勇儀を外に呼び戻して気分を損ねる方が問題になると判断して、そのまま麟とレティで待機することを選んだが。それで正解だったらしく、すぐに青娥が入口を創った。早速俺も出口を創り迎え入れる。
「よっと。わざわざ迎えを出してくれるとは思わなかったよ、豹」
「もう俺が潜伏するのは不可能になったからな…効率を優先するとこうなるさ」
「そのようね…ここから持ち直すことは出来るのかしら?」
「…無理だろうな。だが、ここまで俺のために力を尽くしてくれた皆のためにもこの状態で終わらせるわけにはいかねえ。だからもう少し力を貸してくれ」
「そのために私達は協力しておりますわ。その理由がどのようなものであろうと、ね?」
青娥の言葉通り、俺ではなく上海に力を貸してくれているメディスンが言葉を続ける。
「上海がヒョウさんを必要としてる限り、私はヒョウさんの味方よ。
…それにしても、本当に気付かれなかったわ。ここまでする必要なんてなかったと思うけど」
「おお!?いつの間に!?」
「き、気付かなかった…!私みたいなこと出来るんだねー」
「私の能力じゃないわ。ヒョウさんとそこの邪仙が私を隠してくれてただけよ。
それこそあなたたち2人の立場が読み切れないからって私とゴリアテが伏兵になってたんだけど?」
\……/
こいしとこころが俺と青娥が隠形魔法と隠形系の仙術を重ね掛けし姿を隠していたメディスンとゴリアテに驚いていた。メディスンの言う通りこいしとこころがどういう理由でアリスの家を訪れていたのかが読めなかったから、念のためとして伏兵になってもらったのだ。青娥の協力が無ければそのまま伏兵ではなく護衛として送り出しただろう。
アリスの家にゲートを開く直前、夢子がルビーを連れて幻想郷に戻って来た。俺の弟子とも呼べるルビーなら、俺の隠形魔法を見破れてもおかしくない。そのためそのまま向かってもらおうとしたのだが、「空間魔法をこれほど簡単に私の仙術と複合させられるのでしたら、豹様の隠形魔法も複合させられませんか?」と青娥に尋ねられたので伏兵になってもらったわけだ。もっとも、その必要は無かったようだが。
「こいしとこころも信用せずに悪かった。だが、守矢の風祝がいる命蓮寺から星と一緒に来てただろ?守矢神社が命蓮寺に向かう理由が思いつかなくてな…念のために伏兵を仕込ませてもらった」
「そういう理由だったのね…いや、私も気付かなかったから驚いたよ。ノエルって呼ばれてた妖精にも驚かされたけど、豹の隠形魔法はとんでもないわほんと」
「いや、どちらかと言えば青娥の仙術の方なんだが…そこは時間が出来たら説明する。
上海、夢子とアリスは納得してくれたんだな?」
「はい、私が戻るのを待ってくださるそうです!」
「そうか…こんな俺をまだ信じてくれるんだな。
それで、こいしとこころも俺に力を貸してくれるのか?」
「私とこころだけじゃないよ!早苗も神奈子さんも、少なくとも豹の敵にはもうならないってことを伝えに来たんだし!」
「は…?どういうことだ?」
全く予想できなかった返答に思わず聞き返してしまった。それを見て先に話を聞いてくれていたらしい雛が簡潔に答えてくれる。
「守矢の二柱は魔界神・神綺と直接の面識があるそうよ。私が顔を合わせた何人かには伝えたのだけれど、豹にはまだ伝わっていなかったのね…
摩多羅隠岐奈の暗躍を知ったことで、これ以上魔界との交渉役に回れる守矢神社が豹やアリス達魔界人と敵対する方が幻想郷にとって不利益になると判断したようね」
「だからこいしと早苗が先制攻撃したことは謝罪するし、状況次第では援護もする。そのかわり早苗を敵として攻撃するのは止めてほしい、というのが神奈子さんから頼まれた伝言です」
「そういうことか…直接闘り合った東風谷早苗がこのタイミングで俺に協調するなんて、直接伝えられても信用し切れない。そこに信憑性を持たせるために、中立かつ幻想郷として同じ役回りを受け持てる命蓮寺と合流したと。
なにより、聖白蓮と星が認めたのであれば俺も信用できると考えて命蓮寺と接触したってワケだ」
「そういうこと!それに私もこころも命蓮寺と無関係ってわけじゃないしね!
