寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第245話 妹たちとの作戦会議③

「夢月から見て、フラワーマスターが起きて即動くと仮定した場合。真っ先に狙ってくるのは誰になる?」

「狙われるとしたらヒョウかエリーかくるみだけど、神綺に捕まる気ってことはヒョウも神綺と本気でやる気なんでしょ?

絡んで来るとしたらまず間違いなくそこ」

「…やっぱそうなるよな」

「ちょっと待って。捕縛って言い方が気になってたけど、魔界神とやり合うってどういうこと?

豹が魔界神に保護してもらえば済む話じゃないの?」

 

合流するのが遅く細かいところまで理解できていなかったらしいミケが聞いてくる。このあたりも軽く説明するべきか。

 

「さっき夢子だとマズい理由を説明したが、それと同じだ。【俺が神綺様に抵抗せず投降】した場合、夢子と接触していた皆が俺を説得した形にされる。そうなると魔界との交渉役を務めてた紫さんの立場が無くなっちまうんだよ。

具体的に予測するなら『レミリア・スカーレットが豹を説得できたのに、八雲紫は失敗している。魔界相手の交渉役として不適格』として紫さんを魔界との交渉役から外す。そしてここにいる皆は『すでに魔界に内通している』として摩多羅隠岐奈が後任の交渉役にしないよう誘導する。こうすれば俺を擁護する幻想郷の住民を完全に排除して魔界との交渉に臨めるからな。

そうなると神綺様が幻想郷を切り捨てる可能性が出て来てしまう。今でも俺を魔界で待っててくれた神綺様だ。俺の知る神綺様のまま…魔界人(子供たち)を守るために世界ごと滅ぼすって選択を取りかねない」

「ちょっ…!それは困るって!!」

「その通りだリリカ。だから俺は、()()()()()()()()()必要がある。

 それに、俺にも漢としての意地と、親友(とも)への義理があってな。

 魔界に帰るなら…全力を出し尽くした俺を、()()()()叩き潰してもらわなきゃならねえんだ」

 

永劫忘れることはない、あの反逆の日。俺は裏切りという最低な騙し討ちで神綺様に勝った。その直後の判断ミスで、反乱は失敗し幻想郷に流れ着いた。

そう、神綺様には勝っているのだ。だからこそ、俺が魔界に帰るのであれば―――神綺様に敗北した敗者としてだ。カタマサや会季との最後の義理…反逆者ヒョウとしての、最低限のケジメだ。

全力を出し尽くして敗北したのであれば、カタマサも会季も俺が魔界で生き延びることを赦してくれるはず―――惨めな敗者という汚名を被り続けることで。

 

「ヒョウも神綺も、絶対に私が死なせない。その点は皆心配しなくていい…だが、ヒョウ。神綺との戦闘が必須ということは理解できるが、死力を尽くすのは…本当に必要なのか?」

「申し訳ありません、サリエル様。これは俺なりのケジメでもあるんです。

それに、本気でやれば最上級の実力者以外は巻き込まれたくないと不干渉を貫くでしょう。余計な横槍を防ぐことになる…なにより、ここにいる皆と繋がる者以外は幻想郷の全てが敵。雑魚を蹴散らすのに戦力を割く余裕は無いですから」

「…そうね。今話題に上がったフラワーマスターを相手にしたところで、私なんかじゃ足止めにすらならない。少しでもちょっかいをかけてくるのを減らせるってメリットがあるなら、豹の意志を尊重するべきだと私は思うわ」

「私も同感ですね。八雲紫と摩多羅隠岐奈の対立が最大の問題である以上、一番幻想郷の管理者としての視点に近い豹の判断を優先するのが合理的ですもの」

 

サリエル様に返した俺の答えに、雛とドレミーが賛同してくれる。付き合いの長い雛はともかく、ドレミーまで俺をここまで信じてくれている。それに応えるためにも、俺は幻想郷から追放されるわけにはいかないのだ。魔界に帰還するとしても、幻想郷へ定期的に戻って来れるようにしなければならない。

 

「…反対意見はないと思わせてもらうぞ。今説明した通り神綺様が到着し次第、俺は反逆者としてのケジメを付けてくる。俺と神綺様が幻想郷で闘り合うワケだが、摩多羅隠岐奈や他の幻想郷の管理者にとって【俺の身柄の確保】は最優先事項だ。魔界との取引に必要かつ、何の誓約もなしに幻想郷を離れられるのも大問題だからな。

フラワーマスターだけじゃない。このタイミングで全戦力を動かしてくる…俺と神綺様がケリを付けるまで、邪魔が入らないように足止めを皆に頼むことになるワケだが。ここまで来たらあちらさんは形振り構わずどんな手段でも使ってくる―――汚い手段だろうとな」

