寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第253話 逆視点

「あのさー、守矢神社(うちら)はもう手出しする気無いから無責任に言わせてもらうけど。

 豹ってのを確保するのはもう無理じゃないの?あちらさんの手駒が厄介過ぎるでしょ」

 

―――博麗神社に集まった有力者同士での情報開示が済むと、洩矢諏訪子がバッサリ言い切ったわ。正直に言って、私も同感…豹は私の予想を軽く超える戦力を味方に付けている。夢幻姉妹とサリエルまでは把握できていたけれど、地底から出向いて来た星熊勇儀と古明地こいしに共闘を取り付けることで地獄の有力者であるコンガラと埴安神袿姫まで地上に出向かせている。

 

ここまで戦力を集中された状況で戦闘に踏み切れば、幻想郷内を二分した内乱と何も変わらない。問題になっているのは魔界への対応なのだから、内乱なんて起こしてる場合ではないわ。それは一人を除いて理解できているのだけれど…

 

「困難な状況なのは否定できませんが、豹の確保は必須です。彼をそのまま魔界へ帰還させるのは危険過ぎる…幻想郷全体に精通する高位空間魔導士である豹一人だけで、幻想郷は簡単に崩壊させられる」

「豹がその気にならないように私の手元に置いておいたのだけれど、それを完全に無にしてくれたわ。最初から余計な手出しをするなと言っておいたのに、最悪な結果にしてくれたわね?」

「よく言う、紫は最初から引き渡す気など無かっただろうが。優秀な手駒として使うのであれば魔界から徹底的に秘匿するのが当然、初期対応を間違えていたのは紫だろう」

「紫も隠岐奈も同じことを二度も言わせないでよ?

今優先すべきは豹と魔界への対応。余計な言い争いの時間なんて無いわ」

「それなら私の意見を言わせてもらうけれど、豹を確保するのは諦めた方が効率的よ。

替わりに魔理沙を魔界に差し出せば問題無いわ」

「ふざけんな!誰が交渉の道具になんか「黙りなさい。アリスがその気だったらすでに貴方は魔界に送られていたのよ?

己の実力を過信するのも程々にすることね」

「ぐっ…!?」

「紅魔館に集まった戦力を相手取るよりは、魅魔を敵に回してでも魔理沙を捕らえる方が安全かつ手間がかからないわ。私の出す安全策がこれ。不満があるのであれば、対案を出して頂戴。

少なくとも、豹とその協力者への攻撃に八雲は参加しないわ。これ以上神綺の心証を損ねては、豹とは関係無しに魔界が戦争に踏み切るリスクがある」

「フン、幻想郷の創始者ともあろう妖怪の賢者が随分と無責任だねえ?」

「無責任なのは魔界で暴れた後、何一つフォローもせず隠居した魅魔も同じでしょう?自分と弟子の不始末を私に押し付けておいて、今更何を抜かしてるのかしら?

まあ、幻想郷の維持に興味が無い魅魔だから言える言葉ね」

「…面倒なことにしたのが私たちなのは認めてやるわよ。

 だけど紫。魔理沙を魔界に引き渡すほど私は薄情じゃないわ」

「………そう。なら霊夢はこれからどうするのかしら?」

 

期待はしていなかったけれど、魔理沙を切り捨てる案は霊夢に拒否されたわ。私が豹を捨てたくないように、霊夢も魔理沙を捨てたくないってだけ…久し振りに、博麗の巫女と意見が対立してしまったわね。

 

「豹をとっ捕まえるしかないでしょ。レミリアが豹を庇うんなら紅魔館ごと叩くだけだわ」

「そうだよな霊夢!それしかないなら押し通すだけだぜ!」

「…まあ、霊夢らしいけれど。

無策で紅魔館に向かったところで無駄足よ?豹が戦闘ではなく逃走を優先した場合、霊夢と魔理沙だけで捕まえられるのかしら?」

「捕まえなければならんのだ。私の失態も大きいからな、紫が動かずとも私が全面的に協力するさ」

「時間もあまりないようだしねえ。使える戦力はフル活用して動くだけだよ」

 

―――このあたりは流石の霊夢。天性の他者を惹き付ける魅力…人妖神問わず発揮される得難い能力。あの隠岐奈ですら霊夢に助力することに何の疑問も持てずにいる。歴代の博麗の巫女と比べても、群を抜いて異質な霊夢の魅力があるからこそ…スペルカードルールに則った異変とその解決で幻想郷と妖怪は維持できている。

 

ただ一人、博麗の巫女と距離を置くことを徹底していた豹だけが…スペルカードルールで安定していた幻想郷から弾かれてしまった。その豹を幻想郷に留めたい妹たちによって、幻想郷の平穏が崩れようとしている…豹自身は、幻想郷の内乱なんて望んでいないのに。

 

ここまで事態を悪化させてしまった責任は私にもある。だからこそ、止められなくとも内乱の規模は小さくしなければならないわ。そのためには、使えるモノは片っ端から使い倒さないとね。

 

「戦力をフル活用ね…簡単に言っているけれど、早速豹の味方に付いている部下がいる勢力もあるわよ?

