まったく…!こういう状況だとある意味一番面倒な妖夢が邪魔に入って来るなんてね。基本的に自分の判断より上からの命令を優先するのが妖夢だから、状況が変わろうが幽々子が出てこない限りこっち側に着くって選択を取らない。つまり力尽くで追い返さないと延々邪魔して来るってこと!
でも、今に限っては私にも仲間運があったみたい。
「霊夢、先行した師匠を追え!彼女は私が相手する!!」
「そうさせてもらうわ!ありがとう明羅さん!!」
「あっ!?待て霊夢!!」
「貴公の相手は私だ!侍に挑まれた勝負から逃げるのか!?」
「くっ…!すみません幽々子様。剣士としてこの勝負、逃げるわけにはいきません!」
明羅さんが援護に来てくれたから任せちゃいましょ。物騒な刀を振り回してる同士、弾幕ごっこより優先したがる勝負だろうしね!
(マズいわね…!まさかこんな形で突破を許すなんて)
剣士の誇りとでも言えばいいのかしらね、妖夢と昨日から名は聞いていた明羅―――二人揃って地上に降りて行ってしまったわ。もう少し早く合流してくれてれば、キツいこと前提で霊夢と魔理沙を私が同時に足止めしたのだけれど…!
「余所見なんてしてられるのかっ!魔符《ミルキーウェイ》!!」
「蓬莱、オルレアン!!」\ホライッ!!/\!!/
「うおっ!?」
「紅符《紅毛の和蘭人形》」
「なっ!?反射シールド張りながらスペルカードはどうなんだよ!?」
「何度も言わせるんじゃないわよ。魔界と幻想郷で戦争になるリスクがある、それを阻止するために手段なんて選んでられないわ。
久し振りに少し本気を出してるだけ。魔理沙が魔界で好き勝手暴れた時のようにね」
「ちっ…!」
魔理沙を完全に引き付けた状態から霊夢を追撃するのは流石に無理があるわ。魅魔ほどではないとはいえ、魔理沙もスピードには優れている…今から霊夢に手を出すと、逆に魔理沙が霊夢を囮に強行突破を図りかねない。その結果二兎を追う者は一兎をも得ずになったら本末転倒…私はともかく人形達は高速戦闘に向かないのだから。こうなった以上霊夢は永遠亭に向かった誰かに対応してもらうことになるわ。
問題は、永遠亭を相手にした後で霊夢と魅魔を食い止められるかどうかだけど…!
(サリエルか幻月が動くか、夢子が戻って来てくれればなんとかなるとは思うけど。間に合うかしらね…!)
さっき命蓮寺で軽く話した小兎姫が、豹の隠れ家に向かっているのがどう転ぶか…!サリエルと幻月であれば問題なく追い返せるでしょうけれど、リリーが気を使って応対した結果捕まったり、情報を得るためにサリエルと幻月が小兎姫と話し込んだりすると援護が遅れかねない。上手く対処してくれるかしら!?
「なら私も遠慮しないぜ!人形をダメにしても文句言うなよ!!」
「やれるものならやってみなさい!」
今は上手く対応してくれることを願って、魔理沙を抑え続けるしかないのだけれど!!
こんな夜中に駆け込むのは失礼だが、今は人里を私が隠すような緊急事態。争いを好まない妖怪が多いとはいえ、門前払いされても文句は言えないが…小兎姫の言葉からすれば大規模な異変が起きていることは把握できているはずだ。それなら深夜であろうと寝ずの番を一人は置くだろう―――その予想は当たっていたようで。
「おやおや、寺子屋の先生じゃないか。人里を隠したのは先生の仕業かい?」
「――っ!?」
命蓮寺の山門をくぐろうとしたしたところで、灯篭から声を掛けられた!?
迂闊だったな…敵意があれば何も出来ずにやられていた!
「安心しな、今の状況でやり合う気は無いよ。ただ、どんな立ち位置でここに来たのかは教えてもらいたいねえ?」
「…私は自分がどのような立ち位置なのかすら理解できていないんだ。ここに来たのは小兎姫の言葉に従っただけなんだが――っ!?」
言葉の途中であまりに強大な魔力が膨れ上がったのを感じ思わず視線を向けると、ここからでも視認できる極太のレーザーが発射されたっ!?それなりの高度で発射されたため被害は無いだろうが、これを地上で撃たれては大惨事になっていた…!人里を隠すことを優先したのは正しかったようだ!