「…私やリリーちゃんを捕まえて、人質にしたりするかもしれないってことですね」

「ああ、それが俺最大の懸念点だったからノエルもここに来てもらった。そしてこれは皆にも同じことが言える。

博麗の巫女や幻想郷の管理者の一角といった規格外の戦力を相手にして、誰一人敗北して捕まるわけにはいかないって条件の付く足止めだ。要するに勝つための戦力配分じゃなく、被害を出さないための戦力配分が必要になる」

 

俺の命名という呪いによって、精神だけでなく理解力も成長しているノエルが俺の危惧を正確に言葉にする。博麗の巫女や白黒の魔法使いはともかく、摩多羅隠岐奈や取引を反故にした月の姫に効率的な手段を優先する地獄の閻魔あたりは躊躇なくこの手を使ってくるだろう。

…俺が博麗の巫女と決裂した理由を聞けば、俺より俺の妹を狙う方が確実だと判断できるんだからな。

 

「面倒臭いわね。でも甘過ぎるお兄様が見捨てるなんて選択を取れるはずもないし、仕方ないか」

「迷惑をかけるなレミリア。だから戦力配分を決める前に、俺が援護を頼んである相手の返事を聞きたい…少し時間を貰えるか?」

「ふふ…私の出番のようですね。地獄の何処へお繋ぎすれば?」

「出口は俺が座標を固定するさ。勇儀、お願いしていいか?」

「おうよ!キクリさんとこに飛ばされるってことだね?」

「そういうことだ。もっとも良い返事が帰って来ない可能性もあるんだが…その場合は食い下がらないですぐ戻って来てくれ」

「その心配はいらないんじゃないかい?私と同じでキクリさんも退屈してるだろうしねえ。

ま、時間が惜しいのはわかってるからすぐ戻って来るさ」

「頼む。悪いなこいし、くっつくなら背中に回ってもらえるか?」

「はーい」

「それじゃ青娥、手を貸してくれ。

サリエル様、紅魔館内の空間魔法は咲夜がコントロールしています。妨害が入りそうでしたら補助に回ってもらえますか?」

「任せてくれ。幻月と夢月は、隠蔽魔法の方を強化してもらえるか?」

「いいですよ。そちらはパチュリーでしたか?あなたのコントロールですよね?」

「…流石は最上級悪魔なのね。私が教えることなんて無いと思うけど?」

「強化するにしても術者本人の方が細かいところは理解してるでしょ?

私と姉さんじゃ強化し過ぎて回路や術式を壊すかもしれないから、その辺を見てて」

「ああ、そういうこと。わかったわ」

「咲夜というのは君だったな。夢月の言う通り、こちらも頼む」

「かしこまりましたわ。ご協力に感謝いたします」

 

…月の姫たちを迎えに出たらしい魅魔と霧雨魔理沙の反応が博麗神社に引き返している。つまりこれから月の姫が情報を提供するってことだ。それならいくら摩多羅隠岐奈でもこちらに気付いたところで妨害を優先はしないだろう。警戒が強くなる前に済ませるべきだからこそ、作戦会議を中断してコンガラ様の返答を聞きに行ってもらう。

力を貸してもらえれば一気に戦力配分に余裕ができる。良い返事がもらえるといいんだが…!

 

「青娥、ここだ。開くぞ」

「ええ、合わせますわ」

 

ゲートを開くと、俺が声を掛ける前に勇儀が飛び込んで行く。

 

「それじゃ、ちょいと答えを聞いてくるさ!」

「ああ、本当に助かる…ありがとな」

「お礼は喧嘩で頼むよ!」

 

…さて、勇儀が戻ってくるまでに話しておいて問題ないこととなると…

 

「ああ、そういえば理香子。話は通したのか?」

「ええ、条件を返されたけどね」

「両方寄越せ、か?パチュリー」

「…そう返って来ることまで読んでたの」

「これでも魔界神の護衛で、八雲の隠者だったんだぜ。重要な交渉の使者になったこともあるからな…

両方渡すなら、パチュリーも前線に出す方向で戦力分配を考える。返答は如何に?」

「本当に私のことまでよく見てたのね。私も人を見る目はまだまだ、か。

いいわよ、魔界神の護衛の持つ魔導書と複合魔法術式なんてそう簡単に手に入らないわ。一日外に出るだけで手に入るのは破格もいいところよ」

「フッ、パチェにも認めさせるか。本当にお兄様は女に甘いわね」

「…否定しても説得力が無いのは理解してるが。誰彼構わず甘いワケじゃないからな?」

「言い方を変えてあげるわ。気に入った年下の女に甘いわね」

「そうですね。こいしと私に初対面からこうまで甘く対応してくれるのはお兄さんぐらいだと思いますよ?」

「あははっ♪そうだねー!」

「自覚してるんだ。お兄様もめんどくさそうなのに気に入られて大変ね」

「フランドールもやっぱレミリアの妹だな…全然大変って思ってる顔になってないぞ」

 

