寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第233話 ひとときの安穏

「消え去りなさい!!」

「冗談じゃないっての!!」

 

思っていたよりしぶといですねこの酒臭いチビッ子!私の放つ魔法の魔力密度なら霧化しようがそのまま霧ごと消し飛ばせるので問題無いんですが、それを理解してるのかさっきのように分身したりせず本体に力を集中させてるんですよね。あの巫女の助けに入るだけのことはあるわけです!

 

「でもいい加減好き放題されっぱなしってのもムカつくねえ!その鼻っ柱へし折ってやる!!

鬼符《ミッシングパワー》!!」

「あら」

 

そう思ってたところであちらが痺れを切らしたのか、大技を繰り出して来ましたね。巨大化…なるほど、分身したり霧化したりできるのであれば、その逆も出来るわけですか。

 

「このまま踏み潰してやるよ!!」

 

そう言って一気に決着を付けに来たようですけれど…考えが浅いですね!

 

「ハッ、愚かな!!私の本気がどういうものか、全く理解していない!!」

「なあにい?」

「フフフ…ハハハハハ!!的が大きければ当たりも良い!!」

 

私の全力、これを繰り出すのは久しぶりですが。デカブツ相手に撃てば周囲の被害が最小限で済みますからね!遠慮なくブチかましてあげましょう!!

 

「《ムーンデビルクレイジー》!!」

「ごっ…!!?」

 

私の本気はシンプルなもの、高密度魔力弾の高速乱連射!!私のような最上位悪魔だからこそ、単純に威力・速度・数全てが最高効率の魔力弾をありったけ撃ち込むだけ!単純だからこそ、最大限の破壊力を出せる!!

 

「くたばりなさい!!」

「――っ………」

 

これだけの数を一瞬で撃ち込めるとは思っていなかったらしき巨大な鬼は、悲鳴すら出せず私の本気を真正面から叩き込まれ。元のチビッ子サイズに戻って地面に倒れ伏しました。

 

「あら、原形を留めましたか。言うだけあって大したものですね」

「…姉さん、やり過ぎ。死んでたらもっと面倒なことになってるよ」

「そ、そうですね…生き残ってくれて逆に助かったと言うべきでしょうか」

「今となっては幻想郷に気を使う必要は無くなったと思うけど…エリーとくるみのことを考えるとたしかにまずかったですか。ごめんね」

 

決着とほぼ同時に夢月がエリーを連れて近寄ってきました。そういえば幽香もいつの間にか帰っていて、最後まで暴れていたのが私でした。ちょっと恥ずかしいですね…

 

「落ち着いたんなら姉さんも紅魔館に行くよ。ヒョウたちが待ってるから」

「そうですね、状況を整理しないといけないでしょうし…行きましょう」

「はい、お願いします」

 

ヒョウの隠れ家に残っている面々だけ回収しなければなりませんが…そこも含めてヒョウやサリエルと相談するべきでしょうし。ひとまずは合流を優先しましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――というわけでして。八雲紫の救援を遅らせてしまった分をフォローしに参りましたわ」

「そういうことだったのですね…夢の世界での情報収集、たしかにある程度の時間を割く価値はあります。

ですが、その最悪なタイミングで事態が大きく動いてしまいました…」

「そうみたいね。もっと上海の力になってあげたいんだけど…そうもいかないみたいだわ」

「夢の世界の支配者たるドレミーさんの許可があったので、こちらの私たちを豹さんの隠れ家に連れてきましたが…これ以上の干渉は避けるべきなのだそうです」

「八雲紫が私を利用した以上、私の元々の依頼主である八意永琳にも同様の協力を求められてしまえば断り辛いですから。夢の世界の八意永琳が貴方達を利用する可能性もある以上、幻想郷への干渉はこれっきりにしておく方が良いでしょう」

「…本当にとんでもない規模の異変。まさか地底や魔界だけじゃなく夢の世界まで関わって来てるなんて、流石の私も予想外ねぇ」

 

ドレミー・スイートさんは夢の世界の支配者だそうで、ついさっきまで八雲紫さんと夢の世界で情報交換をしていたそうです。そこに八雲藍さんの式神である橙さんが豹さんの状況が一気に悪化してしまったことをお伝えしたことで、ドレミーさんも豹さんを助けるために夢の世界から出てきてくれたとのことでした。

 

「そういうわけですから、貴方達は先に夢の世界に戻りなさい。この一件が落ち着くまでは、危険を感じたらすぐ私を頼って構いませんわ」

「そうさせていただきます。それでは皆様、ご武運を」

「あまり手伝えなくてごめんね上海。その分こっちの私が力になるから、頑張って!」

\……!/

「はい、ありがとうございます!」

 

そう言って夢の世界のメディと椛さんは、ゴリアテちゃんを連れて姿を消してしまいました。

…夢の世界にも私やゴリアテちゃんがいるんですね。これも私が人形から逸脱し始めている証拠なのかもしれません。

 

