「お話ししたいことはいくつもあるのですが、今は私に割いていただく時間なんてないはずですので…説明すべきことを先にお伝えさせてください。里香さんの戦車なのですが、紅魔館まで移動させた上で戦闘に使うと燃料不足になる可能性があるとのことで…戦力として使うのであれば幻夢界から紅魔館までは空間魔法で移動させてほしいとのことです。戦車のサイズや空間魔法の魔力反応を考慮した上でヒョウ様に判断してもらうべきだと」
「成程な…そのあたりは里香じゃないと気付けない点だ。直接里香に俺が確認しておこう」
「その代わりに理香子さんを連れて来て下さいました。協力する代わりにヒョウ様から図書館の主に交渉してもらいたいとのことですが」
「パチュリーにか?里香から魔法を嫌ってるって聞いてるんだが」
「そうよ、出来れば魔界人の貴方とはあまり関わりたくなかったのだけどね」
「ようやく見つけたし!豹!もう逃がさないのです!!」
話の途中で里香と、話に出て来た朝倉理香子らしき少女が後方から追い付いてきた。どうやらレミリアだけじゃなくパチュリーにも何か代価を払わなきゃならないようだな。
「里香、話は後でちゃんと聞く。だから先に初対面の相手と話をさせてくれ…君が朝倉理香子でいいんだよな?」
「そうだ。どうやら時間が惜しいらしいし私が貴方に協力する条件を伝える。
―――この館には大図書館があると聞いている。その蔵書に科学関連の書籍があるのであれば、全ての閲覧許可と貸出を求めたい」
「…俺から即答は出来ないな。レミリアとパチュリーに引き会わせた上で、交渉に同席する。これでは不足だろうか?」
「十分だ、三日は手を貸してやろう。そのかわり三日以内に交渉まで終わらせてもらうよ?」
「なるべく今日中に頼みに行くさ。よろしく頼む」
「ふっ、こんな形でこの館の大図書館に入れるなんてね。人の縁も馬鹿に出来ないみたいだ」
…まぁ、要求する本の内容を考えれば俺がパチュリーに鞄で持ち歩くようにしてる稀少な魔導書一冊か、複合魔法の術式を一つ提供すれば拒否はされないハズだ。一度に全てを持ち出すのは断られるだろうが。問題としては、紅魔館ごと幻想入りした際に紫さんが図書館の蔵書まで検閲してた場合―――科学関連の本を厳しく精査してた場合、没収もしくは廃棄を条件にしてる可能性があるからな。流石にそこまではレミリアとパチュリーしか把握してないだろう。
「それで、里香。ここまで戦車を空間魔法で移動させたいってことだが…どんなサイズなんだ?」
「サイズも何も豹も乗り込んだ戦車なのです。回収したふらわ~戦車のパーツを明羅の庵まで牽引したのが燃料不足の理由だし。魔界神の護衛なんていう豹なら、ここまで移動させることが出来るはずなのです!」
「あれか…たしかに不可能ではないんだが。
麟、悪いが渡した魔力回復薬…もう一錠俺が使っていいか?」
「必要でしたら豹さんが使ってください。昨日も言いましたが、私が使うのはもったいないですから」
「悪いな麟。それじゃ里香、一応先にレミリアに駐車の許可をもらったらここまで空間魔法で運ぶ。ただ状況が悪化した以上、幻想郷に持ち込んだ時点で里香の戦車を真っ先に破壊しに動かれるリスクがある…そのリスクも許容できるか?」
「それこそ望むところなのです!実戦投入なんて貴重な機会、滅多に無いのです!」
「交渉成立だな。それじゃ…ルナサは里香と面識があるって言ってたよな?メルランと一緒に里香たちを皆に紹介しておいてくれ。俺は上海と青娥を待たなきゃならないからな」
「わかったわ。里香、豹が状況説明を終えるまでは大人しくしてもらうわよ?」
「流石のわたしもそれぐらいは弁えてるのです」
「里香が弁えてるなんてとても言えないけれどね。私から先に図書館の主と交渉してもいいのか?」
「ああ、時間が余ったら構わない。図書館の主はパチュリー・ノーレッジという魔女だ。俺が魔導書一冊か、複合魔法の術式を一つ提供する用意があるとはパチュリーに伝えていい」
「随分と私を買ってくれてるのね。遠慮なく交渉の材料に使わせてもらうわ」
「それじゃ、私と姉さんは先に中に戻るわ~」
「頼んだ」
「それではヒョウ様、一度失礼させていただきますね」
丁寧なお辞儀をしてリィスさん…いや、リィスと呼ぶ方が良さそうだったか。ルナサとメルランが先導する形でリィス・里香・理香子も紅魔館に入ってゆく。これだけの戦力が集まれば、紅魔館に総攻撃をかけてくることは無いと思うが…里香の戦車を運び込むとわからなくなってくる。紫さんや摩多羅隠岐奈だけでなく、別の管理者も里香の戦車は幻想郷に広まるのは避けたい近代兵器。これの破壊を理由に強硬手段を取って来るリスクはある。
…だとしても、あの射命丸が迷わず一時撤退を選ぶあの火力はアテにできる戦力だ。使えるのであれば頭数に加えたいところなんだよな。
