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「―――というわけでして。今後は私たち守矢神社も豹を助けている皆さんとの対立を避けたいということを、命蓮寺からお伝えしていただけないでしょうか?」
「わかりました。無用な争いを避けるためでしたら私は助力を惜しみません」
人里の守護者である上白沢慧音さんに私たちが知る限りの状況をお伝えしている最中に、茨華仙との連絡役をお願いしていたこころが戻ってきました。何故か豹さんが
「…守矢神社から永遠亭と妖怪の山にも停戦を求めることは出来ないだろうか?」
「うーん、そうですね…今の時点で白狼天狗の椛さんっていうのが豹の協力者として動いてしまっていて、烏天狗の大将さんとしては妖怪の山に連れ戻したいそうなんですよ。
でもお話を聞かせてもらった限り、当の椛さんは妖怪の山どころか鬼の四天王である星熊勇儀さんすら騙して豹の傍に居ることを選んじゃってるんですよね?」
「はい、私はその場に居合わせたのですが…鬼の四天王だけでなく茨華仙さんすらも切り捨てて椛は豹さんを選びました。その覚悟は固いのでしょう」
「だとすると引き下がってくれるかわからないですね。椛さんを諦めてくれるかどうかになってしまいますので」
ですが両名共に交戦の意志はなく、それどころか私たち命蓮寺に豹さんとの仲介を求めて来たのです。そのため私と聖にぬえ、話の途中だった慧音さんも交えて情報交換をすることになりました。
そしてお互いの状況を話し終えたところで出た結論から、慧音さんがこの停戦を別の勢力にも適用できないかを守矢の風祝に確認したのですが。
椛は白狼天狗でありながら烏天狗の大将に一目置かれていたようで、そう簡単に切り捨てられるような存在では無いようです。豹さんの力になるために動いているだけのことある、ということなのでしょう。そういう意味で妖怪の山が手を引いてくれるかは不透明、ですか。
「永遠亭に関してはすぐにはムリです。迷いの竹林を案内できる鈴仙が帰っちゃってますので、私たちから永遠亭に行くことができないんです。私は藤原妹紅さんとも戦っちゃったんで、先にこの話を通さないと迷いの竹林を案内してくれないと思いますから」
「そうか…本当に妹紅は完全に豹の協力者として動いているのだな」
「はい、先にお話しした通り星が再度接触することになっていますが…神綺様が幻想郷にいらっしゃる前に、もう一度こちらからお話しに向かう方が良いでしょうね」
そして永遠亭に関しては、私たちから接触する方法がなくなっている以上どうしようもないです。つまり、この停戦の範囲を広げることは今の時点では不可能。
そうとなれば、聖の言う通り私がこの件を藤原妹紅さんにお話しすることで豹さんに言伝を頼むというのが現実的でしょう。
「それじゃ、その妹紅さんって人のとこに行こーよ!たぶん星さんと私がいれば話は聞いてくれるでしょ?」
「そういやこいしとこころは邪仙相手に豹と共闘してたんだっけか。なら任せてもいいんじゃない?」
「うむ、お兄さんは幻想郷では珍しく、手を出すより先に話を聞いてくれる人だったぞ。あの巫女や魔法使いと違って」
「あはは…私も人のことは言えないのでノーコメントで」
自覚しているらしき守矢の風祝が苦笑していますね。まあ、幻想郷という世界では博麗の巫女達の対応の方が一般的なので仕方ない面もありますし。
そしてその案にぬえも賛同してくれました。護衛役をぬえと交替したことでマミゾウさんがこの会談に参加していないのも良い方向に向かったと言えるかもしれません。マミゾウさんは豹さんのことを少し警戒し過ぎているように私からは見えますからね。
