「―――って流れになるのが理想だ。相手の出方による微調整はサリエル様かレミリアが付けてくれる」
「ご迷惑をおかけしますが、どうかよろしくお願いします…!」
「ええ、任せなさい。今の私ならそれなりに対処できるわ」
戦力配分を終えて間もなく、フランドールが紅魔館ロビーに戻って来てくれたためその場で説明出来た。なので続けてレティに確認を取り、麟本人とも問題なく付き合ってくれることを確認し終える。
「それじゃ、小細工を仕掛けるか…
《降り積もりし雪よ。仮初めの生命で再び舞い踊れ》」
俺がアリスと直接会話する事実は絶対に知られてはならない。そのために解放した魔力を完全には隠さず実力者であれば探知できるようにしておいたのだ。上海もアリスの元へ帰す以上、俺が動いていないと誤認させる反応が必要になる。
「すごーい!こんなことも出来るんだね豹!」
「逃走中の足止めに多用する方法だからな、それなりに使い慣れてる魔法だ。もっとも、戦力にはならないが…レティ、この俺に模した雪のゴーレムを紅魔館敷地内で上手く雪景色に紛れ込ませられるか?」
「お安い御用よ。豹が戻ってくるまでの囮として、この屋敷から離れていないように隠せばいいのよね?」
「その通りだ。なるべく時間を掛けずに戻ってくるつもりだが…博麗神社と輝針城の戦力が向かって来ちまったらさっき言ったように、サリエル様とレミリアの指揮に従ってくれ」
「わかったわ」
「よし、ならこの場でコイツのコントロールを移すぞ。レティ、手を出してくれるか?」
「こうでいいのかしら」
差し出されたレティの手の甲へ、創造した
「…もしかして、豹さんって恋愛小説とか読んだりするんですか?」
「そこまで飛躍するような行動かこれ?まあ、護衛というより騎士の方がしっくりくるのは事実だろうが…神綺様にも何度かやってるんだがな」
「豹?私が言うのもアレだけど、少し自重するってことも覚えた方がいいよ?
こういうこと平気でやっちゃって、コロッと落としちゃった娘たくさんいるんじゃない?」
「ホントこいしに自重しろとは言われたくねえよ!まあ能力的にこいしは仕方ない面もあるんだろうが、地底妖怪の中でも屈指の問題児ってことぐらい自覚してるよなぁ!?」
「いや、これに関してはこの子の方が正しいわよ。豹はもう少し自分のことを省みて行動するべきだわ…どれだけの乙女心を弄んできたのかしら?」
「否定はしないが反省してる時間なんぞ無い、今はな。全て終わってからにしてくれそういうのは」
麟の感想からこいしのツッコミに繋がりレティにジト目を向けられる。言いたいことを理解できてないわけじゃないが、今の状況を考えてくれ…
「それじゃ、俺は上海達とアリスを説得して来る。こいし、頼むぜ」
「はーい!えっと、無意識に隠すのは豹と私だけでいいのね?」
「ああ、上海とゴリアテは移動を察知された方がいい。誰も把握できないままアリスの家に移動しちまうと、俺が使者として送ったで押し切って来るだろうが…上海とゴリアテだけで帰るように偽装すれば【アリスが人形を強制支配して連れ戻した】でこっちも押し通せる。どっちも確証がない以上、可能性が二つ出れば押し切れないってワケだ」
「そうですね、私とご主人様の関係からも否定できる要素がありません。
私とゴリアテちゃんが先行して、気付くことは出来なくても豹さんとこいしさんが付いてきてくれるということですよね?」
「そうだ。もし上海とゴリアテを狙って動かれた場合は、青娥がメディスンと何人かを増援に送ることになってる。その場合は俺とこいしが先行してアリスの家に向かって玄関先で待機するから、上海とゴリアテは増援と合流して迎撃してくれ。今の状況で戦力を無駄に消耗させてまで上海とゴリアテを確保する意味は薄いからな…動かれても深追いはしてこないだろう」
「わかりました!
