「―――という形に着地させるのが俺の理想だ。ここまでで何か質問はあるだろうか?」
手短に俺の方針…【神綺様に俺を捕縛してもらう】ことと【紫さんに功績を立てさせる】というこの二点を説明しユキ達に問う。この方針自体に反対されると大幅に軌道修正しなきゃならなくなるため、真っ先に確認しなきゃならないところだ。だが特に不満は無いようで。
「先輩の考え通りに動くべきですね。魔界と幻想郷の外交関係を現状維持で貫くためには、それがベストでしょう」
「うん、兄さんが帰って来てくれるなら魔界はなんとかできる。それなら幻想郷も変わらない方が神綺様も対応しやすいもんね」
「ま、そのあたりは私には関係ないからねえ。神綺と夢子に任せればいいよ」
「そうね、外交問題に関して私に発言力は無いから当事者に任せるしかないわ。母さんと夢子と豹がやりやすいようにすればいい、この方針で構わないわよ」
作戦通り話を進めて問題ないようだ。本当に、俺は妹に恵まれている。
「わかった。最終目的であるこの2点は問題なく果たせる…幻月と夢月のおかげでな。だが今紅魔館に集まってくれた皆の中で最高戦力になる夢幻姉妹を敵じゃない八雲にぶつける以上、博麗神社に集まった連中に手を組まれて総攻撃されると個人は守り切れなくなる」
「…誰か一人でも囚われてしまうと、人質として扱われてしまうということですね」
「その通りだルビー。サリエル様が堂々と幻想郷に姿を現してしまった以上、博麗の巫女や摩多羅隠岐奈も手段を選べなくなってる。そして俺が妹に甘いのはとっくに知られてるからな…俺を引き摺り出すために弱い相手を人質として狙う可能性はかなり高い。少なくとも俺の排除が最優先事項の摩多羅隠岐奈に随分とご立腹らしい月の姫、余裕がない以上効率を最優先するだろう地獄の閻魔あたりは躊躇なく人質を使っての脅迫をしてくるだろうさ。
それを防ぐために、敵戦力を分散させた上でこちらの被害を最小限にする迎撃態勢を整えなきゃならねえ。加えて取引を無視してきた月の姫は、
「そういうこと…豹が求める結果は敵の殲滅ではなく味方の保護。被害を抑えるために敵を選ぶってわけね。いいわよ、攻撃に出ろって言われたら迷ったでしょうけど、ピンポイントで迎撃に出るだけなら問題無いわ」
「私もそれで構わないよ。なにしろ地上の住人なんてごく少数としか面識が無いからねえ…何処の誰を相手すればいいのかを決めてくれるのはむしろ助かるさ」
「ありがとうございます。
袿姫様は太陽の畑のフラワーマスター・風見幽香を抑えてもらえませんか?従者の磨弓も同行してもらって構いません…彼女は俺たちにとっても敵側にとっても最大の爆弾。かつて魔界で遊びと称して大量虐殺を行った極悪非道な大妖怪―――幻想郷の管理者相手にも単独で渡り合える強者です。
彼女にユキ達魔界人が攻撃されれば魔界の怨嗟を抑え切れなくなる…これは俺達も敵側も理解している最悪な事態です。オマケに魔界で暴れた彼女を撃退したのは神綺様…幻想郷に神綺様が現れたのを察知すれば間違いなく狙ってくる。袿姫様にはそれを阻止してもらいたいのです」
「成程ねえ。神綺からもその名前は聞いたけど、要するに幻想郷上層部も制御できない危険人物ってことか。
いいだろう、そいつは私と磨弓で相手してやるよ。神綺とやり合えるだけの強者…私としても気になるからねえ」
「ありがとうございます…!磨弓もいいだろうか?」
「はい、私は袿姫様に従いますので」
「助かる。風見幽香相手に遠慮はいらない、あちらがスペルカードルールを無視してきたら全力で仕留める気で闘り合ってくれ…大量殺戮も遊びとしか思わない危険人物だからな」