理香子が先に話を通してくれていたおかげで、パチュリーも戦力に数えられるようになった。条件を付けなきゃ紅魔館の防衛に回ると踏んでたから、あえて最初から俺に提供できる報酬を二つ伝えておいたわけだ。パチュリーは前線に出せるだけの実力があるのだから、最初から防衛に固定して考えるのは惜しい。上手く乗ってくれて助かった。

…スカーレット姉妹にこいしとこころがあまり突かれたくないところを突いてきたが。

 

「それとレミリア、里香の戦車のことは聞いたか?」

「ええ、駐車スペースが欲しいってことでしょう?門の外なら何も問題ないわよ。

それこそ戦車なんてもの幻想郷ではそうそうお目にかかれないわ。早く見せてほしいぐらいよ」

「ふふん、よくわかってる吸血鬼なのです!まだ完成ではないのですが、今の完成度でも地上戦なら問題なく戦えるのです!そういうわけなので、空間魔法で移動させるのです!」

「ああ、レミリアが許可してくれたなら問題ない。

―――幻月、夢月。里香の戦車を移動させると同時に襲撃に向かってもらう。里香の戦車は幻想郷の管理者からすれば幻想郷に広めるのは早過ぎる兵器だからな…俺関係なしに破壊に動く可能性がある」

「そう動かれるぐらいなら合図にしてしまう、ですね。わかりました」

「私もちょっと気になるな、その戦車。一目見てからでもいい?」

「構わないさ、それこそ紫さんが即座にこっちへ飛んできちまう可能性もゼロじゃない。少なくとも【八雲紫が夢幻姉妹を食い止めた】っていう客観的事実を作れれば、場所は人里じゃなくてもいいんだからな…

この辺りの近場なら、霧の湖の人魚にでも目撃者になってもらえばいいだろう」

「夢月も見る目があるのです!しかと目に焼き付けるといいのです!」

 

…里香の戦車が思ったよりも人気だな。まあ、レミリアがこういったものに興味を持つのはよくわかるんだが、夢月もそういう方向に興味があるとは思わなかった。

―――このタイミングで、俺は予想もしなかった再会を果たすことになる。

 

「お嬢様!カムさんが直々に来てくれましたよ!」

「は?」「え?」「なに?」

 

小悪魔の声に俺とレミリアとサリエル様が同時に反応し、振り向いた先には。

 

「…いや、本当に幻想郷にいたんだね。

久し振り、ヒョウくん」

「カムさん…」

 

かつて魔界で、とても世話になった相手が。

はるか昔と全く変わらない、ギャングらしくない柔らかい笑顔でそこにいた。

 

「あまり僕がこっちにいるのもまずそうだから、個人的な用事はすぐ済ませちゃうね。

―――これ、会季くんの作品じゃないかな?」

「なっ…!?

カムさん、これを何処で!?」

 

カムさんが俺に手渡してきたのは。

忘れもしない…反逆のときに振り回した、会季のハルバートだった。

 

「僕の故郷の世界に流れ着いたらしいんだ。もうずいぶんと前だけど、商品を仕入れに帰省した時に珍品店で見つけてね…これは神綺さんやユキちゃんじゃなくヒョウくんに渡すべきだと思って、僕がずっと確保してた。

…まさか、レミリアちゃん経由でヒョウくんに渡せるなんて思いもしなかったよ」

「ちゃんは止めろと言ってるだろう。

まあ、お前の言う通りあまり魔界の住人がここにいるのはよろしくないからな。簡潔に依頼を伝えるぞ。

魔界に戻ったエリスと幽玄魔眼を監視しておけ」

「それぐらいならお安い御用だよ。サリエルさん、神殿に帰ってるってことかな?」

「ああ、もう動かないとは思いたいが…念のために、な」

「それじゃ、費用の請求は幻想郷の方が落ち着いてからにするね。

…ヒョウくん。ケリが付いたら、僕の所にも顔を出してくれると嬉しいな」

「…はい。必ず行きます。

ハルバート、有難く使わせてもらいます」

「うん、頑張ってね。

レミリアちゃん、落ち着いたら商談に呼んで」

「だからちゃんは止めろ。まったく…

心配せずとも報酬は支払うさ」

「毎度あり!

それじゃ、またのご利用もよろしく」

 

そう言ってカムさんは空間移動に使うらしい魔法具を鞄から取り出しながら、入って来たドアから去って行った。

…本当に、変わってない。ギャングとは思えない心遣いがありがたかった。余計なことは何も聞かずに、俺の力を渡してすぐに去る…今の俺と魔界にとって、最高の動き方だった。

 

(ここまでされたんだから、魔界にもちゃんと応えないとな…!)

 

久し振りに、本当に久し振りに手にした会季のハルバートは。信じられないぐらい、俺の手に馴染むのだった。




実のところカムはここのためだけに必要だった役回り。あまりポッと出のオリキャラというのは作りたくなかったので、先に名前だけちょこちょこと出してました。
見た目のイメージは〇ス・サ〇トスを手配度MAXで疾走するギャング系ユーチューバー。
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