寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第277話 異変後交渉

―――翌日。神綺様の要望により、魔界と幻想郷双方の上層部による会談が始まる。

 

「それじゃ、ヒョウくんのことをお話ししましょ!」

「ええ、始めるわ」

 

レミリアとパチュリーに許可を貰い、紅魔館の図書館を会場に指定させてもらった。レミリアは幻想郷の管理者に名を連ねていないものの、独自に外界との繋がりを有しているという点で一目置かれている存在。今回の異変は紫さんと摩多羅隠岐奈という、同格の幻想郷の管理者同士の対立が根底にある。ゆえに管理者に対し中立の立場を貫ける有力者が必要になり、かつ俺と魔界に対し友好的なことから俺らにとってはこれ以上ない相手なわけだ。

 

図書館を使用する理由は防諜面のため。紅魔館の主な人員は妖精メイドとホフゴブリンなので、上級妖怪であればそこから情報を引き出すのは容易い。だが図書館内は妖精メイド・ホフゴブリンはパチュリーが進入禁止にしている…整理どころか余計荒らされるという理由でだ。その分小悪魔に甚大な負担がかかっているのだが。

 

「八雲の隠者として私に仕えてくれていた魔界人・ヒョウ。彼の処遇に結論を出すわ。昨日あれだけ大きな戦闘を起こしたのだから、状況は全員が把握できていると判断します」

「うん!私もヒョウくんから聞いてるから大丈夫!」

 

魔界の上層部として神綺様・サリエル様・夢子。幻想郷の管理者として紫さん・摩多羅隠岐奈・茨華仙に、厳密に言えば管理者ではないものの近い立場に位置する四季映姫・ヤマザナドゥ。魔界と幻想郷双方に伝手のある有力者として八坂神奈子・聖白蓮。昨日までの異変に大きく関与していたアリス・魅魔に、幻想郷の有力勢力代表としてレミリア・八意永琳・霍青娥。

ここに俺とユキを加えた16名で円卓を囲む。紫さんが上手く手を回してくれたおかげで俺にとって圧倒的に数の優位があり、摩多羅隠岐奈からしても文句のつけようが無い人選だ。これなら問題なく押し切れるだろう。

 

「幻想郷からは処刑を求める。この男は幻想郷の内情を知り過ぎた、見逃すわけにはいかんよ。反逆者の処刑、魔界としても何も問題ないだろう?」

「幻想郷からではなく隠岐奈から、でしょう?」

「そうね、お兄様の処刑なんて私が認めないわ。勝手に幻想郷の代表面するんじゃないわよ」

「そもそも私たちはヒョウくんを迎えに来たんだから!魔界にとって大問題よ!!」

 

不利な立場に置かれているのを理解しているからこそ、摩多羅隠岐奈が真っ先に要求を突き付けてくる。だが紫さんとレミリアがその意見に修正を求め、神綺様も即座に否定。その反応を見て俺の情報をロクに持っていない四季映姫が口を挟む。

 

「…どういうことです?魔界に対して反逆した者の処刑が問題になるという状況が理解できません。

我々にも理解できるよう説明を求めます」

「ヒョウくんが魔界に反逆したんじゃなくて、私が最初からヒョウくんを裏切ってただけだもん。

 ヒョウくんが私を赦してくれるなら、魔界に何も問題なんて無いの!」

「………は?何を言っているのです?

魔界神ともあろうものが自ら切り捨てた存在を再度求めるとでも言うのですか?」

「私は無自覚にヒョウくんを裏切っちゃってたから、ヒョウくんが先に離れちゃった。

そうなって初めて、私はヒョウくんに対する罪を自覚したの。だからヒョウくんを切り捨てたことなんて無い!

ヒョウくんは魔界に…ううん、私たちにとって必要な存在なの!処刑なんて絶対にしない!!

