寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

265 / 289
第265話 決戦の火蓋が切られる

「―――紫直々に抑えに向かったか。随分と早い反応なのが気になるが…これ以上の好機はもう来ないだろうな」

「やーっと動く気になったのね、遅過ぎるのよ」

 

魅魔様と秘神に閻魔、華扇と仙人とこの足がある方が広範囲に索敵魔法や術を展開してくれてたから、紅魔館に集まった奴らの動きをすぐ察知してくれたぜ。ここまで事態が動いてようやく、偉そうな連中もやる気になったらしい。霊夢がようやくというように立ち上がる。

 

「夢幻姉妹が紅魔館から離れた。古明地こいしとは違う意味で問題となる強大な戦力が、豹側の同士討ちで脱落…それこそ戦闘を終え和解し幻想郷に戻って来るのが我々にとって最悪な事態です。細かい作戦を練る時間は無いようですね」

「拙速は巧遅に勝る、ね。紅魔館の戦力が少なくなったこのタイミングを逃すわけにはいかない…魔界神の到着が近いのだから。動かざるを得ない、か」

「となれば目標確保のために効率を重視した基本方針だけ設定しておくべきだろうな。はっきり言って共闘できるほど各勢力間に信頼関係が無い、だからこそ交戦時間は最短にすべき…長期戦になれば襤褸が出る」

 

仙人二人と閻魔も攻撃開始に異論は無いみたいだな。それなら問題はアイツらだけだ。

 

「時間切れみたいよ。永琳、報復を手伝いなさい。

 私の命令よりサリエルとの交渉を優先するというのかしら?」

「………はぁ………

 輝夜、魔界を完全に敵に回す覚悟は出来てるのね?」

「覚悟も何もないわ、あっちが最初から敵意剥き出しだったじゃない。

 私どころか永琳が下手に出ても、魔界が好意的になる可能性の方が低いと思うんだけど?」

「…それが現実、か。私の遠い昔の過ちを、清算する必要があるってことね…

 一つだけ約束しなさい、サリエルには喧嘩を売らないこと」

「あっちから売ってきた場合は?」

「最初から同行するならサリエルには私が当たるわ。

 話を聞いた限り豹たちは私を危険視してるから、サリエルは率先して私を狙う」

「勝手に決めんな。あの魔界人と天使と悪魔は私が殺る」

「勝手に動かないでくれないかしら。貴方と違って私「黙ってろ。私が殺る」

「だそうよ永琳。任せちゃいましょ」

「……………誰かこの鬼を止める気は無いのかしら?」

 

最後まで渋ってた永琳だが、流石に姫様の命令には逆らえないらしいな。そういう意味では輝夜の方がやる気でいるのは助かったぜ。どうも交渉を優先したいみたいだが、殺気立った萃香が話に割り込み輝夜はそれに任せる気満々。周囲に確認を取る永琳だが、そもそも永遠亭自体が有力勢力としてかなり微妙な立場だから協力的な返答なんざ返ってくるはずもない。その結果あの永琳が頭を抱えた…はっ、相当珍しいもんを見れたみたいだぜ。

 

ま、これで戦力になるのは紅魔館に向かってくれるだろ。なら私がやっとくべきなのは…

 

「明羅は博麗神社のお留守番だ。替わりにあうん、手を貸しな」

「っ…!」

「はい!?私ですか!?」

「…そうだね、今の明羅は戦場に出せない。明羅なら神社を荒らすようなこともないから、霊夢も構わないな」

「明羅さんが何かしたら魔理沙と魅魔に請求するわ」

「………情けないが、何も言い返せん。

 師匠、魔理沙…ご武運を」

 

…ったく、明羅にこんな顔させやがって…!やっぱロクでもねえな豹ってのは。格好で誤解されがちなんだが、明羅は別に男として過ごそうとしてるわけじゃない。それこそ里香に比べれば中身はずっと女の子だ。紅魔館に集まってる連中も含めて、女心を弄んで味方に付けてるハーレム志向のクズ。女の敵として叩き潰してやらねえとな。

 

「それでは目的を設定するぞ。優先すべきは時間、そして豹の習性。奴は己より妹と見ている存在を優先して動く…そこを突く。誰でもいい、紅魔館から迎撃に出て来た者を生け捕って人質にすれば救出のため姿を現す―――人質交換に応じるならそれでよし、応じないのであれば袋叩きだ。目視できる位置であれば奴の空間魔法による移動は私一人で妨害できる」

「冗談じゃないね。私の邪魔する奴は殺してでも黙らせるよ」

「鬼にここは期待していないさ、好きに暴れて構わん。それこそ生け捕りではなく命の危険に晒すことでも奴は燻し出せる。まあ、豹だけは瀕死で留めて欲しいがな…殺害してしまうと魔界との全面戦争が避けられん。魔界側には奴の処刑を求めるからな、その執行役として派遣することで手を打ってもらいたいところだが」

