「稗田邸襲撃の直後に神綺様が幻想郷に到着しちまうと、流石に示し合わせたと断定されるだろう。少なくとも30分は間を置きたい…幻月と夢月なら紫さんと藍を同時に相手取ってもこのぐらいは潰せるよな?」
「八雲紫がどう対応するかにもよるけど、時間稼ぎしてほしいなら粘ってあげるよ。あのレベルの大妖怪とやり合える機会なんて滅多に無いから、長く楽しみたいしね」
「そうですね、すぐ終わらせてしまうのはもったいないですし。ヒョウと神綺の妨害に向かえないようにゆっくり楽しませてもらいます」
「頼む。この30分のタイムラグで博麗神社に集まった連中も動く…夢幻姉妹という強力な戦力が抜けるんだからな。
タイムリミットが近いのはあちらも感付いてるだろうから、紅魔館に向けて総攻撃を掛けて来るはず。そうなったらさっき分担した通りに迎撃してもらえばいいんだが、妨害されることを警戒してアリスの家にも戦力を割かれた場合はちょっと面倒になる。上海をアリスの指揮下に帰した以上、紅魔館よりアリスの救援を優先する理由がなくなってるからな」
「私一人なら問題無いわよね?」
「ああ、メディスン一人なら問題ないが単独行動を察知されると何人かは即座にメディスンを狙ってくる。今この場にいる皆なら誰だろうと
こう動かれた場合、アリスの家に向かった敵の担当は紅魔館の防衛を優先してくれ。アリスと袿姫様に磨弓が居る以上、アリス達が数的不利に陥ることは無い…神綺様が幻想郷に到着してから担当の妨害に向かってくれ」
「そうなった場合、問題になるのが幽香ですか」
「ああ、だがエリーとくるみが教えてくれたフラワーマスター最大の弱点・スピードでなんとかなる。俺や夢幻姉妹ならともかく、アリスが襲われたところでフラワーマスターは動かないだろう。神綺様が到着してすぐ袿姫様と交替するように動いてくれれば、スピードと距離の関係で間に合うはず」
「ちょっと賭けになりますけど、アリス達相手に幽香が全速力で動くことはないでしょうしねー。それでいいと思いますよ」
可能性としては低いだろうが、これ以上紅魔館に戦力集中されるのを避けるためアリスの家に足止め役を回すってのは有り得る。だがあくまで奴等の狙いは俺もしくは人質の確保―――アリスが俺に対して人質の価値があるとはまだ読めてないだろうし、ユキと夢子は攻撃するだけでも幻想郷側にとってはリスクがある。加えて袿姫様と磨弓が合流しているのだから、足止めだけでも相当な戦力を割く必要があるのだ。
そして夢幻姉妹が抜けた状況だろうと紅魔館に集まった皆と正面からぶつかるのであれば、現状博麗神社に集まった勢力の関係者を総動員されても俺たちが劣勢とはならない。優勢は取れなくとも拮抗状態を維持できればそれで十分…俺が神綺様とケリを付けるまでの時間さえ稼いでくれればいいのだから。
逆にあちらは人質になる誰か一人を確保できればいいワケだが、紅魔館の戦力と正面衝突するとなれば乱戦は避けられない。捕虜を取ろうと動いたところを妨害するのは乱戦なら難しくない上、こちらには危機的状況に陥ればすぐさま紅魔館内部へ退避させることの出来る青娥がいるのだ。ここを考慮すれば戦力分散はなるべく避けたいはず…アリス達に背後を突かれるリスクがあるとはいえ、先手を打って足止めを送るよりは動かれてから迎撃に戦力を回す方が効率的だろう。
奴等が足止め役を先に送るのなら、袿姫様が俺の予想以上に警戒されてたってことになる。この場合面倒なのは、袿姫様に対応できるだけの戦力が
「それで夢子の許可が取れたからな、神綺様の仕事は中断させてもいいそうだ。つまり俺達から神綺様の到着時間を指定できる―――だから次に確認したいのは里香の戦車だ。戦闘に使えるように整備するのにどれぐらいかかる?」
「固定砲台として扱うだけなら移動するだけで問題ないのです。ただある程度の回避機動も考えると15分ぐらいはほしいですぅ」
「それだけで済むのか…凄いな里香は。
それならあまり気にしないで良さそうだな。他に誰か戦闘準備に時間が必要だろうか?」
「私も武装の整備で10分ほど貰いたい。まあ里香の整備と同時刻に済ませればいい話だけどね」
「そうですわね、その時間で芳香も呼び出しておきましょうか。顔合わせはしておいた方が良いでしょう」
「妖精メイドとホフゴブリンを起こす時間だけ貰いたいですね。ドレミー様の出口に使う者の選別もしなければなりませんし」
「それぐらいならリリーもお手伝いするのですよー」
「そうですね、わたしとリリーちゃんはこういうことしかお手伝いできませんから」
「リリーもノエルも妖精にしては本当に殊勝だな。妖精メイドとして今すぐ採用したいぐらいだ。
咲夜、手分けして里香の整備中に終わらせろ」
「かしこまりましたわ」
「…他にはいないか?
