寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第246話 為さねばならない責務

「…なるほど、私は最初に悪手を打ってしまったということですね」

「誰もそれは責められないさ。私たちが優先すべきは人里の安全。今は、それを無事果たせた結果だけあればいい…

私から豹に何も返せないのは、悔しいがな…」

「いえいえ、まだ諦めるのは早いですよ慧音さん!

神奈子様と諏訪子様なら、豹と慧音さんを会わせるぐらいはねじ込んでくれますから!」

「…そうだな。それに妹紅が付いている、そう簡単に豹が囚われることはないか…」

 

慧音さんと合流するために命蓮寺に戻ると、守矢神社の東風谷早苗が合流していました。聖白蓮たちも交えて私もようやく状況をだいぶ把握することが出来ましたが…動き出すのが遅すぎた上に、八雲藍から情報を聞き出すことを優先したことが致命的なタイムロスになった可能性を突き付けられてしまいましたね。

 

「私たちはこのまま何も起こらないことを祈りつつ待機します。ですが、人里にも危険がある状況になればご一報ください。出来る限りの手は尽くしますので」

「ああ、それこそこちらからお願いすることになるだろう。よろしく頼む」

「…大丈夫そうですね!鈴仙達の反応はそのまま博麗神社に向かってます。星さんもそれを察して速度を上げてますので、無事に帰って来れるはずです!」

「んじゃ、先生もそろそろ人里を戻しに行くかい?」

「そうだな。小兎姫、早苗。いいだろうか」

「はいな」

「お任せください!」

「この流れでしたら、星は先に慧音さん達に話をしに来るはずです。人里を横切る形になりますので」

「私は一輪と交替して来るわ。ムラサをそろそろ起こしておきなよ、聖」

 

そう聖白蓮と封獣ぬえが返して、慧音さんが腰を上げました。

…あまり時間に余裕はありませんね。命蓮寺を離れたらすぐに、話を振らなくてはなりませんか。

 

「あらためて礼を言う…匿ってくれて助かった、ありがとう」

「いえ、慧音さんには日ごろからお世話になっていますので。

私たちで力になれることがあれば、遠慮なくお申し付けください」

「では、失礼しますね」

「お疲れ様です!」

 

私と慧音さん、東風谷早苗は命蓮寺を離れることになりました。まずは私の意見も慧音さんに伝えた上で、自警団の面々に説明ですかねぇ。

山門をくぐると、付いて来ていた封獣ぬえが見張りに回っていた雲居一輪に声を掛けます。

 

「一輪、交替。ムラサと替わって休んで来な」

「わかった。頼むわよ、ぬえ。

あ、皆様もお帰りですか。お気をつけて!」

「はい、お疲れ様です」

「ああ、世話になった」

「失礼しますねー!」

 

軽い挨拶を交わして人里へ飛び立ちます。

―――このタイミングしかないですね、私から釘を刺せるのは。

 

「慧音さん、先に私から言っておきます。

どうやら豹のことを悪くは思っていないようですが…あまり期待はしない方がいいですよ」

「…っ!?」

「へ?どういう意味ですか小兎姫さん?」

 

…まぁ、慧音さんが察せていないはずがありませんよねぇ。

東風谷早苗にも伝えることで、慧音さんも割り切ってもらえるといいのですが。

 

「今までの話をまとめると、魔界はともかく豹は重い処分が必要になるということですよ。

幻想郷に深く関わった魔界人を、幻想郷の管理者が簡単に見逃すことはありませんから」

「それはそうでしょうけれど…そのための神奈子様と諏訪子様、命蓮寺の皆さんではないですか?」

「それはあくまで魔界の話。豹はそのまま魔界に返すのは危険すぎる…それを理解しているからこそ、逃げ回っているのでしょうし。

覚悟は決めておいてくださいね?」

「は、はあ」

「………わかっている、小兎姫」

 

あら…思っていたより慧音さんは豹を気に入っていたようですねぇ。ここまで苦虫を嚙み潰したようになるとは思っていませんでした。

…やっぱり、私が最初に見つけていた時点で逮捕しておくべきだったのかもしれませんね。あの性格で魔界からの逃亡者…見捨てられなくなる幻想郷(こちら)の住民がここまで増える前に。

 

(人里の守護者である慧音さんですらこの様ですからねぇ。紅魔館に集まった面々はなおさらでしょうし。

…幻想郷のために動いたことで、幻想郷から赦されなくなる。皮肉なものです)

 

まあ、私が今さら後悔したところで遅いですし。

人里を守るために、私が為すべきことを貫くしかないですね。

 

