寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第244話 妹たちとの作戦会議②

「魔界に一度帰ることを俺から伝えれば、神綺様と夢子は二つ返事で俺の庇護者として動いてくれる。これは直接話してきてくれた皆のおかげでハッキリしたからな…魔界側の問題は幻想郷側の問題を全て片付けてからでもなんとかなる。後始末でマイあたりに色々押し付けられるだろうが」

「そのときは私もお手伝いします。魔界でヒョウ様の手助けができる方は限られてしまうでしょうから」

「その時はリィスさん…いや、リィスにも頼らせてもらうことになる。お願いします」

「敬語なんて使わないでください…お話の続きをお願いします」

「ああ。

要するに魔界の重鎮って立場は問題なく貰えるってことだ。俺個人としては情けなさ過ぎる選択なんだが…ここまで俺のために動いてくれた皆に報いるためには他に選択肢が無い。魔界がここにいる皆にとって味方だというのはこれで確定させる」

 

魔界の不穏分子をどうするかは後回しだ。魔界では動き辛いであろうリィスさえ俺の力になると即座に伝えてくれるように、皆が俺のために動いてくれている…それなら俺が使えるものを出し惜しむのは不誠実だ。

俺の意地と矜持を曲げることになるとしても、皆の尽力を無にした俺の失態を取り返せる可能性があるのなら―――情けなかろうと使うべきなのだ。俺のために散った皆には悪いが、過去は取り返せない…現在(いま)を共に過ごしてくれる、ここに集まった妹たちを最優先に俺は動かなきゃならないのだから。

 

「それで、幻想郷の方でやらないといけないことってなにかしら~?」

「最終的な目標は【神綺様に俺を捕縛してもらう】ことだ。これが一番簡単で、魔界にとっても幻想郷にとっても丸く収まる」

「そういうこと…幻想郷じゃなく魔界の問題にすり替えて摩多羅隠岐奈とやらの介入を防ぐ、と。

でもそれなら魔界神の到着を待つ理由は何?魔界のNo.2だっていう夢子では駄目なのかしら」

 

メルランに続きを促され、俺の中での最善策を伝える。そしてパチュリーが即座に疑問を向けてくれたのがありがたい…反対意見が出る前に俺から利点を伝えられる。対案を出せなければ、利点を聞くことで内心は反対でも妥協してくれるだろうからな。

 

「夢子は昨日の時点で幻想郷に侵入してる。加えてここに居る何人かも顔を合わせて話してるのが問題になる…夢子が俺を捕縛したところで、摩多羅隠岐奈だけじゃなく紫さん以外の管理者は全員【俺が連絡役を使って夢子と示し合わせた】って断じるだろうよ。少しでもこじつけられる点があればそこを押し通してくる…何故なら数少ない魔界に対して使える外交のカードであり、幻想郷の内情をかなり深いところまで把握してる爆弾なのが俺だ。外交のカードとして使えないなら幻想郷にいるうちに始末しておくべき存在なんだから、少しの隙でも強引に理由を付けて来るさ。

だが、神綺様はまだ幻想郷に到着していない。つまり神綺様の到着と同時に俺との交戦に入れば【事前に示し合わせる時間は無かった】って押し通せる、というかこれ以外に難癖付けられない状況を思いつかなかった。…誰か、これ以外に幻想郷の管理者を黙らせる理由を作れるか?」

 

ハッキリ言ってかなり苦しい言い分だが、神綺様相手なら摩多羅隠岐奈だろうと強くは出れない。大前提として幻想郷は()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。その前提があるからこそ、魔界との交渉は紫さんが全権を持って対応していたのだから。

いくら幻想郷の管理者に名を連ねる存在であろうと、魔界の創世神相手に直接交渉するのは避けたいだろう。博麗の巫女が引き起こした軋轢なのだから、八雲紫が責を負えとなるのは必然だった。それは俺にとって最大の幸運…神綺様と紫さんの交渉なら、俺が有利になるように話を進めてくれる。

―――紫さんとも、それぐらいの信頼関係は築けてるハズだ。

 

それゆえに、神綺様に俺を捕縛してもらうだけでは足りない。

 

「……不満はあるけれど、お兄様以上に幻想郷の上層部と魔界に詳しいのはいないわ。反対意見もないようだし、それを目標に設定していいと思うわよ」

「そうだな、私も幻月たちも幻想郷の情報に疎い。幻想郷の皆が対案を出せないのであれば、ヒョウの考え通りに動くべきだろう」

「そうさせてもらいます。

そして、もう一つ俺たちでやらなきゃならないのが【紫さんに功績を挙げさせる】ことだ」

 

