明羅さんの援護で永遠亭に向かう鈴仙と文を追いかけてたんだけど、その途中で迷いの竹林から出て来た集団が二手に分かれたのは私でもわかったわ。こういう系統の術は苦手だから誰なのかまでは判断できなかったんだけど、向かった先を考えると片方は咲夜が紅魔館に案内してる。もう片方はどこに向かってるのか全然心当たりが無いんだけど…私と鈴仙・文の位置を考えれば魅魔がそっちを潰しに向かうと思ったし、案の定魅魔はそっちを叩いてるから問題なし。
―――それで、攻撃した永遠亭から戻って来たってことはこいつらの目的は果たしたってことになるわ。それなのに全員まとまって動くんじゃなく分かれた…あまりこういうことを考えない私でも『本命を隠すための囮も兼ねてる』ぐらいは読める。
…それなら
「―――豹さん、先に行ってください!私が足止めします!!」
「クッ…だが麟一人じゃ!!」
…なんか揉めてる上に、邪魔する気みたいね。まあ無力な人里の人間じゃないみたいだし、ある意味好都合だわ。
永琳と戦ったはずなのにあの男がほぼ無傷に見える。はっきり言ってどれだけの実力者でも、あの永琳を相手にして無傷で済むはずがないわ。つまり、あの少女はたぶん
だから遠慮なく先制攻撃する。
―――これが、最大の間違いだったのに気付くのは…この戦いを終えてから。
「あんたが誰なのかは知らないけど、異変解決の邪魔するってんなら容赦しないわよ」
「っ!?」
「てめっ…!!」
大人しくさせるつもりで放った拘束の札は、金髪の少女に当たる前に豹って男が片手ではたき落とした。
…成程ね、紫が注意してくるわけだわ。拘束術式が作用する間もない速さで処理できるだけの相手、搦手はあまり効果が無いみたいね。
「人里を守る博麗の巫女が、真っ先に麟を狙うのか!?」
「あんたを助けてる時点で私に退治されても文句は言えないわよ。まとめて幻想郷から追い出してやるわ!」
「…っ」
私のこの言葉に、麟って呼ばれた…どっかで聞いた気のする名前の少女は薄く反応しただけだったけど。
豹の方が、予想外の反応を返してきたわ。
「お前が…よりによって博麗の巫女のお前が!!麟を受け入れないのか!!?」
「…は?」
その反応を見て、私は気付いた。
…これ、地雷踏んだわ。
「ふざけるな…!幻想郷を守る博麗の巫女が、紫さんの理想を否定するだと!!」
「ひょ、豹さん?」
夢子に敗北し全てを失った俺は、紫さんの理想に救われたのだ。
―――幻想郷は全てを受け入れる。紫さんは過去を伏せ続けた俺をこの理想の元に匿い続け、俺もこの理想を実現すべく力を尽くしてきた。理想は理想でしかないと笑う有力者も多々いるのも事実…しかし少なくとも現在の幻想郷は、外の世界で平穏に過ごすことが難しくなってしまった妖怪たちの受け入れ先として機能しているのだ。俺を救ってくれた理想の下に。
それを、博麗の巫女が否定してきたのだ。よりによって、幻想郷で生まれた少女である麟を切り捨てるという酷薄な手段で!!
「永く八雲の隠者として幻想郷で過ごしていた身として、その発言は許せん!!
幻想郷を守護する先達として、今ここでその考え方は修正してもらう!!」
「はあっ!?魔界人のあんたが何を抜かしてるのよ!?」
「そうだな、八雲の隠者としてだけではなく、今を生きる魔界人の兄としても!神綺様の元護衛としても!!魔界を荒らしたキサマには私怨すらある!!
ゆえに、今ここで俺の全力を尽くしてキサマのその考え方を否定してやる!!勝てなければ永遠亭のベッドで目を覚ますことを覚悟しやがれ!!!」
この場で博麗の巫女と闘り合う以上、俺は幻想郷に留まることは出来なくなるだろう。そのために力を尽くしてくれた皆には悪いが、幻想郷を守るべき博麗の巫女が、俺を救い続けてくれている紫さんの理想を無下にすることは許せねえ!!