こんな様で共闘が出来るのかしら?霊夢を後ろから撃つような勢力を参戦させるわけにはいかないわよ」

「…は?何を言ってるのよ」

「勘頼りでどうにかなってしまうから重要視できないのも理解はできるけれど、少しは探査・索敵系統の術も習得してもらいたいわね…

霍青娥が紅魔館で待機しているわ。仙界は何処の味方をするつもりなのかしら?」

「「はあっ!?」」

「…把握できていたか。まったく、青娥がここまで執着するとはな…魔界だけではなく豹とやらも甘く見過ぎていたのは認めざるを得ん」

 

霍青娥の動向を把握できていなかった霊夢と魔理沙が揃って豊聡耳神子に視線を向ける。

少しでも参戦する戦力を削ぎ落す…そのためにまず利用するべきはあの邪仙。星熊勇儀がこの短時間でどうやって紅魔館の豹に合流出来たのか、その答えが彼女。隠岐奈は策謀を嫌う星熊勇儀にこの会談を聞かせれば、立腹した彼女が暴れて無駄な戦力消耗になると踏んだのでしょうけれど。結果的に豹の戦力強化に繋がる判断ミスになっていたわ。

 

あの私欲を優先する邪仙の行動は、読みやすいようで読み辛い。何故ならその思考や倫理観が人間どころか妖怪と比べても異質…彼女の常識は彼女自身にしか量れないのだから。現に今、隠岐奈だけでなく霍青娥を傘下に置く豊聡耳神子ですら想定外の行動を起こしている。

 

「博麗の巫女の支援者として、離反の危険性がある戦力を同行させるわけにはいかないわ。仙界がこの件に介入するのであれば、八雲でそれを阻止させてもらうわよ」

「その判断は早計だな。奴の行動は独断であろう?

仙界が私と協力体制にあることに違いはない、それを不服とした霍青娥個人が投降した…手土産に星熊勇儀を連れて、だ。今の状況であれば豹の支援に回ったかの邪仙を粛清するために参戦させるべきさ。今の状況で奴を擁護するとは言わぬな、豊聡耳神子よ?」

「うむ…切るのは惜しい人材ではあるが、この状況で命令無視された以上は潮時か。

霍青娥の粛清は我々が請け負う。それを果たすまでは博麗の巫女と全面的に協調することを誓約しよう」

「なに、心配は要らんよ紫。私にも負い目は十分ある…この件で博麗の巫女を失う結果にはしないさ。

少なくとも、あの邪仙よりはこの場にいる豊聡耳神子の方が信用できるであろう?それこそ危険分子でしかない霍青娥の処分を任せられるのだ。共闘を断る理由が無い」

「……妙な動きを見せたら八雲が介入する。それを隠岐奈が妨害しないという条件付きなら妥協しましょう」

「構わんよ。霍青娥と違い、現状で優先すべきことを間違えるほど彼女は愚かではないさ」

 

…まあ、こうなるわよね。霍青娥一人のために仙界が妥協するはずもない…結局は豊聡耳神子も霍青娥を制御できなかったということ。逆にこれで踏ん切りがついたと見た方がいい、か。

豹の援護にはならなかったけれど、魅魔と魔理沙に疑心暗鬼を生じさせただけ無意味じゃないわ。今のやり取りにおいて保障されたのは霊夢の安全だけ―――魔理沙の処遇に関しては隠岐奈も豊聡耳神子も何一つ言葉に出していない。それは、両者が()()()()()()()()()()()()という手段を残したということ。

 

己の立場を理解しきれていない魔理沙はともかく、魅魔はここも考えに入れて動く必要が出て来る。魅魔個人でも戦局を大きく動かせるのだから、友軍が信用し切れない状態に追い込めたのは大きい…魔理沙を切り捨てられない有力者は、この場において霊夢と魅魔だけなのだから。

要するに、魔理沙は霊夢もしくは魅魔がフォローに回れる位置で動かさざるを得なくなる。それでいて霊夢と魔理沙は先走りやすい面があるのだから、魅魔の動きは相当制限されるわ。これだけでも豹はだいぶ対応が楽になるはず。

 

「それじゃ次の問題だけれど、レミリアは独自ルートで魔界と異界間取引を行っているわ。そこを利用すれば直接魔界に豹を送れるのだけれど、それはどうやって阻止するつもりかしら?」

「なんですって!!」

「待ちなさい八雲紫、貴方は何故それを伏せていたのですか!?」

「茨華仙も閻魔様も情報収集不足ですわ。そもそも紅魔館の図書館において下級悪魔が使役されている時点で、魔界と繋がりがあることは予測できるはずですが?

