寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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6話の脱字と24話の誤入文字を修正してます。
…脱字はともかくなんであんな漢字が入り込んでたのか。


第25話 戦闘後の回復は大事

二胡のことはひとまず置いておき昨日私が得た情報を雷鼓とも共有すると、予想外にも裏付けが取れた。

 

「昨日一つだけ豹かもしれないって話を聞けたけど、当たりみたいね」

「え、本当!?」

 

正直に言うと、期待してなかった。ふらりと楽団の手伝いに現れたと思えば、いつの間にか忽然と姿を消してしまう。そんな豹だから、目撃情報が簡単に出るなんて思いもしなかったのだけれど。

 

「永江衣玖って竜宮の使い知ってるかな?」

「衣玖さんがこっちに降りてきてたの?珍しいわね~」

 

私は覚えが無い名前だけれど、メルランが反応した。

 

「メル姉、誰そいつ?」

「なんだかお仕事に疲れてる竜宮の使いさんでね~、私のソロライブでお客さんが盛り上がったぐらいに合流してはノリノリで踊っていくわ。いいストレス解消になるんだって~」

「衣玖そんなことしてたのか…まあ、私とは飲み仲間だな。昨日リリカが帰った後にふらっと顔出してくれてさ。次のお誘いだったんだが、豹の見た目を伝えてみたら一度目にしたことあるって言われて私も驚いたわ」

 

どうやって竜宮の使いと飲み仲間になったのかも気になるけど…今は豹の話。

 

「私は詳しく知らないのだけれど、博麗神社が地震で倒壊した異変があったらしいじゃない。その後始末で幻想郷上空を当てもなく散策してたときに、春告精と妖精相手に魔法を教えてた金髪長身の男を霧の湖近くの川辺で見たそうよ」

 

春告精。こんなところから裏付けが取れるなんてね。

 

「片割れの妖精は判別できなかったのかしら?」

「少なくとも衣玖は知らない妖精みたいね。春告精に関しては何故か黒い服を着てたから印象に残ったそうだけど。ただ、魔法を教わるほどの知能がある妖精なんてなかなかいないでしょ?翠髪をサイドポニーにまとめた力の強い妖精…該当するのが居れば春告精同様に豹の関係者と思っていいと思うわ」

 

…翠髪サイドポニーで知能の高い妖精?もしかして霧の湖の大妖精かしら。

 

「その妖精の方が春告精より見つけやすいかもしれないわ」

「え、そうなのルナ姉?」

「鬱陶しい氷精の保護者みたいな妖精」

「あ~!言われてみれば見た目ばっちり合うわね!」

 

あの氷精は彼我の戦力差を理解できずに喧嘩を売って回るので鬱陶しいことこの上ないけれど、それを止めようとする大妖精は貴重な会話の通じる妖精。氷精をあしらう時間を差し引いても春告精を探すよりは早そうね。

 

「ありがとう雷鼓。探す当てが一つ増えたわ」

「役に立てたようでなによりよ。私としても豹には裏方として助けられてたからね。なんとか連れ戻してちょうだい」

 

 

 

 

 

 

 

 

あれが直撃しながらすぐ意識を取り戻した夢月は流石としか言いようがない。くるみも目立った外傷はなく戻ってきたが、派手にやりあって服がボロボロになったエリー含めた三人は一度着替えるため部屋に戻った。そのうちに俺の右腕を治療しておく。

 

「しかし、本気で切ってくれて逆に助かったな…切断面が綺麗だったおかげで俺の回復魔法でもなんとかくっつくとは」

「夢月を止められなくてごめんなさい。私の翼は、夢月が自分の翼を捨ててまで守りたかったものだから…

でも戦闘になればそんなこと関係ない。それなのに私と夢月にとってはヒョウに興味があっただけのお遊びでしかなかったせいで、取り返しのつかないことになりかけてしまった…」

 