こちらへ向けて飛んでくる星の妖気を感じながら、慧音さんが割り切れるようにと、思う私でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、誰かと思うたが勇儀ではないか。いつの間にかような空間魔法を覚えたのじゃ?」

「私じゃないよ、千年以上行方知れずだった最高の喧嘩相手と再会できてさ。

昨日キクリさんも話したって聞いてるんだけどねえ?」

「そういうことじゃったのか!勇儀は豹と喧嘩したことがあったが、黒い怪人が豹だということは知らなかったのじゃな」

「そのあたりは隠者の肩書に違わぬな。勇儀が喧嘩した相手を見抜けぬとは」

「流石の私でも通信具越しの声だけじゃねえ。平和ボケしてたってのもあるだろうけど、そのあたりではとてもかなわないさ」

 

私がキクリさんの居場所に繋がるって空間魔法に飛び込んで、降り立ったのはコンガラさんの庵。出口が創られた時点で気付いたらしく、キクリさんもコンガラさんも外に出てきてくれてた。こっちとしちゃ話が早く済んで助かるねえ。

 

「そして、豹の魔法で勇儀が儂の元に来たということは…どうやら地上で派手に動いておるな?」

「私が久し振りに心の底から熱くなれるぐらいに面白い大騒ぎさ!今日だけで全力の拳を叩き付けられる相手が二人も居たんだからね!

ま、無理にとは言わないけど。豹が力を貸してほしいって言ってるんだよ。キクリさんがここにいるってことは、話はしてくれてんだろう?」

「勿論じゃ。コンガラも乗り気ではあるんじゃが…

むむ?それこそ豹に聞いた方が早いかのう?」

「あん?コンガラさんが乗り気なのにその反応ってことは、こっちで何かあったのかい?」

「四季映姫・ヤマザナドゥも地上に出向いたことは掴んでおるな?奴一人であれば儂も気にせず出向いたのだが…あの反応、勇儀も捉えられるか?」

「勇儀にそれを期待するのは間違いじゃろ…わらわの索敵魔法を勇儀に同調させるわい」

「うぐ…やっぱ私は魔法に向かないねえ。こういう感触は好きになれないよ。

あー…こいつはたしか急に畜生界に居座った邪神だったかい?結構な頻度で畜生界から出て来るねえ」

「流石に四季映姫・ヤマザナドゥと勇儀に儂とキクリまで出払った状況で、あの邪神に暴れられると抑えられる者が不在となる故にな」

「じゃが、どうやら地上まで出向くようじゃのう。地底で暴れる気が無いのであればわらわも離れて問題ないとはいえ」

「地底の戦力が薄くなるってわけかい。さとりのとこの地獄烏がいりゃあ戦力としちゃ十分なんだけど、流れ弾の被害がなあ…」

 

このあたりは本当にキクリさんには頭が上がらないんだよねえ。地獄の月として、地獄だけでなく地底のことまで守る対象として見てくれてる。私もコンガラさんもこの辺は苦手だから、よく見てくれてるキクリさんに甘えっぱなしだ。

 

「コンガラよ、お主の家にあるわらわの依代、持って行って豹に渡すのじゃ。

わらわが地獄に留まってやる。ただし勇儀を滾らせたという地上の騒ぎ、わらわにも聞こえるように豹の口から喋らせい。あの邪神が地上に向こうた理由も、豹であれば推測できるかもしれんのじゃ」

「良いのか?退屈しておるのはキクリも同じであろう」

「わらわは地獄の月、地上に顔を出すのは地上の月を壊すその時だけにするべきじゃろうよ。

少なくとも、ヘカーティア様に許可を取らずに地獄の戦力を薄くするのは避けるべきじゃからな」

「そうか。ならその言葉に甘える」

 

そう返してコンガラさんが庵に入って行った。

いや、ほんとキクリさんには頭が上がらないねえ。

 

「悪いねキクリさん、豹を地底に来させるって言質は取ってるからさ。その時はちゃんとキクリさんも呼ばせてもらうよ」

「うむ、楽しみにしておるぞ。分体越しで話せるとはいえ、直接会えるのであればその機会を逃がしたくはないのじゃ」

「あいよ!」

「待たせたな。ではキクリ、地獄は任せる」

「うむ、土産話をちゃんと持ち帰るのじゃぞ!」

 

―――ってわけでコンガラさんだけ連れて開きっぱなしの空間魔法の入口に飛び込む。

次の喧嘩が楽しみ過ぎて、笑顔が隠せない…本当に、熱くなれるってのは最高だねえ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「連れて来たぜ。これで全員集合でいいんだな?」

「いや、余計な者がいる。

月の姫よ、玉兎を引き連れねば地上を出歩く度胸すら持てぬか?」

「はあ!?何様のつもりよアンタ!?」

「ふむ、聞くだけ無駄か。

月の玉兎よ、愚かな姫に付き従ったことを後悔するのだな」

「「「っ!?」」」

 

