寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第24話 カワイイアクマ

「…完全に反射だった。でも、ヒョウも悪い」

 

攻撃を止めて夢月が言葉を漏らす。見事にスパっとやられたもんだ…

止血処理だけして言葉を返す。

 

「そうらしいな、あらゆる意味で、触れちゃならなかったらしい。

 それで、満足はしてくれたのか?」

「は?」「えっ?」「!?」「ちょ…」

 

四者四様の反応だが、何故そうなる?

 

「満足してくれたのなら、その腕を返してくれ。

まだ不足なら、戦闘に耐えられるような回復魔法は俺は使えない…だからこれ以上損傷しないように保護してから続けさせてくれ」

「ひょ、豹さん?何を言ってるんですか!?」

「片腕落とされて平然と戦闘続けようとしないで下さい!」

 

エリーとくるみは俺側に立ってくれるのか…ありがたい話だ。

 

「心配してくれるなら、手を貸してくれないか?

 片腕分のハンデとして、3対2だ」

「いやいやいや!治療させて下さい!」

「くるみの言う通りです!こんなところで同士討ちして何になるんですか!」

「そりゃ、俺をサリエル様のところに突き出さない確約を貰えるだろ」

 

幻月と夢月が納得してくれなきゃ、終わりに出来ない。

 

「―――姉さんは、いいの?」

「私は夢月ほど気にしてないわ。だから平気。

 でも、正直言って続けたい。

 ヒョウ…あなたのその精神が、気になります」

 

意外だな…乗ってきたのは幻月の方か。あの怒り様じゃ、夢月が赦さないと思ったんだが。

 

「提案通り、エリーとくるみを加えた3対2。そうした方が、ヒョウの底が見える気がします」

「…助かるが、後が怖いな」

「私たちの意見は無視ですか…」

 

悪いなくるみ。片腕落とすまでやっちまった以上、お互いが納得するまでやらなきゃマズいんだよ。俺と夢月がお互い割り切れるまでは、な。

 

「…豹さん、本当に大丈夫なんですね?続けた結果、右手が戻らなくなるなんてことは無いんですね?」

「それは心配ない。俺にはとても出来ない綺麗な切られ方だからな。俺だけじゃ無理でも、麟に頼むか…

それこそサリエル様に頼めば大丈夫だろう」

「いいじゃない。満足できなかったら…その腕を治す名目でサリエルのところに連れてくわ」

「決まりだな。エリー、くるみ、よろしく頼む」

 

 

 

俺の右腕に防腐魔法と保護用の円柱状結界を張りながら、作戦会議。

 

「ところで、私たちはどう動けばいいのでしょうか?私たちでは幻月さんにも夢月さんにもとてもかなわないのですが…」

「うん…というか豹さんさっきのどんな空間魔法ですか?何が起こったのか全然わからない…こんなんじゃ間違いなく私たちが足を引っ張ると思いますけど…」

 

俺以上に姉妹の実力を知っているからこそ、二人とも不安しかないようだが。

 

「とりあえず、二人に聞きたいことが一つだけある―――――」

 

 

 

 

 

「では、あらためて…いきますよ!」

 

幻月の言葉で再戦が始まる。だが、今の俺は一人じゃない…

集団戦なら、俺にも十分勝機はある!

 

「元から格が違うんです!最初から本気よ!」

「こういうことでしか、私は豹さんの役に立てませんからね!」

「へえ、そういうこと。でも…思えばこんな形で闘り合うのは初めてだし、楽しませなさい!」

 

俺がエリーとくるみに与えた指示は3つだ。

 

「二人掛かりで夢月を止めてくれ」

「俺の事は気にせず撃ちまくれ」

「魔法具からの合図は聞き逃すな」

 

最初は俺一人で幻月を押さえられるかが最大の問題だが、やれなきゃ勝ち筋を掴めない。

次は流れ弾が俺の武器になる。思惑通りに運ぶためにも、フル活用することになる。

最後は二人に渡した通信用のイヤリングだ。今の俺が二人を守るためには必要だと判断した。

 

そして、俺が打てる手なんざ高が知れている。逃げることが許されないのであれば、突撃あるのみ!