「麟、準備を終えたら隠形魔法を再行使する。その後はひたすら俺への回復・治癒援護だけしてくれ。麟への攻撃は全て止める」
「豹さんっ!?そんなことをしてしまったら…!」
「悪い麟、コイツのこの考え方だけは俺が修正してやらなきゃならねえ!!紫さんのためにも、俺自身のためにもだ!!」
「っ!?豹さん何をっ!?」
その言葉と同時に左眼の魔眼を抉り出す―――幻月の右目と夢月の左目を俺の魔眼に同調させたことで可能になった、一度きりしか使えない【俺が攻撃魔法を使える】ようにするロクでもない手段。
「最後の魔眼だ、受け取れ幽玄魔眼!!」
「―――なあっ!?テメェ、何しやがった!?」
魔眼の所有権を放棄することで、残りの5つの所有者である幽玄魔眼をこの場に召喚する!幽玄魔眼が放出しきれなかった、俺と幻月と夢月の残留魔力を利用することで!!
突如同意もなしに連れ出された幽玄魔眼は流石に混乱しているが、こうなった時点ですべて手遅れ!!
「お前は幻月と夢月を甘く見過ぎなんだよ!あの姉妹の魔力と正面から向き合った魔眼が、いつまでもお前の支配下に置けるとでも思ってやがったのか!?」
「…バカなっ!?」
紫さんの秘薬を一気に飲み干し魔力を全回復させることで、3対の魔眼全ての所有権を強奪する!!
幻月と夢月の魔力を俺が支配下に置くことで二つ、俺が所有権を放棄した魔眼を残留魔力を利用することで一時的に奪い返すことで半数が俺の支配下となっているのだ。この状態であれば紫さんの秘薬で全快した俺の魔力量であれば、幽玄魔眼ごと俺が扱えるようになるのだ!!
「ふ…ふざけんな!!こんなこと、出来るはずが!!」
「出来るんだよ、俺がサリエル様の魔眼の所有権を放棄したことでな。それをまんまと奪い返された己の無力を呪え。
安心しろ、今この魔眼に残る俺と幻月と夢月の残留魔力を使い切れば、所有権はお前の元に戻る。そうなればお前の望み通り、俺から魔眼を奪い返し3対6つがお前の元に揃うんだ。願ったり叶ったりだろう?
ただし、この魔力を使い切るまではお前を好きに使わせてもらうがな!!」
「くそが…!クソがああぁぁぁっ!!」
「―――しまった、閉じ込められた!?」
そのまま俺と博麗の巫女を中心に結界を張り周囲に被害が出ないようにする。俺が幽玄魔眼の空間魔法を応用してこの結界を造り上げたことで、
(永くお世話になったが、頼るのはこれで最後だ。この闘いに、全力を尽くさせてくれ)
博麗の巫女にあらためて視線と敵意を叩き付ける。
神綺様を降したというその力、見せてもらおうじゃねえか!
「………私では、止められないんですね。
豹さん、無理だけはしないでください…!」
「巻き込んで悪いな麟。だが、その癒しの力、貸してくれ!!」
「はいっ!」
「放しやがれぇ!!なんでテメエなんかに!!」
「黙ってろ」
「………!!」
叫ばれるのも邪魔でしかない、支配下に置いた以上無力なのだから強力な暗示をかけて幽玄魔眼を黙らせる。博麗の巫女が音に関する術を持っているとは思えないが、念のためだ。
「待たせたな。正真正銘一度しか使えない、今の俺の本気だ。
俺の護り続けた理想を否定するってなら、それだけの力を見せてみやがれ!!」
「…やってやろうじゃないの!!異変を解決するのが博麗の巫女よ!!」
「「舞符《ビハインドフェスティバル》!!」」
「くぅっ…!」
まずい、完全にジリ貧だ…!二童子をまとめて相手するだけでも骨が折れるのは理解できていたが。
「いい加減しぶといのよ!墜ちなさい!!」
「冗談じゃないっ!!」
二童子の息の合った連携を上手く利用する形でエリスが狙撃を狙ってくるため、反撃の隙を見出せない…!低威力弾は多少の被弾を前提に、足が止まる威力の本命と狙撃は確実に回避することで凌いでいたのだが。二童子が本気になりつつあることで被弾を許容できる低威力弾が少なくなり、豹直伝の防壁魔法で凌ぐ必要が出てきているのだ。これでは脱出どころか反撃すら覚束ない…!