「…流石は最強妖怪と呼ばれるだけはあるね、太陽の畑のフラワーマスターは。私も正直言って敵に回したくないけど、あんなのをぶっ放されるような奴も大概だねえ。いったい何処のどいつなんだか」
「夢月だ…夢幻世界を統べる双子悪魔の片割れ。何故伝説になるような存在が幻想郷に…!?」
「へえ、立ち位置がわかってないのに情報は持ってるんだ。それにあの侮れない警官も噛んでる、と。
そうだねえ、情報を渡してもらえるんならしばらくここで匿ってあげるよ?聖だけじゃなく、私個人としてもいろいろ気になるからねえ?」
「こちらからお願いしたいぐらいだ。私の持つ情報はすべて伝える、そのかわり状況次第で共闘してもらえないだろうか?人里の安全は確保できているが、これほど大規模な戦闘が起きている以上―――何が起きてもおかしくない」
「それじゃ入りな。さて…誰に見張りをやらせるかねえ?」
そう言って灯篭に化けていた妖怪…こちらも伝説の一つに数えられる大妖怪である封獣ぬえが私を命蓮寺に迎え入れる。私がどう動くべきか、判断材料となる情報を貰えればいいのだが…
アリスさんとユキさんがお帰りになられてほどなく、収穫無しに夢殿大祀廟から一輪達が戻ってきました。それとほぼ同時に人里上空で小競り合いが始まり、続いて太陽の畑方面で強大な妖気同士がぶつかり合い。さらにしばらくして人里が何者かによって
おそらく魔界神・神綺様が到着する前に、豹さんの動きが異変として完全に表面化してしまったということです!それはつまり、我々命蓮寺は完全に出遅れることを意味します。魔界との折衝役として、今はまだ中立を保たなければならないのですから。
―――そして、太陽の畑のフラワーマスターが交戦に入ったことで危機感を持ったぬえが山門での見張りを買って出てくれたのですが。それほど時間を置かずに戻って来てくれました…人里の守護者である、慧音さんを連れて。その慧音さんが、知っている限りの情報と人里の状況を教えて下さったのですが。
「まずはお礼を言わせてください。人里に住む信徒を守って頂き、ありがとうございます」
「それは人里の守護者として当然のことだ、気にしなくて構わない。そのかわり、命蓮寺が掴んでいる情報を私にも教えてくれないか?私には何も情報が回って来ていない…人里の守護者としてどう動くべきかの判断材料が足りなすぎるんだ」
「…慧音殿には意図的に管理者共が情報を伝えていないのであろうよ。今の時点で人里の守護者に目立たれるのは、幻想郷全体を危機に晒すのと同義じゃろうからな」
「何…?それはどういうことだ?」
そう、マミゾウさんが返した通り今の状況で人里の守護者である慧音さんが【魔界に存在を知られてしまう立ち位置に置かれる】のは絶対に避けるべきなのです。たった今思い知らされたことですが、慧音さんは幻想郷において人里防衛の要…人里の守護者というのは単に自警団をまとめ上げているからではなく、非常事態に際し今のように人里全体を一人で守ることができるからだったということになります。
それはアリスさんと神綺様に夢子さん・ユキさんがいかに友好的であっても、慧音さんの存在と能力を知られてしまえば人里防衛の切り札に対策を立てられてしまう可能性が残るということです。幻想郷の管理者がこれを看過することは出来ないでしょう。
だからこそ、聖が慎重に言葉を選び話し始めます。
「慧音さん、この異変は幻想郷だけでなく魔界も関係しています。そして私は魔界に封印されていた頃に魔界神である神綺様にお世話になっていました。
だからこそ、私達命蓮寺は今起きている幻想郷での対立に関しては中立を保ちたいのです。魔界との折衝に役に立てる可能性があるからこそ、魔界に対する対応が割れていることで起きてしまったこの異変に干渉するのは避けたい。そして、人里の守護者でもある慧音さんにも同じ立場に居てもらいたいのです」
