寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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もう一点、再度捜索で紹介してくださった読者様がいらっしゃいました!ありがとうございます。


第264話 愚行の責任

「―――それでは、私は一度帰って諏訪子様からお話を聞いて来ますね」

「ああ、もし私達も知るべき情報があれば手間を掛けさせるが伝えに来てくれ」

「はい、では失礼します!」

 

予想通り先に私たちへ情報を渡してくれた星を命蓮寺に帰らせ、隠していた人里を元に戻し、小兎姫と早苗を交えて自警団の皆にも状況を説明し終えたところで「諏訪子様が帰ってきます!」と早苗が気付いた。すでに朝と呼べる時間になっており、実力者が人里に向かう気配もなかったため早苗は一度帰宅して話を聞いてこさせることにした。

 

…とにかく、私達には情報が足りていないから。

 

「それにしても、余計な気遣いをしてくれていましたねえ。己が人気者ということを自覚して動いてもらいたいわ」

「人里の住民に対して好意的に動いてくれるのは有難い限りなんだ、そう言うな…メルランとしては完全な善意だったのだろう」

 

早苗の飛び去る背中を眺めながら小兎姫が言葉を溢す。昨夜夜勤に入っていた自警団員によると、一時的に自警団詰め所に避難してきたメルランが備品のお汁粉を振舞っていたそうだ。交代する日勤組が軒並み膝から崩れ落ちて悔しがっていた。そして雪夜にそんな善意を向けられた男衆(夜勤に回っている面々だから当然のように独り身)が最低限とはいえ状況を知れば。

 

「――慧音さん!本当に俺たちに出来ることはないんですか!?」

「慧音さんにしか出来ないことがたくさんあるのは知ってます!だから俺達でやれることなら回してくれていいっすよ!?」

「その気持ちは嬉しいが、無理をされる方が困るんだ。特にお前達夜勤に回ってくれる人員は貴重だからな…何かあったらすぐ呼ぶから、今は一度帰って一眠りする食事を取るなりしてくれ。無理をして倒れられる方がメルランも悲しむ」

「「うっ…」」

 

メルランの善意にやられて彼女の助けになるべく動こうとしている。自警団を纏める身としては有難い申し出ではあるのだが、この異変に人里の住民を巻き込むのは危険過ぎるのだ。彼らの命だけでなく、幻想郷と魔界の関係に決定的な亀裂を生じさせかねない…野良妖怪を相手にするのとは訳が違いすぎるのだ。下手に動かれる方が問題になってしまう。

 

「…わかりました。でもマジで俺たちに出来る仕事は振ってください!」

「メルランちゃんの力になれるのは、自警団じゃ慧音さんぐらいっす…なんで慧音さんも無理はしないでくださいよ!」

「私がそこまで無理させないわ、安心して少し休んで来なさいな」

「頼むっす、小兎姫さん」

 

ここまで言ってようやく最後まで粘っていた夜勤の団員二人が帰宅する。おそらく熱心なプリズムリバー楽団のファンなのだろう…メルランが襲撃されるのを目撃していたら、命を捨ててでも敵に立ち向かいかねない勢いだ。そういう意味では、彼らは狂信者と呼べる存在なのかもしれない。信仰を欲する神々や宗教家がありがたがるような。

 

「まったく…身の丈に合った相手を探してもらいたいですねえ。色々な意味で若すぎます」

「小兎姫に若いと言われるのは彼らも心外じゃないか…?」

「あら、私はそんなに幼く見えるかしら?それはそれで悪い気はしないけれど。

ま、私も軽く朝食と休憩を取って来るわ。これで終わりなんてことはないでしょうし、早苗が戻って来たら私も話を聞きに来るわね」

「わかった、小兎姫もありがとう」

「私にお礼はいらないわ、慧音さんも今のうちに休んでおいてくださいな」

 

そう返して小兎姫も自警団詰め所を去る。時刻は…7時を少し回ったところだった。この状況で授業をしている余裕はない、寺子屋に休校の札を掛けておかなければ。そうしたら私も軽く食事を取っておこうか…

―――そんな悠長に構えていられるような状況ではなかったことを、すぐに思い知ることになる。

 

「っ!?

