「…まさか、夢幻姉妹が妖精を気に入るとはな。阿求も運が無い」
「自業自得で哀れですが、年齢を考慮すれば仕方ないかもしれないわねえ。
そのあたりを教えるべき年長者に問題があったのかもしれませんが」
「そいつら、『偉そうな年長者は殺してもいい』『稗田一族以外は見逃してあげます』とか言ってたみたいっす。犠牲者が二人だけなのは、稗田家の人間しか狙ってなかったからっすね…」
「そうか…家に帰した途端に呼び戻してすまなかった。後は私達に任せ…」
「いや、こっちは俺たちで処理しておくっす!こんなとんでもないことが起きたってことは、慧音さんと小兎姫さんはすぐ動けるようにしておかなきゃマズいっすよね?」
「それはそうだが…」
「慧音さん、今は言葉に甘えるべきです。慧音さんにしか出来ないことが、また必要になるかもしれません」
「…そうだな、すまないが後は任せる」
「―――それでは、始める前に色々聞かせてもらいましょうか」
「…条件次第で引き下がってもらえないかしら?」
「つれないこと言わないでよ。こんな機会滅多に無いんだし、楽しみましょ」
「紫様も私も戦闘狂ではないのだがな…!」
スキマに入った先は…何処かしらここ?少なくともヒョウが何度か言葉にしてた八雲邸じゃない。
まあ、見渡す限り遮蔽物の無い異空間なんて小細工なしで闘り合えるワケだし悪くない。もっとも、主従揃って乗り気じゃないみたいだけど。
まあ、まずは姉さんが色々文句を言いたいみたいだし。納得できる答えが返って来なかったらそれも理由になるから逃がさない。なによりヒョウがある程度時間を稼いでほしいって言ってたしね。
…私も本当に変わったなぁ、ここまでヒョウのことを優先できるなんて。姉さんもそうだし、ヒョウは凄い。
「まず真っ先に聞きたいのは、あの酒臭いチビッ子。あれは何だったんですか?ヒョウから少しは聞きましたが」
「萃香は私の親友よ。霊夢のことを気に入ってくれて、この騒ぎにおいて霊夢の監視を頼んでいたわ。
少し聞いたのであれば、星熊勇儀と豹を襲撃したことは聞いているかしら?」
「それは聞いたよ。勇儀と闘り合う約束もしたし」
「星熊勇儀は豹のことを気に入ったが、萃香はつまらない奴と判断した。そして地底に移った星熊勇儀と違い、萃香は博麗神社に居候しているからな。我々八雲の手駒として扱っていた。
…いや、扱おうとしていたが正確だな」
藍が最後に付け加えた一言で、ヒョウの読みが当たってたことが確定。あのチビ鬼は八雲の指示じゃなく独断でヒョウを狙ったってこと。それなら情状酌量の余地はあるかな。
「霊夢の監視と護衛を頼んでおいたのだけれど…結果的にこれが間違いだったわ。豹は霊夢と接触することを避ける――即ち霊夢の側にいる者ほど豹と鉢合わせる可能性が低くなる。これを前提に豹を良く思っていない萃香を霊夢に付けたら」
「摩多羅隠岐奈とあの巫女が組んだことであの結果になったと。それが発覚した時点で距離を取らせるべきだったんじゃない?」
「夢月の言う通りだ。だが、霊夢の監視を任せられるほどの猛者を八雲で確保できなくてな」
「妖夢がいたじゃない」
「妖夢は即応遊撃に回したかったのよ。これまでにも何度か異変解決に動いたことがあるから、幻想郷を飛び回っていても疑問を持たれない…こういった存在は貴重だわ。豹の隠蔽が目的だった以上、藍や萃香のような大物が精力的に動いて不審に思われる方が問題」
「ですが最悪な結果を引きましたよね?」
「…その通りね。何も否定できないわ」
「まあ、ヒョウを見捨てたわけじゃないのは理解できました。あの巫女もそうですが、もう少ししっかり手綱を握っておくべきです」
「返す言葉が無いわ。ごめんなさいね…貴方方が全面的に協力してくれたのに」
「フフ、謝らなくていいよ。そのかわり私たちに付き合ってもらえばいいわ」
「そうですね、ヒョウも紫と藍は悪くないって全面的に擁護してましたから謝罪はしなくていいですよ。
ただ、もう少し詳しい話を聞きますね。当然夢月にも付き合ってもらいます」
「わかった、紫様には遠く及ばないが…私も付き合おう」