「それは構わない。私は人里を守ることが最優先である以上、幻想郷の有力勢力に肩入れすること自体が問題になることは理解している」
「ありがとうございます。それを前提にしていただけるのであれば、慧音さんに詳細が伝わらなかったことも理解できるはずです。
―――今起こっている衝突は、【幻想郷を管理する賢者同士の対立】が表面化してしまったものなのです」
「なっ…!?」
慧音さんが驚愕の表情と共に声を出してしまっています。これは仕方がありません…魔界という異界の絡んだ異変において、幻想郷の管理者で対応を統一できていないことがどれだけ問題になるのかが理解できる立場にいるのですから。
「そうですね…まずは星、豹さんの力になっている皆様のことをお話ししてあげなさい」
「え、私からですか?」
「はい、命蓮寺でこの異変に最も深く関わっているのは星なのですから」
急に聖から言葉を向けられてしまいましたが、その通りですね。妹紅さんや椛と直接話しているのは私だけなのですから。
「わかりました。慧音さん、少々長くなりますがお話しさせてください」
「あ、あぁ…」
「zzz………ふあっ!?」
「ふふ、リリーはもう眠いみたいですね」
「ご、ごめんなさいなのですよー!今日は椛さんと一緒にいるために、早起きしましたのでー…」
「それなら少し眠ってしまった方がいいだろう。今ヒョウの力になれないのであれば、後々ヒョウの力になるために休息を取る…それを責める者はヒョウの力になってくれている皆の中にはいない」
「…そうかもしれないのですよー。
ごめんなさい、リリーは少しお休みしてもいいでしょうかー…?」
「はい、私とサリエルとこの隠れ家で守りますので大丈夫ですよ」
「ありがとうなのですよー。豹さんのベッドをお借りしてちょっとだけお休みさせてもらうのですよー…」
そう答えてリリーが部屋を出て行きました。素直ないい子ですね、悪戯好きで考え無しの妖精とは思えません。私とサリエルに知る限りの情報を話した後は、何をするでもなく私とサリエルの間で大人しく座っていました。サリエルも悪く思っていないようで、舟をこぎ始める前は優しく頭を撫でていたりしましたしね。
「ふふ、ヒョウのベッドは羨ましいですか?」
「…そうだな、否定は出来ない。幼く無邪気な妖精だからこそ何とも思わず出来る選択なのだろう」
軽くからかおうとしましたが、サリエルは平然と返して来ました。ここまで想わせるヒョウも、好意を隠そうともしないサリエルもいいですね!これを目の前で見れるだけでもヒョウに感謝出来ます。
―――ですが、そろそろ私たちものんびりとはしていられなさそうです。
「気付いてますよね?」
「ああ。リリーが無理をしてしまうのを危惧していたが、素直に休んでくれて助かった。あれだけ魔力を消耗していれば、視認されない限り気付かれないだろう」
「はい、ヒョウが気に入っているのもよくわかるいい子です。
では、どう対応しましょうか?」
「生け捕りにして情報を吐かせるのが最上だ」
人里から真っ直ぐここ…ヒョウの隠れ家に向かっている反応があります。つまり隠れ家であるこの家の位置を正確に把握しているということですが、リリーだけでなくルナサやアリスから聞いた話を加えても
そして、顔を合わせる前の時点で私と夢月の存在を明かしていたヒョウが、私と夢月に協力者を伏せるということはしないでしょう。性格的にも状況的にも、遭遇戦で同士討ちなんて最も避けるべき展開ですし。
つまり、今ここに向かっているあの反応は【ヒョウの隠れ家の位置を正確に把握している敵】という厄介極まりない存在の可能性があります。そしてそれが当たっていれば、この上ない情報引出し先候補です。なにしろ、潜伏生活を送っていたヒョウの拠点を調べ上げられるような奴なのですから。
「それなら私が正面から迎え撃ちましょう。逃げようとした時点で背後に回って捕まえてもらえますか?」
「任されよう。すでに戦闘が起きている以上、援護に向かう必要も出て来るからこそ…手短に済ませる」