寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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捜索で紹介してくださった読者様がいらっしゃいました。ありがとうございます!


第227話 妹への対処

(こうまで効率的に事が進むとはな。誤算としては仙界の援護が間に合わなくなった点だが…紫と藍が現時点でこちらに不在であるが故に、私一人で豹の空間魔法と紫のスキマの妨害は可能。

―――博麗の巫女が独力で豹を捕らえられれば問題は無い)

 

守矢の風祝が永遠亭と協調したこと、楽団の騒霊を永遠亭に押し付けたこと、豹自身が表に出た上で集結した戦力を再度分散し潜伏を図ること…私が手を回していない部分さえも、こちらの理想通りに推移していた。あまりに理想的過ぎて、せっかく味方に付けた豊聡耳神子一派の合流が間に合わなくなるほどの時間効率の良さだ。

 

特に、紫がこの状況に及んでも介入してこないのは想定外の幸運。ここまで豹の周囲が動いたのにも関わらず長時間幻想郷から目を離しているとなると、相当に重要な相手との交渉に直接出向いている可能性が高い。

 

(例えば、先手を打って神綺に接触している。他には竜宮の使いが動いたのを理由に、龍神様との会見を求めているという可能性もあるか)

 

このクラスの相手と交渉しているのであれば、藍を孤立させたことで紫に現状が伝わっていないのも不思議ではない。逆に言えばこの機を逃すと一気に逆転されるような相手ではあるが…神綺はともかく龍神様が魔界からの逃亡者を庇うことはあるまい。

 

「それならば、このまま豹を確保することで大過なく終わる。エリスと幽玄魔眼には悪いがな……む?」

 

そしてこのタイミングで、私にとっての最後の不確定要素が動く。確実に豹の空間魔法を妨害するために幻想郷に出向いたわけだが、それを待ち構えていたように私の元へ向かってくる者が一人。

異変とあらば率先して首を突っ込もうとする奴等にしては初動が遅いと思っていたが…何の迷いもなく一直線に高速飛行しているあたり、最初から私に対しての手札として温存していたようだな。

 

(だが、お前が豹と繋がっている可能性は最初から想定済みだ、レミリア・スカーレット。

紫と個人的に付き合いがある有力勢力の長なのだからな)

 

なにしろ紅魔館は紫と直接取引しているだけではなく、独自に外界とのパイプを持つという幻想郷において稀少な有力勢力なのだ。幻想郷の管理者の一角である私であるからこそ、軽視できない相手である。

故に、動いた場合の対策も立ててある―――後戸を開き手駒をここへ移動させる。

 

「―――フランドール、手を貸してもらうぞ」

「…いきなり何?

―――って、お姉さまが来てるじゃん。隠岐奈は何をやらかしたのよ?」

「逆だ、レミリアが好き勝手に動いてくれてな。お前の所のメイドと使い走りの下級悪魔まで使って暴れようとしてるのさ。

何ヶ所かでは既に派手な戦闘が始まっているだろう?レミリアはフランドールを除け者にして自分は暴れようとしている…誘われなかったのは不満ではないか?」

「ふーん…たしかに大騒ぎになってるみたいね。特にあそこのぶつかり合いは凄い、誰かしら?」

 

太陽の畑付近で激突している風見幽香と夢月の方へフランドールが視線を向ける。あれだけの強者同士が激突することなど中々ないこと、紅魔館地下で過ごすことの多いフランドールにとっても興味が沸くのも不思議ではない。

そしてこれが理由付けになる。

 

「太陽の畑のフラワーマスター・風見幽香とその旧友だ。あの戦闘を感知した人里の守護者が急遽動いた、つまり今この時は誰が何処で暴れようと人里に被害は出ないということさ」

「あー、そういうこと!私がお姉さまと本気で闘り合っても問題無いってことね!