この強大な反応は、夢月!?」

 

突如として、昨夜太陽の畑のフラワーマスターと激闘を繰り広げていた悪魔…夢月の反応が人里に現れる。

もう一つ、とてもよく似た強大な反応と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ…」

「阿求様、寝不足でしょうか?」

「…そうですね、寝不足というよりは…精神的な疲れが抜けていないというか」

 

朝食の用意が出来たと起こしに来てくれた女中に、欠伸が漏れてしまったのを気付かれていました。睡眠時間は問題なく取れています。ですが、私が為すべきこと…御阿礼の子としてではなく、稗田阿求として為さなければならないこと―――麟さんをあの男の魔の手から救い出すことが、思っていた以上に困難なのをこの三日で思い知らされてしまった。

 

(麟さんを助けてもらうよう依頼しても、肝心の麟さんを忘れてしまえば依頼を果たせない…霊夢さんが動いてくれるのにこんな問題があったなんて)

 

私は麟さんのことを忘れてしまう現象を実感できないから、昨日霊夢さんにこの事実を突き付けられるまで気付くことが出来なかった。それはつまり、麟さんを救い出すには忘却の呪いに影響されない存在…私か慧音さんが同行する必要があるということ。それなのに…

 

(まさか慧音さんまであの男の毒牙に掛かってしまっているなんて。霊夢さんに同行してもらえれば麟さんを助けてもらえたかもしれないのに…)

 

まさか人里を守る自警団を束ねる慧音さんがあの男…豹を好意的に見ているなんて思いもしなかった。それどころか戦力として慧音さんを支えている妹紅さんに、人妖問わず人気のプリズムリバー楽団も豹を擁護する立場…私が直接交渉できる実力者が軒並み豹に好意的だなんて、理解できない。

 

加えて、霊夢さんが動き始めたということはもう時間の余裕がない。このままだと麟さんのことを忘れた霊夢さんは、豹のためにあの癒しの力を使う麟さんを異変の元凶側と見て容赦なく退治してしまうでしょう。そうなってしまえば麟さんはますます人里から遠ざかってしまう。それどころか豹諸共魔界…あの男の故郷に追放されてしまうかもしれない。

麟さんをそんな過酷な目に遭わせたくない。どうにかしてそれを阻止するには…

 

(…私が霊夢さんに同行する、それぐらいしかない。

 でも、明らかな足手纏いの私を霊夢さんが連れて行ってくれるはずもない…)

 

どうすればいいのでしょう。このままでは麟さんを救い出すどころか、今以上に辛い生活に追い込んでしまう。霊夢さんは豹が悪人だということを理解してくれているので、麟さんが利用されているだけということを証明できれば見逃してくれるかもしれない。でも、麟さんは…

 

(あのとき、私がずっと麟さんのそばに居ることができていたなら)

 

名ばかりとはいえ、私はあの異変当時の稗田当主。自分勝手に動くことなんてできなかった。せめて麟さんにこの屋敷で寝泊りしてもらっていれば、豹が麟さんをかどわかすことは防げたのかもしれない。

時間に余裕がないのを突き付けられたことで、後悔ばかり浮かんでくる。私が無力なのは重々理解していたつもりだったけれど、麟さんを助けられない現実に直面して…あらためて思い知らされてしまった。

 

「…阿求、どうしました?顔色が良くありませんよ」

「あ…大丈夫です。ちょっと夢見が悪くて…」

 

そんな考え事をしながら朝食の場まで歩き付くと、長老様が心配そうに声を掛けてくださいました。だめですね、ただでさえ昨日一昨日と不自然な来客があったのですから、皆に余計な心配をかけてしまうわけにはいきません。

 

そう空元気を出して、用意された朝食の席に着いたその時。

私の前に突然、絶望の使者が現れたのです。

 

 

 

「お邪魔しますね。稗田阿求というのは誰でしょう?」

「たしかまだ幼い少女って言ってたっけ…こいつじゃない?」

「…っ!?」

 

 

 

本当に、突然。部屋のほぼ中央に()()()()()のようなものが発生し、そこから白い翼を持つ少女と、メイド服の少女が降り立ったのです。

その二人は、私でさえ【桁外れ】ということが理解できる程の…恐ろしい存在。こんな存在、人里どころか幻想郷でもそうそう見ることなんてない…!

――ああ、彼女たちが出て来たあれは。八雲紫のスキマにどこか似ていた…!

 

「…な、なんですか貴方方は!?ここが稗田邸だと知っての…!?」

「うるさいな。たしか偉そうな年長者は殺してもいいって言ってたっけ」

「ひっ!?」

 

一目で恐怖に飲まれてしまい、言葉を紡ぐことすら出来なくなった私と違い。震えながらも立ち上がった長老様は咎めるような言葉を向けたのですが。メイド服の少女が不機嫌そうな言葉と視線を向けた直後…

―――彼女の手刀で長老様の首が転がり落ち、血を吹き出しながら残された胴体が倒れ込みました。

 

「きゃああっ!!?」

「ちょ、長老様!!」

「う、うわああ!!」

 

それを目の当たりにした私は悲鳴を上げてしまい、それが合図のように部屋にいた皆が恐慌状態となってしまったのです。それは翼を持つ少女にとっても不愉快な反応だったようで…!