「肝に銘じます」
袿姫様と磨弓が何一つ意見せずに合わせてくれるとはな…!先に状況を説明してくれた神綺様にも、俺はすでに助けられている。結局、俺は神綺様と魔界に守られていたワケだ…最低な裏切り者だというのに。
…だが、今はそれを気にしてる場合じゃない。清算は、魔界と幻想郷を守ってからだ。俺の内心を読んだかのように、アリスが話の続きを促す。
「私は誰の相手をすればいいのかしら?」
「アリスにも大きな負担をかけることになるが…今の上海を指揮すれば抑えられると踏んで頼みたい。
―――博麗の巫女を止めてくれ。さっき俺が直接闘り合って確信したが、彼女は魔界に殴り込んだ時より攻撃面の腕が落ちてる。今の上海とアリスなら十分抑え切れるはずだ」
「「「「「「っ!?」」」」」」
俺の言葉に紅魔館から同行している上海とこいし以外の全員が反応していた。
…まあ、そう簡単に信じられることでもないか。
「軽く説明すると【移動用の亀から降りたことで攻撃に割いていたリソースを移動に回した結果、速度や小回りは鋭くなったが攻撃面の鍛錬不足で威力が落ちた】のが今の博麗の巫女だ。そうじゃなきゃ神綺様を退けた猛者の攻撃を俺が耐えきれるハズが無い…直接言葉にしてやったら本人も修行不足って自覚はあったようだしな」
「…先輩の《敵を見る眼》は全く衰えていないんですね。一度の交戦でそこまで看破しますか」
「八雲の隠者としてその亀…玄と話したこともあるからな。玄だけじゃなく紫さんや藍から貰った情報も合わせて出した結論だ…看破したじゃなく闘り合ったことで確信したと言うべきだろう」
「だとしてもそんな簡単に言い切れるものじゃないよ。隠棲なんて言ってるけど、兄さんよりわたしたちの方がずっと全盛期より衰えてるんじゃないかなぁ…」
「それこそ今の豹が衰えちゃってることがびっくり!私と早苗から妖精を守ったり、本気の勇儀さんに立ち向かったりしてるのに、昔はもっと凄かったってことなの?」
「…少なくとも、今の俺が月へサリエル様を迎えに行けば侵入者として無様に処分されるだろうな。魔法や技は時間によって練り上げられても、最前線で戦い続けることで培われた直感なんかは鈍り切ってる。紫さんの到着で緊張感を解いた結果、伊吹萃香の不意打ちで死にかけたのがわかりやすい現状だ」
「死にかけたって…!大丈夫なのですかヒョウさん!?」
「サリエル様が直々に空間魔法で俺を助けに来てくれた理由がこれだ…幻月と夢月がサリエル様を幻想郷まで連れ出してなかったら、俺はさっきくたばってた。幻想郷の上位に位置する存在なら、衰えた俺に引導を渡すことは難しくない…だからこそ、止められずとも皆が逃げ切れる戦力配分をしてる。幻想郷の住民も俺に対しては最早スペルカードルールを遵守する気が無いようだからな」
「だからこそスペルカードルールが制定される前に靈夢と交戦したことのある私を霊夢にぶつけるってことか。
いいでしょう、豹の言う通り今の上海を私の手元に戻してもらえるなら霊夢相手だろうと時間稼ぎは問題なくやれるわ」
「ありがとな、本当に助かる…!
一応、こいしを中核に摩多羅隠岐奈の二童子を最優先で叩く遊撃隊を編成してある。奴等の出方にも左右されるが、空間移動能力が厄介な二童子を落とし次第遊撃隊は各戦闘の援護に回ってもらう予定だ。それまでなんとか持ちこたえてくれ」
「任せなさい」
そしてアリスも賛同してくれた。これなら博麗神社に集まっている有力勢力だけなら対応できる…!