「軽く代価とか言ってたけど、大丈夫なのかしら?」
「こうなった以上、使えるモノはフル活用すべきだからな。パチュリーと理香子の協力が得られるなら、俺が支払える代価を渋るべきじゃないってだけだ」
「いやそうじゃなくて…
ああ、相手が魔女なら豹の魔導書や魔法術式は下手な財宝より価値があるわけか」
「そういうことだ。はっきり言っちまえば、パチュリー相手の取引じゃない方が俺は困っただろうよ」
レティの疑問に答えながら、注視すべき反応を再度拾っていく。永遠亭の姫は玉兎3匹引き連れて博麗神社に向かっている。アリスの家に集まったメンツがこの一団の迎撃に出てしまうと少々面倒なこと…正確に言えば紅魔館に来てもらいたい雛と妹紅が動いてしまうと戦力集結が遅れることになった。だが上海と青娥の訪問が間に合った以上、合流を優先してくれるはずだ。もっとも博麗の巫女・魅魔一派に永遠亭の戦力が合流するという可能性もあるんだが…紫さんと摩多羅隠岐奈と月の姫が対立なく共闘できる可能性は低い。それはつまり情報交換と今後の方針を決める会談において余計な時間がかかるというワケだ。
神綺様の到着を待つ必要が出来てしまった俺にとって、その僅かな時間も貴重だろう。雛と妹紅の合流を遅らせてまで月の連中を叩く必要は無い…上海に伝えた言葉でユキと夢子はこれを理解できるはずだ。
ユキと夢子なら、そのまま雛と妹紅を紅魔館に向かわせてくれる。
(となると、情報が欲しいのは守矢神社と天狗勢力。そういう意味ではここで動いてくれた星にも感謝しねえとな。ってかこいしとこころについて勇儀に聞くべきだったか)
割と肝心なことを見落としていた。俺もまだ動揺を抑えきれてないか…
「上海、どういう状況よ?」
「ご主人様、豹さんから伝言があります!
『全面戦争を避けるための動きが決まったら、もう一度上海を説明に行かせる。
これを信じてくれるなら、神綺様と夢子にも俺が直接会いに行く。
だから今は、俺の戦力として動ける雛と妹紅だけ紅魔館に来てくれ』
だそうです!」
「「っ!?」」
霍青娥という不安要素が同行しているから、私の家の中に入れるのではなく全員で外に出たのだけれど。
上海から伝えられた言葉に、夢子とユキが大きく反応したわ。
「そっちの仙人はさー、なんでここに居るの?」
「勇儀さんを紅魔館へ案内したのですよ。貴方が後戸の国から離れた後、勇儀さんと協調する形になりまして。
豹様も私を協力者と認めてくださいましたので、空間移動で紅魔館への移動に助力していますわ」
「なんというか…豹はお前みたいなのまで受け入れられるのね。らしいっちゃらしいけど」
「いや、兄さんが一回敵対した相手を受け入れるのは珍しいよ。どうやったのか聞かせてもらえる?」
「大したことはしておりませんよ。
豹様に、私の目的に対してユキさんが返した言葉をそのままお伝えしただけですわ」
「…流石は邪仙と呼ばれるだけあるわね。先輩に対してこれ以上なく効果的だわ」
夢子の言う通りね…ユキがこれだけのブラコンなのだから、豹も負けず劣らずのシスコンなのも納得できる。私も驚いたユキの冷淡さを伝えたとなれば、豹には相当な精神的ダメージになったでしょう。
それが己の行動の結果だということを理解できたからこそ、協力できる相手と割り切って一度は敵視した邪仙を引き込んだということでしょう。言葉だけで取り入っているあたり、いかにも邪仙だわ。
「豹が呼んでいるのであれば、私と妹紅は紅魔館へ向かうべきでしょうね。アリス、ユキ、いいかしら?」
「…私が決めるべきじゃないわ。夢子、どうかしら?」
「………アリス、逆に聞かせて。
先輩を信じていいかしら?」
「私からもお願いします!ヒョウさんを、信じてもらえないでしょうか!」
「アリス、わたしからもお願い。兄さんを信じてほしい」
雛の問いを夢子に振ると、逆に返されてしまったわ。それに間髪入れずユキとルビーが同意する。
…こんなの、断れるはずないじゃない。
「わかったわ。妹紅、雛。行きなさい」
「ちょっと待って!私とこころもついてくよ!」
「…そうだね、話を聞いた限りこいしはふらつかせるより豹に手綱を握っておいてもらうべきか。
星、構わないよね?」
「はい、私が表立って豹さんに力をお貸しするわけにはいきませんが…こいしとこころは何も問題はありません。状況を説明するためにも、連れて行ってあげてください!」
「うむ!では私も青娥についていこう!」
「決まりですわね。では皆様、こちらへどうぞ」
霍青娥の言葉を受けて、雛・妹紅・こいし・こころが開かれた空間移動用のゲートに飛び込んでいく。
最後に残った上海が振り返り。
「ご主人様、ありがとうございます…!