だから豹の力になるよ!そこの仙人がいいなら、私とこころもだいじょうぶでしょ?」
「…そうだな、ここまでしてくれたのに追い返すのはゲスでしかない。
ただ、こいしは一つだけ約束してくれ。今となっては迂闊な行動一つで最悪の事態…魔界と幻想郷の全面戦争になりかねない。だから俺の指示があるまでは俺の目の届くところにいてくれ」
「それはユキっていう豹の妹からも言われたよ!だからこうすればいいよねー♪」
そう言ってこいしは真正面から俺に抱き付いて来た。ユキが同じことを言ったってことは、ステルス能力の種明かしを魔界側にまでしたってことだ。そこを考えればこいしは本気で俺の力になろうとしてるのは間違いない。それならこいしを見失わずにいられる俺の手元に置くのが現状で一番リスクが少ないだろう。
…もっとも、この状態で皆の前に連れてくのはちょいと頭が痛くなるが。まあ、本人が言う通りこうやって引っ付いてくれてれば離れようとした時点で俺が止められるから間違いなく最適解。麟のように物凄く羨ましそうに視線を向けるだけで済ましてくれれば楽なんだが、レミリアや幻月・勇儀あたりの反応が怖い。余計な方向で話を拗らせて時間をムダにしたくないからな…
「それじゃレティ、しばらく門番役を頼む。すぐに動くことは無いと踏んでるが、博麗神社の動きだけはさっき教えた索敵魔法でチェックしておいてくれ。俺も警戒しておくから、動いた時点で何人か迎撃に出てもらうつもりではあるが」
「そのあたりは豹を信じてるから大丈夫よ。これで話だけ聞かせてもらうわ」
「ああ、俺がやるべきことはもう決まっちまったからな。皆の力を借りて、どれだけ被害を少なく終わらせるかの作戦会議だ」
この短時間で紅魔館に俺の戦力として協力してくれる皆が集結出来たのだ。
全員が納得できる結果にはもう出来ないが、せめて妥協は出来るまでにまとめねえとな。
「―――地上の動きはこのような結果になりましたわ。何か質問はございます?」
「…ありすぎて何から聞くべきか困りますね。ですがまずは…
摩多羅隠岐奈、いくらなんでも暴挙が過ぎます。管理者の一角である貴方が人里での襲撃を前提に動くなど論外でしょう!」
「これ以上ない好機でしたので。豹が幻想郷にとってどれだけ危険な存在なのかは閻魔様ももう理解できているはず。人里に被害は出していませんし」
「そこだけはしっかりしてるのは隠岐奈らしいけれど。地形が変わるレベルの交戦が2ヶ所に、永遠亭は完全に巻き込まれる形の被害者。八意永琳ではなく蓬莱山輝夜が出向くような状況になったのはどうするつもりよ?」
「そこは私にとって好都合だ。
「いい加減にしなさいよ隠岐奈。これ以上豹を追い込めば、流石の神綺も黙っていられなくなるわ」
「それは私の台詞だ紫。豹は博麗の巫女より魔界を選んだのだぞ?ここまではっきりと敵対を選んだ魔界人を庇う必要が何処にある?」
「………」
「…八雲紫がここまで情に絆されるのも問題ですが。手段はどうあれ、摩多羅隠岐奈の豹に対する危惧には私も同意できますからね。
どちらも幻想郷の管理者としては黒です。ゆえにまだはっきりと白黒つけることが出来ませんが」
「そういう意味では隠岐奈の目論見通りに事は進んだのでしょうね。
もっとも、最後の詰めが甘かったようですが」
「そこは何も否定できんな。レミリア・スカーレットを軽視していたのが私最大の失態だったよ」
…本っ当に気に入らねえぜ。私を交渉の道具扱いしてる奴らだけあって、私のことなんて何も気にせず話を進めてやがる。私どころか魅魔様に仙界の頭、早苗のとこの小さい方すら口を挟ませずにだ。
「思いっきりしてやられた私が言うのもなんだけど、あの豹って男をこれ以上放っておくのは問題でしょ?
