寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第270話 本気と説得と伝令と

最初から全力だ。時間をかける理由も余裕もない、この闘いが終わればケリが付く。

神綺様もそれを理解してくれてるから、俺が構えると同時に黒翼を展開する―――裏切りという最低最悪な不意打ちで勝利を奪ったあの時、神綺様は白翼で相手してくれた。だが今は黒翼、神綺様も最初から本気を出しているということ。

 

容赦なく俺を叩き潰してくれるってことだ。だからこそ俺も躊躇いなく全てをぶつけられる!!

 

「親友への義理と、漢としての意地。ここで果たす」

 

カムさんが俺の手元に届けてくれた会季のハルバートには、あの反逆の日にユキの手渡してくれた弾丸4発が装弾してある。俺の魔界への未練がそのまま形になったようなこの弾丸は、幻想郷に流れ着いてからも使うことが出来なかった。弾丸として利用するために加工されているとはいえ、込められている魔法を発動させるのにハルバート本体は必要なかった。そもそも攻撃魔法を凝縮・停止させる魔法技術の基礎を考案したのは俺なのだから。

 

ユキとの繋がりを断ち切ることが出来なかった俺の未練が、今ここに来て役に立つ…!

 

「行くよ、ヒョウくん!!」

「こちらからも行きます!!」

 

ユキの弾丸を放ちながら、ルナサとカナを参考に独自に再現したポルターガイストを起こす魔法で里香の魔力拳銃も乱射する!神綺様は俺の闘い方を良く知っているからこそ、俺が幻想郷で得た射撃戦の手段は端っから見せる。修練が足りない射撃戦では勝負にならない、それならば俺の土俵に引き摺り込む方向で使うしかねえんだからな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――行かせないわ、霊夢」

「邪魔すんじゃないわよアリス!!」

 

霊夢にしては珍しく余裕の無い表情で飛んできたわ。おそらくこうも簡単に豹が摩多羅隠岐奈の妨害を掻い潜って移動するとは思わなかったようね。私に札を投げ付けつつそのまま通り過ぎようとしたのだけれど―――

 

「行かせません!」

「『夜叉を、お借りします!!』」

「は!?でかくなる人形が2体!?」

 

私の後方に控えた上海とゴリアテが巨大化することで霊夢の進行方向を塞ぐ。それによって足が止まった霊夢が私を相手せざるを得ない方向に避けるよう緑の魔法を蛇行させて狙う!!

 

「ちっ…アリスどういうつもりよ!」

「どういうつもりって、最初から言ってるじゃない。『魔界と幻想郷の全面戦争を止める』ために動いてるわ」

「あんた魔理沙がどうなってもいいわけ!?」

「霊夢がそこまで魔理沙を心配する方が私としては意外よ。

そもそも霊夢は一つ勘違いしてないかしら?魔界と幻想郷で戦争になったら【幻想郷ごと魔理沙を失う】可能性の方が高い。今魔理沙を救うために豹を捕まえたところで、全面戦争になった場合魔理沙の迎える結末は変わらない…いえ、あんた達に怨嗟を向ける魔界人の報復を考えればもっと悲惨な扱いになるでしょうね。

優先順位を間違えてるわよ」

「だからって!魔理沙じゃなくて豹を追い返せば済む話なんでしょ!?」

「魅魔から聞いてないのかしら?『豹を魔界に引き渡したところで、魔界の強硬派を抑えることには何の役にも立たない。豹と魔理沙を同列に扱うのが間違い』なのよ。

霊夢・魔理沙・魅魔・幽香は魔界人から恨まれてるからこそ、魔界の強硬派を抑える取引材料になる。豹は何も魔界に恨みを買うようなことはしていないわ。豹を魔界に追い返したところで、魔界の強硬派には何も関係ない。

豹を魔界に追い返しても、魔理沙が幻想郷と魔界の取引に使われる可能性は残る。それなら魔界と幻想郷の全面戦争を避けるために動くことを優先すべきよ」

「私たちが豹を追い返せば神綺に恩が売れて、その強硬派とやらを抑えるよう要求すればいい話じゃない!!」

「母さんに恩を売るつもりなら猶更余計なことをしないべきでしょうが!霊夢たちが動く方が魔界神としても困るのよ!!」

「知らないわよそんなこと!!売った恩を返さないような魔界神じゃないんでしょ!?」

「あぁもう!この脳筋巫女は…!

