…ここまで回収に話数が嵩むとは思っていなかったのですが(相変わらず見通しが甘い作者)
…ちょっとまずいことになってる。あの巫女がアリスを抜けて単独行動に移ってるのに、八雲が動く気配が無い。それはつまり、藍が幽香から離れた後で妨害されてるってこと。そんなことができるのはエリスと幽玄魔眼を利用してた摩多羅隠岐奈ぐらいだろうし。
となると、私もこれ以上幽香に付き合ってられないんだけど…
「本当、気に入らないわね!!男にうつつを抜かしてるくせに、腕も全く衰えてないなんて!!」
「そりゃ、ヒョウは男じゃなくて戦闘相手としての方が気に入ってるし。これでも全盛期の力は出せてないけど」
「方がって時点で色ボケしてるのよ!まったく、あの夢月がこんなことになるなんて思いもしなかったわ!」
幽香に言われて自覚した。ああ、そう考えると私もヒョウのこと悪く思ってないのか。
ま、私がヒョウを狙うとサリエル推しの姉さんが微妙な顔しそうだから、進展はしないだろうけど。
「別にそれが悪いとは私は思わないから。幽香の愛情表現が捻じ曲がり過ぎてるだけでしょ」
「余計なお世話ね、それこそ!!」
この返しが気に入らなかったのかまたマスタースパークを撃って来た。埒が明かないしムーンスパークとの火力比べでもしようかと思ったタイミングで、もう一つ状況の変化に気付いて回避を優先する。
(…エリーが割と近いところで戦い始めた?それに相手も結構やりそうな感じ…この妖気からすると天狗かな?
―――これ、たぶんエリーは私と幽香に巻き込ませる方向に動くよね)
エリーは死神って種族の関係で、スペルカードルールを基準にする今の幻想郷で暴れることはなるべく避けたがってた。それなのに交戦に踏み切ったってことは、何かしら考えてるはず。それで今の状況だと、一番利用しやすいのは私と幽香。
それなら、上手く合流出来るように幽香を誘導しないと。
「いい加減飽きてもいいんじゃない?」
「何を言い出すんだか。あの九尾を逃がしておいてそれが通じるとでも!?」
うん、私が飽きはじめてるのが気に入らないみたいだね。これなら回避優先に動けばエリーと合流出来る。
…その後はエリーの方が苦労しそうだけど、そこはガマンしてもらいましょ。
「上海、先に行って!私は隠れ家の二人のこと知らないから!」
「…っ!
ごめんなさいメディ!お願いします!!」
私が言い出すより早くメディが魅魔さんに立ち向かってくれました。とても心配ですが、間違いなく今において最適解な行動です…!私とメディでは魅魔さんにはとてもかなわない。それならば隠れ家のサリエル様と幻月さんに助けを求めるべき!
ですが、魅魔さんは私たちがどう動くかなんてお見通しだったようで。
「私が二度も逃がすと思ってるのかい!?」
「きゃっ!?」
「くうっ!?」
連射された高速レーザーは私もメディもなんとか避けきれたのですが、地面に着弾すると同時に赤い魔力柱が発生したことで完全に足が止まってしまいました!普段のサイズで行動している今の私であれば魔力柱の隙間を抜けることも出来なくはないのですが、高速で移動すると接触してしまうでしょう。そしてこの魔力密度では、軽く触れただけでもボディに深刻なダメージが出てしまいます…!
つまり、これでは豹さんの隠れ家がある森に逃げ込むことすら出来ません!見通しの良いこの場で終わらせる気だということです!
「なるほど、巨大化しないことで回避率を上げるか。合理的だけど、張り合いは無いね!」
「このっ…!好き勝手するんじゃないわよ!!」
妖怪化していることでボディの強度が私より上のメディなら、多少掠っても平気かもしれませんが…すでに魔力柱に触れてしまった袖口やスカートはボロボロになってしまっています。それでも私を信じてくれているようで、援護するように魅魔さんへ毒霧と弾幕を展開してくれました。
それに合わせて、私も再び森へ飛び込もうとするのですが…!