 

「さっきは驚きました。あの巫女を相手にしたとき以来…久しぶりです。ですので、もっと厳しくします!」

 

言葉通り牽制のための乱射じゃなく、俺を狙った連射が出迎えてくれた。しかも右腕前腕部を失くしてるから強行突破はし辛くなっている…が、今の俺には攻撃手段がある!

 

「エリーには謝らなきゃならないな!」

 

湖周辺で門番をしていたくるみと違い、エリーは夢幻館の正門で門番をしていた。その地の利を生かした攻撃なのだろうが、修復するはずの夢幻館のタイルが優秀な武器!

 

「――っ!なるほど、ヒョウが攻撃魔法を使えなくても」

「エリーとくるみは使える!」

 

流れ弾を幻月に向けて蹴り飛ばし、速度が甘い幻月の光弾を掴んで投げ返す。

 

「ですが、手数が足りてません!」

「だからこその速攻!」

 

短距離テレポートが使えるのは、姉妹だけじゃない!魔力消費は膨大だが、片腕落とされた俺に長期戦は無理だ。魔力回復薬に頼るつもりで出し惜しみはしねえ!

 

「っ!?…でも、まだ甘いです!」

 

予備動作無しで菱形跳弾をばらまいて離脱された…が、そこはまだ射程内!

 

「でやっ!」

 

数発喰らいつつも掴んでたくるみの炸裂弾を掌底で作動させる…って!?

 

「くるみ伏せろ!」

「っ!…私も危なかったですが、余所見する余裕があるとでも!?」

「気を散らしたのは確かだが、片目は幻月から外してねえ!」

「!?―――魔眼ですか、サリエルはそれほどまでヒョウを!」

 

預かりものもありがたく使わせてもらう!俺一人じゃ、とても敵わない悪魔相手なんだからな!

 

 

 

 

 

「あ、危なかった!」

「よく今の避けられたわね。でもその反応…ヒョウが何か仕込んでる?」

 

やばい、一発でバレた!

豹さんが指示用にと渡してくれたイヤリング。夢月さんの交差弾…今のを伏せずに避けようとしたら次弾に当たってた。それを豹さんの声で回避できた代償に、豹さんの切り札が見透かされちゃってる。

 

「くるみ!気にせずに信じましょう!」

 

うわー、今考えることじゃないけどエリーまずいなあ。身も心もボロボロだったタイミングで豹さんに助けられてるから依存が酷い。幽香は当てに出来ないし後で夢月さんか幻月さんに相談すべきかなー…

でもそれは後ね。今は少しでも豹さんに恩を返さないと!

 

「思ってた以上に二人とも本気だし…ほんと只者じゃないね、ヒョウ。

早く姉さんの援護に向かいたいけど、手加減してたら無理か。ちょっと本気出すわよ」

「行かせません!」

 

エリーは本気も本気なんだよね。遠慮なく夢月さんに向けて鎌投げつけるのはビックリした。

私は足止めでいいって言われてたから、むしろ豹さんの救援にいつでも向かえるような位置でエリーの援護になるよう乱射してたんだけど…こうなるともう豹さんの援護なんて無理だよね。それならエリーの言う通り、豹さんを信じるしかない。夢月さんがその気になれば、私もエリーも相手にならないんだから。各個撃破されないように、エリーと合わせないとね!

 

「エリー、私も突っ込むわ!鎌使うなら気を付けてよ!」

 

 

 

「…夢月が本気になりそうです。エリーとくるみのためにも、急ぎます。

 ヒョウの強さを、信じますよ!私も少し、本気を出します!」

 

来た!思ったより早く決着を急いでくれた―――エリーとくるみのおかげだな!

問題は二人が教えてくれた技を使ってくれるか、俺がそれを避けきれるか、エリーとくるみを巻き込まないように誘導できるか!

