寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第276話 戦闘終結

「―――はあぁっ!!」

「むっ!?」

 

私にもう余裕はなかった。霊夢がアリスと闘り合い始める直前に、魔理沙の魔力が突然消え失せた。しかも相対していたのは忘却の楽師…!幻想郷において誰よりも深く魔理沙を恨んでいる存在。

 

愛弟子である魔理沙を贔屓目に見てる私でも、彼女が魔理沙を恨むのは仕方ないと言える。だが、実力面で大きく隔たりがあるから意識はしても警戒はそこまでしていなかった。それが最悪な結果を招いてしまったね…!

魔理沙と同時に忘却の楽師の魔力も消失してるから、おそらく双方の魔力を封じる魔法…いや、魔法使いとしてはデメリットが大き過ぎるから魔法じゃなく呪いの類かもしれないか。恨みを募らせてるだけあって、魔理沙にとってこの上なく有効なやり方だよ…!

 

「見事!儂の刀を折るとは」

「これで満足してもらえないかい、コンガラさん…!」

 

コンガラさんならこれでも満足してくれる―――それに賭け私の本気を刀に向け、狙い通りへし折ってやった。

 

再度拾えるようになった魔理沙の魔力は、紅魔館に現れた…!敵の捕虜として魔界に引き渡されちゃ面倒なことになる。魔界に殴り込んで救出は不可能じゃないが、それをすると幻想郷への帰還を断固拒否されるから新天地を探す羽目になるからね。魔界と幻想郷双方からの追討を捌きつつ潜伏先を探すのは、いくら私と魔理沙でも骨が折れる…それを避けるためには、今のうちに魔理沙を助け出さなきゃならない!

 

「うむ、楽しませてもらった。刃を捨てて魅魔が得た魔法、申し分なしよ。

儂が受けた依頼は魅魔の足止めだからな、最早充分。それに、魅魔が余裕をなくした理由も向かってきておるようだ」

「…まったく、ここまで計算されてたっての?

今更だけど、生半可な戦力で豹を敵に回すべきじゃなかったって事かい…」

 

戦意を引っ込めたコンガラさんの言葉で、私もようやく魔理沙の反応がこちらに向かってくることに気付く。

その反応は、魔理沙を含めて3つ。要するに捕虜の護送役がいるってことで、それは私もよく知る二人。

 

「魅魔様、そこまでなのです!」

「魔理沙は私たちの手中にあります。

 取引に応じてくださいますね?」

 

里香とリィスが二人がかりで魔理沙を抱えてやって来た。肝心の魔理沙は…封じられていた魔力は問題なく戻ってるけど手酷くやられたみたいだねえ、顔のあちこちが赤く腫れあがってる。忘却の楽師に容赦なくボコボコにされたらしい…豹の弟子だけあって肉弾戦の修行に力を入れていたんだろう。魔法を封じられた魔理沙じゃ分が悪かったかい。

 

―――もっとも、今の私に選択の余地は無いんだけど。

 

「…魔理沙を返す代わりに、これ以上豹に手を出すなって?」

「いかにもなのです!」

「受け入れられないというのであれば、私がこのまま魔界へ引き渡します」

 

はっきり言って、戦車なしの里香とリィス相手なら私一人でも簡単に叩きのめせる。でも刀を折ったとはいえそこにコンガラさんが加わると無理だ。軽く話した感じだとコンガラさんは私を抑えるためだけに地上まで出向いたが、それ以外は相変わらず興味は無いらしい。だからこそ里香とリィスはこのタイミングで取引を求めてきたんだろう。

 

コンガラさんだけでなく、私一人相手に実力者多数でかかれるこのタイミングで。

 

(結局、隠居なんて嘯いて人脈を切り捨てたのが私の敗因か。

私よりずっと長く隠棲してた豹を助ける相手なんざロクにいない、その思い込みが完全に間違ってたわけだ)

 

魔界人である豹がここまで戦力を集められるなんてのは、私だけじゃなく幻想郷の管理者の一角である摩多羅隠岐奈さえ予測していなかったのだ。完全に豹を甘く見た私たちの敗北だった。

 

―――だが、この取引に乗れば…まだ魔理沙は守れる。私が庇護下に置くことで。

 

「仕方ないね…受けてやるよ。魔理沙を返してもらおうかい」

「はい。

 …あらためて魔理沙のこと、頼みます」

「いくらあたいでも魔理沙が処刑されたら寝覚めが悪くなるし。

 魔理沙の保護は魅魔様にお任せなのです!」

 

