寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第256話 ひさしぶりとはじめまして

―――結局、博麗神社の面々は動かなかったわ。おそらく豹への対処をまだ統一できず、各勢力で牽制し合うことで独断専行を止めているのでしょう。少なくとも八雲紫と摩多羅隠岐奈が博麗神社に同席している限りは、先手を打たれる可能性は低い…この点がハッキリしたのも大きいわね。

 

だから蓬莱を玄関先まで迎えに出して、上海とゴリアテを家に入れたのだけれど。予想よりもだいぶ早く上海が戻って来た理由に驚愕させられることになったわ。

 

「お待たせしました、ご主人様!」

「思ってたよりは早かったわ。随分あっさり作戦会議が済んだみたいじゃない」

「最終目的がはっきりした豹さんが即断即決してくれまして、それに反対意見がほとんどありませんでしたので。

…詳しくは、豹さんから直接お願いします」

「―――久しぶり、それと初めましてだ。

 一人一人と時間を取って話すべきなのは理解してるが、まずは俺の作戦を聞いてくれ」

「「「「「「っ!!?」」」」」」

 

上海がその言葉を告げると同時に、鴉羽色の帽子を被った覚妖怪と金髪長身の男が…突如姿を現す。

これには私だけでなく、私の家にいた全員…夢子と袿姫すら驚愕していたわ。

 

 

 

「兄さん!?」「先輩!?」「ヒョウさん!?」

 

ユキ・夢子・ルビーがほぼ同時に反応を返してきた。こいしの能力は本当に凄まじいな…!夢子にすら全く察知されずここまで至近距離に接近できるとは。俺の味方に回ってくれたのはこれ以上ない幸運だな。

だが、まずは謝罪からだ。

 

「夢子、ルビー…すまない、結局俺はまた魔界に迷惑をかけちまった」

「っ、そんなことは…!」

「ヒョウさんは何も悪くありません!少なくとも、魔界と幻想郷に関しては!」

「ありがとな。幻想郷を強く敵視しないでくれてるのは助かる。

だが、魔界に関しては俺が悪い。山ほどあるだろう言いたいことも全て受け止める…時間を作り次第な。

もう俺は魔界から逃げない。だから今は何も言わずに力を貸してくれ…!必ず夢子とルビーともケリが付き次第サシで話をする」

 

俺が何を言おうが、魔界に関しては言い訳にしかならない。だから俺からは何も言わず、ただ頭を下げる―――今の状況なら、後で時間を作るという口約束だけでも絶大な効果がある。直接魔界まで出向いてくれたルナサたちのおかげで、神綺様だけでなく夢子とルビーもまだ俺に未練があることを確認できているのだから。

皆の好意を悪用する形になるが、クズムーブは最早今更だ。躊躇いなく利用しなきゃ、俺の理想形には持っていけなくなってるんだからな。

 

「…ここまで待ったんです。先輩を信じます」

「私はヒョウさんの力になるためにここにいます。頭なんて下げないでください」

「本当にすまない、恩に着る」

「兄さんは相変わらずだねホント。このタイミングで直接話しに来るなんて」

「ええ、驚いたわよ…こいしの能力は本当に規格外なのね」

「話には聞いていたが、これ程とはな…地霊殿とやらが規模の割に随分と恐れられているのは、ちゃんとした理由があったってわけだねえ」

「袿姫様すら察知できないなんて…本当に、この先は決して油断してはならない戦場になるようですね…!」

「うん!そうなりそうだから、おねーさんたちも一緒に豹を手伝ってくれると嬉しいな♪」

 

そして、俺にとっては初めましての3人はこいしの能力の方に驚愕していた。それは俺以上にこいしの方がより脅威となる存在だと認識しているということ―――つまりこいしを指揮下に置いている限り俺と敵対することは避けようとするはず。本当に、こいしには助けられてるな…!

 

「軽く自己紹介しておこう…俺がかつて神綺様の護衛を務めていたヒョウだ。紫さんまで裏切ってしまった以上、八雲の隠者として貰った名である豹はもう名乗れない。魔界と幻想郷どちらにとっても爆弾のような厄介者だが、どちらの世界も滅ぼしたくない。初対面で頼むようなことじゃないが、どうか力を貸してくれ…!」

 

それを理解できたからこそ、先に俺からアリスと埴安神袿姫、杖刀偶磨弓に対し頭を下げる。こいしの能力を敵として使うことは無いとハッキリさせるために、俺から助力を請う形で交渉するのだ。

俺は結局護衛でしかない…アリスにも埴安神袿姫にも【負けないことは出来ても、勝つことは絶対に出来ない】のだから。

 