 

「いきます。死なないでくださいね!!」

 

…上空に撃ち上げた?―――いや、これは!

 

「今までの牽制はお遊びかよ!?」

 

光弾の魔力密度も弾数も比べ物にならねえのが降り注いでくる!

いや、待て。牽制?いや、移動制限。右手を俺に向けている、つまりは――ッ!!

 

 

 

「《ムーンスパーク》」

 

 

 

撃ってきた!短距離テレポートがギリギリ間に合うが、右手が無いのが悔やまれるな!

 

「ぐおおっ…!」

 

上空から降り注がせた光弾、本命であろう極大のレーザー、そして連射された隙潰しの光弾。見事に隙潰しまでは読めず一列全弾喰らうが…まだやれる。ここまで来れば、俺たちの勝ち筋まで、あと一手!死力を尽くして粘るのみ!!

 

「流石ですね、でもいつまで避けきれますか!?」

「避け続けなきゃ納得してくれないんだろ!?」

 

油断が無いのが本当に厳しい!隙潰しだけでなく空間魔法による急接近まで警戒され、ショートレーザー乱射で近付けなくされた。そして今度は…上空だけじゃねえ!!

 

「手加減すると避けられてしまいますから。制限は厳しくさせてもらいます」

 

二発目、来る!

 

 

 

「私の方も見てるはずなのに、姉さんにあれを撃たせるか…」

 

夢月さんすら手を止めてそれに反応してしまっています。豹さんの思惑通りに進んではいるようですが、私とくるみはそろそろ打つ手がなくなりそうです。玄関前のタイルに至っては使い切ってしまいました。

そういう意味では、私たちにとってありがたい状態なのですが。

 

「初見で躱し切れる豹さんは、やっぱり凄いな…」

 

くるみも私も気を取られてしまっているので意味が無いです。…そもそも、私たちの不意打ちなんて全く通じないでしょうけれど。

 

幽香のマスタースパークを一目見ただけで模倣できたのが幻月さんです。あくまで模倣に過ぎないので威力は幽香より劣るそうなのですが…幻月さんは大掛かりな妨害を行いながらあの規模のレーザーを放てるのです。レーザーから逃れるには光弾の嵐を搔い潜らなければならない…逆に言うと、豹さんが回避のためだけに空間魔法を使わざるを得なかったほどということ。

 

あんなに高度な空間魔法を豹さんが使えることなんて知りませんでした。それも回避のためではなく、攻撃魔法を使えない豹さんが接近するために伏せ続けていた切り札。

その切り札が意味を為さなくなったのが今の状況。でも、豹さんはまだ、奥の手を隠している…それが何かまでは教えてくれませんでしたが。

 

「これでもう決めるわ。エリーもくるみも、覚悟して」

 

これ以上時間稼ぎは出来ませんか!夢月さんが終わらせに来ます。

 

「くるみ、私が前に出るわ。撃ち落とされた後は頼むわよ!」

「わかった。多少の誤射は許してよ、全力でバラ撒くから!」

 

豹さんがこの戦いの前に一つだけ私たちに確認を取ったこと。

 

 

―――知る限りで、一番高威力の技を持つのはどちらだ?

 

 

それに二人一致した答えが、幻月さん。その技である《ムーンスパーク》の二発目を合図に、私たちも最後の撃ち合いに入ります!

 

 

 

前後左右上下から迫り来る光弾の中、二発目が放たれる!しかも、撃たれたタイミングがさっきより的確!

光弾を捌き切れず俺が一瞬止まったところを狙ってきた!

 

「そう連発出来ないことまでお見通しか!」

「それができるなら射撃戦なんてさせてもらえないでしょうから!」

 

だよな!テレポートを姉妹のように多用出来るならひたすら接近戦の距離を保つように連発すればいい。そうしない時点で気付かれて当然だ。しかもまだ位置が悪い!

