寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第251話 妹たちとの作戦会議⑦

「…豹さん。私から我が儘を言わせてもらってもいいでしょうか?」

「ん、何かあるのか麟?」

 

ここからは能力の相性も考慮した組ませ方を考える必要がある。そうなったタイミングで初めて俺が指示する前に意見が出された―――俺の隣に控えていた麟から。

 

「魔理沙には、私をぶつけてもらえませんか?

 サリエル様がいらっしゃってくれたので、私が回復役に専念する必要が薄くなりました」

「――ッ!!?」

 

そして、俺が考えもしなかった迎撃策を出して来た…!

貴重な回復役の麟を最前線に出す、サリエル様が合流してくれた今の状況でも麟から口に出されるまで頭に浮かびもしなかった。そして、俺以外の皆も同じだったようで麟とほとんど接点が無いはずのパチュリーが反応を返す。

 

「あなたはたしか隠者の弟子だったわね。何も考えていないわけではないでしょうけど、魔理沙を止めるのは無理じゃないかしら?それこそ回復魔法を得意とするなんて稀少な存在、後方支援に徹する方が合理的よ」

「はい、その通りです。私はまだ弱い…魔理沙に勝つことは出来ないです。

ですが、()()()()()()()()って一点だけなら自信があります。豹さんが負けないことに絶対の自信を持っているように、豹さんの弟子として【負けずに生き延びる】術を叩きこまれましたから。

―――そこに、八つ当たりでしかない私の私怨が加わることで…魔理沙にだけは負けません。豹さんがケジメを付けるために戦うのであれば、私もケジメを付けたいんです…!

この機会を逃してしまえば、もう一度顔を合わせることすら難しくなる…私は幻想郷を離れるのですから」

「……麟」

 

麟がここまでマイナスの感情を表に出すのは、本当に久し振りだった。忘却の呪いによって、麟にとって俺はただ一つ残された希望となってしまったがため…俺の前で麟は弱音や恨み言を滅多に吐かなかった。負の感情に囚われて俺から距離を取られることを極端に恐れ、俺にとって都合が良い存在であることに固執する。それで麟が壊れてしまうのを避けるために、俺からそれを吐き出すように促されない限り一言も漏らさないのが当たり前だったのだ。

 

その麟が、俺を含めたこれだけの人数を前にしてはっきりとマイナスの感情を露わに意思表示してきたのだ。覚悟はとっくに決めてるのだろう。

それなら、仮にも師である俺は背中を押してやるべき。

 

「わかった、だが霧雨魔理沙は強いぞ。本当に麟だけで足止めできるのか?」

「私は豹さんの弟子だと自負しています。それだけでは信じてもらえないでしょうか?」

「…そうだな、俺が信じないで誰が信じるって話か。任せるぞ、麟」

「ありがとうございます…!

ですが、サリエル様のご厚意を無駄にするわけにもいきませんので。奇跡が起きて私が魔理沙を行動不能に追い込めた場合に、解呪のために魔理沙を引き摺って行く人手として一人フォローに回っていただける方を付けてもらえないでしょうか?もし私より優先して援護するべき戦闘が起きたなら、私を後回しにしてもらって構いませんので」

「そうだな…」

 

麟が魔界に同行することを前提にしても、忘却の呪いは解呪すべき。そして下手に取引材料にされることを避けるためにも、霧雨魔理沙を捕縛できれば即座にサリエル様の元へ向かうべきか。

そこに加えて、逆に麟が魔理沙を抑え切れなかった場合に援護しながら退く判断力も必要になる。逆に麟一人に任せて別の応援に向かう判断も付けなきゃならない…それなりの経験が無いと難しいポジションだ。残りの戦力でそれが出来るのは…

 

「―――レティ、聞こえてたよな?麟の援護役はレティに任せる。状況次第では遊撃隊と合流して別戦闘に向かってくれ。レティなら問題なく判断できるハズだ…後で詳細は話しに行く」

 

今のレティなら務まる。もう少しでも俺がアリスに見つかるのが早かったら取れなかった選択だ。冬のレティは規格外の強者には及ばないまでも、生半可な妖怪では相手にならない。そして夢殿大祀廟入り口でレティ自身が語った通り、弱者としての視点も持ち合わせている幻想郷では珍しいタイプの実力者なのだ。単独で動く遊兵としてこれだけ適任なのはそういないだろう。

 

「…本当に大丈夫なの、麟?」

「心配していただいてありがとうございますルナサさん。ですが、言った通り負けない自信はあるんです。

それこそ、魔理沙以外を相手にしては私は戦力になれません…私怨で魔理沙個人に対する対策を立てていたからこそ、私のような弱者でも戦力になれるんです。今の状況でしたら、使える戦力は全て有効利用するべきですから」