「そっちの人形もなかなかやるわね!この雪の中これだけの毒霧を発生させられるなんて。
でも残念、あたしゃ悪霊だよ!生半可な毒は効かないさ!!」
「うそっ!?」「うぅっ!?」
メディの毒霧をものともせず突っ込んできた魅魔さんが、そのまま近距離でオーレリーズを4つ発射して来ます!
私はカナさんと一緒に狙われてしまった際に見ているのでその攻撃軌道を予測し、回避することが出来たのですが…!
「きゃあっ!?」
「メディっ!!」
撃ち出されたオーレリーズからも光弾が発射されることを読めなかったメディは、オーレリーズ本体をやり過ごした後に背後から放たれた光弾をまともに食らってしまいました!私がすぐ注意をしていれば…!
「うぅ…まだ大丈夫よ上海。私より上海の心配をして!」
「でもっ!」
「私でこれじゃ上海が食らったらひどいことになるでしょ!!」
「ッ!?」
本当にメディは大妖怪としての素質があるのでしょう。私よりもずっと戦闘に関しての視点が広く判断が早い―――耐久面に不安がある私は、メディの心配などしている余裕はないのです。
むしろ、今の私に必要なのは…メディを見捨てて逃げる覚悟。皆様をお助けするためにも、今は私だけでも豹さんの隠れ家にいらっしゃるサリエル様と幻月さんに助けを求めなければならないのです…!
ですが、そんな私を嘲笑うかのように。状況がまた悪くなってしまいます。
「お、どうやら霊夢が先に捕まえたようだね。それならお前さんたちに用はない、さっさと片付けるよ!」
「えっ!?」
魅魔さんの魔力がさらに膨れ上がるとほぼ同時に、私でも豹さんの魔力反応が見つけられるようになってしまったのです!それも、麟さんとお二人とも霊夢さんとほぼ同じ位置にです!!
「上海!!何してるの!?」
「――っ!?ごめんなさいメディ!!絶対に助けに来ますから!!」
「おや、大きい方の人形は気付けないのかい。
霊夢が豹を攻撃範囲に捉えたわ。流石は霊夢の勘、あっさり見つけられたもんさ!燻し出した以上、お前たちを時間をかけて甚振る必要がなくなったってことだよ!!」
「なっ!?
…上海、急いで!!私が何とか止めるから!!」
そして魅魔さんは本当に恐ろしい相手です…!あえてメディにも状況を伝えることで感情を乱し、余裕をなくさせることで対応を取りやすくする―――こうなっては搦手を打つような時間は無くなっているということなんですから。
ですが、もう私に選択肢は残っていません…!魅魔さんが今言葉に出した【霊夢さんの勘】、これは豹さんが見落としてしまっていた要素でしょう。まさかご主人様の妨害すらも無視して直接豹さんのところに辿り着くなんて、一番防がなければならなかった状況を簡単に作られてしまったということ…!
勘という、普通は頼ることのない要素だけで。
こうなってしまった以上、一刻も早くサリエル様と幻月さんに助けてもらわなければなりません!私たちだけではもう、力も手も足りなくなってしまっているのですから!!
「ふっ!私を止められると本気で思ってるのかい!?
少し本気を出してあげるよ!!」
「「っ!!」」
その言葉と同時に、オーレリーズとゴリアテちゃんを撃ち落とした星型弾を同時に展開してきました!!今度はメディも放たれた弾の形状で警戒すべき攻撃軌道を予測できるはずですが、それ以上に弾幕の密度が高過ぎます!逃げるどころか回避で精一杯…そして魅魔さんのロッドに魔力が集中、さらに追撃…っ!?
「えっ!?」
「悪いね、お前さんはもう甘く見れないんだ」
その魔力が集中したと思ったら、目にも止まらない急加速で私の目の前に魅魔さんが飛び込んできて!