それならあまりモタモタするのも勿体ねえからな、雪雲で夜明けがわかり辛いがもう朝だ…
神綺様を呼び出すのはだいたい1時間後の午前7時半。反対意見はあるか?」
皆を見回し確認を取るが、誰も返答することは無い。
―――なら、決まりだ。
「それじゃルビー、頼んだぜ…!レミリア、カムさんとの闇取引ゲートの展開ポイントに案内してくれるか?」
「小悪魔、案内してやれ」
「了解です!」
「お願いしますね」
ルビーと共に小悪魔の先導に従う。
さあ―――反逆者の逃亡録を、終わらせよう。
「そういうことになったわ。戦闘に参加する必要は無いのだけれど、すぐ動けるようにはしておいてもらえるかしら?」
『はい、人里に被害を出すことを避けるべきという考えは幻想郷も魔界も一致しています。慧音さんと小兎姫さんにも接触でき次第お伝えしますので、人里はお任せください!』
「ありがとう、私から魔界の代表として礼を言うわ。頼んだわよ」
『はいっ!私にも出来る数少ない豹さんへの援護です、必ず果たします。
皆様も、どうかご武運を』
―――そう返してきた星の言葉を最後に通信が切れる。もう朝になっているのだけれど、この雪でまだ薄暗いこともあって問題なく豹の隠れ家に残された
「…なんていうか、聖白蓮も星も不安になるくらい善人だね。兄さんから直接話を聞いただけなのに、ここまで入れ込んじゃうなんて」
「そうだな、ここまで善性に振り切れた人間…いや、既に人間ではないのか。どちらにしろ両名共に一勢力の代表としては不安になるねえ。私が心配することじゃないんだけどさ」
「袿姫様のお言葉通りですね…畜生界の動物霊どもと比べると、私でさえ同意できます」
「まあ、私もそう感じてるけど…周りはそのあたりを踏まえて対応してるから今のところ問題はないみたいよ。それこそあの二人がああいう性格だからこそ、人間も妖怪も命蓮寺に集うのでしょうし」
ただ、当初の予定では母さんが家に着いてから豹の指示を伝える予定だったのだけれど。白蓮が『命蓮寺と連絡を取れるようにするためだけに、通信人形を動かす筈がありません』と言い切ったことで、星が『私に何かできることがあるのですか!?』とかなりの勢いで問い返して来たのよね…
下手に誤魔化して不信感を持たせる方が不味いと判断して、豹の依頼を今の時点で伝えることにしたわ。盗聴のリスクはゼロじゃないのだけれど、夢子とユキだけじゃなく通信先の白蓮も傍受妨害に使える魔法を多個所に展開することで限りなくゼロに近くなったはず。これで通信内容を把握されてたらお手上げなのだけれど、丁度いいタイミングで博麗神社にも動きがあったから大丈夫でしょう。
――八雲紫や洩矢諏訪子が博麗神社を離れようとしていた状況で、私の通信を盗聴することを優先できる程の余裕は無いはず。とくに紫は敵に回すとこれ以上なく厄介な存在…そう易々と会談から外れることなんて許されないはず。それが結局博麗神社から去っているのだから、こちらに気を回せるような状況じゃなかったでしょう。そう信じるしかないわ。
「まあ、私たちが頼まれたことを一つ先に終わらせたと思いましょう。そろそろ博麗神社の方も動くかもしれないし」
「そうですね…守矢神社と天狗勢力は豹さんの読み通り積極的には動かないようですし、八雲紫さんも博麗神社から離れたようです」
「つまりあの神社に残った連中は敵で確定ってことだよね。結局八意永琳も合流してるし」
「むしろ合流してくれて助かるかもしれないわね。別行動されて戦力分散することになる方が私達にとって避けたい状況よ」
「それはあるかもしれないねえ。私にはあまり関係無いが、交戦相手が限定される夢子達にとっては敵を一方面にまとめた方が動きやすいか」
まあ、臨戦態勢でいる必要はあるけれど…今は少し時間に余裕があるわ。それなら、後回しにしてたことを先に片付けておくべきよね。