紫は何を迷ってるのよ」
「最初から言っているでしょう?豹の扱い方次第で魔界が全面戦争を仕掛けてくる可能性がある。そうなった場合人里を守り切るのが困難なのは説明したわよ」
「それを防ぐために豹の身柄を押さえる必要があるのだろうが。奴が魔界側に付いた以上魔界へ追い返すのではなく条件を付けて引き渡す必要がある。もう豹が幻想郷の益になる行動を取ることはあるまい…何故切り捨てようとしない?
最早私情で庇えるような立場ではないのだぞ豹は」
「そう仕向けた張本人の隠岐奈にだけは言われたくないわね…!」
オマケに私が思ってた以上に紫が感情的に動いてやがった。要するに紫は私を切り捨てて豹を幻想郷に留めようとしてたってことだ。それどころか豹ってのは霊夢と決裂したってのに、未練がましく豹をまだ諦めきれず紫一人がゴネてる。少なくとも私がこれ以上紫の味方をする必要は無いってことはハッキリした。
それなら、もっと味方になる人数を増やして押し切っちまえばいい。丁度使えそうなのが来てるみたいだしな。
「とりあえず私の意見なんて聞く気は無いんだろお前等?
ならここに向かってる鈴仙達を迎えに行ってくるぜ。暇だからな」
「そうだねえ、管理する立場のあんたらがそのザマじゃ話が進まないかい。
攻撃される可能性も考えて私も魔理沙に付き合うよ」
「ふむ、豹とやらの襲撃を受けた永遠亭の連中か。情報を引き出す価値はあるだろう、頼もうか」
「そうだねー、私は情報が欲しいからここまで付き合ってるわけだし。よろしくー」
「…好きにしなさい」
ハッ、紫も旗色の悪さは理解してるみたいだな。魅魔様だけじゃなく仙界と守矢神社の二人も反応したことで、諦め気味な声色で返してきた。
魅魔様が付いてきてくれるなら、戦闘になっても安心だからな。さっさと豹の敵をこっちに引き込んじまおう。
「―――成程な。たしかに守矢の祭神がこれ以上隠岐奈側に利する行動を取る理由は無い」
「そこも含めて射命丸に動いてもらいたい訳だ。今から博麗神社に向かってもらえればギリギリ間に合うだろ?」
「飯綱丸様だけでなく貴方も人使いが荒いですな!今夜だけで戦闘続きの私にまだ働けと!?」
守矢神社までついて来いと妖怪の山に帰った途端に飯綱丸様に命じられて付き合う羽目になったのですが、そこでまた命令が下されました。どれだけ私をこき使う気なのですかねえ!?
「射命丸もこの異変の当事者だ。博麗神社でも情報源として歓迎されるだろうからね。後方で状況の把握に努めていただけの私じゃ細かい状況までは話せんしな」
「私が出張ってもいいんだが、地底から情報が回って来る可能性を考えると神社を留守にするのも考えものだからねえ。早苗が戻って来てない以上、私はここを離れられないのさ」
「ぬぬぬ…断れるような理由が見つかりませんな。
仕方ありません、もう一度動きましょう。ですが私個人の利益も出るように動かせてもらいますよ?」
「それは最初から承知の上だ。射命丸が組織のためだけに動くことは有り得んからな」
「…ああ、もう反応するのも面倒です。特別手当は請求させてもらいますからな、飯綱丸様!」
この一件で好きに使われるのはこれで最後にします。思っていた以上に豹の援護に回っている奴らの戦意が強いせいで、結構な消耗を強いられていますからねえ。まさか楽団だけでなく竜宮の使いや紅魔館の関係者まで介入して来るとは考えていませんでしたし。
なにより、手に入った情報を記事にしようとしても幻想郷内に広めるのは危険な厄ネタばかりなせいで骨折り損になりそうなのが悲しいところです。先日ルイズという魔界人が幻想郷に旅行に来ていた以上、魔界人は今でも個人で幻想郷に侵入できるということなのですから。魔界に伝わってしまうと大問題になるようなネタは記事にすることが出来ないのですよねえ。そこまで判別できる情報を持ち合わせているのは私を除けば管理側の面々ぐらいでしょうし。
(まったく、ここまで情報を持っていないはたてが記事にしてしまったらどうするつもりだったのでしょうねえ?…いえ、これを危険視して私を前線に出したわけですか)
ああもう、本当にどこまで飯綱丸様は私を上手く使い倒す気なのでしょうねえ!いつか目にもの見せて差し上げましょう!!