「きゃっ!!」
「上海っ!?」
「《トワイライトスパーク》」
「――っ!!?」
私も椛さんと同じように地面に叩きつけられましたが…
ですが、その私に気を取られた隙を突かれたメディはトワイライトスパークを―――直撃は避けてくれましたが避けきることは出来なかったようで、そのまま力なく地面に倒れ込んでしまいました。
…少し本気を出されただけで、すぐ決着してしまったのです。
「しかし、とても人形とは思えないねえ。アリスが自分の創った人形に他人の魂を宿らせるような真似はしないだろうし…この辺りが豹に尽くそうとする理由ってとこかい?」
「…っ!?」
まだ動くことはできますが、魅魔さんは私が衝撃を抑えたことを見抜いていて私の方へ降りてきます…!逃がす気は無いということ、そして…私に宿っている隠れ家さんの存在に気付きかけています!本当に、桁が違う相手です!
―――それを、魅魔という悪霊の方から言葉にしてくれたことで。
行動に移す力も得られたし、わたしの覚悟も決まりました。
(上海さん、わたしが離れたら全力で残ったわたしのところへ行ってください!
確実に足止めできる手段がありますので!!)
(…っ!?隠れ家さんですか!?)
本当に賢いお人形さんです。わたしの声が同じ
(はい、今まで本当にありがとうございました…!
上海さんのおかげで、ご主人様と直接お話しして、帰って来てもらうことを約束してもらえたんです。
今度は、わたしが上海さんにお礼をする番です。後は、残ったわたしにお任せできますから)
(…待ってください!その言い方だと、隠れ家さんは…!)
本当に聡いお人形さんですね。わたしが何をしようとして、その結果どうなるかを理解できちゃっています。
でも、今はこうでもしないとご主人様の助けになれないのです。それに、イレギュラーなわたしだからこそ…捨て駒として散っても被害が少なくなります!
(心配しなくても大丈夫です。わたしは残ったわたしのもとに還るだけ…上海さんを残ったわたしが受け入れてくれたから。宿っていた上海さんの
どうか、ご主人様をお願いします!)
(…っ!だめ、待って隠れ家さん!!)
なんの断りもなく
そのためなら、ご主人様が上海さんのために創造したこの翼をわたしが使っても…ご主人様も許してくれるはずです!
「―――っ!?お前は!?」
「捕まえました…!」
ご主人様の魔力で創造された魔力翼ですから、わたしも上手く扱える!わたしはご主人様に建てられてから、ずっとこの魔力に支えられ、触れ続けていたのですから!
―――ご主人様の黒翼を、上海ちゃんの似姿に造り変えて近付いてきた悪霊にしがみつきます!!上海さんがユキさん…ご主人様の妹さんの魔力を優先的に使ってくれていたことで、わたしが扱えるご主人様の魔力が多く残っていたことも幸運でした。わたしがカタチを変えてご主人様の魔力だけを持ち出したことで、ユキさんの魔力だけが上海さんの黒翼として残っています。つまり、まだ魔力タンクとして上海さんが使えるということですから!!
「…ごめんなさい。でも、ありがとうございます!」
「くっ、待ちな!」
「させないっ!!」
この予想外なはずの状況においても迷わずわたしより上海さんを狙うこの悪霊も恐ろしいですが、しがみついたわたしが蠢くだけでも多少の集中を乱すことができる。そうすれば上海さんなら避けきれるはず…そう信じて、
「…っ!?お前まさか!?」
魔力の流れだけでわたしが何をしようとしているのか理解したらしき魅魔がここに来てはじめて焦りを表に出しましたが、もう遅いです!
(―――転生。もしまたわたしがわたしとして、再びこの意識を持つことが…本当に出来るのであれば。
どうかまた、ご主人様と巡り会えますように…!)
攻撃魔法を使えないご主人様が、ただ一つ行使できると予測していた魔法。
ここでわたしが使うことで、ご主人様のお役に立つこともあるでしょう!
「《漢の浪漫・自爆》!!」
「―――!!」
上海さんに似せたこの姿から、狂悪な魔力が膨れ上がる中。
届くことはないのに、さようならと。一言こぼれてしまいました。