いいじゃん、乗ってあげる。お姉さまの相手をすればいいのね?」

「うむ、好きに暴れて構わん」

「それを決めるのはお前ではない。

まったく…フランを連れ出すだけなら良しとしても、私の邪魔に使うのは看過できないよ?」

「お姉さまにしたら珍しいじゃん。ここまで本気で飛んでくるなんて」

「残念だがこの通りだ、フランドールは乗ってくれたのでな。

私は私の好きにさせてもらう」

 

そう言葉を残し吸血鬼姉妹に背を向けて、豹確保の援護がしやすい位置へ向かう。

 

―――ここまでは、私の想定通りだったのだ。不確定要素であるレミリア・スカーレットを、フランドールに相手させる。この姉妹は存外に仲が良い、つまりこのような状況であろうと()()()()()()()()()()()()戦闘になる。それは無駄に時間を浪費する長期戦…豹を確保するだけの時間稼ぎにはなるのだ。

 

しかし…この最終局面で、私の計算も狂ったのだ。

 

「フラン、まずはパチェに話を聞きなさい。その後でなら好きにしていいわよ」

「え?」

 

そんな姉妹のやり取りが背後で聞こえると同時に、空間魔法が発動し。

 

「運命《ミゼラブルフェイト》」

「っ!?」

 

フランドールの反応が紅魔館に移動したと同時に、レミリア・スカーレットが背後からスペルカードを放つ…私に向けて!

 

「幻想郷の管理者に相応しい力は持っているようだが、神如きが私をあまり甘く見るなよ。

フランが産まれてから、私は誰よりも長くフランの内包する狂気と付き合って来たのだぞ?フランを止める、この一点において私より優れている者は存在しない。フランが私を足止めできるなどと本気で思っているとは、私への調査が不足過ぎるなぁ?」

「…そうだな、お前を甘く見ていたのは認めねばならんな」

 

油断、慢心…彼女の言う通り私はレミリア・スカーレットを見誤っていた。

まさか、一瞬で紅魔館に送り返す空間魔法をフランドール対策のためだけに仕込んでいるとはな…!豹の動向を注視し過ぎて、レミリアの空間魔法を妨害し損ねた。私の見誤りが招いた痛恨のミスだ。

 

「ちなみにこの空間魔法はお兄様の協力で完成したものだ。どうだ、追い詰めたはずのお兄様にしてやられた気分は!!」

「それは当然気に食わんさ!お前に付き合う暇など無い、早急に追い返してやろう!!」

「ハッ!やれるものならやってみな!!フランを勝手に利用したケジメ、今ここで付けさせてやるよ!!」

 

紅魔館の主が私に向け弾幕を展開する。こんなところで完全に想定外の戦闘を行うことになるとはねえ…やってくれるじゃないか!!

 

 

 

 

 

「…なに今の?あいつ、いつの間にこんな高度な空間魔法使えるようになったのよ」

 

詠唱するどころかただ私に向けて手をかざすだけで行使された空間魔法…吸い込まれた先は私の部屋だったわ。肉弾戦を好む割に魔法もそれなりに使えるのは知ってたけど、私に比べればお姉さまの魔法は器用貧乏。手広く各系統の魔法を習得してる分、最上級魔法はほとんど使いこなせなかったはずなのに。

予備動作一つでこれだけの距離を移動させる空間魔法なんて、最上位の魔法使いでも使えるのは多くないはず。なんでお姉さまが使えるのかな?

 

そんな事を考えてると、話を聞かなきゃならない相手が降りて来たわ。

 

「―――見事なものね。実際に使われるまでは半信半疑だったけど、本当にレミィ単独で行使できるなんて」

「パチュリーがここまで来るなんて珍しいじゃん。なにさ、最初からお姉さまの掌の上だったってこと?」

「そういうわけではないわよ。むしろレミィとしてはフランを切り札として使いたいからこそ、奥の手を躊躇なく使った」

「奥の手ねー。もしかしてあの隠者が絡んでた?」

「ええ、私もついさっき聞いた彼の過去に偽りが無いということにこれで確信が持てたわ。

フランも気になるんじゃないかしら?レミィ単独であのレベルの空間魔法を行使できたことや、八雲の隠者の正体は」

「ま、そうかも。とりあえず何が起きてるのか教えてよ。

隠岐奈はまた私を上手く使おうとしてたみたいだし、かなり派手に暴れてるのもいたし。

それにお姉さまと咲夜だけじゃなく小悪魔まで外に出てるんでしょ?かなり本気じゃんお姉さま」

「それじゃ、ロビーまで上がりなさい。そろそろ協力者が誰かここに辿り着いてもおかしくないから」

 