「はん、どちらにしてもあの天使を先に潰さなきゃ回復されるんだろ?私に奴を殺されたくなきゃ、私が天使を殺る前に捕まえるんだね。私は加減なんかしない」

「…まあ、そのあたりが妥協点だろうな」

「私からも一つ。先ほど問題になったように、古明地こいしの存在は放置できるものではありません。その対策としてまずは私が古明地さとりを人質に先陣を切ります。古明地さとりが語るように人質としての価値が無くとも、豹の性格であれば古明地さとりを救助すべく動くでしょう…それを実行するために古明地こいしを使う可能性はかなり高い。私であれば初撃で戦闘不能に追い込まれることはありませんので、これを利用し古明地こいしを炙り出しましょう。

私を囮に古明地こいしだけは確実に接敵の時点で排除してください。摩多羅隠岐奈や茨華仙、豊聡耳神子であれば空間系能力で対処できますね?」

「勝手なことを…私に拒否権が無いのは理解していますが不愉快ですね」

「わざわざ言葉に出すんじゃないわよ。こいつが嫌われてるのがよくわかるわ…」

 

秘神と萃香でやり取りした後に、閻魔が作戦を追加してきた。それに利用されるさとりの文句に鈴仙が余計な言葉を返す。一応これから共闘するんだぜ?余計なこと言うんじゃねえよ…相変わらずこの辺の空気は読めない鈴仙だぜ。

 

「閻魔様がそこまで体を張ってくれるのであれば、断るわけにもいきませんね。戦闘にしろ交渉にしろ、古明地こいしに相手を隠されてはどうにもなりません。協力します」

「そうだな…布都、屠自古。初手は閻魔様の援護に回るぞ」

「「はっ!」」

「基本はそちらの仙術組で狙ってもらおう。私は豹の妨害を優先する…一応聞いておくが、永遠亭は奴の空間魔法に対抗策はあるか?」

「現時点では無いわ。時間があれば対抗手段を出せるけれど、時間だけでなく情報も足りないわ。貴方が掴んでいる豹の情報を回してもらいたいところね」

「となれば豹の空間魔法の妨害を担えるのは私しかいなくなるからな。一応、舞と里乃も古明地こいしの排除を最優先に動け」

「「おおせのままに、お師匠様!」」

「我々の作戦などこの程度で十分だろう。各勢力内はともかく、別勢力との連携は難しいからな。

正面を我々と閻魔様。左翼を博麗神社と永遠亭。右翼を仙界と魅魔傘下。この布陣に何か異論はあるか?」

 

秘神が全員を見回すが、否定するのは一人もいない。流石にこれ以上モタモタしてられないってのは全員わかってるみたいだな。それなら、もうやることは一つだ。

 

「それじゃ紅魔館に乗り込むわよ!神綺が来る前に終わらせるわ!!」

 

霊夢の言葉に応えるように、全員が立ち上がる。こういうところは流石の霊夢だぜ。

―――私も交渉の道具なんかじゃねえってことを、偉そうな奴らに見せつけねえとな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「――始まったわね」

「ええ、先手は打てたということ。これであの神社の面々がどう動くか」

 

夢幻姉妹が人里に現れ、それに反応するように紫と藍も同地点に出向いてきた。そしてほとんど間を置かず4人の反応が消えたわ。それはつまり人里を巻き込まないように夢幻姉妹が気を使ったということ。

 

魔界の情報でしか夢幻姉妹のことを知らなければ、とても信じられない動きでしょうね。そういう意味でも、豹がどれだけ夢幻姉妹も堕としているのかが察せるわ…まあ、私も直接話してみて理解できなくはなかった。護衛という立場だったからか、言葉遣いは少し荒いけれど態度は紳士的。なるべく()()()()()()ようにする対応に慣れているって印象だったわ。相当な実力を持ちながらこういうスタンスを貫く存在…ましてそれが男性なら猶更貴重。加えて兄目線で付き合おうとするのだから、八雲紫や夢幻姉妹といった【長い年月を生きた規格外の存在】からすれば稀少も稀少な存在なのでしょう。

 

…実際、ユキと夢子という実例がここにいて、サリエルすら絶対的な信頼を寄せている。紫が本気で手元から放したがらないのも必然だったのでしょう。その結果、ここに来て紫が藍を引き連れて夢幻姉妹を抑えるという豹の策通りに動いている。豹を敵に回さずに済んだ私は運が良かったようね。

 

「私の役目は霊夢の相手。この状況で戦力を分散させることはないでしょうし、紅魔館に博麗神社の面々が向かったら援護に向かえばいいのかしら」

「いえ、私たちは動けない。先輩が言ったように、【少しでもこじつけられる行動】を取っては駄目。紅魔館の増援に向かえばすでに繋がっていたと押し切って来る。神綺様がいらっしゃるまでは待機よ」