夢子さん、ユキさん、ルビーさんも…後でまた、戻ってきます!!」
「うん!お願いね上海!」
「頼みますね!私は足を引っ張ってしまいますので、待ちますから!」
「先輩のこと、頼むわよ上海!」
私より先に、夢子とユキとルビーが返事を返して。あらためて上海がしっかり自立したことを皆が理解し、認めてくれたということを実感したわ。
だから、私もしっかりと送り出す言葉を返す。
「ええ、上海が戻るまではここで待つわ。いってらっしゃい!!」
「はいっ!行ってきます!」
はっきりと返事を返して、青娥と共に上海がゲートに飛び込んだわ。
「―――そういうわけで、私たちは上海が戻ってくるまで待機するわ。
星は命蓮寺に戻るとして、妖夢はどうする?」
「ここまではっきり豹が紫様を切り捨てちゃってるとなるとなぁ…私はちょっとこれ以上アリス達に協力はできないよ。
だからごめん、私も一度白玉楼に帰って幽々子様に報告して来る。たぶん紫様なら時間を作って幽々子様と私に指示を出してくれると思うから」
「それがいいでしょうね。魔界が幻想郷の有力勢力との繋がりを持ってしまうと、摩多羅隠岐奈がそこを突いてくるリスクがある。ここまで手を貸してくれたのに追い返すようで悪いけれど」
「ううん、私は何も知らなかったようなものだからね。いろいろ教えてくれただけでも助かったから。
魔界と戦争なんてするわけにはいかないのは、紫様が一番よくわかってるはずだから。状況次第では私が連絡役として動くことになると思うし、また後で話すことになるんじゃないかな?」
「そうだね、わたしたちとしても妖夢は信用できる相手だし。そうしてくれると助かるから、お願いね!」
「わかった。それじゃ、私も一度帰るね!」
「私も命蓮寺に戻ります。都合が良いことに、命蓮寺も今夜自宅に帰っていたナズを連絡役として動かすことが出来ます。早急にお伝えすべき情報が入りましたら、お伝えしますね」
「ええ、お願いするわ」
こうして私の家には魔界人4人だけが残ったわ。私たちから動くわけにいかない以上、探査・索敵魔法で状況を探っておくぐらいしか出来ないから、家の中に戻って早速展開したのだけれど…ここに来てようやく肝心なことを聞いていないのに気付いたわ。
「そういえば、ルビーが来たことで聞くのが今更になったけど。袿姫の協力は得られたのかしら?」
「ええ、私ではなく神綺様が直接協力を取り付けてくれたわ。磨弓っていう子と一緒にアリスの家に直接向かって来てくれるそうよ」
「そう、それならここを襲撃されても夢子達だけ先に離脱させるって手は打てるわね。流石にないとは思うけど」
「わたしも八雲紫と摩多羅隠岐奈はそこまで魔界にケンカを売るような真似はしないと思う。
でも、月の連中はやりかねないからね。袿姫様にもお礼を言わないと」
「そうですね。先ほど教えていただいたあの4つの反応は、私が目を離さないでおきます」
「頼むわね、ルビー」
強力な援軍が向かって来てくれてるのね。永遠亭の連中が私たちを狙って来たとしても、私と袿姫に磨弓なら十分渡り合える。不意打ちだけはされないように、警戒しておきましょう。