では行きましょう、ゴリアテちゃん!」
\ハーイ!/
さあ…
「―――要するに、地上の管理者が引き起こした人災の尻拭いをしろ、ですか。
自分の尻ぐらい自分で拭いてください」
地霊殿から拉致して最低限の状況を説明し終えると、開口一番にこれ。相変わらずこの覚妖怪は言い方が腹立たしいわね…もっとも、寝起きを問答無用でスキマ送りした私じゃなく隠岐奈に向けて言うあたり、彼女の中では隠岐奈の方が悪いと判断したということ。そういう意味ではまだ救いはある…客観的に見て豹との激突は避けるべきと古明地さとりが考えたのであれば、少なくとも先に手を回せればこれ以上豹の敵が増えることは無いわ。その時間の余裕があればだけれど。
「人災まで処理しろとは言っておらんぞ?厄介者の妹を引き取って来いというだけだ。
そもそも奴の管理不行き届きを我々は今まで見逃して来たのだ。制御出来ないのであれば粛清するまでだが?」
「それが出来ないから私をこんなところに引き摺り出したのでしょう?こいしを粛清したいなら勝手にすればいいわ、不可能だから」
「…相変わらずムカつくわね、こいつ」
「それは私の台詞です。豹とやらと私は無関係、相互不干渉違反を遵守している私が地上に助力するのは問題でしょう?
ああ閻魔様、貴方が特例と認めてもお断りですよ。そもそもこいしが興味を持った原因は、豹について閻魔様が勇儀さんの耳に入れたからです。私に責任を押し付けないでください」
「…内心を読むことで私に正論を吐き不愉快にさせるのは貴方ぐらいです。ですが、今回に限っては理不尽でも命令に従ってもらいます」
「とりあえず動けなくならない程度に痛めつけりゃいいのかい?」
「………魅魔さんも相変わらずですね。弟子が随分と大切なようで。
まったく、これだけ有力者を集めてこいし一人に振り回されるなんて。これだから地上と関わりたくないんです」
「ですがもう理解しましたね?この状況で拒否権はありません。魅魔の言う通り力尽くでも手を貸してもらいますよ」
まあ口では文句タラタラだけど、今博麗神社に集まった面々を相手に要求を拒否するのは不可能ということは理解してるようね。表情に諦めが出ているわ…覚妖怪一人がこれだけの戦力を相手にしては、勝つどころか逃げ切ることすら不可能。ただし無条件で従うのも癪だから、覚妖怪の本分を果たすことを優先したのでしょう。
「こいしを連れ帰れと言われてもね。
先に言わせてもらうわ。私が行ったところでこいしが豹の元を離れることは無い…こいしにとって豹は運命の相手だそうよ。なにしろ地霊殿に連れ帰る許可を取りに一度帰って来てるぐらいなのだから」
「はあ?運命の相手だあ?」
「…心の中の疑問そのままな問いね。ただ、八雲紫と九尾は内心で納得しているということはこいしがああなった理由を知っているわね?ああ、しっかり言葉に出して全員に教えなさい。どうせ豹の確保のためには必要な情報でしょう?そこの欲望を捨てていない仙人も内心を読んでいるようですし、隠す意味は無いはずですよ」
…豹はあの古明地こいしに対しても相変わらずだったようね。あの無意識に飲まれることすらある彼女に運命なんて言葉を使うほど執着させるなんて…まあ、こうなる気はしてたから意図的に豹と古明地こいしが鉢合わせることは無いようにしていたのだけれど。
古明地さとりの溜飲を下げるためにも、ハッキリさせておきましょうか。豹の強さの一端を明かすことになるけれど…知られたところで対策を打てるわけではない能力だから、被害は最小限。そもそも軽く射命丸が情報として提供しているしね。
「豹が絶大な精神守護能力の持ち主だからよ。幻想郷風に名付けるのならば、《精神的な影響を受けない程度の能力》といったところかしら。
簡単に言ってしまえば、豹には肉体的な攻撃しか通用しないという事よ。貴方や仙人の読心能力や、地底の橋姫のような精神干渉系の能力、夢の世界を支配する獏の夢への干渉能力といった【肉体に作用しない事象】は豹に全く効かないわ。私の境界を操る程度の能力でさえ、豹を相手に使用するには相当な制限がかかる程の強力な能力よ」
「我々八雲の関係者の他にも豹の精神守護能力を把握している者はいる…先程射命丸が開示したように、飯綱丸様とその従者も知っていたようにな。
そして、豹自身から説明されていたからこそ…古明地こいしが豹に執着したのも理解できる」