よし、言質を取った。これで私が楽しめるのは確定。後は姉さんの文句。
「ドレミーから夢の世界で情報収集したと聞きましたが、その主目的は何だったのです?」
「隠岐奈に付いた面々でこちらに引き込める勢力があるかどうかを調べていたわ。もっとも、守矢神社の方から停戦を求めて来たからあまり意味が無くなってしまったのだけれど…茨華仙と守矢神社はまだ脈があるのを確認できたわ」
「ヒョウは流石だね、交渉すべき相手をピッタリ当ててる」
「今の状況で茨華仙が豹に助力する可能性は低いだろうがな…
今更悔いても遅いが、茨華仙とは豹ともう少し交友を持たせておくべきだった」
「むしろ隠岐奈と八意永琳が私の想像以上に豹を危険視していたことを突き付けられる形になったわ。ドレミーに状況説明だけして、私も早々に幻想郷へ戻るべきだった…」
「…本当にタイミングが悪かっただけですか。ヒョウより紫の方が運に見放されていたようですね」
姉さんの言う通りね。紫も藍も本気でヒョウを手元に留めようとしてたことに嘘は無い…だけど伊吹萃香と夢の世界という二つの判断ミスに、摩多羅隠岐奈の策が当たったことによる相乗効果で昨夜の戦闘で最悪の結果を引いた。結果的に、昨夜の騒ぎで一番被害を受けたのは八雲だった。
「まだ何かあるかしら?」
「いいえ、私の中で納得は出来ました。
ですので、次は夢月を納得させてください。もちろん私も楽しみますが♪」
「フフフ…ヒョウは本当に私を楽しませてくれる。
今は何も考えずに闘争を楽しみましょ?いい気分転換にしてあげる」
「…そうね、それぐらい割り切った方が楽かもしれないわ。
藍、援護頼んだわよ!」
「はっ!!」
さあ、八雲紫なんて大妖怪と闘り合う機会なんて次があるかわからない。満たされるまで楽しませてもらいましょ!!
「時間が無いだろうから単刀直入に聞くぞこいし。古明地さとりは味方に付けられるか?勇儀の予測…自発的に地上に出て来るとは思えないってのが当たってるなら、交戦は避けたがるよな?」
「勇儀さんの言うとーり!お姉ちゃんが自分から地上に出て来るはずないよ。相互不干渉ってくどくど言うばっかりで地底どころか地霊殿にひきこもってるんだもん。だから私への人質にでも使うつもりだったんじゃないかな?
だったらお姉ちゃんは気にしなくて平気!人質にされたところで本当に危なくなるタイミングを読めるから勝手に逃げるもん。そもそも豹のことを認めてくれないから私がここにいるんだし!」
「いや、古明地さとりの独力じゃ心を読めても逃げ切れない可能性がある。そうなった場合に見捨てていいのかって話だ…こいしには相当助けられてるからな。姉を助けたいならそれも考えなきゃならん」
「お兄様?いい加減甘いこと抜かすのも大概にしなさい。味方じゃない奴まで守る余裕なんて無いわよ」
「そーだよ豹!それにちょっとお姉ちゃんを舐め過ぎ。あれでも地霊殿の主だからそう簡単に殺されるほどやわじゃないって。それこそ危なくなったらお姉ちゃんは私が助けるもん」
「…わかった、余計な世話だったようだな。
助けたところで俺たちと共闘することはないと考えればいいのか?」
「そーだね、逃げたらすぐ地霊殿に帰ると思うよ。豹のことを信用してくれなかったけど、地上のことも信用してないからお姉ちゃん」
「私も同感だね。さとりなら乱戦の中さっさと逃げ切るぐらいわけないさ…敵に回られると面倒だし、あちらさんが人質扱いするのはむしろ好都合じゃないかい?人質に取ってる奴を叩けば勝手に地底に帰るだろうよ」
「成程な…
それじゃ皆は古明地さとりは気にせず戦闘に入ってくれ―――とうとう来やがったからな」
こいしに姉への対応を確認し終えた丁度いいタイミングで、とうとう博麗神社の連中が動いた。真っ先に気付いた俺の言葉で、皆の表情が引き締まる。
「想定外なのは古明地さとりだけだな。明羅が博麗神社に残る代わりに高麗野あうんが加わっていて、八意永琳も初っ端から殴り込んで来るらしい…アリスの家に戦力を割く余裕はねえようだな」
