寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第225話 増え続ける戦場

ヒョウの隠れ家に向かって来た反応を捕まえるために外に出ると、すっかり雪が積もっていました。夢幻世界に四季という概念は無いので、久しぶりに見る光景になりますね。ヒョウが落ち着けたらこの雪景色を楽しむだけに幻想郷を回るのも良いかもしれないです…夢月に引きこもり扱いされないためにも。

 

(それにしても、幽香が思った以上に本気で暴れてますね。そこまで不機嫌になるならさっさとエリーとくるみを迎えに来ればよかっただけなのに…相変わらず鬼畜過ぎるって自覚が無いです)

 

エリーとくるみの優しさに甘え過ぎてたことにいつになったら気付くのやら…それでいてヒョウに奪われるのは許せないというのはいかにも幽香らしい反応ではあるんですが。いい加減に相手へ伝わる形で優しさを見せないと、誰一人ついてこなくなるってことを理解してもいいはずなんですけれどね。ある意味、私と夢月より幽香の方がずっと悪魔らしく、子供っぽい。

 

(まあ、夢月なら幽香が飽きるまで付き合えるから平気ですよね。問題は増援を利用してアリスと妖夢を突破したあの巫女と、先行したはずなのに反応を隠した魅魔とやら…私とサリエルの出番なんて無いと楽なんですが)

 

ヒョウは目的であるメルラン救出を果たしたらしく、エリーと雛が向かった位置からルナサや上海が戻るように動き始めています。この時点で何人か襲撃地に残っていて、肝心のヒョウの反応が拾えなくなっているということは分散して離脱するということです。たしかに今の時点でヒョウの追撃に動けるであろう敵は拾える限り巫女と魅魔以外には永遠亭に先行している2名。それに今ここへ向かっている1名を加えた5名ですから、分散しても人数差は確保できるという考えなのでしょう。

 

問題は、多少の人数差であれば覆せるだけの力がある存在が2名も残っているという点ですが。

 

(ヒョウもそこには気付いているはず、ですがヒョウ自身が反応を消しているということは【次の脱出先に辿り着ければひとまずは安全】と判断したということ。

そうなると…おそらくヒョウが向かう先はこの隠れ家でもなく夢幻館でもない。ここに来て幻想郷の有力勢力丸ごとヒョウの味方についたという紅魔館でしょうね)

 

つまりヒョウが紅魔館まで逃げ切るために、戦力的には不安があっても分散を選んだということ。となれば分散したメンバーも最終的な目的は紅魔館への移動でしょう。それなら、こちら同様に分散した戦力を各個撃破するのが一番効率的な援護ですね!

 

「そういうわけで、あなたには吐けるだけの情報を吐いてもらいますよ」

「情報を集めに来たのは私の方なのですけれどねぇ。

貴方が幻月ですか。豹の家への不法侵入で逮捕されてもらえませんか?」

「もちろん、お断りです♪」

 

そういうわけでヒョウの隠れ家に辿り着いたこの少女を捕まえましょう。和風なお姫様の格好をしていますが、私を目の前にして臆せず言葉を交わせる時点で只者ではありません。少なくともか弱い人間の少女ということはあり得ませんからね。

 

「はぁ…これは完全に判断ミスだったようですねぇ。夢月が本物だった以上、幻月が待ち構えている可能性は考慮に入れていましたが。

まさか規格外が2人もこの隠れ家に待機しているなんて思いもしませんでした」

「私にも気付けるほどの者とはな。人間としては最上位の力を持っているか。

だが、それゆえにこの状況は覆せないという事実も理解できるな?手荒な真似をされたくなければ、私と幻月の質問にただ答えろ。無駄口は不要だ」

 

そしてあっさり少女の背後に回ったサリエルが、敵相手の態度で少女に脅しをかけます。細かいところは任せてしまいましょう。悪魔の私よりは、天使であるサリエルの方が信用できる存在でしょうしね。

 

(もっとも、天使は天使でも恋に身を焦がす堕天使。言葉を間違えるとタダでは済まないでしょうけど♪)

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?人里がなくなってる!?」

 

迷いの竹林を抜けてすぐ、メディスンという上海とは別口の人形が驚いた声を上げました。ですが、混乱を避けるためにすぐ豹さんが答えを出してくれまして。

 

「人里の守護者が夢月とフラワーマスターの戦闘を察知して護りに動いたんだ。なくなったんじゃなく隠されてる…時間が出来たら詳しく教えてやるよ、メディスン」

「そ、そう。えっと、ここからは分かれるのよね?」

「はい、楽団の皆様はこちらへ」

「うん!頼むよ咲夜!」

「えっと…豹も気を付けてね~」

「麟、豹を頼むわ」

「はい、お任せください!」

 