ひとり俺の治療を手伝ってくれている幻月が言葉を漏らす。姉妹なのに夢月だけ翼を持っていないのに違和感はあったが、そういうことか…元から持っていなかったのではなく、目的のために使い果たしたんだな。

 

「ですが、この応急処置だけで本当に良いのですか?どんな理由があるにしても、サリエルであればヒョウを保護してくれるはずです。そこまで顔を合わせるのを避ける理由がわからないです」

「それについては、後でちゃんと話す…あまり思い返したくない俺の過ちなんでな、何度も話したくないし三人も聞きたがるだろうよ」

 

辛うじて勝ちを拾ったとはいえ、次は絶対に勝てない。逃げ切ることは不可能ではないだろうが、俺の戦闘は初見殺しに過ぎず同じ相手に二度は通用しないのだ。

すなわち、幻月と夢月にはこれから先ずっと俺の味方になってもらわなければならない。幸いなことにエリーとくるみのおかげで戦闘になったとはいえ敵視はされていない。そしてある程度俺に対して納得もしてくれたはず―――であれば下手に隠すより事実を伝えて誠意を見せるべきだろう。同情を買えればよし、駄目なら勝負の結果と俺の右腕、幻月の翼を利用して取引だ。

 

「でも、私としては治療だけでも受けてもらいたいです。本当にくっつけただけの今の状態では、それこそ追手との戦闘に耐えられないでしょう?」

 

…なんだ?幻月が思った以上に気に病んでるな。初対面の俺にそこまでする義理なんてないだろうに。

 

「まあそれはそうなんだが…魔界に向かうリスクを負うなら先に麟を頼りたいところだ」

「頼りにしてもらえるのは嬉しいですが、なぜ豹さんはそんな大怪我をしているのですか?」

「…は?」

 

声に振り返ると丁度口にした本人である麟がいた。なんでここに…?

 

 

 

「――これで問題ないです。ですが、私が来なかったらあの状態で自然治癒を待つつもりだったんですか?たしかにくっつきはしてましたが、豹さんの戦い方をしたらすぐ外れてしまうことがわからないはずないですよね?昨日も言いましたが逃亡者としての自覚が足りてないです。そもそも昨日私に出口用の指輪新しく渡してくれましたよね。豹さんが片手を失うほどの相手なら、その強さに豹さんが気付かないはずないですよね?なんで逃げずに戦ってしまったのですか!?私のところじゃなくても、最初にここを選んだということは出口になる場所もいくつかあるはずです。戦うにしても一度場所を変えて助けが見込めるところで戦うべきですよね!?」

 

ド正論で何一つ言い返せない。孤独を過ごす麟は会話に飢えているのでこういう状況だと驚くほどよく喋る。戻ってきた三人だけでなく幻月すら置いてけぼりだ。

 

「言い訳をさせてもらえれば、俺の空間魔法で振り切れる相手じゃなかった。それに場所を変えて戦闘なんてしたら博麗の巫女に見つかるんだよ。俺と違い身を潜める必要が無くて派手に暴れられるんだから」

「…あれだけやったので否定できませんね」

 

その言葉で麟も察したらしい。明確な敵意を持って幻月に視線を向ける。

 

「…なぜ、豹さんを狙ったのですか?私じゃとてもかなわないのはわかりますが、答えによっては命尽きるまであなたに刃向かいます」

「信じてもらえるとは思わないですが、もうヒョウを狙うことはないですよ。私たちが知りたいことはこれから話してくれるそうですので」

「そうね、あれだけ完全にしてやられたのだし…話してくれるのであれば戦う理由はない」

 

夢月があっさり引いてくれるのは意外だった。あれだけの激情を見せたのだから、もっと引き摺るかと思ってたが。

 

「豹さん、私も聞いていいでしょうか」

「…あまり話したくない件だからな、ついでに聞いていくといい。それよりどうしてここに来たんだ?」

「………情けない話ですが、私一人では何もかも足りないのを今日になって自覚しました。ですので、状況を知るために紫様との連絡の取り方を教えてもらえないでしょうか」

 

