寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第230話 トウホウヨウレンダン

「―――これでっ!!」

「くっ…敵わず、か。

重ねた年月はやはり重い」

「まあ、私は強いですからね。明羅…でしたか?貴方もその若さでここまでの剣腕、見事なものですよ。

寿命の短い人間なのが、惜しいと思ってしまうぐらいです」

 

まさか人間の男性相手に白楼剣まで抜くことになるなんて思ってなかった。つまり一刀流としての剣腕は私の上を行く凄腕の侍…なんでこんな人が魔理沙の友人なんてやってるんだろう?

 

「…貴公は、魔理沙を切り捨てることに躊躇いはないのか?」

「へ?」

 

そんなことを考えながら喉元に突き付けた楼観剣を下ろすと、明羅も刀を収めながら私に問い掛けてきた。もしかして、これは…

 

「その、貴方は魔理沙の彼氏さん?」

「…私は女だぞ。そもそも魔理沙の想い人は霖之助さんだろうに」

「えっ!?そうだったの!?」

 

じょ、女性だった。言われてみれば男装の麗人っていう方がしっくりくる。そうなるとますますこの若さでここまで剣腕を磨いているのが驚きなんだけど…とりあえず答えは返してあげた方がいいか。

 

「私は魔界に関しては、今日初めて聞いたことばかりだからほとんどわかってない。でも、話を聞いた限りだと魔理沙に関しては仕方ないと思うよ。納得できないのもわからなくはないけど、だからと言って紫様の指示通り大人しくしてなかった以上は…切り捨てられても文句は言えない。

幻想郷を危険に晒す選択を、魔理沙自身が選んでるんだから」

「………そうだな。止められなかった時点で、無力な私の理想的な結果にはならない、か…」

 

…正直に答えたら、目に見えて落ち込んじゃった。なんだかんだ言っても魔理沙は好かれてるなあ…まあそこもあるから私は軽く考えてるんだけど。

 

「そこまで心配しなくても、魔理沙が魔界で処刑されるなんて事にはならないと思うよ。割ととんでもない相手からも魔理沙は一目置かれてるから、そいつらと協力して救出に向かえば間に合うんじゃないかな」

「それは幻想郷と魔界の全面戦争の引き金となるだろう。幻想郷の管理者が黙っていられなくなる」

「ううん、幻想郷の管理者さえ全面的に対立したがらないような面々が動くってことだよ。それに魔界神とその周囲は穏健派って聞いてるから、そいつらを前に出せば戦争は避けられると思うけど」

「随分と楽観的な考えだな」

「私は白玉楼の庭師でしかない。あまり大き過ぎる話は教えてすらもらえないからね。

だから深く考えられないの、情報が足りてないから」

「…そうか」

 

この答えで納得してもらえたみたいで、明羅はこれ以上何も言うことは無く私に背を向ける。敗者は勝者の邪魔をしない…さっき飛んできた方角、たぶん香霖堂かな?そこに向かって飛び去って行った。

 

―――そして、明羅との決着が付いたこの時点で。私は本来為すべきだった霊夢の足止めには完全に失敗してた。霊夢は豹を探り当てて、豹が霊夢ごと結界内に隔離したことで…私では二人の位置を見つけられなくなってたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

幽玄魔眼を支配下に置いたとはいえ、俺の基本戦法…接近戦に持ち込むのは変わらない。一度しか戦ったことのない相手の攻撃を今この場で使いこなすことなど不可能だからだ。ゆえに幽玄魔眼の利用方法は―――!

 

「っ!?

そういうこと。スペルカードルールを守る気が無いんじゃなくて、脳筋なだけってわけね!!」

「後遺症が残るような喰らい方は避けろよ?少なくとも次代の巫女候補が見つかるまでは、お前に戦い続けてもらう必要があるんだからな!」

 

先制の右フックを強化された護符で受け止めながら博麗の巫女が俺の本質を見抜く。ここまで接近するために俺に向けて放たれた弾幕や札、符を撃ち落とすためだけに幽玄魔眼を使う―――魔眼から直接迎撃の針弾を撃てるだけでここまで楽になるとはな!

 

「あんたみたいなデカいのと殴り合う気にはならないわね!神技《八方龍殺陣》!!」

 

そして体格差や経験で肉弾戦は不利と瞬時に理解したのだろう。大幣を弾き飛ばすべく放った左ミドルキックに対し、防護の札を上手く使いその衝撃で後方に吹き飛び俺との距離を離す博麗の巫女。そのまま容赦なく札をバラ撒きつつ、光弾を多数展開する…が!!

 

「スペルカードルールに従わない相手に、その()()はスキにしかならねえぞ!!」

「なっ!?こいつ…っ!!」

 

展開された光弾が発射される前に、移動妨害用に多数バラ撒かれる札を強行突破!!幽玄魔眼で撃ち落とし切れない札は被弾し張り付いてゆくが、麟が即座に麒麟の癒しで引き剥がしてくれる!射撃戦では勝ち目がねえんなら、ただひたすらに突進あるのみ!!