「警戒は緩めないでおくけれど、今のうちに確認しておきましょう。
…ゴリアテ、貴方の中にも隠れ家がいるのかしら?」
「っ!?」
「やっぱり、ご主人様は凄いですね…もう気付いてあげられたのですか。
私は豹さんが紅魔館に帰ってしまうまで気付けなかったのに…」
「…その、ごめんなさい。元のわたしのところに戻った方がいいでしょうか…?」
―――本当に、豹だけでなく隠れ家の意志もとんでもないわね。言語能力を持たせなかったゴリアテが、ハッキリと会話できている。それはつまり、上海と同じ状態になっているということ。
「上海も気付いてたのね。豹が紅魔館に帰った時に何かあったのかしら?」
「その、ゴリアテちゃんも豹さんに何か言葉を掛けたかったように見えたんです。そのときになってようやく、紅魔館でゴリアテちゃんが2回\ハーイ!/って返事してくれたことがおかしいってことに気付いて…隠れ家さんが気取られたくなかったのかもしれないので、黙っていました」
「そういうこと。
ゴリアテの意識を乗っ取ったわけじゃないんでしょう?それなら今までと変わらないわ、ゴリアテとして過ごしなさい」
「っ…!ありがとうございます、ご主人様!」
「………いや、驚いた。上海のことも聞いてはいたが、本当にこんなことがあるとはな」
「袿姫様でさえここまで驚くほどのことなのですね…
ゴリアテも、あらためてよろしくお願いします」
「はいっ!お願いします、磨弓さん!」
同じ創造主に仕える立場としての親近感があるのか、磨弓が真っ先にゴリアテと握手を交わしてくれたわ。こういう形で交友が広がるのは悪いことじゃない、むしろ歓迎できること。
―――さっき明かされた後継者という話。正直に言って魔界神なんて立場はあまり引き継ぎたくないのだけれど、禁忌中の禁忌である創造魔法に関しては興味があるわ…その方向で上海とゴリアテと隠れ家の件は凄まじく大きな経験になるって予感がある。
「す、すごいねゴリアテちゃんも…何があったのか聞いてもいいのかな?」
「はい…魅魔さんに向けて自爆魔法を放ったとき、『どうかまた、ご主人様と巡り会えますように…!』って願ったんです。そうしたら、残ったわたしのもとに還るんじゃなくて…ゴリアテさんの中で目が覚めました。こんな奇跡が起きるなんて思っていませんでしたし、ゴリアテさんが受け入れてくれない可能性もあったんですが…ゴリアテさんも上海さんと同じように受け入れてくれたんです。『しゃべれるようになるならむしろおねがい!』って」
「…先輩の隠れ家の意識は、上海に宿った時点で二重人格化していた。自爆魔法を行使することで隠れ家に残った意識に統合されるはずだったけれど、ゴリアテに宿った意識の方に引き摺られた…かしら。
つまり、先輩の隠れ家に芽生えた意識は二重人格化していたのではなく、多重人格化していた。おそらく自爆した際の距離の近さから、隠れ家ではなくゴリアテに宿った意識に統合されたのでしょう」
「夢子の予測はしっくりくるわね。結果的には、私や豹にとってはこれ以上ない状況よ。
こんな奇跡が起きるなら、まだ豹は運に見放されたわけじゃないようね」
「そうですね…!ゴリアテちゃん、あらためてお願いします。豹さんのために力を貸してください!」
「もちろんです、上海さん。
…いいえ、お姉ちゃんって呼んだ方がいいでしょうか?」
「え?ちょ、ちょっと照れますけど…ゴリアテちゃんがそう呼びたいならお姉ちゃんでいいですよ」
「ふふ、ありがとうございます、お姉ちゃん」
\ホラーイ/
「はい、蓬莱さんもお姉ちゃんですもんね。あらためてよろしくお願いします!」
…本当に、こんな奇跡があるなんてね。
豹を助けるべき理由がまた増えたわ。これだけの奇跡を引き起こしたはじまりは豹、上海とゴリアテの
この異変の解決も近い。私だけじゃなく、豹に関わった皆が納得できる結末にしないとね…!