「ええ、私としても魔界と幻想郷の全面戦争は起こすわけにはいかないわ。貴方とは初対面だけれど、この一週間で色々と聞かせてもらったからこの一点に関しては信用できる…私から協力を頼みたいぐらいよ。

ま、落ち着いたら夢子やルビーだけじゃなく私にも時間を割いてもらうけれどね?上海のことだけじゃなく、魔界や魔法に関しても聞きたいことはいくらでもあるから」

「ああ、上海に好き勝手しちまったからな。謝罪も含めて君との時間も作ろう…

 俺としても、神綺様が後継者として見込んだ君とは話をしてみたかったからな」

「…先輩は、本当に先輩のままですね。アリスのことまで正確に見抜いてしまうなんて」

「ははっ、やっぱりそうなのかい。神綺が私の所へ直々に出向いたのはこれも理由だったわけだ」

「…ちょっと待ちなさい。後継者って、何の話よ?」

 

ああ、神綺様は直接伝えてないのか。

…そりゃそうだよな。魔界神なんて重責を背負わせることを、宿命として決め付けるのは神綺様自身が一番避けたいはずだ。夢子どころか埴安神袿姫も俺と同じ見方だった以上、隠してはいないみたいだが…最初に口に出した俺がフォローしておかないとな。

 

「魔法使いではなく人形遣いとして研鑽を積み、上海のような自立人形を製作する―――これは神綺様が得意としながら、魔界人(子供達)に受け継がせることが無かった【創造魔法】に通ずる。魔力だけで生命を創り出す最大の禁呪…創世神である神綺様だからこそ、責任や重圧・悪用を考慮し誰一人として伝授することのなかった禁忌中の禁忌。

…人形遣いである君なら、そもそも人形遣いに適性のある魔界人が人口に対し少ないことは知っているよな?」

「もちろん、それこそ魔界から離れて幻想郷で研究を続けている理由の一つでもあるわ。それと私のことはアリスで構わないわよ」

「そうか、ならアリスと呼ばせてもらう。

魔界人に人形遣いとしての適性を持つ存在が少ないのは当然のことで、【神綺様が創造した生粋の魔界人】で人形遣いとしての適性を持ち合わせていたのはごく少数なのが理由になる。少なくとも俺が知る限りでは、俺と夢子を加えても10人に届かなかったはず…俺が魔界を離れてから増えているかもしれないが」

「ううん、神綺様は兄さんがいなくなってからますます創造魔法に関して禁忌化したから増えてないよ。まだまだ使い手を増やすには、私も魔界も未熟すぎるって」

「神綺様も変わってないんだな…

まあ、神綺様の持論がこれだ。『創造魔法の使い手を簡単に増やすのも危険』…こう考えているからこそ、人形の自立化という創造魔法の足掛かりとなる魔術技能に関して《生まれつき適正がある》魔界人(子供達)を創造することは少なかった。

創造魔法を習得しようとするのであれば、適正なんてものに頼るな―――それぐらい乗り越えられなければ、生命を創造する資格なんて無い。そういうことなんだろう」

「…そうね、母さんらしい考え方だとは思う。でもそれがどう後継者なんて単語と結びつくのよ?」

「夢子が俺と同じ考えだった以上、ほぼ確信してるんだが…アリスは神綺様から教わるまでもなく()()()()人形遣いとしての魔法技能を習得しただろ?」

「っ!?なんでわかるのよ?」

「俺からすると【神綺様直々に幻想郷に乗り込んでくる理由】として一番納得できる答えだからだ。

創造魔法の使い手としての後継者…そう見込んでいる娘であれば定期的に異界間移動するほど過保護になってもおかしくない。決め手になったのは上海と直接相対して、アリスの人形遣いとしての力量を理解したこと…神綺様が自分から人形遣いの魔術技能を伝授することは滅多に無い、だが上海の自立意識は神綺様が直々に関わったとしか思えないレベルだった。

この事実を無理なく整合させられる理由は、『神綺様はアリスを創造魔法の後継者として見ている』ぐらいしかない…少なくとも、俺が知る限りの情報ではこう結論付けられた。そして、神綺様がそこまで見込むほどの才能なら…独学で人形遣いとしての魔術技能を身に付けたってのがしっくりくるってワケだ」