 

「ムチャクチャね!殴り合いが基本な魔法使いなんて初めてだわ!!」

「それを初見で凌げるお前もやるもんだぜ!魔界にケンカ売っただけのことはある!!」

 

だが流石は多くの修羅場を潜り抜けて来た博麗の巫女。俺の突撃に驚きながらも、大幣を延ばしその先端から防護結界を張ることで俺の足を止めようとする!

 

「っラァ!!」

「ちっ…!でも間に合ったわよ!!」

 

その結界を突進の勢いを乗せた右ストレートで殴り壊すものの、展開された弾幕が時間差で俺に向け発射される!だがこの距離ならば!!

 

「ハアッ!!」

「はあっ!?」

 

そのまま飛び蹴りで特攻!!麟の回復援護と幽玄魔眼の迎撃があるからこそ、攻撃重視!!あわよくば自滅も狙っての強行策でもあったんだが…!

 

「やってらんないわ…!頑丈ってのにも程があるでしょ!!」

「その動きも勘か!?恐ろしいな、お前のその力!!」

 

展開された弾幕は博麗の巫女をすり抜けて俺に向かって来たことで、自滅狙いは無駄ということを理解する。そして俺の飛び蹴りを今度は受けず急降下することで回避しそのまま距離を取ろうと動く博麗の巫女…足止めに針や符を放ちながら。

 

―――今の飛び蹴りを初手のように受け止めて距離を離していれば、結界を利用した里香の拳銃の跳弾で仕留められるはずだった。すでに手にしてしまった以上、魔力拳銃は奇襲には使えない…!右手に構えたのが奴の目に入っている…数少ない切り札を先に晒すことになったワケだ。

 

そのまま幽玄魔眼の視界外から俺を狙う光弾や札を魔力拳銃で撃ち落としつつ、次の奇襲策として1対の魔眼から低速弾を連射。これも勘だけで読まれる気もするが、幽玄魔眼を支配したところで圧倒的に攻撃手段が不足している俺だ。決めるしかねえ!!

 

「逃がさねえぞ!」

「逃げられないわよ!この忌々しい結界のせいでね!

 夢符《退魔符乱舞》!!」

 

そして嫌な予感通り、俺の奇襲策を潰すような攻撃が放たれる!正面の俺を狙うだけではなく()()()()()()()()()()()がかき消される。ここまで狙った技の選択だとすると、今の時点で俺が次に打つ攻撃手段を読まれてるってことだ。おまけに、この射線だと…!

 

「…っ!?ありがとうございます、豹さん!」

「壊れ次第上手く位置取りしてくれ麟!!」

「ふざけんじゃないわよ…!片手間で防壁を張るですって!?」

 

隠形魔法で隠した麟も巻き込める!念のために麟の周囲に防壁魔法を展開したが、麟自身でしっかり回避していて逆に麟の位置を晒すことになった。

 

―――だが、逆にどこまで確信を持って動いているかを知ることができた!麟の位置まで理解して撃ったわけじゃない、あくまで勘で撃ったのが正解を引いただけ。それなら俺の奇襲も完璧に予測されることは無い!!

 

「甘いんだよ!!この程度避けられねえで肉弾戦に持ち込めるか!」

「そんな野蛮なの、鬼にでもやってなさいっての!!」

 

引き続き幽玄魔眼から低速弾を連射しつつ、今度は俺も里香の魔力拳銃を乱射しつつ接近!どうやら博麗の巫女は麟を先に止めるべきと判断したようで、次の攻撃手段を迷っているのか俺への集中が薄くなっている。この状態なら十分奇襲になるだろ!!

 

「開けっ!」

「っ!?

危ないわね!!紫みたいなマネするんじゃないわよ!!」

「…言われてみりゃ、劣化コピーでしかなかったか!」

 

回避された銃弾を低速弾を空間魔法で変化させたゲートに入れ、別の弾をゲートの出口にして奇襲を狙ったが…よく考えればこういった攻撃の仕方は紫さんや藍が俺の完全上位互換。二人が信頼を寄せる博麗の巫女に通用するはずが無かったな…!

やはり、俺の勝ち筋は肉弾戦ただ一つ!!ならば、ひたすら吶喊あるのみ!!

 

「うおおぉぉぉっ!!」

「――これ以上付き合ってられないっての!終わらせるわ!!

 《夢想天生》!!」

 

その宣言と同時に周囲に展開された八つの陰陽玉から、凄まじい量の弾幕が展開される!?

これは避けきれねえ、耐えるしかないか!!麟の防壁魔法をすぐ解除しないで正解だったな!!

