寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第27話 はるか昔の全盛期

準備を終えてパンデモニウムに戻ると、神綺様が白翼を展開していて驚いた。

 

「まさか、もう始まっているのですか神綺様?」

「うん、遅かったみたいね…準備しようとしたらサリエルの神殿周りに妨害領域が張られてるみたい。サリエルとの繋がりがある私だから開いて送ることは出来そうだけど、すぐに閉じられちゃいそう。そうなるとヒョウくんが魔界と繋ぎ直すのも妨害されるだろうから、十分気を付けて。私の方でも繋ぎ直せるよう試すから、サリエルに私の魔力を探してもらう方が早いかも」

「わかりました、突入即戦闘と考えるべきと」

 

肉体強化魔法と索敵魔法を展開。交戦せず脱出なんて出来ないようだな…!

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――!八意様、一名、異界から侵入者です。おそらくは魔界からの使いではないかと」

「運が悪いこと。魔界を巻き込まないように決行を早めたけれど、この状況で来られたら邪魔にしかならない…どこから入り込んできたのかしら」

「退路を断つ位置に待機しているサグメとほぼ同位置です」

「丁度いいわね、豊姫は後続が来ないよう魔界からの干渉を防ぐのに専念しなさい。そうすればサグメを侵入者の対応に回して問題ないでしょう。粘っているけどサリエルも時間の問題のようだしね」

 

 

 

 

 

それは、お互いに遭遇戦。まさか空間移動の出口が手が届くほどの至近に開かれるとは俺も彼女も予想できなかった。むしろ、魔界と繋がるならこの位置という予測の正確さが恐ろしいところだったが…逆にそれが彼女の最初の不運だった。

 

「――ッ!?」

 

出口が開いた途端、彼女は即座に反応しこちらに攻撃してきた。だがそれを覚悟していた俺が頑丈過ぎるのが彼女に重なった次なる不運。そして俺にとっての幸運は、完全に戦闘態勢で侵入したため入り口に入った時点で彼女―――稀神サグメを捉えていたこと!

 

「ーっ!!」

「ぐっ…!!」

「「サグメ様っ!!?」」

 

だが俺も敵の強さを見誤っていた。その細い首を骨ごと握り潰す気で繰り出した右手は後ろへ飛び退かれたため喉を抉るだけに留まり、反撃が俺の柔い場所…左目を潰した。だがその程度では怯めない。出口を抜けて至近にいた別の二人は片方を左手で土手っ腹に風穴を開け、もう片方の頭をサグメに向けて蹴り飛ばす!

 

「--!?」

 

サグメに左目の借りを返す時間なんざない、喉を抉っただけで黙ってくれるかは未知数だが…ここまで周到に待ち構えられていたということは、サリエル様も相当対策されているだろうからな!最速で合流し逃げなければ!

 

 

 

 

「――サグメが足止めし損ねた?それほどの者を月まで送り出せるとは、魔界神を名乗るだけはあるようね」

 

その言葉で神綺が本気で援護してくれたのを知る。巻き込むことになってしまったか…

私も衰えたものだ。襲撃者であろう相手の情報は筒抜け、首謀者は神殿まで出張らず後方で待機と本気で私を捕らえる気があるのかすら怪しく思い、こちらから打って出る必要はないと判断したのが間違い。

 

天才薬師を嘗め過ぎていた。神殿の周囲に結界を張り、天使にだけ効く睡眠ガスを散布し月人と玉兎で突撃―――そんな都合の良い薬を造り出せるとは。私の下にいた玉兎たちは投降を選び、天使たち数名はすでに捕らわれた。せめて天使たちだけでも助けようと凄まじい眠気に抗いつつ先行した部隊は私一人で壊滅させたが…逆にそれで天敵を出向かせてしまった。

 

「取引です。魔界からの使いは見逃しましょう。大人しく我々に降りなさい」

「私の傍にいた天使を、皆…連れ去った貴様らを、信じろと?先に……彼らを、解放しなさい」

 

綿月依姫、神降ろしの巫女。私が天使である以上、神を超える力は行使できないのだ…神綺のところへ堕天すれば不可能ではないが、今この場を切り抜ける手段には成り得ない…ああ、眠い……睡眠とは、疲れを癒すのに適した状態…私の癒しの力では、抗うことが困難。誤魔化すのも、限界に近い――

 

「……手荒な真似をしたくないがために取った手段です。貴方のように抵抗されては擁護できなくなります」

「ほざく、な……研究対象、としか…見ていない、あの狂人の…下に連れて、行って……何が、擁護だ」

 

この言葉で苦い表情を見せるあたり…実力者ほど、気乗りしないというのは…真実。

それなのに…あの狂人を始末しようとしないのも、真実。

 

「貴様ほどの、力が…ありながら……なぜ、奴を…生かして、いる…」

 

眠い。もう、気力だけで支え切れそうに…ない――

しかし、響き渡る轟音で…今少しだけ、意識が覚醒する。

 

 

 

「後ろですって!?」

 

それは、完全な慢心だった。サグメを振り切ったとはいえ、侵入者はたった一人。私一人でどうとでもなる―――それは間違いなかった。

どうとでもなるのは、私一人なら、だった。

 

「うあ…依姫様、たすけて…」

「いてえ…何が起きやがった…」

 

上空から投げつけられたらしき石像が、天井を崩落させながら私の後方に控えていた後詰の部隊に直撃した。しかし助ける余裕はない。

 

(屋外から索敵魔法で感知した部隊を狙われた!?しかも魔法ではなく物理的に…魔法使いとは思えない力技。やられたわね!)