ちなみにマミゾウさんはつい先ほどまで何ヶ所かで起こっていた戦闘の情報を集めるべく、幻想郷内の化け狸から目撃情報を集めるために一度命蓮寺を離れています。そしてぬえが聖の護衛に回ったことで夢殿大祀廟の調査を終えた一輪が入口の見張りに回り、ムラサは自室で一休みさせています。全ての戦闘が終わったようなので、一人ずつ交替で休息を取るという聖の方針に誰も反対しなかった結果の配置がこうなりました。
「それじゃ、さっそくお話ししに行こ!妹紅さんってのがどこに居るのか誰か知ってる?」
「先ほど迷いの竹林から出て来て、魔法の森方面に向かっていますね…
先ほどこちらにいらっしゃったユキさんも何故か同行していますので、おそらくアリスさんのご自宅に向かっているのではないでしょうか」
「それなら星とこいしにこころで今から追いかければいいだろうね。アリスとユキってのからすれば、星が魔法の森に向かえば情報源としてあっちから接触しに来るだろうし」
「そうだな…妹紅からしてもこの状況で後を追うように動く実力者が居れば話を聞こうとするだろう。私からも頼んでいいだろうか?」
「はい、お任せください。
それでは、早速向かいましょうか。聖、ぬえ、しばらく命蓮寺をお願いします」
「はーい!」
「うむ!」
「…あれ?そうなると私はどうしましょう?」
「早苗さんは申し訳ありませんが、もう少しここで待っていてくださいませんか?小兎姫さんがここに向かってきていますので、合流して慧音さんが人里を戻しても問題ないかを調べてもらいたいのです」
「わかりました!その小兎姫って人にもお話を聞きたいので、いいですよ」
「私としても助かる。この状況、私と小兎姫だけで動くのは少々不安だったからな」
そういうことになりまして、守矢の風祝は慧音さんと小兎姫さんの護衛に回り。私はこいしとこころを連れて私も魔法の森へ向かうことになりました。
―――この時点で、豹さんの行き先は…すでに決まってしまっていたようなものだったのですが。
空間魔法のゲートから紅魔館正門に飛び降りると、外で待ってくれていた二人が出迎えてくれた。
「お嬢様、お帰りなさいませ!」
「豹、戻ったのね」
「ご苦労、美鈴。まだ合流出来ていないのはいるか?」
「夢幻姉妹とエリーがそろそろ着きそうで、幻夢界から向かってる里香たちが最後になるだろうな…まさか里香までこんなに早く動いてくれるとは思わなかった」
紅魔館に辿り着いた時点でサリエル様と麟には説明のため館内に入ってもらったのだが、門番の美鈴と冬の寒気を好むレティは見張りを買って出てくれたのだ。まさかレティがカナたちと合流してるとは思わず、ここに居たのには驚かされたが。
「流石はお兄様、幻夢界とやらに向かったリィスの反応まで把握できているの」
「俺の得意分野だからな…後のことを考えると里香たちが来るまで俺はここで待つ方がいいだろう。
レティ、門番役は任せていいのか?」
「むしろやらせて頂戴。ようやく来た冬なのに、室内に入るのは勿体無いもの」
「だそうだ。そういうわけでレミリア、椛とゴリアテをレミリアと美鈴で先に運んでもらえるか?麟とサリエル様に治療してもらえば、全員が揃うまでに目を覚ましてくれるはずだ」
「そうね、私もフランに釘を刺さないといけないから美鈴を連れていけるのは助かるわ。レティとやら、一時この門を任せる」
「任せなさい」
「メディスンは毒があるからな。上海、頼む」
「わかりました!」
「やれやれ、お兄様は本当に潜伏に向かないな。その気遣いは逃亡者にとって足枷にしかならないわよ?」
「あはは…身内には意外と甘いお嬢様にはあまり言われたくないんじゃないですかねえ」
「いいのよ、私は潜伏するぐらいなら潔く散るのだから」
「レミリアなら迷いなくそれを選べるんだろうな。その高潔さは、正直羨ましい…俺が棄ててしまったものだ」
「当主と護衛では立場が違いすぎる。護衛としてならむしろ棄てるべきものよ?
