「―――うげ、なんで化け狸の大将がいるんですかぁ?」
「情報収集以外に何があると思うとる。そうでもなければ管狐の言葉なんぞ耳に入れんわい」
「それに典が私の招集にこんなに早く乗るなんて、情報不足なんじゃない?
嫌な顔する余裕なんてないんじゃないかねー?」
「ちっ…その通りだしてゐが思ってる以上に私に余裕は無いわ。さっさと終わらせようじゃないの」
この兎も侮れんのう。まさか烏天狗の大将が飼うておる管狐をあっさり呼び出せるとは…兎も狐も嫌いじゃが利用価値はある。思うていたより大事になっておる以上、使えるものは使わんとな。
「―――妖怪の山が掴んでるのはこれぐらいよ。たぶん、永遠亭の役には立たないんじゃない?命蓮寺はともかく」
「そうじゃのう。このタイミングで儂にも気付かせず守矢神社が接触して来たのであれば、まず間違いなくあの無意識妖怪が協力しておる。豹の元に厄介な手駒が入ったようじゃ」
「あ~…本当に聞けば聞くほど私は関わりたくなくなるねえ。なんでこんなことになったのさ」
というわけでじゃ。儂の部下を追跡して接触してきた迷いの竹林の兎の誘いに乗って情報交換をしたのじゃが、永遠亭が最大のとばっちりを受けておることが明確になったのう。提案してきた兎が頭を抱えておる。もっとも、魔界人から狙われるだけの理由があの薬師にあった以上完全な被害者とは言えぬようじゃが。
この情報交換を一通り終えたところで、更なる乱入者に気付いたわい。
「――むうっ!?
管狐よ、妖怪の山にまた強者が出てきたようじゃぞ。何者じゃ?」
「はぁ?今更誰………
なによコイツ…!?とんでもないじゃない!!」
「ありゃ、典が知らないならたぶん地底から出て来たのかね?
ま~ったく、管理者共は何やってるんだか」
妖怪の山に強大な妖気…いや、これは神気かのう?儂でも正面から相手はしとう無い強者が現れておる。しかも管狐の反応からするに話に出て来た鬼の四天王同様地底からの乱入者じゃ。すなわち、情報を持っておる者がほとんど居らぬ強者…また厄介事が増えたようじゃのう。
その強大な神気は、迷いなく魔法の森方面へ向こうて行く。つまり…
「ふむ、進行方向を考えると魔界人の増援かのう」
「冗談じゃないよ…どれだけお師匠様は魔界に嫌われてるのさ」
「知ったこっちゃないわ。とりあえず、私はこれ以上飯綱丸様から離れてるのは不味いのよ。お先に失礼するわよ」
それだけ言い残して典なる管狐は妖怪の山へ帰りおったわ。まあ、鬼の四天王の一角と魔界からの侵入者から狙われる可能性があるとなれば、保身を優先するのも納得じゃが。
「やれやれ、こうなると守矢神社と組んだのは英断になりそうじゃの。儂の居らぬ間に決めよったのは気に食わんが、敵に回すと面倒なのが多すぎるわい」
「これどうするのかねえお師匠様は。姫様が引き下がってくれれば楽そうだけど、あの様子じゃなー」
「取引を無視してまで動いたとあれば、そう簡単には引き下がらんじゃろうな。御伽噺通り勝手な姫のようじゃの?」
「姫様はお師匠様に比べると感情的なのは知ってたけど、あれだけ逆上してたのは初めて見たね~。数も強さも揃えて攻撃されたんだから仕方ない敗北なのに、やり返さなきゃ気が済まないって。
結局姫様は月の民なんだよね。無意識に地上の住人を見下してるから、敗北に過剰反応してるのさ」
「成程のう、あの薬師は従者としての立場がある。だが姫の立場に慣れ過ぎた故に、自尊心を捨て切れておらぬのか。
まあ、儂には関係ない話じゃの。この短時間でこれだけの情報を寄越してくれたのには礼を言ってやるわ」
「礼なんて要らないから私に協力「お断りじゃよ」
「だよね~。あ~もう、なんでこんなことになってるかねえ!!」
足元に転がっておった小石を蹴飛ばしながら兎がぼやいておる。月の民共と違うて完全な被害者じゃからのう、仕方あるまい。じゃが儂が手を貸す義理も理由も無い。
「それじゃ儂も戻るとするか。まあ、お主が死なぬようには祈っておいてやるわい。情報源として使えそうじゃからのう」
「はいはい、ありがたく思っておきますよ」
そう返して兎も去る。どうやら奴も時間効率を優先して儂とあの管狐を使うたようじゃな…そのまま迷いの竹林方面へ向かったわい。
(さて、儂はしばらく傍観させてもらおうかの。無駄に手の内を晒す必要など無いのでな)
「―――っ!」
「袿姫様ね。こんなに早く来てくれるなんて」
