよね。だから声だけでもお互い知っておけば情報不足による同士討ちは避けられるはず。それだけならこの程度でも大丈夫でしょう。

 

『ああ、私も幻月も幻想郷内のヒョウの仲間で手が回らなくなれば動くが…私と幻月が動くだけで余計な介入を招いてしまうリスクがある。ゆえに君のような幻想郷の住人の力を貸してもらいたいのだ』

『ここにいるリリーのように、力が足りなくてもヒョウの助けになろうとしている存在もいるようですからね。私とサリエルでそんな存在を保護するぐらいなら睨まれることもないでしょう。魔力を使い果たしたり負傷した者が出てしまったら、ヒョウの隠れ家に向かわせてもらえば私かサリエルで迎えに出向きます』

『サリエルさまも幻月さまもありがとうなのですよー。リリーはもうしばらくなにもできそうにありませんので…』

「…はい、リリーをそう扱って頂いている時点で私はサリエル様と幻月さんを信じられます…って、これは!?」

「とうとう動いたわね、霊夢と魔理沙が…!」

 

通信の途中で霊夢と魔理沙が守矢神社から永遠亭に向かうのをキャッチしたわ…!本当に絶妙なタイミングで妖夢は合流してくれたようね。

 

『…早速ですまないが、頼めるか?先行している魅魔とやらがそちらに引き返すようなら、私か幻月で援護に向かう』

「ええ、一番豹と関わらせるのが不味い相手だもの。止めてくるわ」

『お願いしますね』

 

通信を切って、戦闘用の人形を引き連れる。

 

「それじゃ頼むわ妖夢。最悪、霊夢と魔理沙以外は永遠亭に向かわせてしまって構わないわ。鈴仙と文が同行してるようだから」

「わかった。それなら霊夢を私が、魔理沙をアリスが止めるのがいいと思う。

私はどうしても魔理沙との相性が良くないからね」

「いいわよ、それで行きましょう」

 

さあ、これが今夜の正念場でしょうね。気合を入れていきましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…逆に丁度良いと考えましょ。妹紅から話を聞き出してくるわ」

 

思ってたよりもずっと状況が悪いわ。鈴仙が離れてるタイミングで仕掛けられるのは永琳としても計算外でしょう…私と同じ反応を返すぐらいだし。まあ、清蘭と鈴瑚が戻っているだけ最悪ではないと考えるべき。

 

「…気は進まないけれど、そうするしかないようね。輝夜、前衛は任せていいかしら?」

「鈴仙がいない以上そうするしかないでしょ?永琳は後衛じゃないと本気を出せないんだし」

 

永琳が()()()()()()()って判断をしている時点で選択の余地がないということだわ。鈴仙と守矢の風祝が最初の話を持ってきた時点で、私を外出禁止にしようとしていたのを翻しているのだから。

私と永琳二人がかりででも妹紅を捕まえて、情報を引き出した上で味方に付けるのが最上。それが出来ずとも迷いの竹林を抜けられる妹紅を自由にするわけにはいかないから、協力を拒否する場合は永琳の薬を使ってでも永遠亭に勾留しなきゃならないわ。

 

「清蘭と鈴瑚は後続に対応してもらえるかしら。ウドンゲを撃退した藤原妹紅が来たということは、少なくとも騒霊楽団の姉妹は同行しているはず…何なら『藤原妹紅を捕らえるのに手を貸すならあの騒霊は解放する』と伝えてしまって構わないわ。後衛として援護に回られる方がずっと厄介になるから」

「「了解です!」」

「てゐは輝夜にありったけの幸運を与え続けるのを優先して。私か輝夜が藤原妹紅を捕らえたら、隙を見て鈴仙を迎えに行って頂戴。藤原妹紅さえ抑えれば、私と輝夜で時間稼ぎできる程度の戦力でしょうし」

「つまり戦わなくてもいいってことですね?それならお任せ下さい!」

 

弓と矢を持ち出しながら永琳が指示を出す。相変わらず私に過保護すぎる戦術だけど、私と永琳が揃っていれば援護が入るまで時間稼ぎするぐらいはどうとでもなるのだから理に適っているわ。その場合は前衛の私の方が集中攻撃される可能性が高いのだしね。

 

「それじゃ、礼儀のなってない客を追い返しに行きましょうか」

 

 

 

「まったく騒々しいわね。こんな時間に無礼が過ぎるわよもこっ!!?」

 

そんな軽い気持ちで表に出たのだけれど、私が思ってた以上に妹紅が本気だったわ…!会話するどころか問答無用で妖術の炎を撃ち出して来た…それも永遠亭を巻き込むのもお構いなしで!!

 

「はあっ!?何するのよ!?」

「こっちのセリフだ!!メルランちゃんを攫うとか何考えてやがる!!」

 

そのまま突っ込んで殴りかかって来る!なんでここまでキレてんのよ妹紅は!?

