「まず、謝らせてくれ。
すまない、俺が皆の努力を無にしてしまった…だが、まだ最悪にはならないように足掻くことは出来る。少しでもマシな状況に戻すために、力を貸してくれ」
紅魔館のロビーに集まってくれた皆にまず頭を下げる。状況を悪化させたのは俺一人…俺以外の皆は誰一人ミスすることなく紅魔館に辿り着いたのだ。それなのに戦犯である俺の希望を通すため、また力を貸してくれなんざ虫が良すぎる。だからこそ最低限の誠意として、真っ先に謝罪した。
…だが、俺は本当に妹に恵まれていて。
「お兄様、今さら頼まれるまでもなくここに集まった者はそのつもりよ?
時間の方が惜しいでしょうし、話を先に進めてもらえるかしら」
「そうだな、全戦力を集結させるための時間で顔合わせまで済んだのだ。今この場に集まった者は、ヒョウの助けとなるためにここに居る。
ヒョウの求める結末で終わらせるために我々は動く。何をすれば良いのかを聞かせてくれ」
「そうですね。これだけの数を揃えられたのですから、グループ分けなども必要になるでしょうし。
最低限の情報は全員が把握できているのですから、まずはこれからヒョウはどうしたいのかを知りたいです」
代表するようにレミリアとサリエル様が返答し、それに幻月が同意する。幻想郷・魔界・夢幻館の代表的な3人がこう答えてくれることで、反対意見は無いということを示してくれていた。
―――それなら、その言葉に甘えさせてもらおう。最早俺一人では、どうにもならない状況に追い込まれているのだから。
「ありがとう。
俺が皆にこの恩を返すためにも、俺がこの先も幻想郷で活動出来る立場に戻さなきゃならない…まだ俺の中でも作戦がまとまったわけじゃないから、何かあればすぐ聞き返してくれ。俺が見落としてる部分もかなりあるだろうしな」
最後に合流した雛から「守矢の二柱は神綺様と面識がある」ということをまだ聞けていなかったように、俺のために集めてくれた情報をすべて把握できているのは流石にいないだろう。何しろ今紅魔館に集まる前は分散して動くのが当たり前、加えてユキと夢子にアリスと繋がっているタイミングでは口に出せない情報もあったのだ。同じ情報でも別の視点から与えられることで気付けなかった点に気付いたりすることもある以上、多少の時間を割いてでも細かいところまで潰しておくべきだろう。
「まず大前提になるのが、博麗の巫女に喧嘩を売った以上俺は幻想郷の住人として受け入れられることはなくなったということだ。紫さんがいくら庇おうとも、【博麗の巫女を敵視する魔界人】という事実は幻想郷にとって危険すぎる…摩多羅隠岐奈以外の管理者も俺を排除する方向に舵を切るだろうな」
「ちょっと待ってよ!?それじゃ豹が隠れ家に帰れなくなるじゃない!!」
「大丈夫だカナ、そこは解決するアテがある。ただ、カナには幻想郷か魔界かの二択を迫ることになっちまうな…」
「…っ!そういうこと、ですか」
上海はこの返しだけで理解できたか。まあアリスと共に幻想郷へ移住してきたのであればこの手段は真っ先に思い浮かぶ…ここに来て俺の前提条件がひっくり返ったことで、選ぶことが出来るようになった選択肢。
「カナはアリスの家について聞いてるか?」
「え?わたしからは何も聞いてないよ。幻想郷のお家とは雰囲気が全然違うな~とは思ったけど…
――って、そういうことなの!?」
「細かい説明が省けて助かる。アリスが幻想郷に移住してきたとき、神綺様はアリスの家まで用意して家ごと幻想郷に送り出したってワケだ。
逆に言えば、神綺様の協力があれば
「それならわたしも豹と隠れ家と一緒に魔界に引っ越すわ。幻想郷にあんまり未練はないしね」
あっさりカナの問題は解決したようだな。俺の隠れ家を帰るべき家だと思ってくれているのであれば、俺はカナを住人として受け入れるだけ…神綺様と直接話した以上、ある程度は魔界も融通してくれるだろう。
「…豹が魔界に帰るのは仕方ないって割り切るわ。でも、それっきり幻想郷に戻ってこないのは認められない。これは私たち姉妹だけじゃなく、この場にいる幻想郷の住人全員の総意よ」
「わかってるルナサ。それに俺も幻想郷に未練が山ほどあるからな…魔界と幻想郷を自由に行き来できる立場は幻想郷の管理者達に保障させなきゃならねえ。
―――そのために神綺様の力を借りる。直接話してきてくれたルナサたちのおかげで、神綺様はまだ俺に手を差し伸べてくれそうなのがハッキリしたからな…」