…この口振りだと、結構な数がウチに来そう。こんな雪の真夜中によくやるねー。

ま、私が楽しめればそれでいいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと着いた!カナ、援護するよ!!」

「くるみ、助かるわ!敵はアイツ一人よ!」

「了解!」

「まだ増えるか!盆暗共がぞろぞろと…ああ鬱陶しい!!」

「もう一人増えるわよ。豹の援護をするにはこの天人を叩けばいいのかしら?」

「そうよ!あなたも豹の仲間なの雪女さん!?」

「ええ、レティ・ホワイトロックよ。終わらせてからお互い話をしましょう」

「ぬああぁっ!!なんなんだよお前らは!!どいつもこいつも私の邪魔をしやがってえ!!」

 

くるみが援護に来てくれたのとほぼ同時に、会ったことないけど豹の助けになってくれてるっぽい雪女さんも助けに入ってくれたわ!これで人数差は6対1、ここまで差が付いたなら!

 

「このまま押し切ってしまいましょう!!皆さん、包囲して一斉射撃です!!」

「お任せください!」

 

衣玖さんも同じ考えだったね!小悪魔さんの返事と同時にみんなが動く。くるみとレティさんが加わったことで、完全包囲の形になった。それなら、全員で撃ちまくっちゃえばいい!!

 

「カナ、下お願い!」

「ラジャ!」

「このっ…!」

「行かせませんよ!」

 

私とくるみで上下移動を潰すと、天人は近い位置にいたわたしを狙ってくる。でも小悪魔さんがそれを阻止するように大弾を乱射したことで、逆にわたしが道路標識で横薙ぎにするんだけど、それは剣で止められちゃう。

 

「ちぃっ!こんなふざけた形の武器を、緋想の剣で真っ二つに出来ないなんてね!」

「これでも豹の傍で過ごしてる騒霊だからね!強化魔法には自信があるわ!!」

「このっ…!」

 

そのまま接近戦に付き合う必要は無いから、この至近距離で拡散弾を撃って距離を取らせる。そのタイミングを見計らってくれて!

 

「棘符《雷雲棘魚》!!」

「三鼓《午前零時のスリーストライク》!!」

「寒符《コールドスナップ》!!」

 

衣玖さんと雷鼓とレティさんが同時にスペルカードを放つ!それでもできちゃう隙間を埋めるようにくるみが高速で飛び回りながら炸裂弾を連射、やっぱりヴァンパイアは夜だと動きが全然違うわ!これなら流石に避けられないでしょ、決まりね!!

 

「うおぉっ!?」

 

かつて異変の元凶として暴れた強い相手でも、これだけの弾幕に囲まれたら避けきるのは無理!多数被弾したところにトドメを刺すために、弾幕が天人から離れたタイミングでわたしが道路標識で地面に叩きつける!!

 

―――それで、終わるはずだったんだけど。

 

「そこまで!!いくら天人様相手とでも、この人数差はやり過ぎだって!」

「「「「「「は?」」」」」」

「…フン、余計な手助けを」

「天人様も少し頭を冷やしてください!これだけの実力者をまとめて相手にするなんて、無謀でしかないですよ!」

 

いつの間にか現れた小人が、わたしの前に飛び出して来たわ。悪いけど、このチャンスを逃すわけにはいかない!

 

「先に手を出してきたのは天人なの。邪魔するなら小人さんごと叩きつけちゃうよ?」

「…そうだとは思ってたけどね。少し私の話も聞いてもらえない?