「ククク…本人がここまで言い切るなら任せようじゃないか。逆恨みと言っているが、人間の小娘がここまで感情を昂らせるのはよっぽどだよ。その結果には私も興味が沸く」

「………ヒョウとレミリアが認めるなら反対する必要はないだろう。

だが麟、くれぐれも無理はするな。癒しの力は幻想郷だけでなく魔界でも稀少、その幼さで失うのは惜し過ぎる…霧雨魔理沙とやらに援護が入ったら退け。良いな?」

「お気遣いありがとうございます、サリエル様。

大丈夫です。私が豹さんの足を引っ張るような状況には絶対にしません」

「ここまで言い切れるなら平気でしょ。麟に任せて問題ないよ。

あとはあの巫女と鬼だっけ?」

 

麟がハッキリと覚悟を見せたことで、レミリアとサリエル様に夢月までその意志を尊重してくれた。これで誰も反対することは無い…次は夢月の言う通り、博麗霊夢と伊吹萃香。

 

「麟がここまで言ってくれたんだから、俺も腹を括らねえとな…!

博麗霊夢は無視するぞ。俺がアリスに頼み込んで抑えてもらう」

「っ!ご主人様ですか」

「ああ、さっき俺が直接闘り合ったことで、奴に対して確信を持てたことがある。

―――()()()()の腕は鈍ってる。少なくとも神綺様を退けた時に比べればな」

「「「っ!?」」」

 

これにはこの場にいる全員が反応していた。

…それもそうか。博麗靈夢だった頃の彼女を知るのがサリエル様や夢幻館の関係者、カナにリィスと里香・理香子、そして吸血鬼異変の首謀者である紅魔館の面々。それなりの数がこの場に揃っているだけでも今の幻想郷では貴重な状況だろう。逆に博麗霊夢としての彼女しか知らない皆からすれば、鈍っているという事実にピンと来ないハズ。それこそ、幻想郷全体で見てもこの事実に気付けるのはごく少数…俺以外だと紫さんと藍に玄、後は魅魔ぐらいかもしれない。

 

「…言われてみれば、そうかもしれないわね。スペルカードルールか」

「レミリアの言う通りだが、軽く説明しておくか…

雷鼓やメディスンあたりは知らないだろうが、魔界に殴り込んだ当時の博麗の巫女はまだ飛行能力を発現していなくてな。玄という飛行能力持ちの亀に乗って活動していた。

そして紅霧異変から玄の補助なく活動することになったんだが、この異変はスペルカードルールが制定されて初めての大規模な異変でな…同じタイミングで博麗の巫女の活動が大きく変化したことで、奴自身も腕が鈍ったことを自覚してなかった」

「そういうことですか。己自身で飛行能力を得た結果、攻撃面への集中が削がれた。そしてスペルカードルールによって殺害が前提の攻撃を多用しなくなったことも重なり、自覚すら出来ていなかった」

「これだけで正確に理解できるのは流石だな幻月。

幻月が言葉にしてくれた通りで、スペルカードルール無しの戦闘なら俺でも博麗の巫女を食い止められた。それなら当時の博麗靈夢を相手にしたことがあるアリスに、今の上海とゴリアテを指揮してもらえれば時間稼ぎだけなら確実にやれる。加えてアリス自身が今の幻想郷で問題を起こさず暮らしているからな。博麗の巫女に対して問題になる行動は自重してもらえるだろう…上海とゴリアテの活動時間も考慮すれば、これ以上ない戦力分配だ。

代償に何を求められるかはわからないが、俺が差し出せるモノで首を縦に振ってもらうさ」

 

麟を前線に出すって大博打に比べれば、アリスの説得なんざギャンブルにも入らないだろう。上海だけでなくユキも俺に協力するよう動いてくれるのだからな。なにより、アリスであれば博麗の巫女を援護しに想定外の援護が入っても複数人を相手取れる…橙や高麗野あうんが援護に向かったとしても時間稼ぎに徹すればかなりの時間持ち堪えられるはずだ。

 

「上海とゴリアテもそのままアリスの指揮下に戻ってくれ。博麗の巫女という立場がある以上、予想できない方向からの増援が送られる可能性がある…その相手次第では上海単独でも時間稼ぎはできるかもしれないからな」

「わかりました!」\ハーイ!/

「頼む。それで出来ればメディスンは遊撃隊に入れたいんだが、上海との共闘以外はお断りか?」

「私はそこまで勝手じゃないわ。アリスのところに戻すなら、私が一緒じゃなくても上海は平気だってのはわかるわよ。

だからその…遊撃隊?そっちでいいわ。でもその言葉の意味がよくわからないから、何をすればいいのかはちゃんと教えなさい」

「勿論だ」

「ありがとうございます、メディ!」

 