隠形魔法で姿を隠していてもまだ近くに居てくれたようで、豹さんの答えとルナサに対する麟の返事が聞こえました。お二人が上手く紅魔館に辿り着ければ、ようやく一安心できるはずです。

 

「豹さんの家へは私が先頭に立ちましょう。私を捕捉されても人形の大きさである上海とメディスン・ゴリアテなら視認できていない可能性があります。そのような状況になったら私を囮に隠れ家へ先行してください!」

「…たしかにそれが効率的ですね。ごめんなさい椛さん、お願いします!」\…!/

 

椛と上海たちもそのまま速度を緩めず豹さんの隠れ家へ向かいました。

そして、私はここからが本番になるのでしょう。

 

「それでは、私は迎撃に向かいます!」

「頼む。無理はしないでくれよ、エリー!」

「エリーさん、どうかお気を付けて!」

 

豹さんと麟の声を背に皆から離れ、巫女と魔法使いから離れ先行している2名の元へ向かいます!

私にとって運がいいことに、相手二人はもう人里近くまで辿り着いている―――つまり太陽の畑方面へ誘導すれば夢月さんと合流出来る可能性がある位置での戦闘になるでしょう。状況次第では、私と夢月さんVS幽香VS烏天狗という三つ巴に持っていける…話を聞いた限り、幽香も嫌いなタイプのパパラッチ(烏天狗)のようですから。

 

(まあ、幽香にズタボロにされる覚悟はいりますけど…豹さんに少しでも恩を返せると思えば割り切れます!)

 

―――そうして程なく、迎撃すべき相手と顔を合わせることになりました。

 

 

 

「これはこれは…三途の川の船頭ではない死神とは珍しい。想像以上に豹は危険な繋がりも持っていたということですな」

「否定はしませんが、私は幽香に仕える身です。危険な繋がりで済ませるのもどうかと思いますよ?」

「フ、フラワーマスターまで絡んでるっていうの!?」

「ほほう、太陽の畑方面で派手な戦闘が起きているのは把握できていましたが。あの幽香さんがこれほどの力を解放するような相手だというのに、部下の貴方は援護に向かわずともよいのですかな?」

「私の援護なんて必要ありませんから。幽香と夢月さんの戦闘なんて、迂闊に近付けません」

「…夢月?どこかで聞いた名ですな…

―――っ!?人里が隠された理由はこれでしたか」

 

新聞記者を名乗るだけのことはあるようですね。幻想郷の住人で夢月さんのことを知っているというのは、情報収集に労を惜しんでいないということです。そもそも夢幻館と夢幻世界が繋がっているということ自体が、幻想郷ではそれほど広まっていないのですから。幻想郷の管理者レベルでないと調べるのが難しい情報を掴んでいる…これだけで豹さんのお話通り、幻想郷有数の実力者ということの証明となります。

 

「ですが、私は二人同時にお相手できるような力を持っていませんので。そちらの玉兎さんはこのまま永遠亭に帰って構いませんよ」

「…は?何を企んでるのよ」

「企んでいるのではなく、大々的に広めたくないのです。それはあなた方も同様だと思いますが?

見ての通り、私はほぼ無傷で迷いの竹林から戻りました。この状況で永遠亭に新聞記者を乗り込ませても構わないというのであれば、止めませんが」

「………文、この死神の相手は任せるわ。もう遅いってことだからね」

「おやおや、随分と身勝手ですな!

とはいえ、私個人としてもあまり永遠亭は敵に回したくありませんので。貸し一つで手を打ってあげましょう」

「ふん…!」

 

ここまでは上手く事が運んでくれましたね!玉兎が私の脇を通り過ぎて行きました。これで交戦の可能性がある追手は全員単独行動に出来たはず。余程のことが無い限り、私たちは数の優位を保って応戦できるということです!

 

後は、私が上手く切り抜ければ…!

 

「さて、鈴仙が居なくなったので交渉の余地が出来ました。

貴方のお名前を伺っても?」

「エリーです。交渉と言いますが、私に何をお求めですか?」

「これだけは先にハッキリさせておきたいのですよ。

四季のフラワーマスター・風見幽香。彼女はどういった立ち位置で動いているのですかな?」

 

流石は幽香ですね。この烏天狗の独断で幽香を敵に回すのは避けたいといったところでしょう。

これを利用すれば私もあっさり逃げ切れるのでしょうけれど、今の私に求められているのはこの烏天狗の足止め。私が無事に逃げ切れても豹さんや別に動いている皆さんの方へ向かわれてしまっては意味がありません。

 

つまり、今は()()()()()使()()()()()()()()()()()と判断させなくてはいけないのです!