実際、隠岐奈はこの闇取引に関しては把握していたわよ。その上であんな強硬策を取って最悪の事態を招いているけれど」

「「…っ!」」

 

これはかなり意地の悪い後出しだけれど、隠岐奈への不信感を煽れるからこのタイミングで私から開示する。相互不干渉の建前がある以上、閻魔様に関しては仕方ない部分はある。けれど華扇に対しては完全に情報収集を怠ったことを自覚させると同時に、ここを察知しながら実力行使に出た隠岐奈の判断は悪手だって理解させられるわ。

 

星熊勇儀と古明地こいしが参戦した以上、閻魔様を相互不干渉違反で押し切るのはほぼ不可能。それならせめて華扇だけでも中立を維持させたいわ。何よりこの一件における私最大の失策、萃香の独断専行をフォローするためにも華扇は戦闘に巻き込みたくない。博麗神社に戻るより飲酒による回復を優先している以上、萃香はもう誰の指示も聞かずに動く―――おそらくは豹か麟、幻月もしくはサリエルに報復するでしょう。

 

その場合麟を真っ先に狙われると援護が難しくなるわ。何故なら豹の戦力でも麟の存在を忘れずに記憶できるのは豹本人とレミリア、ルナサだけ。そして豹が麟に入れ込んでいるのを理解できている隠岐奈側の戦力は魅魔だけでしょう。この4人が援護に向かえない状況で、麟が萃香に襲われてはまず逃げ切れない…そしてあれだけコケにされた萃香が二度も麟を見逃すことは無い。

 

萃香が麟を殺してしまえば豹が幻想郷を完全に見捨ててしまう…それを避けるための保険として華扇は萃香の抑えに回ってもらいたいわ。何より華扇が()()()()()()()()()()()()()()()となれば、今の状況で単独行動している萃香に協力を求めるべく動かざるを得なくなる。そうすればむやみに犠牲者を出すと取り返しがつかなくなると理解できている華扇が最悪の事態は避けてくれるはず。

 

…そう考えた上での発言だったのだけれど。意外な方向から論破されてしまったわ。

 

「今の状況で豹が魔界に帰る選択は取らないと思うわよ」

「へー?巻き込まれただけのあんたがどうしてそんなこと言えるのかな?」

「巻き込まれた私たちに対しても交渉を持ちかけて来たからよ。

あんたら【幻想郷の管理者同士の対立】の詳細を何も隠さずに妹紅とユキの方から提供して来た。それって、豹はこの期に及んでも幻想郷の内乱を助長しないように動こうとしてたわけじゃない。それだけ未練がましい男があっさり魔界に帰るはずがないわ。そうじゃなきゃ、ユキって妹と再会した時点で魔界に帰ってるのが自然よ。

つまり、豹はまだ魔界に帰れない理由があるってこと。それが何なのかそこのスキマ妖怪に聞きたいわねえ?」

「…豹が魔界に帰れない理由は、『神綺様はまだ俺を処刑する覚悟が出来ていない』からだそうよ。

豹の処刑を求めているのは、魔界人では豹本人だけ。それをユキからあらためて突き付けられた結果が、幻想郷での逃亡生活を続けた理由。私には理解できない、豹の矜持よ」

「うっわ、何よそれ。面倒臭い男ね…なんでそんなのがあれだけの人数に慕われてるのかしら」

「豹が皆にとって頼りになる【兄】だったから。それだけだ」

「八雲紫だけでなく八雲藍まで、ここまで入れ込んでいましたか。

本当に、厄介が過ぎる存在だったのですね…!相互不干渉の遵守も問題ありということを、今更になって理解させられるとは」

 

…月の姫も永く生きているだけあって侮れないわね。洩矢諏訪子の疑問に答える形で語った内容、それは僅かな情報だけで豹の性格と行動指針を推測して正解に辿り着いている。それに対し私と藍が返答したことで閻魔様が珍しく後悔しているわ…閻魔様の性格だと豹の追放に動くだろうから詳細は伏せていたけれど、案の定だったようね。

閻魔様が隠岐奈側に回るのは避けられない、でもその過程で星熊勇儀を豹の増援に加えられただけでも良しとするべきね。

 

…後は、隠岐奈どころか私ですら想定外の厄介者で牽制するのが精一杯かしら。

 

「…まあ、豹から魔界に帰る可能性が低いことは否定しないでおくわ。

最後に、これが最大の問題だけれど。古明地こいしが豹に協力した…そして今、紅魔館に集まった戦力と彼女を組ませることが出来る。

例えば、フランドール・スカーレットやサリエルを無意識に隠して先手を打たれた場合。意識外から致命傷を与えて来る可能性があるのだけれど、それを許容した上で紅魔館襲撃に踏み切れるのかしら?」

 

―――ここに来てようやく、隠岐奈が表情を歪めたわ。




次は18(火)までには更新します。
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