そして地味に問題だったメディスンの協力も得られた。上海とゴリアテをアリスの元に帰す都合上、メディスンはアリスの補助に回さざるを得ないと考えていたが…ダメ元で聞いてみたら融通を利かせてくれた。こういうところは素直な子供らしい性格が助かるな。

そして話が付いたことを察した妹紅が続きを促してくれた。

 

「残りの伊吹萃香はどう対応するんだい、豹?」

「ああ、数を使った搦手で対処する。鬼の嫌うやり方だから後が怖いが…そこは紫さんにフォローを頼んで引き下がらせてもらうしかない。どうにもならないようなら一段落した後で俺直々に釘を刺しに行くさ…流石に二度は不意打ちなんざ喰らわねえ」

「ん?片付いた後の萃香なら私が相手しても構わないよ。いいのかい豹?」

「いや、俺が恐れてるのは奴が搦手に参加した皆に私怨を向ける可能性だ。ハッキリ言えば俺が幻想郷を離れた後で皆へ報復に動かれるのを避けたいんだよ。ルナサや雛、雷鼓を奴が狙ってくると無事に済まなくなる…伊吹萃香は寺を建てたのに挨拶がないってだけで命蓮寺を襲撃するような奴だからな。恨みは俺に向けた上で晴らしておきたい」

「萃香そんなことしてたのかい。その辺は全く変わってないねえ」

「それは逆に言えば、勇儀は地底に来てから大人しくなったということか」

「自分で言うのもなんだけど、その通りだよコンガラさん。なにせ地底は変化に乏しいからねえ、鬼らしく理不尽に暴れる機会なんてなくなっちまったのさ」

『よく言うのう。地底に来てしばらくは地獄に乗り込んでまで暴れておったろうに』

 

勇儀が伊吹萃香に関して気を使ってくれたが、こればかりは俺が処理しなければならない。俺と親しかったからという理由で皆を傷付けるわけにはいかない――そのためには奴の理不尽は俺が引き受けてから魔界に帰る必要がある。

まあ、今それを考える余裕なんざ無いんだけどな。

 

「具体的な伊吹萃香への足止めだが、作戦の核になるのはルナサと雛だ。頼めるか?」

「聞かないでいいわよ。ここにいる時点で、豹の頼みを断ることはないわ」

「私も覚悟は決めてるわ。何をすればいいの?」

「助かる。狙いは単純だ、ルナサの鬱の音を聞かせた上で雛に厄塗れにしてもらいたい。

奴の霧化は厄介な能力だが、ルナサの音と雛の厄は霧化しようと防ぎようがない。霧化した状態で厄がどう作用するのかは読めないが…その状態にすればいくら伊吹萃香だろうと戦闘を継続するのは難しいだろう。数で押せば時間稼ぎは出来るはずだ」

「うわ…えげつないこと考えるじゃん豹」

「あはは…」

 

リリカのツッコミに上海が渇いた笑いを返している。

…多分、アリスが同じ作戦を考えたことがあるんだろうな。アリスが夢幻館に向かうタイミングの戦力で有効な策を考えれば、ルナサと雛を組ませるのは誰を相手にしても成果が期待できるタッグなのだから。

 

「ルナサの鬱の音に対する俺たちの対策だが…サリエル様、何か対処法はありますか?」

「少し時間を貰えれば、半日程度なら効果を抑制できる防護魔法を編み出せる。魔界でルナサがその音を使って援護してくれたからな」

「あの時耳にしただけでそんなことが出来るのね…それも戦闘の片手間で。本当にサリエル様は凄い…」

「これでもかつては月の支配を任されていたのだ。それなりの力は持っているさ」

「それなりどころじゃないわよ…七大天使の名は伊達ではないようね」

 

レミリアですらサリエル様の規格外な白系統の魔法に関しては驚愕している。まあ当たり前の反応だよな…神綺様すら白系統の魔法に関しては後れを取ると認めているのだから。

 

「サリエル様、今のうちにお願いできますか?八意永琳が動かない限り、サリエル様は紅魔館の防衛と負傷者の回復をお任せしたいので」

「わかった、すぐ終わらせる」

「ありがとうございます。

これでルナサの鬱の音が仲間にも影響を与えるのは避けられる…だが伊吹萃香相手にルナサと雛を守りながら足止めしてもらうことが必要だ。戦力的にはここを担当してもらうのが一番キツくなるが…すまない、力を貸してくれ」

 

大詰めだ。貧乏くじを引かせる相手を、これから決めなきゃならないからな…!




次は6/7(土)までに更新します。
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