 

しかもそれによる轟音と目眩ましに紛れてサリエルに接触されている。どうやって転移魔法を使ったのかを見逃したのも痛いけど…生きたまま捕らえろという命令のせいでサリエルがほぼ無傷。サリエルが私に対して放った魔法が壁と床を崩し足止めされる。お姉様がいる以上逃がすことは無いだろうけれど…あの男、甘く見てはならない!

 

 

 

「待ちなさい!」

 

 

 

「…神綺の使いだな…すまない、巻き込んでしまった…」

 

左腕に抱えたサリエル様から謝罪されるが、今はそれどころじゃない。

 

「気にしないでください、これが俺の受けた頼まれ事。ですが、神綺様ですら手こずる妨害を受けているようです。サリエル様が神綺様の魔力を探せますか?」

「…もう、目を開けているのが、やっとでな…睡眠ガスの作用が抜けないと、何もできそうに、無い…

ゆえに、その左目に、これを預ける…力及ばずとも、責めはしない…好きに、使いなさい」

「は…?」

 

その言葉で、俺の左目に視界が戻った。そしてサリエル様が静かな寝息を立て始める。

これは…魔眼!?潰された俺の左目の替わりとでもいうのか?

使いこなすには時間が足りない、だが既に俺一人で切り抜けられる事態ではなくなっている…

ありがたく、使わせてもらおう。あんな格上に付け焼刃が通用するかは賭けになるだろうが…!

 

綿月依姫。見つかる前に脱出をとまで伝えられている月の民。部下を見捨ててこちらを追ってきたあたり、このままむざむざ逃がしてくれることは無さそうだからな…!

 

 

 

 

 

「…完全に予想を裏切られたわね。まさか、あんな肉体派を送って来るなんて」

【少なくとも接近戦は依姫に任せるべきかと。まさか腕力で物理的に黙らされるとは私も思いませんでした】

「しかも、魔界からの干渉がかなり本気です…魔界神を名乗るだけあって、いくら妨害しても次の入り口を造ってきます。それを封じるので私は手一杯です」

 

遠目で見ただけではサグメを振り切った詳細は見えなかったものの、サリエルと合流するための手段は魔法使いとは思えない脳筋な方法。直線距離に近い位置にあった石像を切り取り、神殿上空から投げつけて天井に穴を開けて侵入―――魔界からの使者という印象とは真逆。まあ、この程度で依姫が取り逃がすとは思わないけれど…

 

【ですが私のとっさの反撃程度で左目を潰せた以上、理不尽なほど頑丈というわけではない。サリエル本人が大人しくなった以上、残存戦力で総攻撃すべきでは?】

 

声を出せない状態のサグメが念話で意見を出す―――抉られた肉片を回収できなかったから完治に時間はかかるでしょうけど…致命傷ではない。こうなる予想はしてなかったけど、サグメと念話が出来る私と綿月姉妹が前線指揮を執ることを参加の条件にしたのは大正解だったわね。あの厄介者が仕切っていたら魔界神相手じゃ失敗に終わりかねなかった。

そして、サグメが追撃を受けなかった以上は過度に警戒する必要もない、か。

 

「そうね…すでに二人も侵入者による死者が出た以上、魔界へも正当防衛で押し通「―――え?魔界神とは違う干渉が…入り込まれた!?」

「…思った以上にやるわね魔界神。サグメ、私が前線に出るから豊姫の補佐をお願い」

 

まったく、気乗りしない目的な上に敵が予想以上に厄介。とんだ貧乏籤を引かされたようね。

 

 

 

 

 

「ようやく眠ったようね…大人しくサリエルを引き渡せば無事に帰してやるわ」

「そういう条件を出してくるということは、サリエル様を盾に戦えば勝機はあるってことだな?」

 

俺がすべきは時間稼ぎだ。いざ戦闘になればサリエル様を盾になんて出来ないし、右手だけで戦えるような相手じゃない。

 

「出来もしないことを口にしないことね。それに、派手にやってくれたからこそ…私一人ではなくなっているわよ?」

「出来もしないことを口に出すなよ。一人じゃないなら俺が無事に帰れる保証なんて出来ないだろ」

 

目眩ましも兼ねていたとはいえ、神殿の一部が崩落したことにより残存戦力が集合してきたようだ。しかも、思ったより俺を警戒してるな…これだけ実力差があるのに隙が無いと俺一人じゃ手の打ちようがない―――どうする!?

