寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第22話 それぞれの午前と予想外のナマエ

博麗神社へ向かって飛ぶ。出来れば霊夢に詮索されずに用件だけ済ませたいところだけど、まず無理でしょうね…あの勘の良さは止めようがない。それなら最低限の情報を私から出してしまってやり過ごすのがいいでしょう。

そう考えながら境内に降り立つと、早速声を掛けられた。

 

「おや、アリスさんがここに来るのは珍しいですね」

「…そういえば、狛犬が居付いたと魔理沙が言ってたわね。あなたが高麗野あうんかしら」

「はい、私は前々からアリスさんを見知っていましたが、直接お話しするのは初めてですね!よろしくお願いします!」

 

魔界で好き放題暴れた靈夢を知る私としては、ここまで人妖問わず霊夢が慕われるのに思うところもあるのだけれど…彼女たちには関係のない話。私から教える必要もないし、付き合いを避ける必要もない。

 

「ええ、よろしく。だけど今日用があるのは霊夢じゃないのよ」

「あ、そうなんですか。霊夢さんは今人里に出ているので、何か言付けがありましたらと参ったのですが」

「…そうね、下手に訝しがられても面倒だから、私がここに来たことは伝えておいていいわよ。用があるのは光の三妖精だから、気になるなら直接確認しなさいとでも言っておいて」

「わかりました!」

 

これは運が良かったわね。直接話すことになったらなにかしら感付かれるのを覚悟してたけれど。魔界人絡みの案件は、霊夢に首を突っ込まれたくない…私のためにも、魔界のためにも、霊夢のためにもね。

 

 

 

 

 

博麗神社の裏にある大木。妖精としては力が強いので簡単に当たりは付いたけれど、今は一人しかいないようね。単独行動してるイメージは無いのだけど…まあ、霊夢に感付かれる可能性が低くなると思えば悪くはないか。

 

「誰が残ってるのかしら?少し頼みたいことがあるのだけれど」

「…アリスさん?あなたほどの人が妖精に頼み事なんて珍しいわね」

 

金髪を縦ロールに整えた妖精が表に出てきた。残っていたのはルナチャイルドか。そうね、当たりを引いたと言っていいでしょう。

 

「少し妖精絡みで調べ事が出来てね。春告精の居場所に心当たりないかしら?」

「え、リリー?うーん…妖怪の山の方に隠れ住んでるらしいけど、正確な場所までは…」

 

まあ、そうでしょうね。元々謎の多い妖精だから仕方ない。

 

「たしかあなたコーヒー嗜んでたわよね。口に合うかは別として、私と春告精を引き会わせてくれたら報酬としてコーヒーを出すわ。ちょっと探してみてくれないかしら?」

 

ちなみに報酬の出どころは豹の私物。これぐらい迷惑料として私が拝借しても文句は言わせないわ。

 

「あ、悪くない話。見つけたらここに連れてくればいい?」

「いえ、私の家に連れてきて頂戴。私が不在でも人形が確保してくれるから」

「わかったわ、時間作って探してみる」

 

私たちが闇雲に探し回るよりは可能性があるでしょう。無策で待つよりはマシ程度だろうけれどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、これは珍しい来客だな」

「お久しぶりです、飯綱丸様。少々お時間を頂けるでしょうか」

 

豹が徹底的に避けていたので現状は問題ないが、余計な情報を広めるという点において射命丸文は最優先警戒対象である。霊夢と魔理沙に豹のことが知られる可能性は悉く潰すべき…なので多少の事情は知る大天狗から抑えてもらう。まあ、奴本人のことを考えるとそれほど効果は見込めないだろうが。

 

「構わんよ。紫だったら話半分で聞くが、お前が来たということは放置は出来ん話だろう?」

 

…紫様のこういう方向での信頼は本当に厚い。

 

「はい。ここのところ幻想郷に入り込んでいる神綺ですが、どうやら目的は霊夢ではなく豹だったようです。すでに彼は潜伏しましたが、魔界の関係者に存在を確認されています。そう遠くないうちに大きく動くでしょう」

「そうか。私個人としてはいい気味だが、大天狗としては面倒なことになりそうだな」

 

かつて飯綱丸様の右腕である菅牧典が豹の能力を知らず空回りした件があり、紫様と私と飯綱丸様で後始末を付ける羽目になった。つまり飯綱丸様からすれば豹のせいで紫様に借りを作ることになったわけだ。豹に対して良い印象を持てないのは仕方ない。

 

「そのため飯綱丸様に一つ動いていたただきたく。ここしばらく、射命丸文が豹に接触を図ろうと動いています。ですが今の状況で騒がれて博麗の巫女と白黒の魔法使いに豹のことが知られると、追手の魔界人と二人が衝突する可能性が出てきます。それを引き金に魔界と全面戦争になるのが現状で最悪の想定です。

故に、彼女を黙らせていただきたい。こうなった以上八雲としては豹を切らなければならないので、納得しなければ飯綱丸様から豹のことを伝えても構いません」

「いいだろう。紫が奴を切るのは我々にとっても悪くない話だし、魔界人相手の戦争はどうあろうとこちらが後手に回ることになるだろうからな」

 