 力尽くで黙らせなきゃ止まらないってことはよくわかったわ。

 久しぶりに、人形遣いとしても魔法使いとしても本気を出してあげようじゃない!!」

 

会話は無駄ってハッキリしたわ。思ってた以上に霊夢が魔理沙を守ろうとしてるのは予想外だったけれど、魔理沙に関しては二の次。そもそも母さんとサリエルが先手を打って強硬派を壊滅状態に追い込んでるのだから、魔理沙を引き渡す相手がもういないのよね。それを伝えて引き下がってくれれば楽だったのだけれど、案の定というか戦闘態勢に入ってる霊夢が細かい話に耳を貸すはずがない。

だから私も最初から戦う気だったし、上海とゴリアテも言わずもがな。むしろ今の二人には豹の隠れ家の意志が宿っている、豹が遠い過去の呪縛から解放されるこの異変に対する意気込みは私より強い!

 

「ご主人様、私が前に出ます!」

「ゴリアテちゃんのフォローは私がやります!」

「任せるわ。蓬莱・オルレアン、行くわよ!」

「このっ…!相変わらず面倒な人形ね!」

「蓬莱とオルレアンだけじゃないわよ、上海とゴリアテも滅多に出せない本気を出せる。多勢に無勢を思い知りなさい!!」

 

豹によってもたらされた黒翼で、上海は私の魔力を頼らずに長時間戦闘が可能になった。その上海がゴリアテのフォローに回ると言い切った、つまりゴリアテの魔力補充を任せてしまっていいってことだわ。

それはつまり、攻撃魔法に回せる私の魔力が増えるということ!!

 

「私も昔のままじゃない。今日は勝たせてもらうわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――という流れで私達は豹さんの力になりました。そして、豹さんと魔界神が相見えた今、幻想郷内部で争うことに意味はないでしょう」

「それに、神綺様とサリエル様は最悪の事態を防ぐべく魔界で先手を打って下さいました。これ以上、豹さんたちと反目する必要は無いはずです!」

「………隠岐奈が足止めに失敗した時点で、すでに手遅れなのは事実ですか。

古明地さとりの言葉通りですね。勇儀との合流を優先して、魔界側の情報を得るべきだった。紫はサリエルとの繋がりを伏せるために、魔界の強硬派が先に排除されたという情報を落とせなかったわけね…」

 

衣玖さんと私で豹さんの状況を茨華仙様にお伝えしている途中で、アリスさんの家に強大な魔力が突然現れました。あれこそが魔界神――神綺様なのでしょう。そしてその直後、豹さんも一瞬でアリスさんの家に移動しています。豹さんのおかげで覚醒しつつある私の魔眼は、大きな魔力反応であれば感知できるのですが…豹さんの空間移動による魔力反応は感じ取れませんでした。

 

―――これは、ユキさんと夢子さんというお二方が幻想郷に侵入して分散した後にユキさんの反応が何の前触れもなく消えてしまったのと同じ現象…これこそが豹さんが語っていた【兄妹だけの召喚魔法】なのでしょう。

 

それは茨華仙様や摩多羅隠岐奈さえ妨害するどころか反応することで精一杯だったということ。最後の最後で豹さんは幻想郷の管理者達の上を行ったということです。そして、この状況に持ち込めたのであれば…!

 

「わかりました。紅魔館を攻撃する意味がなくなった以上、この場に私が留まる意味はありません。ですが、すでに戦闘に入っている者達を止めることは私と竜宮の使い、椛が協調しても不可能でしょう。ここは理解してもらいます」

「はい、地上の皆様は喧嘩っ早いですからね。下手に介入する方が逆効果になりますし」

「ですが、私たちの話に耳を傾けていただけそうな方でしたら…っ!?

こちらに向かってくる反応が、3つ!?」

 

茨華仙様は引き下がっていただけるようですが、このタイミングで戦場に向かってくる強者を感知出来ました!そして、私の言葉で索敵に力を割いた衣玖さんと茨華仙様は詳細を掴めたようで。

 

「総領娘様ですね。まったく、本当に手の焼けるお子様です」

「残りの二人は依神紫苑と鬼人正邪…出て来た位置が輝針城ということを踏まえると、一時的な共闘でしかない組み合わせでしょうね。

問題は、この戦場の誰を狙ってくるかだけど…」

「衣玖さんの読みでは、衣玖さんを狙ってくるのが6割、カナさんたちを狙ってくるのが3割、駒として利用しようとした摩多羅隠岐奈を狙うのが1割だったでしょうか」

「はい、隠岐奈さんを狙ってもらえれば助かるのですが望み薄です。

茨華仙さん、力を貸して頂けませんか?」

「そうね、ここまで来て引っ掻き回されるのも問題になる。特にここに来て介入してきた鬼人正邪は機会があれば仕留めておくべき相手だわ。竜宮の使いを狙ってきたら共闘しましょう」