まだ戦闘を続けているのは閻魔と月の姫にその従者だけ、つまり残りのメンツを相手してた連中総出で私を袋叩きにできるってわけだ。

…なんだかんだ、里香とリィスも私と魔理沙を敵に回すのは避けようとしてくれてるってことだろう。たった2箇所とはいえ、戦闘がまだ続いてるのにも関わらず取引に出向いてくれたんだから。

 

これでも一応2人を部下として扱ってたんだから、その頼みは聞いてやるべきだろう。そもそも私の目的と完全に一致してるのだしね。

 

「当然だよ。魔理沙は私が守るさ」

 

気を失ったままの魔理沙を抱えて、私も戦場を去ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、これでお前ら側の戦意がある奴は輝夜だけになったが。まだやるか、永琳?」

「…流石に潮時ね。仕方ないわ。

輝夜を連れ帰ってあげるから、少し手を貸しなさい」

「いいだろう、話が通じるのは助かるわ」

 

輝夜と違って殺し合い慣れてるわけじゃないけど、昨日豹から貰ってた情報と今までの付き合いで永琳のこともある程度察せてた私は問題なく永琳を足止めできた。もっとも無傷とはいかなかったし、サリエル様の強力な援護のおかげもあったけど…豹があっさり決着を付けてサリエル様とユキが抜けてからも上手い具合に妨害できたから上々なはず。

何しろ永琳は敵の中でも要注意人物扱いだったからね。本人が乗り気じゃないのもあったけど、私一人で撤退に追い込めたのは大戦果だと思っていいよね?

 

「それじゃ、輝夜に何をすればいいの?」

「吸血鬼ごと私の薬で黙らせるから、次の接近戦と同時に牽制して頂戴。輝夜の気を逸らせればいいわ」

「任せな!」

 

面倒な指示じゃなくて助かったね。輝夜はともかくフランドールは私でもちょっと手を焼くタイプの性格と強さを併せ持ってるけど、輝夜の気さえ逸らせばいいなら慣れたもの!

 

「フランドール、援護するよ!」

「え~?邪魔しないでよ!」

「は!?永琳はどうしっ!?」

 

私の声に輝夜が気を取られた一瞬のうちに、薬瓶を矢が貫きガスが噴き出す。

…輝夜を一瞬で動けなくするような痺れ薬か。相変わらず恐ろしい薬を使うね…とりあえず大急ぎでフランドールが地面に激突する前に空中でキャッチすると、永琳は輝夜が墜落してから担ぎ上げて。

 

「痺れはサリエルに頼んで治してもらいなさい。この程度の薬毒が通用する相手じゃないわ」

「永琳が治す気はないってことね。まあいいか」

 

それだけ言って永遠亭の方へ飛び去っていく。鈴仙ちゃんたちは置き去りか…相変わらず輝夜に対してだけは異常に過保護だわ。

 

「し、しびれるのだー」

「あ、アイツ何なのよ…!?」

 

重いと思ったけどそういえば背中にルーミアも貼り付けてたっけフランドール。ちょっとこのまま持ってくのはキツいか。

 

「サリエル様に治してもらうから、ちょっと待ってな。一度降りて背負い直すよ」

「い、急いでよ!?」

「お、お願いするのかー」

 

やれやれ、これで残ったのは鬼の四天王と地獄の閻魔。下手に手を出す方がこじれかねないから、私はさっさと豹たちに合流しよう。丁度よくレミリアも先に向かってるしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…全滅ですか。本当に、甘く見過ぎていましたね…」

「そりゃ豹が認めた奴らだよ?しっかり共闘すりゃこれだけ戦えて当り前さね!!

タイマンとはいかないのが惜しいけど、機会があれば私とも闘り合ってもらいたいぐらいさ!」

 

流石は地獄の裁判を取り仕切る閻魔、私の拳でも簡単には叩き壊せない結界を展開したり容赦ない弾幕を撃ってきたりでなかなかケリが付けられない。まあ、それだけ楽しめる喧嘩だから私は満足してるんだけど…いつの間にか敵がもう閻魔しか残ってない。他にも相手させたい奴がいたのに、惜しいことをしちまったねえ。

 

「まあ、そういうわけでな?相手させたい奴がもういなくなっちまってんだ。まだまだ楽しませてもらうよ!」

「付き合いきれません。これ以上は鬱憤を晴らすどころか疲れるだけです、後は風見幽香か埴安神袿姫を相手にしなさい。

私はこの異変の事後処理をする必要がありますので」

「おいコラ!ちょっと待ちな!!」

 

それだけ返して閻魔は私の周りに何重にも結界を張り巡らせて帰ろうと背を向けやがった!

ふざけんな、そう簡単に逃がすもんかい!!