冥界のお嬢様や天狗勢力が敵の増援にならない限りは凌げるはずだ。後は、叩ける相手が限られるユキと夢子の動かし方だ。
「ユキと夢子もここまで来ちまった以上、俺に付き合ってもらえるか?」
「当たり前だよ!わたしは兄さんのために存在してるんだから!」
「勿論です。
…ですが、ユキはともかく私はそこまで自由には動けません。出来る限りの力は尽くしますが、この状況で先輩のために役立つことは出来るでしょうか?」
「本当にすまない…!必ず魔界で恩は返す。
ハッキリ言ってこうなることを狙ってたわけじゃないんだが、月の連中が取引を反故にしてくれたおかげでユキと夢子が叩いても問題が無くなった。魔界には
「っ!…流石は先輩ですね。たしかに八意永琳の関係者なら、魔界で情報統制すれば月の傘下だと断定させられる。私とユキが交戦しても問題ない…!」
「戦力的にも能力的にも厄介が過ぎるからな、月の連中は。月の姫にはレミリアとフランドール、八意永琳も前線に出て来たならサリエル様と妹紅にぶつかってもらう。それにさっき永遠亭で交戦した玉兎2匹と地上の兎、加えてプリズムリバー邸襲撃に参加した玉兎は援護に入って来るはず…レミリアが美鈴をフランドールに付けてるとはいえ、人数比がこのままだと5:6。もっとも、鈴仙・優曇華院・イナバはともかく残りの兎3匹はこの面子相手じゃ格落ちだから戦力的に問題はない。
―――ここにユキと夢子が加われば早期決着を狙える。少なくとも感情的に動いた月の姫さえ大人しくさせれば、八意永琳は停戦に応じるだろうよ。なにしろ奴自身はサリエル様と交渉する気はあるらしいからな」
「そうだね、わたしからも八意永琳は本格的に魔界と敵対するのは避けたがってるように見えた。だから暴走したらしい月の姫さえ黙らせれば引き下がるかもしれない」
「問題は、その月の姫を最優先に八意永琳が動いてるらしい点だが…レミリアとフランドールをぶつける以上、端から殺り合うこと前提だ。要は八意永琳も参戦する方向で迎撃策を打ったからここの戦力が厚い―――サリエル様と八意永琳で交渉がまとまって月の姫が引き下がったらここのグループが皆の援護に回れるようになる。そのためにユキと夢子も月の連中を叩いてほしい」
「任せて兄さん!それこそわたしはさっき永遠亭で闘り合ってるから、ヘイトタンクとしても通用するだろうし!」
「ユキがその役割を果たせば私が確実に仕留められる。それこそ私とユキは月相手にしか参戦出来ないのですから、先輩に協力している方々の戦力消耗を避けるためにも即座に援護するべきですね」
「頼むぜ…!夢子ならわかってるだろうが、魔界から先に手を出すのは避けなきゃならねえ…
「わかった!」「ええ、お任せください」
妹紅・レミリア・フランドールは紅魔館の戦力で最上位に入る存在。サリエル様とユキ・夢子はここ以外の戦闘には巻き込めないが、美鈴とフランドールの補助に回るルーミアを含めた6人が別戦闘の援護に回れる状況になれば戦線はかなり安定する――そのためにも月の姫は強力な戦力を集中させて真っ先に落としたいのだ。戦力的にも厄介が過ぎるからこそ、他の皆より充実した戦力を送っている…逆に言えば、ここが時間を取られるほど他の皆が苦しくなる。勇儀やコンガラ様はともかく、他の皆は【被害なく遅延戦闘は出来ても、撃退までは難しい】レベルの戦力になってしまっているのだ。特に麟と咲夜とルナサ達には早目に援護を向かわせたい…俺がケジメを付ける前に窮地に陥る可能性があるのはここになる。
それを避けるためにも、ユキと夢子というキツい制限が掛かっている戦力も使う。俺が元凶となったこの一件を、俺を助けてくれた皆が納得できる形で終わらせるために。
「最後にルビーに頼みたいことだが、先に確認させてくれ。
ついさっき、カムさんが魔界から紅魔館に来てる。その反応をここにいた皆は拾えてるか?」
「「「「えっ!?」」」」
「ご主人様や夢子さんでも察知できていないのですか!?」
「そうだねえ、魔界からってことは神綺の空間魔法みたいな反応ってことだろう?私もそういったのは感じ取れてないねえ」
「袿姫様もですか!?それでは私が探知できるはずがありませんね…」
「へー、あのおじさんもしかして凄い人なの?」
「ああ、俺が魔界を護っていた頃から活動し続けてるギャングだ。決して甘く見てはならない実力者――本当に理想的なタイミングで、俺のところに来てくれたんだな…!」
夢子と袿姫様が拾えなかったのであれば、紅魔館内部から魔界に通じる闇取引ルートは今でも利用出来るってことだ。紫さんや摩多羅隠岐奈なら察知できているのかもしれないが、こいしの協力があればルビーを連絡役として魔界に送ることが出来る。そしてこの空間魔法を察知されたとしても、ルビーを無意識に隠すことで紅魔館防衛の戦力として魔界から下級悪魔を召喚したって言い訳が通る!
「皆が探知できなかったのなら、もう一度ルビーが使う価値がある…!
神綺様に俺から決行時間を伝えることで、全てのタイムラグを最小に出来るからな」