レミリアとサリエル様が反論が無いことを確認してくれたことで、もう一つの重要なポイントを口に出す。

 

「…あー、そうしないと八雲紫以外が魔界との交渉に出向いてくる可能性があるのね」

「そういうことだ雷鼓。こうなった以上紫さん単独で神綺様と交渉させることはないだろう…何しろやらかした俺も博麗の巫女も双方が八雲の傘下なんだからな。少なくとも摩多羅隠岐奈は交渉の場に出向いてくる。

そうなった場合でも【紫さんの意見が優先されるだけの実績】があれば神綺様と紫さんで押し切れる。この異変で摩多羅隠岐奈は内乱を助長させたって事実は流石に否定できない――なにより皆がサリエル様を信じてくれたことで、エリスと幽玄魔眼を証言者として使えるからな。

紫さんに実績を持たせた上でここを突けば、摩多羅隠岐奈も引き下がらざるを得なくなる。レミリアが奴を止めてくれたことで、エリスと幽玄魔眼を確保できたのはこれ以上ない結果だった」

 

答えを返してくれた雷鼓に応える形で、皆に必要な理由を説明する。

麟とリリカから俺が紅魔館の外にいたタイミングでエリスと幽玄魔眼の処分を済ませたことは聞いていた。レミリアや夢月がその場で始末してしまっても仕方ないと思ってたんだが、皆は俺が予想してた以上にサリエル様を信用してくれていて。魔界への退去で済ませてくれたのは俺にとって意外かつありがたかった。

 

摩多羅隠岐奈の暗躍を表に出せるのはかなり大きい。そしてそれを最大限に活かすためには、紫さんが幻想郷への被害を食い止めたという事実が必要なのだ。幻想郷に被害を出した管理者と、被害を食い止めた管理者。いくら俺が危険人物だろうと、後者の意見を無視して前者に同調するのは幻想郷の管理者として問題がある。そして神綺様ならそこを突いて紫さんの意見を優先するように仕向けるのは簡単だ。自由意志の強い魔界人を永く支配しているのは伊達じゃないのだから。

 

「ですが、具体的にはどうするのでしょう?それこそ豹様に対する扱いのように、私たちが八雲紫に花を持たせたところでマッチポンプと決めつけられてしまうのでは?」

「咲夜の言う通り、幻想郷の住民である皆だと説得力に欠ける。

…すまない。本当に損な役割で、気に食わないだろう役回りになるんだが。幻月、夢月―――俺の小賢しい策に付き合ってもらえないか?」

 

咲夜の鋭い指摘に対し、俺の答えを夢幻姉妹に向ける。

ここが俺にとって最大の壁。夢幻世界を支配する幻月と夢月に、敵に花を持たせるという屈辱的な役を押し付ける―――この場で命を取られても文句が言えないレベルの暴挙だ。

だが、俺にはこれ以外の策が思いつかなかった。魔界との関係を誤魔化すことができ、幻想郷に危機をもたらしかねず、食い止めるだけでも無視できないだけの功績になる存在…今ここにいる皆の中でこれ以上の適任はいないのだ。

 

自分の世界を持つような最上級悪魔に、こんな要求を突き付ける命知らずは俺ぐらいだろう。だが、これだけ俺に力を尽くしてくれる妹が集まっているのなら…激怒させても命は助かる。そんな他力本願な打算があったからこそ、腹を括って頭を下げる。

 

「面白くはなさそうだけど…聞くだけは聞いてあげるよ」

「もう、そんな素っ気なく返さなくていいのに。

夢月はともかく私はこのぐらいで気を悪くはしませんよ。幽香が身近にいましたからね、面倒臭くなる前に負けを演じて引き下がることもそれなりにありましたし」

 

だが、幻月も夢月も俺が思っていたよりずっと優しくて。今まで通りに返事を返してくれた。

どれだけ俺は恵まれているのかを、あらためて実感する。初見殺しが綺麗にハマったとはいえ、夢幻姉妹は俺より格上の最上級悪魔。気分次第で俺を殺すことも出来るというのに、俺のために力を貸してくれているのだ。この逃亡生活において夢幻姉妹と友好的な関係を作れたことは、最大の幸運なのだろう。

 

「ありがとう、本当に助かる。

幻月と夢月には、タイミングを見計らってある場所を襲撃してもらいたい」

「へえ、思ってたより面白そう。ある場所っていうのは?」

「人里の稗田邸―――襲撃と同時に俺が紫さんに『夢幻姉妹が稗田阿求を襲うのを止められなかった』と緊急連絡用の通信具で伝える。こうすれば紫さんと藍は幻月と夢月を止めるために動く…稗田阿求に今死なれるのは困るからな」