 

「――っらぁっ!!」

 

何重に張られたとはいえ所詮は結界、力尽くで壊して追っかけようとしたんだが…!

 

「これ以上四季様の機嫌を損ねられちゃあたいが八つ当たり食らうんだよ!

頼むからあっちにぶつけてくれ、お願いだ!!」

「って、うおおっ!?」

 

昨夜華扇が連れてきてた死神が私ごと一気に長距離を移動することで閻魔との距離を離されちまった。たしか距離を操る程度の能力とか言ってたっけ?

使い方次第でこんなことが出来るのかい。

 

「いいじゃないか!次はお前さんが喧嘩してくれるんだね?」

「冗談じゃないよ!!あたいはさっさとサボる毎日に戻りたいんでね!

次の相手はこいつらに教えてもらっとくれ!それじゃ!!」

「って、またかい!?」

 

上司の閻魔と同じように、死神も今度は自分だけ長距離移動して逃げちまった。まったく、つれないねえ…

―――って思ったんだが。

 

「勇義さん!どうしたんですか!?」

「あん…?」

 

声をかけられて振り返ると。昨日顔を合わせた守矢神社の小娘が、人間と妖怪を連れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああもう!次から次から鬱陶しい!!」

「ははは、いいじゃないか!!ここまでやれる大妖怪だとは思わなかったよ!

だが、やはり地上の土は質がいい!造形が捗るねえ、Create!」

「ストレス解消にちょうどいいと思ったら、完全に外れを掴まされたわね!」

 

神綺たちが警戒するだけあって、フラワーマスター…風見幽香とやらは実に手応えのある相手だった。畜生界に招喚された時点の【信仰による力が弱まっていた】私であればあっさり滅ぼされていたであろう程の。

 

だが、人間霊たちによって力がある程度回復した私だから足止めは問題なくこなせていた。何より地上の高質な土から造形する埴輪兵はあれだけの強者による攻撃を受けても簡単に修復不能までは至らない。即ち、造形するたびに兵が増えていくのだ。

どれほどの強者であろうと、単独では限界があるもの。それを理解してからは―――

 

「《マスタースパーク》!!」

「おっと…!」

 

私を狙った大技の余波で埴輪兵団を排除しているのだが、余波がかすめた程度なら自動修復するだけなのだ。それにより余裕があるタイミングで私が造形することで、数の差がじわじわと大きくなっているわけだ。今となっては苛立ちを隠そうともしていない。

それに、神綺と豹はすでに決着を付けている。私の目的はすでに果たされているのだ。

ゆえに後は私が個人的に楽しめる…彼女が諦めるまでは。

 

しかし、悦楽の時間というのはあっさり終わってしまうもので。

 

「幽香さん、そこまでにしていただけませんか?

これ以上は、流れ弾が太陽の畑方面にまで着弾してしまいます」

「…アンタが勝手に守ってたのに恩着せがましいわね」

「これ以上の規模になると、私や聖でも完全に防ぐのは困難なんです…!

このあたりで引き下がっていただけないでしょうか?」

 

磨弓が接触していたらしい者がフラワーマスターの説得を始める。豹から聞いていた通り、人里を防衛する手段は私ですら予想できなかった方法だった。まさか人里ごと隠すなどという大掛かりな対応だなんて、流石に読めなかったねえ。

 

でも、人里の外までは範囲外だったてことなんだろう。そして己の大技が地形に与えていた被害をあらためて見回したフラワーマスターは。

 

「ふん…!

埴安神袿姫とか言ったわね。次は場所を変えて滅ぼし合うわよ」

「ははは!楽しみに待たせてもらうよ!!」

 

そう言葉を残し、人里の存在した位置から離れるように歩き去る。

名残惜しいが、ここまでのようだねえ。

 

「袿姫様!お疲れさまでした!」

 

そして磨弓が即座に近寄ってきた。相変わらずの忠誠心、頼れるねえ。

 

「そうだねえ、楽しかったから疲労感はそんなにないから平気だよ。

 それで、そっちは味方なのかい?」

「はい、磨弓さんからある程度は聞かせていただきました。

 聖白蓮と申します」

「寅丸星です、よろしくお願いします」

「…ん?どこかで聞いた覚えが…」

「アリスさんと人形で通話していらっしゃった方々です、袿姫様」

「ああ!

 要は味方だね。もっとも…私が最後だったようだけど」

 

 

 

―――雪雲が晴れつつある冬の朝。一つの異変が、幕を閉じた。




今週は入院が必要なため次回更新は未定になります。退院でき次第執筆に取り掛かります。
いつもと違う時間で更新したのもこの関係だと思ってください…
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