紫さんでも俺を庇えなくなった以上、俺は幻想郷において【八雲の隠者という幻想郷の住人】ではなく【幻想郷に潜伏していた魔界人】として扱われる。それはここに集まってくれた皆と命蓮寺・守矢神社を除く幻想郷全ての住人から【排除すべき外敵】として見られるということだ。そして博麗の巫女だけでなく魅魔一派と永遠亭に天狗勢力には顔が割れた挙句、中立的だった茨華仙や地獄の閻魔も今後は摩多羅隠岐奈側に付くと考えるべき…青娥除く仙界の面々も同様だ。
ここまで包囲網を敷かれた以上、俺が下手を打てば幻想郷が大規模な内乱で大荒れになる―――それこそ摩多羅隠岐奈に先手を打たれてしまえば、レミリアと勇儀が嬉々として迎撃に出るのを俺とサリエル様で必死に止めなきゃならなくなるだろう…それはつまり夢幻姉妹も迎撃に同調したら止められなくなるということなのだから。
…これ以上、紫さんへの恩を仇で返すわけにはいかない。
そして、【排除すべき外敵】となった俺がここに居る皆の求める【幻想郷での活動】を続けるには、魔界神である神綺様が後ろ盾についてくれることが必須になるのだ。戦闘面における実力であればサリエル様か夢幻姉妹で不足無いのだが、幻想郷に対しての影響力という点では神綺様に及ばない…魔界の創世神という立場は摩多羅隠岐奈たち幻想郷の管理者達でも無視できない。神綺様の一存で魔界全てが幻想郷を敵に回すことが出来るのだからな。
「…私も話を聞いただけとはいえ、神綺って魔界神は信用していいとは思う。でも、具体的にはどうするの?話を聞いた限りだと、明日…いや、もう今日になってるのか。幻想郷まで来るみたいだけど…いつぐらいになるかわかってないんだよね?」
「ああ、皆に頼みたいことの一つがここになる。神綺様が幻想郷に来る前に俺を排除すべく動かれた場合の足止め…これに俺含む魔界人を巻き込むわけにはいかない。俺が博麗の巫女と闘り合っちまった以上、アリスと合流したユキと夢子にルビーが幻想郷で戦闘するのもなるべく避けたい…サリエル様と神綺様が魔界の不穏分子を先に大人しくさせてくれたとはいえ、魔界人が幻想郷の住民に攻撃されたって事実は魔界から幻想郷を攻撃する口実にできるからな」
「ま、そこに関してはいざとなったら私と姉さんも魔界を黙らせるのに手を貸してあげるよ。ヒョウにはこの数日だいぶ楽しませてもらったから」
「ありがとな夢月。落ち着いたら必ず要求に応える」
「そのときは絶対に私かサリエル様も同席させてくださいね、豹さん?」
「私も麟に同意しておく」
「…お願いします」
妹紅に返答した流れからの夢月の発言に、麟もサリエル様もかなり怖い目で釘を刺してきた。むしろ俺から頼むつもりだったんだが、こうまで有無を言わせない勢いで言われるとは…信用が無いのは俺なのか夢月なのか。
「問題は先手を打たれた際に、俺を引き摺り出すためにアリスの家を襲撃するって手があるところだ。青娥に確認したかったところなんだが、豊聡耳神子も青娥並に空間系の仙術を扱えるんだな?」
「私の方が上ではありますが、豊聡耳様だけでなく物部様と蘇我様も優秀な道士。摩多羅隠岐奈と豊聡耳様方が協調して妨害に徹した場合、夢子さんだけで空間魔法による離脱を行うには相当な時間がかかってしまいますわ。豹様が夢子さんと協調した上で、私が妨害に干渉することで安定したゲートは創れますが…それでも3分は見ておくべきかと」
「その3分でも今博麗神社に集まってるメンツで総攻撃をかけられると、ユキと夢子も応戦せざるを得なくなる。それを避けるためにはアリスの家を狙ってると判断できた時点で応援を送る必要があるわけだ。
一方通行のゲートなら、ユキがいる限り俺が問題なく創れる。だからこうなった場合は上海とメディスンを中心にアリス達の援護に向かってもらう…そのメンバーはアリスの家に向かった戦力次第になるから、誰に向かってもらうかは後回しにさせてくれ」
「そもそもそれは後手に回った場合の対応。こちらから動くのが豹さんの理想ですので、グループ分けは先手を打つことを前提にしたいということですね?」
「そういうことだ。博麗神社に集まってる面々を考えれば、そう簡単に話がまとまることはないと踏んでるからな…先手は打てると思いたい。だが神綺様の到着を待つ必要がある以上、後手に回るリスクをゼロにはできないからな」
青娥への質問と返答、それによる対応の方針…これを先に説明することが必要だった理由を話の流れで口に出せるように、衣玖がフォローを入れてくれた。本当に空気を読んでくれる存在ってのは助かるな…!