 

「やってやろうじゃねえか…!魔界神の護衛としての本気、とくと見やがれ!!!」

 

攻撃をすべて中断し俺の左眼だった魔眼以外はすべて閉じる。そして肉体強化魔法と防壁魔法を集中的に行使し、流れ弾が麟に向かわない位置に陣取る!後は、高威力弾同士を空間魔法で相殺し続けるのみだ!!

 

―――来やがれ、片っ端から相殺し、喰らい切ってやるよ!!!

 

 

 

何を血迷ったのか、豹は足を止めて防御に専念し始めたわ。いやまあ、たしかに夢想天生中の私に攻撃するのはムダだから理にはかなってるのよ。でも夢想天生を全て受け止める気とか意味が分からないわ。

…まあ、これで終わるなら問題ないんだけど。

 

―――そのまま、豹に向かい弾幕が殺到する。

このとき、()()()()()()()()って…決まらない予感がした時点で。その結果は分かってたはずなのに…私はその【悪い勘が当たる】ことを見落としてた。

 

数え切れない着弾音と、弾幕が一人に集中することで光に包まれた視界が元に戻ったとき…そこには。

 

「………はぁっ!?」

「ぐぅ…麟、頼む…!」

「な、なんて無理を…!今すぐ治療します!!」

 

ズタボロになりながらも、戦意を保ったままの豹がその場に佇んでいたわ。

 

「なんで耐えられるのよ!!?」

「お前の修行不足だよ…!神綺様を倒せたお前なら、俺が耐えきれるはずが無かった。

―――だがな、スペルカードルールに慣れ過ぎて命のやり取りからしばらく離れてたことと、鍛錬不足で攻撃の威力が当時より落ちてることで…今の俺は耐えきれた」

「なんですって…!?」

 

ここのところ自覚もしてた、修行のサボり。それを今日ここで初対面の相手…豹に言い切られるなんて思いもしなかった。

 

「お前は玄から降りて、一人で戦えるようになった。それはたしかにお前の成長ではある。

だがな、成長ではあっても【強くなった】わけじゃないって自覚が無かっただろ?」

「………」

「玄に移動や回避を任せていたことで、お前は攻撃に集中できてたんだよ。その力は神綺様さえも超えられたらしい…全力で防御に回った俺をここまで追い込めるんだ、説得力もある。

だが、その攻撃力を維持するために必要だった修練をお前は怠っていた!玄に任せていた移動や回避を自分でこなせるようになったことは、お前の中では間違いなく成長だったんだろうがな…そちらにも己のリソースを割くことになったことで、攻撃面に全力を尽くすことができなくなっている!!

そうでなきゃ、お前が神綺様を退けられるはずがねえ!!!」

「っ…!」

「お前は玄から降りたことで、小回りや回避は鋭くなったが…攻撃の威力が落ちていることに気付けなかった!!スペルカードルールでの戦闘に慣れ過ぎたことで、今ここまで気付けないままにな!!

この鍛錬不足が、俺を仕留めきれなかった理由だ!!!」

 

悔しいけど、うっすらと自覚があるから何も言い返せない。

そのせいで、豹の最も警戒すべき…空間魔法に対して咄嗟に対応できなかった。

 

 

 

「今日はここまでだ。しばらく寝てろ」

「っ!!」

 

リリーのおかげで低燃費・効率化した短距離テレポートで一気に距離を詰め、俺に真正面から論破されて隙の出来た博麗の巫女の鳩尾に一撃入れて終わらせるつもりだった。

 

「―――遅くなったのは謝るから、やめて…豹」

 

その拳を、スキマから現れた紫さんに止められていた。それと同時に幽玄魔眼の力で構築されていた結界が消滅する。本当に、俺とは格が違うな…紫さんは。

 

「遅いですよ…もう引き返せなくなりました」

「ごめんなさい…隠岐奈にしてやられたわ」

「……紫」

 

紫さんの乱入と結界の消滅で、博麗の巫女も戦意が落ち着いていた。

もう少し、早く来てくれれば。こうはならなかったのだろうな…

 

 

 

―――ここで、紫さんの介入で安心し…集中を切らしてしまったことが。

俺の行く末を、完全に決定付けることになった。

 

 

 

「まあ、どんな理由があろうと霊夢を3人がかりで殺ろうとしたのは許さないけどねえ」

「――がっ!!?」

「豹さんっ!?」

「…は?」

「っ!?何をしてるの萃香!?」

 

集中を切らしてしまった俺は、霧と化していた伊吹萃香の接近に気付くことができず。

貫き手で土手腹を貫かれていた。




申し訳ありません、今週の検査結果によって手術や入院が必要になる可能性がありまして…次回更新がいつになるか不透明になります。
大事にならなければ引き続き火・土更新を予定してます。週3更新はまだしばらく難しそうです…重ね重ね申し訳ありません。
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