「でも丁度いいわ。夢の世界の支配者が手助けに来てくれたのなら、ここは任せてしまっても平気よね?」

「…貴方はたしか小兎姫でしたね。豹の力になる気はないということですか」

「私は人里を守る警官よ、優先すべきは豹じゃないわ。豹の協力者と見られて人里に余計な火種を生むわけにはいかないのよ。

貴方のおかげであの天使と悪魔に対する最低限の義理は果たせましたから、私は人里に戻るわ」

「それは…止めるわけにはいかないですね。わかりました、小兎姫さんもお気をつけて」

「話の分かる人形ねぇ。それじゃ、さようなら」

 

そして小兎姫さんも用は済んだとばかりに隠れ家を出て行ってしまいました。隠れ家さんを巻き込むような戦闘はしたくないですから、対立しないで済むだけでも悪くない結果のはずです。

それに…人里を危険に晒さない限りは豹さんを敵視することはないはず。その方向でも小兎姫さんへの対応は、ご主人様や豹さんにお任せするべきでしょうから。

 

「…あちらから去ってくれたのは好都合ですね。人里の関係者を巻き込むのは避けたいところでしたから」

「そうなのですか?私はまだ幻想郷全体の状況を把握しきれていませんので、小兎姫さんの希望を尊重しただけなのですが…」

「八雲紫と摩多羅隠岐奈の対立、これに人里の防衛戦力を巻き込んでしまう方が面倒なことになると八雲紫本人が言っていましたから。どちらかに肩入れされてしまえば、幻想郷の管理に悪影響が出かねない…理想はこの異変の全貌を知らぬまま不干渉を貫かせることだそうですよ」

「今となっては、難しいお話ですね…」

「ええ、今の小兎姫だけでなく緊急事態だと判断し人里を隠した実力者もこの異変の情報を集め出すでしょう。こうなると情報統制もあまり意味を為さない…幻想郷の上層部である賢者同士の対立である以上、完全に一致した情報統制など不可能でしょうから」

 

夢の世界の支配者であるドレミーさんは、幻想郷に関しても深いところの情報を持っているみたいです。私よりずっと正確な状況把握が出来ているのでしょう。

それでしたら、当面の行動指針はお任せしてしまって大丈夫でしょう。私の独断で動くより、ずっと豹さんの理想に沿えるはずです。

 

「上海、でしたね。豹からここに戻るよう言われたのですか?」

「あ、そうです。この隠れ家で待機しているはずのサリエル様と幻月さんと一緒に、紅魔館に向かうよう頼まれています。リリーさんを護衛しながら移動するのであれば、私たちだけでは戦力不足ですので…」

「ですがその堕天使と悪魔は豹の援護に向かってしまったと。そうなると、先程救助したように夢の世界経由で紅魔館とやらに向かうのが最も安全ですが…ここで眠る妖精は眠らせたまま連れて行くとしても、この状況において紅魔館で眠っている者がいるかどうかですね。出口が作れなければ私の力で移動は出来ません」

 

あらためてお話ししてくれた通り、ドレミーさんが隠れ家の中から出て来たのは夢の世界を経由して移動していたからだったそうです。気を失っている状態を八雲紫さんの協力で、境界を操り()()()()()()()にすることで魅魔さんが去った戦場に移動する。そしてゴリアテちゃんたちを夢の世界の皆様で回収して再度夢の世界を経由し、リリーさんの夢を出口にすることで隠れ家に皆様をお連れしてくださったそうです。

つまり、同じ手段で紅魔館に移動するためには出口となる夢が必要になるということなのでしょう。そして、紅魔館の主であるレミリアさん自身が戦闘に出向いているような状況で眠っているような紅魔館の住人がいるかというと…

そう考えている途中で、私がそれに気付きました。

 

「…っ!?レミリアさんが、ここに向かって来ていますね」

「レミリア?紅魔館の主である吸血鬼のことですか?」

「そうです!豹さんと迷いの竹林入口で分かれてすぐぐらいに、摩多羅隠岐奈らしき強大な反応が幻想郷に現れたのですが。即座に紅魔館からその地点に向かってくれていたんです。任せてしまって大丈夫なのだと私が勝手に判断して、皆様が不安にならないようにお伝えしていなかったのですが…」

「紅魔館が豹が次に向かった避難先なのですよね?つまり彼女は豹の協力者で間違いないと」

「はい!それは私たちを助けに来てくれたメイドの咲夜さんからも教えてもらっているので、間違いないです!」

「それなら彼女を待ちましょう。状況を説明すれば移動の手助けをしてくれるかもしれません」

 

 

 

―――そうしてレミリアさんの到着をお待ちして、隠れ家さんの前でお迎えしたのですが。

 