私とユキが夢子とルビーに状況の推移を説明してる途中で、袿姫が地上に出て来たのをキャッチ出来たわ。それに戦力不足を伝えてくれたらしく、埴輪兵長の杖刀偶磨弓も同行してるわね。
「どうするの?ここの正確な位置って教えてる?」
「私の魔力を探知してこの辺りまでは来れるでしょうけど、この雪じゃ見落とすかもしれないわね…近くまで来たら迎えに行きましょう」
「あ、それなら私が迎えに行きます。袿姫様とは何度かお話しさせてもらっていますから」
「そういえばルビーの本業は外交官だったわね。お願いするわ」
蓬莱山輝夜が連れていた鈴仙たち3名が博麗神社から追い出されたのを探知して以降は、大きな動きはなく夜明けと言える時間になっていたわ。そこに現れた強大な神気の持ち主である袿姫…霊夢や魔理沙が反応して動く可能性も考えて、こちらから動くのはギリギリまで待ったのだけれど。
「お邪魔するわねーアリス」
「失礼します」
誰一人妨害することは無くルビーが袿姫を連れて来たわ。まあ、袿姫をわざわざ敵に回すような行動は取りたくないわよね…有力勢力に属している妖怪ほど。
「いらっしゃい、協力に感謝するわ」
「袿姫様、お久しぶりです」
「お久しぶりです!…とは言っても、わたしのことは覚えてないですかね?」
「いや、たしかユキだったわね?サリエルとリィスと親しかったから覚えてるよ」
「ありがとうございます…って?
どうしてサリエル様とリィスのことを?」
「私も月とはちょっとした繋がりがあってねえ。ま、これから情報交換しなきゃならないだろ?
その時にちゃんと教えてあげるよ。それで、こっちは磨弓」
「兵長を務めている杖刀偶磨弓と申します」
「ええ、よろしくね。私は神綺様の側近を務めている夢子よ」
「あらためて、わたしはユキ。一応わたしも神綺様の側近になるのかな?よろしく」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
これで夢子とユキをターゲットにされてここが襲撃されようが、私と袿姫に磨弓で問題なく迎撃できる。上海が戻ってくるまでの時間は稼げるでしょう。
「それじゃ、早速だけど袿姫が持ってる情報を話してもらえるかしら?月のことも含めて」
「そうだね、それが効率的か。とはいっても大した話じゃないんだけどね」
(…埴安神袿姫。また厄介な相手が出て来たわね)
ドレミー・スイートが最低限の義理は果たしていったことで、これ以上私がこの異変に介入する必要はなくなったのだけれど。ここに来て魔界神が本格的に動いたことを理解させられる乱入者が現れた。
「…どうにかして輝夜を止めたいところだけれど」
私が平和ボケしていたことをあらためて突き付けられた形ね。説得に応じず月から堕天してまでサリエルを追った天使・リィス。私が研究部門を統括していた当時は【
諜報部門が厄介者だった前任寄りの立場で動いていたことで、この命令が届くまで私どころか豊姫も依姫も埴安神袿姫が魔界神と交友があることを把握できていなかった。どれだけ優秀な神々が揃っても、仲間内で足を引っ張り合っては簡単に出し抜かれるということをこうなってようやく私以外の上層部も理解したのだから…結局天使をもう一位見逃すことで意識改革を進める成果があったと私が手回しして誤魔化したのよね。本音を言えば私は説得できるだけの交流があるのなら騙し討ちで捕らえて欲しかったのだけれど、それでは私まで前任者同様のマッドサイエンティストと見られるリスクがあった。当時の私にはまだプライドが残っていたからそれを受け入れられず、説得する方針で動いたことが―――今になって完全な裏目に出てしまっている。
(それに、ウドンゲ達は博麗神社から追い出された。摩多羅隠岐奈の目的を考えると、この状況で豹を相手に使える駒を排除することはない。無事なのは間違いないのだけれど、てゐを合流させたところで同じことになる。それこそ人質の数が増えるだけだわ)
戦闘員としてのウドンゲは申し分ないのだけれど、空間移動させられてしまってはいくら私でも即座に救出とはいかない。何処に飛ばされたのかさえ分かればいくらでもやりようはあるのだけれど、追放したのが摩多羅隠岐奈ではない可能性がある以上後戸の国と決め付けて動くのも戦力不足の今は危険。鈴瑚と清蘭を捨て駒として切ることすら避けたい現状なのだから。
「…サリエルが輝夜の元へ向かう反応だけは、見逃すわけにはいかないわね」
この異変は幻想郷に滞在してからだと群を抜く大失態ね…せめて輝夜だけは無事に帰らせなければ!