「むー…それってつまり豹は地霊殿に来る気は無いってことなの?」
「いや、魔界に帰る前に地底にもちゃんと寄る。勇儀との約束もあるしな…ただ、長々と居座ることは出来ないのは理解してくれ、こいし」
「ははっ、この状況に至っても私との口約束を守ってくれるとはねえ!本当に魔界に返しちまうのが惜しい。地底妖怪の元締めって立場が使えそうなら、遠慮なく使いな豹!また幻想郷に戻って来れるようにするためにさ!」
「ああ、正直言って勇儀が合流してくれたのは嬉しい誤算過ぎる、地底に向かってもらっても問題ない伝手が出来た。後で勇儀には一度地底に戻って伝言を頼みたい相手がいる…青娥だけじゃなくサリエル様に幻月と夢月、咲夜までいるなら空間魔法で簡単に往復できるからな」
「…はーん。そりゃもしかしてキクリさんかい?」
「ご明察だ…そういえば監視小屋に勇儀も立ち寄ってたか」
俺にくっついたままのこいしが不満気な声を上げるが、最低限の義理は果たすと伝える。その返答に反応した勇儀に使い走りのような役目を頼むのは機嫌を損ねるリスクもあったんだが、勇儀も自分で得た情報から予測できたらしく面白そうな顔で答えを出して来た。
念のために頼んでおいた魅魔への切り札…地獄から舞い戻る前の魅魔はコンガラ様の配下にいたのだ。それはつまりコンガラ様であれば一人で魅魔を抑えられるということ。キクリ様の説得に応じてくれていれば、敵側の最高戦力の一人である魅魔をコンガラ様一人で抑えられるのだ。勇儀の機嫌を多少損ねてでも頼む価値はあるからこそのちょっとした賭けだったが、勝てたみたいだな。
ところが、こいしはこれでは不満だったのかかなり困る返しをして来る。
「ぶー…それじゃ逆に、私が魔界ってところについて行くのはいいよね?」
「………俺の目が届く範囲で動くってのを守ることと、古明地さとりの許可がもらえたらいいだろう」
「ならお姉ちゃんを押し切るのに豹も付いて来てね!あの頭のかったいお姉ちゃんじゃ、私一人でいっても絶対文句しか言わないもん!」
「…勇儀との約束を果たすついでに時間は作る」
「ならいーよ♪」
「…話には聞いてたけど。随分と隠者は甘いし、覚妖怪は勝手ね」
「何も否定できないな…
それとすまないがフランドール、今後は俺を隠者と呼ぶのは避けてくれ。こうなった以上俺がまだ八雲と繋がっているように見られるのはマズい…紫さんを魔界相手の交渉役から外す理由の補強になる。神綺様からしても、紫さん以上に話の通じる幻想郷の管理者はいないからな」
「あ、そうなの?なら私もお兄様って呼ばせてもらおうかな。いろいろ面白い反応がありそうだし」
「…こういうところは、やっぱりお嬢様の妹ですねー」
甘い対応って自覚はあったが、まさかフランドールがツッコんで来るとは思わなかった。だが結果的に俺への呼称を変えさせるという必須なことを済ませられたのは悪くない。レミリア以外の紅魔館の住人は名を伏せていた俺のことを今まで隠者もしくは八雲の隠者と呼んでいたのだが、この状況に追い込まれた以上紫さんの立場を悪化させる情報にしかならないのだから。
…美鈴が漏らした通り、呼称を選ぶ理由がいかにもレミリアの妹だったが。
「とりあえず、先手を打たれた場合はアリスの家に援護を送るってことだけはミーティーング中も頭に入れておいてくれ。
ここからが本題になる…どうやって俺を、今後も幻想郷で活動できるようにするかだ」