 

「…時間稼ぎなら無駄よ。魔界神であろうと、八意様とお姉様が領域を展開してる限り応援は来ない…お前が侵入したことで強度を高めているのだから」

「ハッ、月の民は随分と敵の値踏みが甘い。俺ごときに易々と出し抜かれるわけだ…神綺様が無策で俺だけ放り込むとでも思ってたのか?」

「知らないわ。ただサリエルを渡す気が無いのはわかった。後悔しても遅いわよ」

 

ちぃ、来るか!護りたい相手だからこそ、ここに呼びたくはなかったが…俺の窮地に感付いてるのか向こうから来ようとしている。なら、助けを借りるべき!!

 

「悪い、ユキ!手を貸してくれ!!」

「兄さん、呼ぶのが遅い!!心配させないで!」

「なっ…どうやって!?」

 

護衛役である俺を支えるために、俺の妹として創られたユキ。その役割は実に単純―――俺の後ろからの援護射撃!!

 

「げっ!」

「うっ!――地上の民ごときにっ!?きゃあっ!!」

「残念、私たちは魔界人よ!!」

 

神綺様によって与えられた兄妹という関係、それを核にした召喚魔法はたとえ魔界と月という異界であっても通用する…お互いの魔力消費は甚大、だが【俺たち兄妹はお互いを呼び出せる】のだ。あれだけの格上であってもこれは読めなかったようだな!そして、その動揺が隙だ!

 

「ユキ、リストは見てきたか!?」

「当然!だからあいつは相手にせず」

「「逃げる!!」」

 

左腕にサリエル様を抱えたまま全力で後退!雑魚はすでにユキが一掃して、奴一人。そして俺とユキが合流したことによって、神綺様の目印にもなりやすくなったはず―――あとは神綺様を信じて粘るのみ!

 

「魔界神…本当にやるじゃないっ!」

 

先程のやり取りで魔界からの干渉に対しては絶大な信頼を持っていたのが知れたからな!それを破られちゃいくら格上だろうと完全に冷静にはいられない―――ユキのばら撒いた光弾をものともせず俺たちを追撃して来る…そう、俺たち兄妹の切り札にまんまと乗ってくれた!!

 

「コースアウトだ、もう追って来んじゃねえぞ!!」

「しまった…!?」

「それじゃ、さよなら!」

 

ユキのばら撒いた光弾を外周に俺がワームホールを創り上げる空間魔法!!しばらく異空間で迷子になってやがれ!!!

 

 

 

 

 

「ありがとなユキ、助かった」

「冷や冷やしてたよ!ちゃんと反省してね!神綺様が念のためってわたしも時間差で呼んでなかったら来れなかったわ!」

 

お互いが【行きたい・来てほしい】と思わないと召喚出来ないので、ユキの方から先に来ようとしてたからこそ使えた伏兵策だ。あれだけの格上に通用したのは後々誇らせてもらおう…だが今は。

 

「魔界へ無事に帰ってからな。流石に魔力を使い過ぎた…ユキもだろ?急いで神綺様の魔力を探して繋がないと…」

「だね。サリエル様を起こした方が早いかな?」

 

ここの判断が、俺の間違い。後に覚醒魔法を習得した原因。

 

「いや、睡眠ガスの作用による昏睡だからな…覚醒魔法を俺もユキも使えない以上、簡単に起きてはくれないだろう。普段と逆だが、ユキが警戒に回ってくれ」

「わかった!なるべく急いでね!」

 

もっとユキを信じるべきだった。もう時間も魔力も少ないから、得意な俺が探した方が早い…それは事実だったが。

もっと神綺様を信じるべきだった。空間魔法に長ける俺が魔界に繋ごうとしても無駄だった程の妨害だったから、神綺様も手こずっていた…それも事実だったが。

 

ユキと神綺様なら、俺の魔力が尽きる前に出口を開くことができたのだ。

俺の焦りによる判断ミスで、余計な被害を受けることになった。

 

「――っ、もう次の追手!?やるしかないわね!」

 

戦闘に関して、ユキに心配はいらない。俺と違い遠距離でも十分戦えるからだ。そう、ユキに心配はいらなかったのだ。

 

「これ、矢が混じってる!?指揮官が出てきたの!?でも、撃ち落とせない強度じゃない!」

 

この時、一番危険視されていたのは俺だったのだ。

 

「――ッ!ぐっ…!?」

「兄さん!?」

 

弓の名手との評価は伊達じゃなかった。頭で必殺を狙うのではなく、外さないために心臓を狙う―――場数だけは踏んでいたおかげで急所を外すことはできたが、当てられた時点で敵の目的は果たされる。この本命を当てるために、牽制は全てユキとサリエル様に向けていた…!

 

「くそっ…神経毒か……」

 

矢の刺さった右肩から、痺れが広がっていく………




次の更新は火曜日です。
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