「流石は夢子だな、その方が外交関係としては正解だろう。紅魔館とやらの戦力が問題になる可能性はあるが」

「夢幻姉妹が抜けたとはいっても、兄さんとサリエル様がいて妹紅さんと咲夜も強力な戦力。それに咲夜の主人が弱いはずないからね。心配しなくていいと思うよ」

「…そうですね、ご主人様を支えてくれている皆様を信じましょう」

「やっぱり私は経験不足ね…夢子とユキがいてくれて助かってるわ」

 

そして私から動くのは制止されたわ。言われてみればその通りで、私が即座に紅魔館の防衛に向かうだけの理由が見当たらない。そういった点は即座に突かれると豹と夢子は判断してる…こういった経験は平和な魔界や幻想郷ではまず得られない。あらゆる意味で私は今、貴重な経験をしているわね。

 

となれば、私たちは母さんの到着を待つしかない。このまま豹の作戦通りに進めばいいのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…数が一人多いな」

「ほう…?どういうことですか、豹」

 

全員が戦闘準備を終えて、夢幻姉妹が予定通り動き。紫さんも俺の目論見通りに動いてくれた。そして夢幻姉妹が紅魔館から離れたからには、博麗神社の連中も動く―――そこでようやく気付いた事実が言葉となって漏れたのを、俺の後ろに浮かんでいたドレミーが聞き取れたようで問い返して来た。

 

「いや、さっき洩矢諏訪子と射命丸が博麗神社から妖怪の山に帰還した後、摩多羅隠岐奈が各勢力の戦力を博麗神社に集合させたんだがな。

…摩多羅隠岐奈・その部下の二童子・博麗の巫女・白黒の魔法使い・魅魔・明羅・茨華仙・伊吹萃香・高麗野あうん・八意永琳・蓬莱山輝夜・永遠亭の玉兎と兎・団小屋の玉兎二匹・地獄の閻魔・サボる死神・豊聡耳神子は俺が判別…いや、あれは庭渡久侘歌か。ここまでは確信が持てるんだが、残りの魔力反応が3つ残ってる。そのうち二つは豊聡耳神子一派の物部布都・蘇我屠自古だろうが…」

「ええ、間違いありませんわ。物部様も蘇我様も彼の神社に来ておられます」

「青娥、フォロー助かる。敵戦力としては想定通り、だが一人だけ俺が誰の魔力反応なのかわからねえ…いや、この魔力は…」

「呪珠って魅魔の部下じゃないの?」

「いや、呪珠の反応は香霖堂にある。さっきレティから聞いたが、魅魔と明羅から逃れるために呪珠を撃ち落としたそうでな。回復と保護のために明羅が香霖堂に送ったらしい。

勇儀、こいし。俺の索敵魔法を同調させるから、博麗神社に古明地さとりがいるかどうか判別できないか?」

「ふっ、キクリと同じことを当然のようにこなす…やはり豹は良い。また手合わせに付き合ってもらいたくなる」

「この件が落ち着いたら勇儀に付き合うことになってますから、コンガラ様にもお付き合いしますよ。どうせなら今までと趣向を変えて、俺勇儀コンガラ様で乱戦なんてどうでしょう?こうすれば一戦で済みますし」

「おっ、面白いこと考えるじゃないか豹!タイマンも捨て難いが、こんな機会二度と作れるか怪しいからねえ。コンガラさん、私もこれは闘ってみたい!」

「そうだな、楽しめそうだ…!楽しみにさせてもらおう」

「……ヒョウ、あらためて言っておく。私と麟も同行させろ」

「私もサリエル様に同意させてもらいます」

「俺からお願いしたいですよサリエル様。麟もだ…それで、どうだ勇儀、こいし?」

「あー、お姉ちゃんもいるねー。ほんっと分からず屋なんだから!」

「ああ、こいしの言う通りさとりも来てるよ。でもあのさとりが自発的に地上に出て来るとは思えないから、紫か例の摩多羅隠岐奈が引き摺り出したんじゃないねえ?

…それと、この感覚好きじゃないんだよ。解除してくれるかい?」

「ああ、すまない。確定させてくれて助かった、勇儀もこいしもありがとうな」

「おう」

「えへへー♪」

「…デレデレねこの覚妖怪。ルナ姉とメル姉の強力なライバルがまた増えたかー」

「リリカ、頼むからその方向でイジるのは終わってからにしてくれ…!」

「ククク、言質を取ったぞ。でかした末っ子、私も存分にお兄様で楽しめそうだ!」

「ふふ、お嬢様がここまで昂るのは久しぶりですね」

「レミリアと咲夜は少し手心を加えてくれよ!?」

 

何事も計算通りには行かないもの。古明地さとりが敵側に加わってることまでは確定できたが、相変わらず俺にくっついてるこいしで話の腰が折られる。いやこの決戦直前に平常心でいてくれるのは頼もしいんだが。

 

とりあえず、古明地さとりへの対応だけ急いで考えねえと…!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。