その一言で隠岐奈が蓬莱山輝夜が引き連れて来た玉兎三匹を後戸で追い出したわ。…おそらく後戸の国でしょうね。藍が二童子を落とし切れなかったのに、片割れすら引き連れずに洩矢諏訪子と豊聡耳神子を連れてきた…つまり二童子にはまだ仕事があるということだわ。逆に考えると、橙を狙ってくる可能性はこれで低くなった。それなら…

 

「隠岐奈、橙を二童子の援護に回すわよ。監視の意味も込めてね」

「監視はお互い様だな。まあ、里乃と舞だけでは少々荷が重い玉兎も一匹いるようだし、頼もうか」

「橙、後戸の国に送るわ。二童子と共闘して抑え切れなくなったら先に帰って休んでおきなさい」

「っ!

はい、かしこまりました!!」

 

橙をスキマで後戸の国へ送る。隠岐奈が()()()()()()()()()()()()選択肢に入れている以上、ここに橙を残すのは危険。それに二童子と玉兎で裏取引という可能性も零では無い以上、まだ戦闘となっても橙一人で離脱できるレベルの戦場で監視役として共闘させる方が安全だわ。

…だいぶ消耗してる藍も休ませたいのだけれど、当事者の一人である以上この会談から離れることは認められない。あの案外感情的な月の姫がこれ以上暴走しなければ助かるのだけど…あの様子だと豹は永遠亭を完全に手玉に取ったようね。そうでもなければ隠岐奈の挑発だけであれだけ言葉を荒げることはない―――地上の民と侮っていた相手に余程屈辱的な敗北を喫したのでしょう。八意永琳に比べて、蓬莱山輝夜はプライドを捨て切れていないのだから。

 

「この会談に参加させてやるだけありがたいと思え。碌な情報を持たない下っ端共に席を割く必要も意味も無い」

「…幻想郷の管理者だけはあるってわけね。アンタが摩多羅隠岐奈か」

「如何にも。月と魔界の因縁を幻想郷に持ち込んだ厄介者とはいえ当事者だからな。永遠亭で豹がどう動いたかの情報提供は受け入れてやる」

「フン…!」

 

月の姫も隠岐奈がここまで強硬的だとは考えてなかった様ね。まあそれは仕方のないこと…隠岐奈が私以上に月を危険視していることを把握しているのは龍神様と私ぐらい…茨華仙や天魔といった最古参の妖怪ですら知ることのない情報だもの。それこそ、豹がいなければ私も知ることはなかったでしょうし。

―――そして、最後の当事者が辿り着いたわ。

 

「下っ端共に割く席は無い、ですか。それでは私もこれで失礼しても?」

「お前は意図的に下っ端に甘んじているだけだろうが。そもそも騒霊楽団の廃洋館襲撃に参加したのはここにいる中でお前だけだ。しっかり情報を渡していけ、射命丸」

「あややや…仕方ありませんか。ここにいる皆様に追われるのは遠慮したいですし」

 

この烏天狗が前線に出ていた時点で龍…いえ、どちらかと言えば管狐の方か。私が釘を刺したのを無視して動いていたのでしょう。

もっとも、最前線で交戦していたということは情報を得られずに大きく動いたということでもある。基本的に交戦するより取材を優先するのだから、戦闘に参加しなければ情報は得られないと判断した―――文句は言えても問い詰めるのは時間の無駄って絶妙なラインを保っている。このあたりは流石の天狗、抜かりないわね…

 

「これ以上の参加者は不要だろう。

まずは話を円滑に進めるために、各々の持つ情報をすべて開示してもらおう。当然、この事態を引き起こした私自身もだ。

その上で、ここに集った有力勢力の代表として【魔界人・ヒョウへの対応】を議論する。奴を支援する協力者への対応も含めて、な」

 

議長のような態度で隠岐奈が話を進める。

―――今となっては、私にその立場は与えられない。豹を支援していた有力者…その筆頭が私だということは、否定しようがなくなってしまっているのだから。

 

(…豹はギリギリのところで踏みとどまってくれた。

 幻想郷と霊夢のためにも、これ以上失態は曝せないわ…!)

 

豹は、幻想郷も守ろうとしてくれたのだから。これだけは私がしっかりと引き継がなければならない。

魔界と、月。強大過ぎるこの二つの世界から、幻想郷を守るために…私が為すべきことを果たしましょう。




申し訳ありません、今週は再度入院が必要になったため更新が滞ります。
次は11(土)に更新予定ですが、長引いた場合は14(火)になります。
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