 

「がはっ…!!」

 

閃光の中に消えるわけにはいかない!射線上から辛うじて逃れるが、移動制限弾を多数喰らう…だが、エリーとくるみがいい位置に動いてくれた!これなら、賭けに出られる!!

 

「…準備できたようですね。期待しますよ!」

「洞察力が鋭すぎだ!」

 

だというのに即座に見破られた。俺はそんなにわかりやすくないはずなんだが、これも平和ボケか!?

だが次のチャンスなど無い……!

 

「さあ、見せてください!!」

 

三度目の光弾包囲、俺に向けられる幻月の右手。これが、この戦いの終わり。

 

「《ムーンスパーク》」

 

来た!最後の最後で、俺に運が向いた!!

 

「《境界を統べし八雲の名の下に、その顎を開け》!!」

「っ!何処から来る!?」

 

 

 

流れ弾が夢幻館に数えきれないほど着弾していますが、そんなことに構っては夢月さんの足止めすら出来ません!私もくるみも撃てるだけバラ撒きつつ、夢月さんでも避けざるを得ない―――私の鎌で狙います!

 

「エリーもここまでやれたのね。くるみが働き過ぎたのも考えものだったってことか」

「私自身、勝負勘を失った自覚ありましたので!魔界でトラブルに巻き込まれたのも無駄ではなかったようです!」

「あー、あの時エリーが恐ろしく容赦なかったのはリハビリ目的だったの!」

 

くるみと二人で魔界の悪徳業者に引っ掛かりかけた時、くるみも引く勢いで叩きのめしたことがありました。私たちを見下してたこと、救ってくれた豹さんと比べてしまったこと、実践から遠ざかって不甲斐ない目に遭ったことで戦闘経験をまた積みたかったことなど…いろいろ事情が重なった結果でした。

――暴れすぎて、別のギャングさんまで巻き込んでしまいましたが。今思い返すことではないですが、悪徳業者を潰しに来ていた優しいギャングさんじゃなかったらとても危なかったですね…

 

「豹さんの恩に報いるために!少しでも長く足止めさせてもらいます!」

「豹さんを魔界に連れてかれちゃ困っちゃいますので!」

 

もう私に余力はほとんどありません、後は捨て身で突撃するのみです!私を捨て駒に、くるみが狙撃。鎌は、投擲のためだけに持ってるわけじゃない!

 

「やっぱり二人とも幽香が雇ってただけはある。でも、今日はここまで」

「きゃっ!」

「くるみ!?」

 

しまった…!前に出てた私のせいで出来た死角からの高速弾でくるみが先に撃ち落とされた!私はもう鎌を使った接近戦ぐらいしか出来ないぐらい魔力を使い切ってる…ここまで、です「エリー!退がれ!!」

 

「―――っ!!」

「は?」

 

豹さんの声で後ろに飛び退くと、

 

「うぐ~」

 

目の前の夢月さんが、横から出てきたムーンスパークに巻き込まれて墜落していきました。

 

 

 

「夢月!?――でもその手は食いません!」

 

俺の奥の手―――昨日正門に固定させてもらった腕輪を使っての不意打ち。使い捨てなのでミスは許されずかつ一撃で決められる威力の技を俺に向けて撃ってもらう必要がある。そして確実に当てられる位置に誘導することも必須…さらに作戦の核をエリーとくるみに伝えないでだ。伝えるとこの姉妹はあっさり看破するだろうから伏せたが…よく成功したもんだ。エリーとくるみには感謝してもしきれない。

 

そして、後は幻月。気を散らしたところに急接近は読まれてたから、即座にテレポートで距離を取られたが。流石に正真正銘二度と使えない…いや、使いたくないか。この手は読めんだろ!

 

「ひゃん!?」

「切り落とされた腕は動かないと思うよな、そりゃ」

 

右腕を屍術の真似事で動かし後ろから幻月の首根っこを掴む。つい一昨日か、上海に同じことしたな。まあこれで納得してくれるだろ。

 

くるみを守り切れなかったことで俺の衰えを思い知らされたがな…




次の更新は火曜日です。
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