 

「ああもう、これだから弱い人間は…

 稗田一族以外は見逃してあげますから、黙ってさっさと逃げなさい」

「ごっ…!」

「―――っ!!」

 

見苦しいとでも思ったのでしょうか。腰を抜かして失禁していた叔父様を翼を持つ少女が蹴り飛ばし、頭から壁にめり込んだ叔父様はピクリとも動かなくなりました。そしてその言葉を理解したのか、女中や下男は這う這うの体で逃げ去り、叔母様と大叔父様は絶望した顔でその場にへたり込んでしまいました。

 

そして、恐ろしい二人が私に視線を向け、語り出します。

 

「個人を指定したわけではないようですが、私もリリーのことを気に入りましたので。

 妖精を危険に晒す貴方は放置できません♪」

「…あ、あぁ」

「弱者を虐げるなら、強者に虐げられる覚悟も必要なのよ?

 それすら理解できないガキが、偉そうなこと抜かしたみたいね」

 

『妖精の扱いに関してはしっかり責任を果たさなければならんぞ』…三日前に、マミゾウさんに冷たく言い放たれた言葉です。

人里を荒らす妖精には相応な罰が必要。私はそう考えて人里に妖精への厳しい対応を奨励しました。

それは、彼女たちのような強大な存在にとって、ここまで認められないことなのですか…!?

 

もはや意味のある言葉を出すこともできず、震え上がるだけの私に。天使のような悪魔がゆっくりと歩み寄って―――

 

 

 

 

 

『紫さん、稗田邸に飛んでください!

 すみません、リリーを気に入った幻月と夢月を止められなかった!!』

「っ!?豹…!」

「――紫様!!」

 

それは、この一件で結局使うことが無くなったはずの通信具からの声。霊夢が豹を攻撃したことで、豹が私を頼ることはなくなった。そう思い込んでいた私にとって、突然届いた豹の声は…私が思っていた以上に心に響いて。

 

「幽々子、後の判断と指揮は任せるわ!橙もこの後は幽々子の指示に従いなさい!!」

「え、え?ちょっと紫!?」

「紫さま!?私も援護に…!」

「夢幻姉妹より優先すべき動きがあった場合の連絡役も必要なんだ!それが務まるのはスキマを使いこなせる橙しかいない、わかるな!?」

「っ!?

…わかりました藍さま。紫さまも、お気をつけて!」

「あ、あの!?何が起きてるんですか!?」

 

この期に及んで、豹はまだ私を頼ってくれた。何より、豹は幻想郷縁起の件で稗田阿求を嫌っている…それにも関わらず彼女の危機をすぐ伝えてくれた。

彼女が死ぬタイミングは、管理者が調整したい―――今となっては豹が気を使うようなことじゃないのに。豹なりに何か目的があるのかもしれないけれど、頼られた以上は応えたい。そう思えるだけ、私は豹に支えられてきたのだから…!

 

「藍、行くわよ!」

「はっ!!」

 

そして私と同じように豹に支えられていた藍も、何の迷いもなく私と共にスキマに飛び込む。ある意味では私以上に豹に助けられていた藍だからこそ、この先の危険な戦場に付き合ってくれる。

 

流石に私も夢幻姉妹を一人で抑えるのは厳しいから、命令するまでもなく同行してくれる藍は本当にありがたいわ。私への忠誠だけでなく、豹への好意もあってこその即断でしょうけど…その好意は私も理解できるものだから、何も問題はない。スキマの出口を開いて、強敵の前に立ち塞がる!!

 

 

 

 

 

「―――悪いけれど、まだ彼女は死なせられないのよ。愚行を犯した有力者であってもね」

「フフフ、出て来た。楽しませてもらうよ」

「ええ、たっぷり文句も言わせてもらいます」

「ああ、我々の失態がこの状況に陥らせたのだからな。それぐらいは受け入れるさ…!」

「それなら場所を変えようよ。お互い遠慮なくぶつかれるように」

「こちらとしてもそれは有難いわね。このスキマに入って頂戴!」

 

―――そんなやり取りを終えて、新しく開いたスキマに【桁外れ】な4人の少女が去りました。

しばらくして、ここに彼女たちが現れたことを察知した慧音さんと小兎姫さんが駆け込んできてくれてようやく…私は助かったのだと理解し。最低限の状況を伝え終えた途端、安堵から気を失ってしまいました。

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