お兄様が気にするものじゃないと思うわ」
「…そうかもな。それじゃ上海はメディスンを運んでやってくれ。魔力の補充はいるか?」
「いいえ、さっき隠れ家さんから貰いましたので大丈夫です!」
そう返した上海が巨大化術式を行使し、俺からメディスンを受け取る。
―――付き合いは短い方なのだが、レミリアはスカーレットの家名を背負う当主としての視点から俺を見ているせいか…上から目線での評を向ける点で俺にとって貴重な相手だった。
それはかつて、神綺様やサリエル様から向けられていた懐かしい視点で。護衛であったことを思い起こさせる、数少ない機会だったから…俺はレミリアに名を伏せながらも、最後の手段として頼れる相手としてそれなりの付き合いをさせてもらっていた。
「ふーん、吸血鬼様はここまで豹のことを理解できてたのね。羨ましくなるわ」
「そうですね…隠れ家さんがレミリアさんのことを知らなかったのが不思議なくらいです」
「夢の世界のこの方はもっと素直ですから、私としては不思議ではないのですが」
「…いや、話には聞いていたが。本当に凄まじいのだなお前」
「に、人形だから出来ることなんでしょうけど。とてもただの人形だとは思えませんね…」
当のレミリアは美鈴と並んで慣れたように巨大化する上海を目の当たりにして若干引いていたが。ちなみにレティとドレミーはそれほど動揺を表に出していない。夢の世界の支配者であるドレミーは納得できるが…密かにレティは肝の座り方では幻想郷でも上位に食い込むんじゃないかと思うことがあるんだよな。
そんなやり取りを門でしていると、最後まで戦闘をしていた夢幻姉妹たちが到着する。
「ヒョウ、隠れ家の皆を連れて来てくれたのですか。フォローありがとうございますね」
「礼を言うのは俺の方だ。幻月、夢月、助かった…本当にありがとうな。
そして、すまない。幻月の要求には応えられなかった…」
「ヒョウが謝ることではないですよ。下手人は半殺しにしましたし、後で文句を言うべき相手もわかっていますし。
でもそうですね、一段落したら夢月とは違う方向で私に付き合ってください。戦闘は求めないのでそこは安心していいですよ」
「ああ、埋め合わせは必ずしよう」
「…姉さんもヒョウのことすっかり気に入ったんだね。
まあ、それはそれでいいか。で、話に出てたレミリアってのがそっちのヴァンパイア?」
「いかにも、私がレミリア・スカーレットだ。夢月に幻月と、エリーだな?」
「はい、私が姉の幻月です」
「で、私が妹の夢月。ヒョウの協力者として、よろしく」
「ああ、こちらこそよろしく頼むわ。
エリーも、くるみから聞いている。よろしくな」
「はい、ご丁寧にありがとうございます」
「…それで、まさかとは思うんだけど。
そこの獏、ドレミー・スイートだったりする?」
「あら、私のことをご存じでしたか」
「八雲紫との会談が終わった理由でしたから、サリエルも察すると思いますよ?」
「そうなのですね。ですが見ての通り私も豹に助力する気でこちらに出向いています。タイミングが最悪だったことは謝罪しますので、見逃して頂けませんか?」
「あ、夢の世界の支配者がこうも簡単に頭を下げるのでしたら本当に偶然のようですね。
ならいいですよ、戦力はいくらいても困りませんし」
「寛大な処遇に感謝いたしますわ」
思っていたより幻月が穏便で助かったな…最悪だと今後協力してくれない可能性も考えていたが。
…というか、あっさり半殺しとか言ってるが…あの伊吹萃香をそうして来たのかよ。本気の幻月が如何に恐ろしいのか思い知らされるな。俺に力を貸してくれてることに、あらためて感謝しねえと。
「それじゃ、レミリアには話したが‥里香たちもここに向かって来てくれてるようでな。最初は俺が対応するべきだろう。先に中で皆と情報を整理しておいてくれ」
「…そうですね、里香を豹さん以外に対応させるのは不安ですから…お任せしましょう」
「そんなにアレなんですか、里香っていうのは…」
「そうですね、夢の世界の里香も色々と面倒な技術者気質ですので。協調性を求めるべき者ではないでしょう」
「ああ、熱を上げている方向が違うパチェみたいな奴なのか。たしかにそれならお兄様に押し付ける方が楽そうだな。
お兄様、それじゃ頼んだわよ」
「ああ、それと俺の通信用イヤリングを一つレティに回してくれ。それでレティが外にいながら話を聞き取れるようになる」
「え、そんな便利な物があるの?」
「レティからは話せない一方通行の通信具なんだけどな。その分魔法的に盗聴されるリスクを小さくしてある…レティの意見は後で確認することになっちまうんだが、それでもいいか?」
「私から話せることなんて里香ってのを待ってる間に豹に話し切れるわよ。だから皆の話を聞かせてもらえるだけでも十分だわ」
「決まりだな。それならお兄様と話すことを優先したい者に持って行かせるわ。
まあ、これを優先したがる協力者の方が大多数になると思うけれどね?」
「フフフ、そうだね。レミリアも結構ヒョウのことわかってる」
「そうでなければ紅魔館の住人総出でお兄様に協力などしないわよ。
それじゃ、紅魔館に入ることを許可してあげるわ。ついて来なさい」
「はい。それではヒョウ、また後で話を聞かせてもらいますね」
そう幻月が返して、レティを除く皆が紅魔館に入って行った。
「それじゃ、里香たちが来るまでに話しておこうか、レティ」
「ええ、本当に私が話せることなんてほとんどないのだけどね」