「ありがとうございます、茨華仙様!!」

 

私と衣玖さんに求められた役割は最上の結果を引き出せました!もっとも、これだけで安心とはなりませんが。

次はここに来て介入を図るあの3つの反応に対応しなければなりません。遊撃隊の皆様も話に聞いていた摩多羅隠岐奈の二童子を捕虜として紅魔館に移動させていますが、まだ援護に向かうべき戦闘は多数あります。戦場に到着していない反応を優先することは無いでしょう。

 

そういう意味では、衣玖さんを狙って来る方が私たちにとっては理想的…!

 

「各戦闘に巻き込まれない位置に移動するわよ。あの反応の狙いをハッキリさせることを優先するわ」

「はいっ!」

「了解です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

私が先導する形で幻想郷に飛び出すと、既に事態が大きく動いていることに気付きました。

見知らぬ強大な魔力がアリスさんの家に突如現れ、間を置かずにもう一つ魔力が移動しました。こういった系統の技術は不得手な私ですら、問題なく感知できる程の強い魔力が。

 

「あれは!?豹さんと…この強い魔力が魔界神さまですか!?」

「そうみたいねー。紫をあのタイミングで呼び出すなんて裏があるとは思ってたけれど、魔界神の到着が近いってことを把握してたってことだわ」

「それでは、これ以上幻想郷の住民同士で争う必要はないってことですよね?」

 

幽々子様と橙も同じ状況だと判断したみたいだから、私なりの結論を出してみたんだけど。幽々子様が渋い顔で答えてくれます。

 

「もう戦い始めちゃってるのは止まらないわよ、幻想郷の住民は刺激に飢えてるのだから。

こうなった以上魔界神と豹にさっさと決着を付けてもらうのが理想的なのだけれど…って、あら?」

「幽々子様?どうしました?」

「あ、紅魔館から私たちに向かってくる反応が…ミケさんですね」

「ミケ?誰かしらー?」

 

幽々子様に続いて橙も気付いたらしいその反応は、私ではすぐ気付ける反応ではなかった。すでに戦闘を始めてるような皆と比べると、少し落ちる妖気だったから。そして幽々子様も知らない相手みたいで、橙に聞き返す。

 

「ミケさんは妖怪の山近くでお店を開いてる招き猫さんです!豹さんが何度もお客さんとして買い物してるそうなので、紅魔館に協力していたのだと思います!」

「それなら話を聞くべきですよね、幽々子様?」

「そうねー、魔界神がもう来ちゃってるから魔界側と話すのはあまり意味がなくなっちゃったし。ミケっていう子に話を聞きましょうか。橙の知り合いみたいだし」

「はいっ!それじゃ私が先行しますね!」

 

そう言って橙が先行し始めると、向かって来てる反応も速度を上げたからすぐに合流出来た。

 

「橙、久しぶり!話が通じる相手が一緒で助かったわ!」

「ミケさん、お久しぶりです!豹さんを助けてくれてるんですよね!?」

「ええ、後の二人が魂魄妖夢さんと西行寺幽々子さんかしら?」

「そうよー、私が西行寺幽々子」

「魂魄妖夢です」

「橙が話してくれてると思うけど、一応私も自己紹介。

豪徳寺ミケよ、商売人をやってるわ」

「商売人?メイドじゃなくて?」

「これは紅魔館のメイドに紛れ込むためにって無理やり着せられたのよ…私の他に避難してきてる妖精二人も着せられてたし」

「でもお似合いですよ、ミケさん!」

 

…なんでメイド服着てるんだろうって思ってたけど、紅魔館の非戦闘要員に紛れ込ませるためだった。つまり戦闘員としては数えられないってことだけど、そんな彼女が直接私たちに話しに来た。やっぱり豹は慕われてるんだってことがあらためて理解できた。

 

「はあ…豹にも褒められたから悪い気はしないけどね。とりあえず本題に移るよ。

豹の指示した紅魔館の面々の動きを説明するから、これを聞いた上で援護に動いてほしいわ」

「わかったわー。私は細かいところまで聞いてないから、しっかり教えてちょうだい」

「私からもお願いします!!」

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