「ほう、お前がくるみの話していた人形か」

「くるみさんが…!お願いします、どうか私たちも助けていただけないでしょうか!?」

「ククク、思っていた以上に興味深い存在だな。とても人形とは思えん…ここまで流暢に話し、素直に頭を下げられる。礼儀を知らん連中よりずっと好感が持てるよ。

安心しなさい、お兄様の協力者を無下にする気は無いわ。ただ…そっちの獏はどうなのかしら?聞いているお兄様の協力者に、お前のような奴はいなかったはずだけれど?」

「それはそうでしょう。私が豹の力になるために動いたのは、これが初めてなのですから。豹自身も私が協調していることにまだ気付いていないでしょうし」

「ドレミーさんは魅魔さんに敗北してしまった私たちを助けてくださったんです。どうか、信用していただけないでしょうか…!」

 

くるみさんのおかげで私のことは友好的に見てくれていたのですが、ドレミーさんに対しては警戒心の方が強いです。一目でドレミーさんが獏だと見抜いているのでしたら、それこそ夢の世界から現実世界に堂々と姿を現せるなんて最上位の実力者だと理解できているということ…とても甘く見れる存在ではないのですから。

 

「そうだな、紅魔館に案内する前にお兄様に一度確認を取りたいところだが。お兄様の協力者の中にお前…ドレミーと呼ばれていたか?お前の存在を知るのはいないのかしら?」

「申し訳ありませんが、なるべく現実世界の住人との交流は避けていますので。面識のある相手となると藤原妹紅ぐらいなのですが…間の悪いことに彼女は別行動してしまっているのですよ」

「その、ご主人様の家に向かっていますので。ご主人様と通信すれば信用していただけるでしょうか?」

「何を言っている?アリスはお前と違い魔界側として動いているのでしょう?敵の言葉を信用するほど私は愚かじゃないわよ」

「う…」

 

そうでした。ご主人様はいまだに豹さんと直接の面識がありません…レミリアさんから見れば魔界からの斥候という疑いを消し切れない立場です。そうなると、直接妹紅さんが通信できる状況になるまで待たなければなりませんが…レミリアさんがそこまで待っていただけるかどうか。

 

ですが、ここに来て私にも運が向いて来たようで。

 

「―――レミリア、本気で助かった…!ありがとうな」

「あら、お兄様」

「豹さん!?」「豹!?」

 

豹さんの隠れ家の風見鶏から空間魔法のゲートが開き、そこから豹さん本人が飛び降りて来て下さいました…!

 

「こんな派手なことして平気なのかしら?」

「博麗の巫女に思いっきり捕捉された挙句、戦闘までしちまった以上今更だ。それにこうなったからには、状況を整理せずに俺を狙ってくる奴はいないだろうよ。幻月がド派手にやってくれたおかげでな」

「ああ、あの悪魔か。たしかにあの鬼相手に地形を変えるほどの攻撃を向ける相手を敵に回したがる有力勢力は無いわね」

 

言われてみれば、幻月さんもいつの間にか戦闘を終えて紅魔館に向かっていました。伊吹萃香さんが相手だったようですが、問題なく撃退してくださったようですね。魔界でもその名を轟かせている幻月さんでは、最上位の鬼ですら相手が悪かったということなのでしょう。

 

「ドレミーまで手を貸してくれてたのか。ありがとうな」

「いえいえ、むしろ足を引っ張ってしまった可能性すらありますので。その確認も含めて話をしたいところです。

…これで私を信用できますよね?」

「そうだな、お兄様が全く敵意を持っていない相手は珍しい。紅魔館で細かい話を聞かせてもらおう」

「ありがとうございます、レミリアさん…!」

 

そして豹さんのおかげで、レミリアさんがあっさり警戒を解いてくれました!やっぱり豹さんは凄いです。

 

「レミリア、一つ力仕事を頼んでいいか?椛を紅魔館まで連れて行って欲しい…魅魔にやられちまったんだよな、上海?」

「ごめんなさい豹さん、私たちの力不足で…」

「気にするな、魅魔を相手に生き延びれただけ上々だ。

メディスンとリリーにゴリアテは俺が抱えてくが、メディスンの毒を遮断しながら椛まで運ぶのは難しそうでな…」

「そうね…後でお兄様が私も抱えるというのなら手伝ってやってもいいわよ?お兄様をこういう方向でからかうのは楽しいからね」

「それぐらい構わないが、からかうことになるのかそれは?」

「フフ、正確にはお兄様()からかうんじゃない。お兄様()からかうのよ」

「…そういうことか」

「あら、貴方も中々いい性格のようですね」

「当主というのはストレスも溜まるものよ?軽いストレス解消ぐらいさせなさい」

 

…本当にあっという間にレミリアさんとドレミーさんが馴染んでしまいましたね。豹さん、凄いです…

そうして私たちも全員揃って、紅魔館に空間移動することになりました。

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