 

「話を聞きに行っただけでしょう!?妹紅がキレる理由がないじゃない!!」

「問答無用で襲撃して何が話だ!!用があるなら直接豹に聞きに来りゃいい話だろうが!!」

「鈴仙は何をやらかしたのよ一体!?」

 

流石にこの勢いには驚いたけど、永琳の援護射撃で妹紅が一度下がる。でもこれで妹紅が豹の情報を持ってるのははっきりしたから、ちょっと本気を出して妹紅を捕まえれば済む話なのは確定。それならなんとかなる。

―――なんて軽く済む話ではないのに、私はここに来てようやく気付いたわ。

 

「もう一人の月の民ね!それなら容赦しない!!《緑の魔法》!!」

「なっ!?ユキっ!?」

「は!?」

 

後ろから届いた永琳の声で驚愕する暇もなく、妹紅の後ろから黒服の少女が蛇行するホーミングレーザーを乱射してきたわ!!しかもこれ、私と同時に永琳も狙ってる!!?私が避けたレーザーが蛇行して永琳を狙い、永琳を狙ったレーザーも蛇行して私を…狙わずに空間移動のゲートになった!?

 

「――ラァ!!」

「くっ!?」

 

その空間魔法のゲートから、守矢の風祝が持って来た写真の男―――豹が永琳に飛び蹴りで突っ込んで行く!?どういうことよこれ!!?

 

「余所見してんじゃねえぞ輝夜!!」

「このっ…!」

 

それに気を取られる間もなくまた妹紅が突っ込んでくる。冗談じゃないわ…!

妹紅と魔界人の兄妹が騒霊救出のためだけに乗り込んで来たっての!?あの騒霊にそれだけの価値があるなんて、計算外が過ぎるわよ!!

 

 

 

 

 

流石は八意永琳、ユキの緑の魔法がゲートに変化した時点で視線からは外れる位置に回避してやがった!だがそれでも一気に距離を詰めることには成功、このまま余計なことをさせなきゃそれでいい!!手の内が割れてる以上、俺の魔眼はコイツにはまず決められないだろう。だが魔眼を意識させ続けるだけでも十分過ぎる牽制になる!!

 

「八意様っ!?」

「こいつは!?清蘭、出し惜しみ無しで援護っ!!」

 

そして上手く二匹は釣れたな!伏兵として後衛を狙われたり、メルランを人質に取られると面倒になるからこそ先発・後発に分けて襲撃したのだ。玉兎二匹が釣れたのであれば永遠亭内に潜んでいるのは因幡てゐ一人、それならルナサとリリカ二人で対処すれば危険は少ない!そして、この位置まで出て来れば!!

 

「兄さんの邪魔はさせないよ!!《クリムゾンクラスター》!!」

「ひえっ!?」

「何この密度!?誤射のこと考えてないっ!?」

 

――ユキの射程内だ!!これで玉兎二匹を俺が相手にする必要は無い!ただひたすら八意永琳を肉弾戦に突き合わせればいいだけだ!!

 

「ハアッ!!」

「うっ!?依姫が手こずるはずだわ…!」

 

投げ付けられた薬瓶を右肘打ちで砕くと同時に、左手の手刀で弓を壊す。だが八意永琳も慌てることなく壊された弓を爆薬で爆破し、その爆風で俺との距離を取ろうとする。だがあの時と違い、今の俺には強力な武器がある!!

 

「逃がさん!!」

「っ!?魔力拳銃ですって!?」

 

里香の拳銃を連射して追撃、時間魔法を併用し高速弾と低速弾を使い分けることで回避先を制限する…カタマサが得意としていた技術!何度も手合わせに付き合ってくれていたからこそ、武器を使うことで劣化しているとはいえ再現できる!

 

「――っ!?本当に、恐ろしい魔法使いね!」

「避けられるキサマに言われたくないがな!!」

 

さらに魔力弾をゲートに再利用し、ユキの流れ弾で背後から狙うが避けられる!空間魔法の作動をここまで即座に感知できるとはな…!やはり、月の民は強敵!!

 

「―――高位治癒魔法!?私相手の対策ということね…!」

「ご明察!だが今のキサマに止める余裕があるか!?」

 

どうやら肘打ちで壊した薬瓶が何かしらの毒ガスだったらしく、麟の援護をもう看破された…!

だが俺たちはこのまま速攻を決めるのが最善策。時間を与えて八意永琳に対応策を打たれてしまえばメルランの救出は難しくなる…!八意永琳がいくら天才であろうと、策を為すには準備時間が必要。その準備を終わらせないことが俺たちにとって最も確実な勝因となるのだ。ゆえに、今はただ頼れる仲間を信じるのみ!!

 

 

 

 

 

「てゐ!最後方の楽師を止めなさい!それだけやったら予定通りに!!」

「また無茶振りを!?でもこの状況じゃどうしようもないかねえ!?」

「っ!」

 

豹さんが最大限警戒するわけですね…!豹さんに向けて投げ付けられた薬瓶…薬剤に関して詳しくない私が遠目でその効能を理解できるはずがありません。ですので壊された薬瓶からガスが発生し、豹さんが吸い込んでしまった時点で最高位の治癒魔法…【肉体に害を与える作用を打ち消す魔法】を行使しました。

 

たったそれだけで、()()()()()()()()()()ことに気付かれた…!