「紫様の式は伊達じゃないね!でもそろそろ限界かな!?」
「異空間構築に回ったあいつも加えれば4人がかりだしねー。流石の藍でもこの差は埋められないわよ」
「その上後衛のわたしを狙おうとしてるし。まさかこのクラスの九尾までヒョウに誑し込まれてるなんて…本っ当にヒョウの見境なしは変わってない!サリエル様の想いを何だと思ってるのよ!!」
「豹はそういう男だろう…!個人ではなく妹たちに尽くす!!」
なによりエリスの漏らす言葉は、私が予想していた以上に豹への敵意が強いのだ。それこそ豹であればその気になれば二童子…舞と里乃も落とすことができる。それは長く甘えさせてもらっていた私だからこそ気付けることではあるのだが、幻想郷全体のことを考慮すれば後々懐柔が狙える二童子よりどう転がろうと敵対関係にしかならないエリスを真っ先に潰しておくべき。
―――脱出が最優先だというのに、数を減らさなければそれが不可能。それならばエリスを仕留めたいのだが、徹底して後衛に陣取るため狙い辛い。
「―――えっ!?魔眼どこ行ったのよ!?」
「は?」「へ?」
「っ!?」
唐突に…本当に交戦していた私たち4名が何一つ理解できずに。私を閉じ込めていた異空間が消滅して後戸の国の風景が現れる。そしてそこでは。
「…ああん!?なんだいお前等は!?」
「おやおや…どういう状況でこうなったのでしょうねえ?」
地底妖怪をまとめる鬼の四天王・星熊勇儀と、仙界に属する邪仙・霍青娥が交戦していた。
だが、今が好機!!スキマを展開し離脱を図る!!
「ってダメダメ!!藍だけは逃がすわけにはいかないよ!」
「何があったのかわかんないけど、最優先しなきゃならないのはこれだからね!!」
かなり強引な手段、私がスキマを閉じる前に入り込むという方法で二童子が突っ込んできた。だが、これで私も強力な手が打てる!!
「橙っ!!」
「お呼びですか、藍さま!!」
「「あっ!しまった!?」」
スキマ内部であれば橙を呼び出せるのだ!!そして後衛に徹していたエリスは後戸の国に置き去りに出来たことで数は互角。橙の実力は二童子にとても敵わないが―――スキマ内部という地の利がある!!
ここであれば、橙を守りつつ二童子を相手取ることは難しくない!!
「ここまで好き放題やってくれたな…!
橙!!私の指揮から外れ次第紫様に幻想郷へ向かってもらってくれ!!」
「了解です!!」
「させないよ!」
「猫又からやれば済む話!!」
「出来るものならな!!」
二童子は知らないのだ、未だ成長途上であるがゆえに…身の安全のためにスキマを扱うことに関して橙は私を凌ぐということを!速攻で片付けて紫様に動いてもらわなければな!!
「逃がしませんわよ?」
「なっ!?」
魔眼に何かあった。あの秘神の部下二人は九尾を追って消えやがった。
だからわたしも空間魔法で幻想郷へ…たぶん魔眼の消えた先に向かおうとしたんだけど…!
「また【喧嘩】を邪魔されてしまいましたが…今回に関しては見逃して頂けませんか?」
「ああ、思ってた以上にお前さんも楽しませてくれたからねえ。仙人やってるだけはあるじゃないか!肉体強化に死体の盾代わりで私の拳を一度とはいえ正面から受け止めようとしたのは見事だよ!」
「あの方と同様に吹き飛ばされて早く治療したい重傷ですけれどね…芳香もあの一撃で戦闘不能に追い込まれてしまいましたし」
「あのキョンシーも筋は悪くなさそうだったな。死体になる前に相手させてやりたかったところさ」
わたしの空間魔法を後ろから青い仙人が妨害して、その相手をしてたっぽい鬼がわたしの正面に立ち塞がる。に、逃げられない!?
「だが、コイツにはたっぷり話を聞かせてもらえそうだからな?丁度いい、華扇のとこまで連れてくよ!」
「ええ、豊聡耳様の元へ連れて行くまでは私が空間魔法を妨害し続けますので。力仕事はお任せしますわ」
「は、放せー!!」
な、なんでこんなことにー!?