 

「幽香は単純に、気に入らない相手を痛めつけようとしているだけですよ。立ち位置なんて気にするはずありません。

今のターゲットは私とくるみに豹さんでしょうね」

「なるほど、部下だけあって実に説得力のある返答ですな。

それなら、私に付き合って頂きましょうか!貴方は上質な記事のネタになりそうですので!!」

「そうですね、当たり障りのないことであればお答えしますよ。

全力で抵抗はさせてもらいますが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ってことになっちゃったから、諏訪子さんがここに送ってくれたの!」

「…そうかい、これは完全に早まったみたいだね。夢子とユキではない魔界からの侵入者と繋がってる時点で怪しいとは思ってたが、茨華仙に虚言を混ぜてたってのは完全にアウトだ。早苗の動きを見事に利用されちまったか」

「…どういう意味か説明してもらえますか?私もこいしも状況がまだ全然わかっていないので」

 

約束通り神奈子さんと早苗に今日起きたことを説明したら、神奈子さんがすごく難しい顔になっちゃった。私が忘れちゃったところはこころが思い出してくれたからおかしいところは無いと思うんだけど、神奈子さんの中で出た答えは全然わかんない。そこは私と同じだったこころが、すぐに聞き返すと早苗がついさっき地上で起きてたことを説明してくれて。

 

「実は…さっきまで霊夢さんと魔理沙さんが来ていたんです。こいしさん達も問題視している摩多羅隠岐奈の協力で、豹を捕まえるために動いていると」

「えぇっ!?それってマズいよね!?」

「はい…それに霊夢さんたちが来る前の時点で、人里に強い魔力が二つ突然現れたんです。私も神奈子様も知らない魔力で、その後に霊夢さんがうちに来たということを考えると」

「それが問題になってる魔界からの侵入者ということですか」

「数が合うから間違いないだろうね。

つまり、摩多羅隠岐奈は【魔界からの侵入者に人里で戦闘させる】なんて暴挙に出てるわけだ。何か間違いがあれば幻想郷全体のバランスが崩れかねない方法だよ。幻想郷に移住して少しずつ信仰による力を取り戻せてる私からすりゃ、見過ごすわけにはいかないさ」

「そうなると、私たちも豹の援護に回るべきでしょうか神奈子様?」

 

うん、諏訪子さんは早苗の力になってやって欲しいって言ってたけど。上手くその方向に行きそうだね!少なくとも神奈子さんと早苗まで豹を捕まえに動くってことはなさそう!

 

「いや、今の状況じゃこいしの擁護があっても早苗は信用されないだろう。結果的には永遠亭の玉兎と協調したのが最大の失敗さ…豹とその協力者の永遠亭に対する敵意は凄まじい。あの玉兎を解放してる以上、口約束もこっちから破っちまってるんだしね」

「う、それもそうですね」

「だが、ここに来て一つ私にとって大きい情報があった。命蓮寺だ」

「へ?」

 

あのお寺がどうしたんだろ?何のことだかわかんなくて声を出しちゃったんだけど、わかってなかったのは私だけだったみたいで。

 

「…あっ!聖とは協力できるかもしれないんですね!」

「そういうことだよ。こいしには話してなかったね、私と諏訪子は魔界の神である神綺と直接の面識があるのさ。少なくとも永遠亭の連中よりは、魔界神から信用されてるはずだ」

「そういえば、今こころさんが話してくれましたね!命蓮寺の住職も魔界神と面識があるって!」

「あー!そういえば言ってた!」

「あそこの住職の仲介があれば、豹の協力者たちからも早苗が疑いの目を向けられることは無くなるだろうさ。この幻想郷どころか外界を含めても、あそこまでの善人はそうそう居ないからね。

こいし、こころ。悪いが今までの話を早苗と一緒に命蓮寺へ伝えてもらえないか?おそらく命蓮寺の方も情報は欲しがるはずだからね」

「わかった!こころもいいよね?」

「はい、急ぎましょう!」

「わかりました神奈子様!行ってきますね!」

 

とりあえず、豹が摩多羅隠岐奈ってのに捕まるとマズいってことは神奈子さんも早苗もわかってくれたみたいだね!これなら上手く誘導すれば、豹を地霊殿に避難させることができるかもしれない。やってやろーじゃん!

 

「ただ、今の時点で起きてる戦闘に巻き込まれないようにな。今の状況じゃ豹の協力者は早苗を躊躇なく攻撃してくる…そうなると話がややこしくなっちまうからね」

「わかってます!先制攻撃しちゃったことが私のミスだってことは思い知らされましたから」

「どうしようもなくなったら私が早苗とこころも隠しちゃうから、大丈夫だよ神奈子さん!」

「そう言ってくれて安心したよ。

それじゃ、頼んだ!」

「「「はいっ!」」」

 

こころと早苗を連れて、次の目的は命蓮寺!見つからないように気を付けて向かわないとね!

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