ここまではよし。後は対価に何を求められるかだ。

 

「ただし、これは先に聞かせな。なぜ奴は射命丸に尻尾を掴まれた?」

「豹の言葉をそのまま伝えます。『妹の面影を見たルナサに負けた』だそうです」

「ルナサ?………ああ、騒霊楽団の一人か。あれだけ潜み続けておいて何をやってるんだ奴は…」

「私もまったく同感です。それでは、失礼いたします」

 

余計な対価を要求される前に話を打ち切る。印象が悪いとはいえ、豹を後ろから撃つほどの敵愾心は天狗勢力にはないだろう。射命丸のような個人の天狗が絡まない限り、天狗勢力はおそらく動かない。

中立の天秤が傾く前に、すべてが終わればいいのだが。

 

 

 

 

 

「典、聞いてたな?」

「はーい、顔合わせたくなかったんで隠れてましたけど、何とか聴き取れはしました」

 

まあそれは仕方ない。私でさえ典が見つけなければ知らずにいたであろう八雲の隠者。奴に捕まり九尾に尋問された挙句スキマ妖怪に始末されかけたのだ。私直属じゃなかったら生き残れなかっただろうからな。

 

「守矢に魔界の情報を流してくる。あの二人を動かさないように八雲が動いているのなら、利害が一致するだろうからね。射命丸の方は任せるよ」

「お任せを―」

 

ま、典も射命丸も私が止めようが動くだろうけれどね。

 

 

 

(クスクス…これはまたとない機会。積年の恨みを思い知ってもらうわ)

 

 

 

 

 

 

 

 

二胡のことも気になりますが…豹さんの所在を突き止めた以上、奪われても私に影響はありません。あくまで豹さんのことを見失わないための贈り物―――豹さんが持っていないのなら価値は無いのです。

でしたら、豹さんの期待に応えるべく私なりに状況を調べようとも思いましたが。

 

(それよりもまずは紫様に状況を聞くべき…ですよね)

 

知っているどころか覚えている人妖もほとんどいませんが、私も八雲の管轄下にいる一人です。豹さんのおかげで完全な孤独を逃れるだけでなく、新たな保護者として紫様を紹介していただきましたが…私はまだまだ数合わせぐらいにしかならない戦力なのです。今回のような状況では足手まといと切り捨てられてもおかしくないぐらいの。

 

そもそも私から八雲に連絡を取るときは豹さんに取り次いでもらっていたのです。今となっては紫様に会うことすら難しくなっています。状況を知るために情報を集めなくてはならない…豹さんが動かないでいてほしかったという理由が、今になって理解出来ました。

 

 

 

私一人では、動きようがない。

 

 

 

悔しいですが、私が豹さんのもとに辿り着けたことすら奇跡的だったのでしょう。私には、何もかもが足りていない。力も、情報も、…他者との繋がりも。

 

「でも、このまま待っていたところで、紫様が来てくれる保証はない…」

 

豹さんにも言いました。何もせずにいて失ってしまうのは、絶対に嫌。

 

「それなら、少しでも手掛かりを追うべき」

 

紫様に会うために、私が向かうべき場所は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は夢月。エリーとくるみが世話になったようね」

「私は幻月。夢月の姉ですわ」

 

最悪なパターンとして俺の旧知が出てくるというのも想定していたが、まだ悪運は尽きてなかったらしい。会話をしてくれるぐらいには友好的な悪魔で助かったと言えばいいのか。

 

「豹と名乗らせてもらってる魔界人だ。潜伏先としてここに来たから、俺の事は極力伏せて貰えると助かる」

「フフ…よろしく。でも、あなたなら潜伏なんて必要ないんじゃない?

あなたの魔力なら、いくらでも欲しがる相手がいるでしょう?

―――それだけ旧く、上質な魔力なんだから」

 

…わかっちゃいたが、只者じゃない。俺の魔力を、旧いと言い切れるのは余程場数を踏んでいる証左だ。

 

「まあ、そうだろうな…実際、幻想郷では逃亡者とは思えない生活をさせてもらってた。利用価値があったこの上ない証拠だ。あのまま変わらずに過ごしたかったんだけどな」

 

積み上げてきたものが崩れ去るのは、本当に一瞬だ。

千年以上の時を経て、繰り返すことになった。

 

「豹さん、少し休憩にしていいでしょうか?紅茶を用意して、くるみも起こしてきますね」

「あ、くるみはまだ寝てる時間だったか」

「気にしないでください、幽香が出て行ってから少し寝すぎですから」

「そうだな、少し手を止めるか」

 

俺も作業を中断させて中に入ろうとしたところで、これまで何か考え込んでいたらしき翼を持つ方の姉…幻月が口を開いた。

 

俺にとって、不意打ちが過ぎる名前を出してくれた。

 

 

 

「もしかして、サリエルが会いたがってる魔界人のヒョウって、あなたのことですか?」

 

 

 

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