「豹さんはあの時点で私のことをそこまで評価してくれていたんですね…びっくりです」

「兄さんは本当に兄さんのままだね。神綺様のことも、一緒に居てくれたころと変わらずに見てくれてる」

「はい…ヒョウさんは今でも変わらず、ヒョウさんのままです」

「全く成長出来てないとも言えるんだけどな。

まあ、後継者ってのはこういう意味だ。神綺様の創造魔法に対する扱いからして、アリスも納得できるんじゃないか?」

「…そうね、特別扱いされてる自覚はあったけれど。こうして第三者から指摘されたのは初めてだわ。

夢子もユキも知ってて口にしなかったわけ?」

「それはそうでしょ。こんな重い責任をアリスに押し付ける気は無いし」

「神綺様もアリスが嫌がったら無理強いはしないわ。隠居したがってるからだいぶ期待はされてるでしょうけど、魔界神(母親)として魔界人()の未来を決めてしまうことは避けたがるから。

アリスが後継者としての道を選ばない限り、神綺様から伝授しようとすることは無いわ」

「そうね、過保護だけど強制は絶対にしないのが母さんだわ」

 

俺の予測をユキと夢子が補足する。反応を見る限り、アリスもある程度受け入れてはいるみたいだな。

これ以上は俺が口を出すべきじゃないだろう。それに今優先すべきことでもない…アリスはユキや夢子の口添えなしでも共闘してくれる、それだけで十分だ。

なら、次に俺が為すべきは。

 

「埴安神袿姫様、ですね。力を貸して頂けるのでしょうか?」

「ああ、そんな堅苦しくしないで構わないよ。アリスや夢子達と同じように話す方がやりやすいだろう?

それにここに出向くまででも中々面白い話を聞かせてもらったからねえ。神綺からも頼まれたし当てにしてくれていいよ。最初からそのつもりで磨弓も連れて来てるし」

「はい、袿姫様の思う通りに私も協力します」

「ありがとうございます。

―――それじゃ、紅魔館で立てて来た作戦を聞いてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それで結局、私も呼び出されたわけね」

「そこまで嫌な顔しないでよ。永琳だって面白くないとは思ってるんでしょう?」

 

結局、アリスの人形が帰り着くまでに方針を統一できなかった隠岐奈は後戸で八意永琳を博麗神社まで連れて来たわ。私が予想していたより不満気な表情を見せているあたり、八意永琳自身は魔界との取引を優先したかったようね。

…もっとも、八意永琳が知恵を貸すだけの状況にはなっていたのだけれど。

 

「私の心情とは別に、輝夜をそのまま前線に出すのは避けたいわね。無意識に潜む覚妖怪…サリエルと組まれて輝夜を狙われるのは困るもの」

「ほう、ならば知恵を貸してもらえるな?」

「先に条件を出させてもらうわ。

ウドンゲと鈴瑚・清蘭を解放しなさい。私を使おうと言うのなら手駒を奪う必要は無いはずよ」

「いいだろう、ただしこの会議に参加させるのは認めん」

「は?どうしてよ!?」

「異変解決に動いた経験のある玉兎はともかく、月に戻るという選択肢がある玉兎に幻想郷の内情を聞かせる必要は無いわ。少しは自分の立場を客観視しなさいな、蓬莱山輝夜」

「っ!

…わかったわよ、永琳もそれでいいの?」

「妥協はしてもらうわ、ウドンゲはここに連れてきなさい。豹の協力者と直接交戦した一人なのだから、情報源としても価値があるはずよ」

「…致し方あるまい。

紫、口を挟んだ以上認めるのだな?」

「少なくとも橙の安全がこれで保障されるわ。私にとっても悪くない話よ」

「そうか、ならば私が連れ帰ろう。

…残りの玉兎は永遠亭に放り出しておけばいいのだな?」

「そこまで私が視認させてもらうわ。余計なことをさせない監視も含めてね」

「月の頭脳ともあろう者が随分と慎重だな。

まあ、それだけ私を危険視しているのは悪くないが」

 

そう返して隠岐奈が再度八意永琳を連れて後戸に去ってゆく。流石の隠岐奈も今の状況で橙を始末することは無い…八雲を完全に敵に回すのは幻想郷の維持の観点から避けたがっているのだから。

 

(結局、八意永琳は蓬莱山輝夜しか見ていない。魔界との取引を反故にすることで幻想郷と魔界の対立が深まることなんて気にしない、か)

「そういう存在を受け入れた貴方にも非はあるでしょう」

 

…わかってるわよ、それぐらい。いちいち内心に突っ込まなくていいわ、古明地さとり。




ここ一週間副作用らしき呑酸が私生活に影響を与えるレベルで酷く、収まらないようだと更新が不定期になるかもしれません。
週一更新は維持するよう頑張りますが、厳しくなってしまったら活動報告でお伝えします。
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