「古明地こいしの能力も、【他者の無意識を操る】のだから精神干渉系能力に分類されるわ。それを理解していたからこそ、私は豹を彼女に対する切り札として扱えた。無意識に飲まれ制御不能に陥っても、豹なら古明地こいしを止められるのだから。
これで姉として、古明地こいしが豹に執着することを理解できるわね?」
「…ええ、知ったことでますますこいしを連れ帰ることが不可能な理由が増えましたよ。本当になんでこんな面倒なことに…!」
「こいしが豹を見つけちゃったからでしょ。まさかここまでこいしの能力を有効活用できるとは思わなかったけどねー」
「地霊殿から連れ出して行った諏訪子さんには言われたくないですが。ああそこの烏天狗、記事にして構わないから紅魔館に突撃してきなさい」
「っ!?いやはや相変わらず嫌な能力ですな。いくら私でも今の紅魔館に単独突撃取材は行えませんよ。空間系能力持ちも数名いるせいで、逃げ切れる確信が持てませんからねえ」
「役に立たない記者ね。
…これで他の方々も理解できたでしょう?こいしにとって豹は執着する価値がある相手なのよ。姉である私ですらこいしの《無意識を操る程度の能力》を使われたらこいしを見失う。でも豹は能力を使ってもこいしを見つけられる…完全制御出来ていないせいで孤独から逃れられないこいしにとって、豹は何よりも価値のある存在なのよ。私よりもずっと必要な相手だってことを、本能的に理解したんだわ…それが無意識であったとしても、ね」
「だ、そうよ?私は豹と長い付き合いだから、豹が古明地こいしと接触した時点でこうなることは予測していた…だからこそ紅魔館襲撃は非効率だと言い切れる。なにしろ紅魔館へ戦力を差し向けた時点で、豹がこいしと一緒に脱出すれば私達の誰一人として豹とこいしを捕捉できなくなるのだから。これでも神綺が来る前に豹を確保することを優先するべきなのかしら?」
流石に姉だけあって、古明地さとりの推測は私とほぼ同じだったわ。古明地こいしからすれば、豹は全てにおいて優先する価値がある…無意識に支配されても豹なら救い出せるのだから。運命の相手という表現も、状況からすれば間違っていない評価なのでしょう。
加えて言えば、豹も彼女とある程度会話してしまえば兄として救おうとしてしまう。当然のように私と藍で一致した見解…古明地こいしの方から救いを求めてしまった時点で豹は見捨てられなくなる。そういう性分だからこそ、隠棲とは名ばかりの交友関係を得ていたのだから。
「…この覚妖怪を使者として派遣すること自体も考えものではないか?それこそ同行者を手土産に投降しかねんだろう」
「私もそこの仙人と同意見ね。この状況であんたら側に付くメリットがこいつにはないもの。
利用するんなら素直に戦力にする方がいいんじゃない?」
「それこそ姉を人質にして紅魔館に妹の引き渡しを求める方が合理的じゃないかねえ?」
「好き勝手言ってくれるわね…どいつもこいつもなんの対策も無しにこいしを敵に回すんじゃないわよ」
豊聡耳神子の意見に蓬莱山輝夜が賛同し魅魔が別意見を出す。ここまで説明しても紅魔館襲撃を断念する気は無い、と。
魅魔と蓬莱山輝夜はともかく、豊聡耳神子も予想より敵意が強い…開示された情報から推測すると、夢子に不興を買わせたってところかしら?豹自身は霍青娥以外の仙界の面々とは接点が無い、それなのにこの敵意の理由を考えると、夢子を通して魔界の脅威を実感したぐらいしか思い当たらないわ。
「どっちでも変わらないわよ、豹を捕まえるために紅魔館へ向かわなきゃならないのは変えられないんだから。
だからさっさと対策を出しなさい。作戦面はあんたの管轄でしょ?」
「まあ、そうだけれど。
…古明地さとりがこの体たらくでは粛清致し方なし。だが対策が無いのよね」
「なんじゃそりゃ!頼りにならねえ神だな!?」
「仕方なかろう、古明地こいしが大人しく豹の指揮下に入るなど誰が予想できた?
無意識に振り回されて集団行動が長続きしないというのが大前提だったのだ。それが根本的にひっくり返るなど、予想できるはずもあるまい」
「私と藍は予測してたのだけれど?
だから最初に言ったのよ、豹に余計な手出しをしないでと」
流石の隠岐奈も今の状況で私に反論はできないようね。言い返さず黙殺を返してきたわ。
…このまま時間を稼ぐしかないわ。今となっては、私も豹も神綺を当てにせざるを得ないのだから。
次は22(土)までには更新します。