下で待機してる二人とは関わりたくないでしょ?」

「は?…って、紫苑とその妹じゃない」

「くっ、また面倒な奴らが…!」

「雷鼓さん、知っているのですか?」

「私達のライブを利用して悪さしてた貧乏神と疫病神の姉妹だよ。

あらゆる意味で関わり合いになりたくない相手さ」

「あの姉妹、『私達じゃロクに話を聞いてもらえない』って言って来てねー。その辺の自覚はあるみたい」

「うわぁ、たしかにイヤ過ぎる姉妹ですね…

えーっと、小人さんは戦う気は無いのかな?」

「はい、そもそも私もあの二人とは関わりたくないし。天人様の助けにならなければ城に乗り込むなんて言って来たから、ここまで出向く羽目になっただけなの。

私もこの異変の裏で動いてる奴の動きを一つ掴んでるから、これを教える代わりに矛を収めてもらえない?」

 

くるみが小人に話しかけながら、衣玖さんに目配せしてる。やっぱりくるみもすごいね~、合流する前に衣玖さんが狙われてたってことが、ちゃんとわかってたってことだもんね。そして空気を読んだ衣玖さんはそのまま戦列を離れて行ったわ。小悪魔さんが先導する形で、一足先に紅魔館へ向かう…あの天人が下の姉妹とくるみに気を取られた隙に。

 

それなら、衣玖さんに気が向かないようにわたしたちに集中させないとね!

 

「わたしたちは矛を収めてもいいけど、そのお子様な天人はどうなのかな~?小人さんで止められるの?」

「まだ私をお子様呼ばわりするかこのガキ!」

「抑えてください天人様。そうやってムキになるからお子様扱いされちゃうんだって…

天人様も、こいつらとやり合うのは駒として利用されてるだけってのに気付いてるよね?」

「…ちっ」

 

舌打ちして天人が剣を仕舞い込んだわ。よし、これなら情報交換して撤退が最上になるね!

 

「へえ…伊達に異変を起こしただけはあるのね。

それじゃ、情報を渡しなさい。私たちは時間が惜しいのよ」

「それなら手短に済ませるよ。

幻想郷で指名手配されている正邪が、幻想郷に侵入した二人の悪魔と後戸の秘神を引き合わせてたよ。なんか下剋上のチャンスだと思ったらしくてね」

「「「「っ!?」」」」

 

こんなところで裏付けが取れちゃった!正邪って名前はわたしも豹から聞いてる。幻想郷の崩壊と支配を目論んだ天邪鬼…まさか、そんな奴がエリスと幽玄魔眼に情報を渡してたなんて!!

 

「何が起きてるのか私は全然知らないけど、裏からこの大騒ぎを利用しようとする奴は結構な数がいると思った方がいいよ。

それじゃ、私は帰るから。天人様、助けてあげたんだからあの二人どうにかしてよ?」

「あんたも随分生意気になったな!

…って、衣玖の奴逃げやがった!?」

「気付くのが遅いわよ。私達はあんたの相手してる暇なんて無いから、もう関わってこないでよ!」

「フン…」

 

雷鼓の返しに鼻を鳴らして、下に陣取る姉妹の元に小人と天人は降りて行ったわ。だいぶ時間を取られたけど、やっと衣玖さんを助けられたかな…?

 

「細かい話は皆で集まってからにしましょ。レミリアさんが紅魔館を集合場所にして良いって言ってくれたから、まずは移動しない?」

「うん、そうだね…わたしと雷鼓はだいぶ消耗しちゃったから、豹たちの援護に向かうと足を引っ張っちゃいそうだし」

「私もついて行っていいかしら?」

「ええ、豹の助けになってくれてるレティを拒むことは無いわよ。一緒に行きましょう」

 

こうして、わたしたちは紅魔館に向かった。

―――結果的にわたしたちは天人一人に足止めされたことで、肝心な時に役に立てなかったわ。

 

 

 

 

 

「もう…天人様は無茶し過ぎ」

「紫苑に心配されたくはないけどね」

「言うと思った。姉さんもなんでこんな奴に入れ込むんだか」

「はあ…約束は守ったからな?私の城に入ろうとするなよ?」

「「「え?」」」

「…天人様はいいけど、貧乏神はほんと城には来ないで!!」

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