うわ、そういうことか。つまり紫さんはまだ麟が俺の居場所を突き止めたことを把握していない。麟なら俺の護衛に最適、だがそれ故に今はまだ動いてほしくなかったのだ。おそらく紫さんも同じ考えで麟に指示を出さなかった。

そういう意味で紫さんにとっても麟の動きは想定外なんだろう。おそらく忘却の呪いを最大限活かし、神綺様への流言・偵察役として動いた後で俺と合流させる予定だったはず。俺を切り捨てた後も八雲と繋がりがあることを忘れられている(・・・・・・・)であろう麟なら八雲と無関係を装えるのだ。

 

問題は俺も紫さんと直接連絡を取る手段がほとんど無いという点。脱出用の出口を連絡のためだけに使うのは流石に無駄遣いだ。紫さんが急遽俺に指示を出すことはあっても、俺から紫さんに急ぎの頼みをするなんざ長い付き合いの中で二回あっただけだ。

つまり、今まで麟が紫さんに用ができた時にどうやって俺が取り次いでいたかというと。

 

「…もう少し待ってくれ。藍と情報のすり合わせで顔を合わせることになってる。その後に状況を伝えるよう頼んでおく。今の時点より、そうなってからの方が正確な情報になるはずだ」

 

人里に買い物などで顔を出す藍を捕まえる以外なかったのだ。今の状況では八雲側からの連絡待ち以外に手が無い。

 

「…そうですか。今の時点では、やはり私は大人しくしているべきなのですね…」

「気にするな。むしろ今ここに来てくれたのは本気で助かった。治りが悪いようなら俺から出向く必要があったからな…」

「そうですよー、私からもお礼言わせてください。…えっと、麟さんで間違いないよね?」

 

くるみが話に入ってきたが、エリーと同じか。これはやはり、麟本人じゃなく俺が話すことによって名前だけは覚えていられるということか…?

 

「本当に、名前だけでも覚えていられるのですね…ありがとうございます、くるみさん」

「はは、それ以外本当に忘れちゃってるんだけどね…」

「私たちではこれが限界のようです。もっと何かわかればよかったのですが」

 

そんな会話を見て、夢月と幻月が俺に話を向ける。

 

「よくわからないけど、彼女も妖怪の賢者の手先?」

「人、ですよね。ですが先程の癒しの力は人間では持ち得ない…彼女もサリエルと繋がりがあるのですか?」

「いや、麟のあの力は麒麟…瑞獣によるもの。サリエル様とは無関係だ」

「麒麟、ですか。癒しの力とは無関係だったはずなのに、人の誤解や解釈によって伝わったその力を自らのものとした…霊獣というだけはありますね」

 

まあ、詳しいことは俺も知らないんだがな。

 

 

 

 

 

夢幻館に入って俺の口から麟のことを軽く夢幻姉妹に教える。これほどの力を持つ悪魔であれば、呪いの影響を押さえられるかもしれない…その意味でも二人は俺の味方に付けておきたかった。

 

「そんな大事だったのねあの一件。魔界に出てたのは惜しかった」

「夢月が大暴れしたら戦況に影響出るだろうな…紫さんにとっては幸運だっただろう」

「とはいっても、私たちが幻想郷に介入する利点って無いんですよね。誘われたとしても私は乗らなかった気がします」

 

…むしろ麟のことより吸血鬼異変の方が気になるようだが。

 

「豹さんが話してくれた通り、私には失うものがもうほとんどありません。ですから、豹さんの敵に回るというのであればかなわなくても最期まで抵抗します」

「流石に、麟に対して死に急ぐなとは言えないですね…ヒョウのことばかり見ているのに納得できました」

「そうね、耐えられなくなったら私のところに来るといい。何も思わず一瞬で終わらせてあげるよ」

「夢月さん、止めてあげてください…」

 

まあ、前置きはこんなもんでいいだろう。

話したくはないが、夢幻姉妹を敵に回さないために。情けない俺の過去を話そうか―――

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