「―――どういうことか説明が欲しいな、閻魔様よ」
「…こうも相互不干渉を遵守する気が無いとは考えていませんでした。あれ程の神であれば、己が動くことによる影響も理解できていると判断したのが間違いでしたね。
地獄に招喚された邪神が、規定に従う筈もなかったということです」
「…って!?なんで魔法の森に向かってるんだよ!?」
それは私どころか隠岐奈すら計算外の乱入者だったわ。埴安神袿姫―――畜生界に居座った
「アリスに協力するつもりでしょうね。彼女が私たちのような強者の反応を拾えないはずが無い以上、迷いなく向かっているのだから」
「なんでアリスの味方って言い切れるのよ?まさか紫が手を回したわけ?」
「私は地底で異変が起きない限りは不干渉を心掛けてるわよ。豹を追うため真っ先に星熊勇儀を動かした閻魔様と違ってね?」
「…それも言い逃れ出来ない私の失態です。私自身が状況を悪化させたことに反論はしません」
「だとしてもサリエルとはすでに接触してたんだろう?その時に協力要請したんじゃないのかい?」
閻魔様は流石ですわね、己に責がある件はしっかり認めて余計な発言はしない。相変わらず論戦において揺さぶりが効かないのは厄介だけれど、星熊勇儀のおかげで正面から押し通せる。むしろ味方に付けたいところだわ。
そのためにも、絶対に敵にしかならない魅魔に正論を吐かれて同調させるわけにはいかない。だからこそ隙を見せないよう答えを返す。
「私の依頼をサリエルが果たす筈無いでしょう?魅魔なら霊夢が神綺相手に大暴れする前に、サリエルにも陰陽玉で喧嘩を売ったことを知ってるわよね。サリエルが二度魔界を荒らした霊夢の後見人の私と協調することは無い。先に話した通り、夢幻姉妹と意見が統一できたからサリエルも矛を収めてくれただけ。協力なんて求められないわよ」
「じゃあなんで紫はアリスの応援だって言い切ってるんだよ?」
「さっきまで貴方達が暴れてたタイミングで、動きが全く掴めていない重要人物が一人残っているわ。そこから簡単に推察できると思うわよ?」
「………あー、夢子って魔界のNo.2だね」
食ってかかって来た魔理沙への返答に洩矢諏訪子が反応する。まさか守矢の二柱が神綺と面識があったなんて思いもしなかった…情報収集不足を痛感させられる事実だったわ。先に話を通しておけば、豹にとって致命的な結果に繋がった春告精襲撃を防げたかもしれない。その上この先は命蓮寺と共に中立を貫くと宣言した、要は隠岐奈よりは私の方が信用できると判断したということ。東風谷早苗が今の状況になる引き金を引くことを未然に防げていれば、こうまで最悪な状況にはならなかったかもしれない…悔やんでも悔やみきれない失点ね。
「一応確認しておくけれど、仙界で夢子を霍青娥が見逃した時点では一度幻想郷に戻っているのよね?」
「そこは間違いない。その後豹が永遠亭と交戦する前に幻想郷を離れたところまでは、私が夢子の動向は把握している」
「そのタイミングで魔界に戻って神綺に報告したのでしょうね。魔神である神綺と邪神である埴安神袿姫に交友がある可能性を考慮していなかったの、隠岐奈?」
「そうだな…何も言い返せん。紫と同じく、私も情報収集不足だったのは事実だ」
「その結果が魔界との全面戦争の危機よ。本当に余計なことをしてくれて…!」
「紫にそれを言う資格があるのか?豹を幻想郷で放し飼いにしていたことでアリスに発見された…利用するのであれば万が一も有り得ぬ紫の自宅や外界で飼うべきだろうが。監督責任から逃れられると思うな」
「豹は永い付き合いの友人よ。部下を駒としか見ない隠岐奈だから、ペット扱いしか出来ないだけでしょう?飼うなんて発想しか出来ないのは哀れね」
「その甘さで幻想郷を危機に陥れてどうする。魔界だけでなく月とも軋轢のある危険分子を、友人として扱うこと自体が問題だ」
「紫も隠岐奈もいい加減にしなさい!!管理者同士で対立している場合ではないでしょう!!」
「「っ…!」」
第三の管理者として茨華仙が一喝してきたことで、私だけでなく隠岐奈も引き下がったわ。
…駄目ね。自覚してる以上に私は豹に入れ込んでる…こうまで感情的になってしまうなんて。ある意味、隠岐奈が議長ポジションに収まったのは好都合だったかもしれないかしら。隠岐奈も私が思っていた以上に豹を危険視している―――私との言い争いになるようでは、仕切ろうとする態度が裏目に出るのだから。
「…埴安神袿姫の介入は私にも責があります。彼女の対応には私が出向く、これで問題はありませんね?
それでは、議論を再開しましょう。予想以上に大規模な異変となっています、早急に幻想郷としての対応を決めなければなりません」
「任せますよ、閻魔様」
茨華仙と閻魔様によって軌道修正されたわ。これ以上感情的にならないようにしないとね…!少なくとも、この二人が中立の立場に留まらないと…豹だけでなく霊夢まで不幸になってしまうのだから。
5/30(木)までには次の更新をします。