そして、永遠亭から敵戦力最後の一人が飛び出してきました、が!

 

「邪魔はさせませんよ?」

「…し、死神っ!?なんでこんな物騒な奴が出て来てるのさ!?」

 

本気を出しているエリーさんの迫力に気圧されています。正直に言って、私も今までのエリーさんとの落差で怖いと感じるぐらいです。

―――今のエリーさんが纏う妖気は、触れてはいけないという本能的な恐怖心を感じるモノなのです。そして、それを見逃すエリーさんではなく。

 

「邪魔と言いました。手加減しませんからね?」

「げっ!?」

 

容赦なく弾幕を放ちました!大鎌で斬り付けようとしないだけまだ穏当な対応なのでしょうけれど、やはりエリーさんもあのフラワーマスターに仕えているということに納得できる攻撃的な弾幕です。

 

「麟さん、上海たちも来てくれています。絶対に護りますので、豹さんの援護だけに集中お願いします」

「っ!はいっ!!」

 

豹さんは先ほどの言葉通り、八意永琳に対し徹底的に肉弾戦を挑むことで食い止めています。そしてその援護は私にしか出来ないのですから…エリーさんの言う通り集中しませんと!!

 

 

 

 

 

「しゃ、洒落にならない!?魔界人がこれほどだなんて!」

 

八意様を援護するどころか、上空から乱射される魔法を避けるので精一杯だわ!その八意様も不得手な接近戦に持ち込まれて思うように動けていない、それを証明するように交戦させる予定の無かったてゐまで前線に出す羽目になってる。何より…!

 

(どうやってこれだけの戦力を揃えて来たの!?鈴仙を撃退したのは人形を一人と数えても6人って言ってたのに!?)

 

藤原妹紅ってのが姫様を狙って来たアイツで、ユキってのが上空からひたすら広範囲に乱射してる魔界人。そしてターゲットの一人である豹と、それを援護してる死神と楽師。問題は、この5人に鈴仙が交戦した相手は一人しかいないってこと。つまり、単純にあと5人は増援に来る可能性があるってこと…いくら八意様が居ると言っても、とても支えきれる数じゃない!!

 

―――そして、私と清蘭に致命的な隙が出来てしまう。

 

 

 

「このぉ!好き勝手撃ちまくって…!」

 

八意様を助けようと例の男に突撃したら、姫様を狙ってた奴が私と鈴瑚に狙いを切り替えて来て援護どころじゃなくなっちゃった…!何発か被弾してるけど、それだけで戦闘不能になるような威力じゃない。だけどその分弾速と数が異常な乱射魔法…!数と速度に偏ってるとはいっても、当たれば足が止まる程度の威力はある。それをフレンドリーファイア当たり前にぶっ放してくるふざけた魔法使いのせいで近付けない!それに…

 

(何なのよあの男は!!あれだけ誤射されてるのに何の反応もなく八意様に殴りかかるなんて!

痛みを感じないとでも言うの!?)

 

食らうたびに私の足は止まる乱射弾を、完全に無反応で八意様を狙い続けるターゲット。魔界人は魔法使いがほとんどって話なのに、あの防御力は何なの!?月の装備を超えるような装備でもしてるっての!?

 

―――そんな感じで追い詰められていた私と鈴瑚に、予想外なところから邪魔が入る。

 

 

 

『清蘭、鈴瑚!詳しい説明は後でするけど、霊夢と魔理沙が私を道案内として守矢神社から連れ出してくれたわ!メルランの救出に豹も出向くはずだとか言ってるから、挟撃できるように持ち堪えてちょうだい!』

 

 

 

「――は!?遅いのよ!!もう襲撃されてるから急ぎっ!?」

「隙だらけです!!」

 

鈴仙からのテレパシー、それは私達にも援護が来てるっていう吉報ではあるんだけど、タイミングが遅すぎて。

 

「《模倣・黄の魔法》!!」

「う゛っ!!」

 

妖精よりも小さい人形が近付いていたのに気付けなくて。至近距離で電撃魔法を食らった私は行動不能に陥ってしまったわ。

 

 

 

「今更よ!!もう敵襲されてるからさっさと………!?」

「毒霧が見えてないなんて、随分余裕がないみたいね」

 

鈴仙からのテレパシーに怒鳴り付けるように返そうとした途中で、く、口が動かなく…

し、痺れる…!?か、体中痺れて、う、う、動けない!

 

「上海の邪魔はさせないわ。しばらくそこで大人しくしてて」

(こいつ、メディスン…!!)

 

私と鈴瑚をここ…永遠亭に案内した毒人形が、私に毒霧を浴びせて立ち去って行った。こ、こんな子供にしてやられるなんて…!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。