「「っ!」」

「…あっ!どこかで聞いた名前だと思いましたが、妖精の扱いでヒョウを怒らせたって人間のことですね」

「…何処でそれを聞いたんだ?」

「ルナサとリィス・くるみを夢幻館からルナサの家に向かわせた後に、八雲紫との情報交換で聞いている。

ヒョウはよく耐えられたな」

「…幻想郷において、それなりに重要な役割を持つ一族なんです。そうでなければ俺の手で始末していたでしょう。リリーとノエルを守るためにも、早く代替わりしてもらいたいんですけどね」

 

稗田の名前を出したことでリリーとノエルが反応し、それを見た幻月が予想外の言葉を返してきた。

…まさか、紫さんがそこまでサリエル様と夢幻姉妹に話してるなんてな。かなり細かいところまで情報交換してくれてたってことだ。幻月が妙にリリーを可愛がってるのは、俺の隠れ家でしばらく一緒にいたからってのもあるんだろうが…この話を紫さんから先に聞いていたからなのかもしれないか。

俺の稗田阿求に対する反感を理解してくれてるのなら、要点だけ伝えればよさそうだな。

 

「【夢幻姉妹が稗田邸を襲撃したが、八雲紫がそれを防いだ】…客観的にこう見えれば後は好きにして構わない。なるべく死人は出さないで欲しいが…衛兵や女中ではない稗田一族の年長者なら、脅しのために殺してしまっても問題にはならないはずだ。

…稗田阿求への教育不足は紫さんも知ってるからな。あの小娘は稗田の当主として浅慮過ぎる――その元凶としての報いだ」

「フフフ…ヒョウがそういう感情を見せてくれるの、嬉しいよ。

任せて、やってあげる。つまり八雲主従と遊んでも構わないってことでしょ?」

「やり過ぎないでもらいたいが…無理だろう?

好きにして構わないさ。紫さんと藍の実力も信頼できるからな」

「本当にヒョウは私と夢月のツボを押さえてくれますね♪

たっぷり文句を言わせてもらいます。その役目、任せてください」

「ありがとう、頼んだぜ」

 

最高戦力である夢幻姉妹を、よりによって紫さんと藍にぶつけるのはかなりの賭けになる。だがこれ以外の策を考える時間は無い、そもそも思い付けなかった。ならどうにかして夢幻姉妹に頼らず俺の敵を抑えてもらうしかないのだ。

 

「ははっ、お前さんらとは気が合いそうだね!一段落したら喧嘩に付き合ってくれないかい?」

「いいよ、あなた相手なら楽しめそうだし。

地底住まいって言ってたっけ?いろいろしがらみがありそうだし、落ち着いたら私からそっちに行く」

「いいねえ、楽しみにしとくよ!本っ当に豹の周りは面白くてたまらない!」

「ゆ、勇儀様…ほどほどにお願いします」

「いいんだ椛。終わってからって言ってくれてるからな」

「…サリエル様、お願いさせていただいてもよろしいでしょうか…?」

「ああ、麟の気持ちはよくわかる。私も同行するし、麟も付いて来なさい」

「ありがとうございます…!」

 

そして相変わらずの勇儀が己の欲望を満たしていた。椛が慌てて止めようとしてくれたが、止められるもんじゃないから俺からフォローしておく。そしてサリエル様が麟を受け入れてくれていることに安堵する…麟を孤独から解放するためにも、俺が仲立ちしなければと思っていたが…優しいサリエル様にそんな心配は不要だった。

そして、エリーとくるみが夢幻姉妹が抜けることによる問題を提示する。

 

「となると、幻月さんと夢月さんは戦力に数えず迎撃態勢を整えるということになりますよね?」

「ああ、そうなる。そこで問題になるのがフラワーマスター、風見幽香なんだが…

夢月、彼女は引き下がってくれそうだったか?」

「どうだろうね。だいぶ冷ましたけど、エリーとくるみどころか私がヒョウを気に入ったことも許せないみたいだし。私と姉さんが離れてからエリーとくるみを狙う可能性はゼロじゃないかも」

「うっ…幽香だから仕方ないけど、どうしますかね…」

「ただ、あの時間まで私を付き合わせてたから朝から動くってことは無いと思うよ。それこそ昼頃まで寝てたら神綺の方が早いかも」

「そうなるのが理想的だが、決めつけるわけにはいかないか。対応は考えておかないとな…」

 

強大な包囲網を凌ぐため、限られた戦力をどう振り分けるか…皆を守れるように考えないとな。

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