「そうなると、私たち紅魔館防衛組で時間を稼ぐ必要があるのは博麗の巫女含めて8名ですか」
「そうなるな。博麗の巫女は俺が神綺様の前に現れればまず間違いなく俺を狙ってくるだろうが、高麗野あうん・小野塚小町・庭渡久侘歌と永遠亭傘下の兎4匹は紅魔館を優先する可能性がある。
…こちらはエリー・くるみ・里香・リィス・青娥・芳香の6名。遊撃隊が摩多羅隠岐奈の二童子を落とすか、神綺様が到着するまでは俺もこのグループに紛れて援護する。里香が戦車で援護できる位置までは引き込むぞ。それ以外は予定通りだ―――皆、頼んだぜ!!」
「はいっ!」
俺の傍らに控える麟の返事に続くように、皆が次々に返事か頷きを返す。
―――さあ、豹の名を棄てに行こうか。
「………閻魔様、やはり私は人質にならないようですよ?離してもらいたいのですが」
「試さなければわかりません。人質は生きているからこそ価値があるもの、貴方に危険は無いのですから黙っていなさい」
「相変わらず頭の固い…今回に関しては部下二人のほうがずっと優秀ですね。ここまで無能を晒す閻魔が他に居るのでしょうか」
「……口を慎みなさい。私にも限界というものはあります」
「それなら私を離せば済む話ですが?それがわからない無能な閻魔様…いえ、心が読めない以上仕方ありませんか。まさか覚妖怪に劣る閻魔様がいるなんて思いもしませんでしたが」
「頼むからその辺で止めとくれ!!とばっちり喰らうのはあたいら部下なんだよ!!」
「お願いしますさとりさん、そのあたりで…!四季様を逆上させても何もいいことはありません!」
「貴方達も大変ですねえ、豹とやらを慕う者達から情報を得ているせいで疑心暗鬼に陥っている。勇儀さんに同行した方が気は楽だったでしょうね」
「黙りなさい古明地さとり!!これ以上幻想郷の内乱を助長するような真似は慎むように!!」
「何度も同じことを言いましょう。黙ってほしいなら私を離せば済みますが?私が黙って人質になるなんて思っていたのですか?本当に考えの浅い閻魔様ですね」
「この………!!」
―――博麗神社から出撃して間もなく、紅魔館に集結した戦力が迎撃に出て来た。とはいっても紅魔館からそれほど距離を取らない位置で待機してる…たぶん里香の戦車の援護射撃が届く範囲だろうね。そして出撃を察した途端に人質の覚妖怪が閻魔をボロクソに貶し始めた…伊達に地獄や怨霊の管理を任されてるわけじゃないねえ。
…ただ、この戦闘前に閻魔の精神状態を荒らすのは止めて欲しかったが。本人の言う通り人質扱いされてる以上不満しかないのは承知の上だったが、その毒舌を私だけじゃなく作戦を立てた閻魔本人も甘く見てたらしい…口だけであれだけ閻魔を苛立たせるのは大したもんだ。魔理沙の安全がかかってるこの激突前じゃなきゃ感心するだけで済んだんだが、今に限ってはタイミングが悪い。こちらの戦力の中でも上位に入る閻魔が、感情を乱されることで本気を出せなくなるってのは困る…ただでさえ閻魔が苛立つのが増えてるんだから。
(…なんでコンガラさんが豹側にいるんだい。これも地底から出て来た古明地こいしって奴の暗躍だっての?)
妖気を抑えてるから迎撃に出てくるまで判別できなかったが、地獄に留まってた時期の上司と呼べるコンガラさんが敵に加わってる。こちらでコンガラさんと縁があるのは私と閻魔とその部下ぐらい…つまりコンガラさんが自発的に参戦したってなら、ターゲットは私か閻魔。私でも流石にコンガラさん相手じゃ魔理沙のフォローまで手を回せない…!埴安神袿姫とやらが出てくる前に閻魔に任せたいってのに、肝心の閻魔があの調子じゃコンガラさん相手は不味い。たとえ閻魔が相手だろうと、地獄に堕ちても武人としてひたすら強さを求めるコンガラさんなら問題なく渡り合える。そして感情的になった閻魔の隙を突くなんざワケない…そうなれば次の狙いは私だ。
(…魔理沙は霊夢に任せるしかないかもね。まったく…弟子一人守れない程衰えるなんて無様なもんだ)
衰えた私がコンガラさん相手に早期決着は難しい。敵戦力の厄介さを、出撃してから理解することになるなんてね…!