それは、紫も同じでしょ?」

「そうね。幻想郷全体にとっても私個人としても、ヒョウにはずっと助けられてきたわ…処刑なんて恩を仇で返す真似は絶対にしない」

「ヒョウの処刑を強制するというのであれば、私と神綺は躊躇いなく幻想郷を滅ぼす。魔界の全戦力を動かしてでもだ。

魔界から姿を消してから、これまで永い時間ヒョウは幻想郷を護ってきたのだろう?その功績どころか恩義と忠誠すら感じないような不義理な世界など存在する価値が無い」

「「「っ!?」」」

 

神綺様と紫さんの言葉を継ぐように、サリエル様がハッキリと魔界との敵対条件を宣告する。まだフレンドリーな態度を崩さない神綺様と違い、威厳と圧を隠さず突き付けたことで紫さんを除く幻想郷の管理者―――摩多羅隠岐奈・茨華仙・四季映姫が息を飲む。

 

東洋の島国に位置する幻想郷において、西洋の大天使であるサリエル様は管理者のような神や大妖怪でもそれほど知られていないだろう。だが、紫さんが会談の招集をかける際に【かつて月を支配していた堕天使】という呼び方で通達したことで最大限の警戒心を持たせている。

―――永遠亭だけでなく月の都とも因縁がある幻想郷において、サリエル様は友好的に関わるべき存在。しかし開口一番に敵対する方向の発言をした以上、幻想郷側から譲歩しなければならなくなったわけだ。俺の保護に出向いてくれた時点で覚悟はしていたのだろうが、ここまで厳しい態度で出てくるのは予想外だったようだな。

 

「サリエルはこう言ってるけど、私はむしろ紫と幻想郷には感謝してる。今までずっとヒョウくんを守ってくれてたんだからね。それこそヒョウくんは幻想郷も守ろうとしてたんだし、私が幻想郷を敵視する理由は無いのよ。

私の子供たちはそうもいかないんだけど…ヒョウくんが魔界に帰ってきてくれるなら簡単に抑えられるし」

「簡単に抑えられる?どういう意味だい?」

 

今度は魅魔が割って入ってくる。ここに食いつくなら摩多羅隠岐奈は魅魔の懐柔まで手を回せてないってことだ、俺らとしてはやりやすくなった。

魔界と幻想郷の関係改善を図る上で手っ取り早いのは霧雨魔理沙の引き渡しだ。これに反対する存在は多数いるだろうが、その筆頭が魅魔になる。今の状況で霧雨魔理沙の安全に繋がる話題に食いついた以上、魅魔は幻想郷より霧雨魔理沙を優先しているってワケだ。つまり話の進め方次第で魅魔と摩多羅隠岐奈の離間は十分に狙える…今後も俺が幻想郷で活動することも考慮すれば、この二人は上手く反目させておきたい。

 

もっとも、議論の中心である俺に発言権など無い。神綺様とサリエル様、紫さんの交渉次第だが。

 

「先輩が幻想郷を守りたいのであれば、私達はそれに協力するだけですので。

魔界に侵入した4名ではなく、幻想郷全体に憎悪を向ける強硬派は先輩と共に排除するだけです」

「私もそこは黙認するよ。子供たち(魔界人)にも優先順位は付けなくちゃならないし」

「…彼をそこまで信頼しているのですか。聞きしに勝りますね」

 

夢子の返答に神綺様が続き、その毅然とした態度に茨華仙が反応を返す。昨日の時点で椛と衣玖が細かいところまで伝えてくれたおかげで、俺に対して中立から擁護に傾き始めてくれていたらしい。この先は交戦を避けるべく動くのだから、味方に付けるタイミングとしてはベストだ。そういう意味では椛と衣玖だけじゃなく、勇義にも感謝しないとな。勇義が完全に俺を擁護してくれていた事実は、茨華仙にとって大きな判断基準になったはずなのだから。

 

「それじゃなんだい、魔理沙の安全は神綺とヒョウが保証してくれるってことかしら?」

「うん、魔界に関しては保証してあげられるよ!ただ個人で幻想郷に侵入されるとちょっと対応が遅れちゃうけど…大規模じゃなきゃ紫と魅魔で十分守れるよね?」

「そうね、今回で霊夢が思っていた以上に魔理沙を気に入ってたのがわかったから私も協力するわ」

「そうかい、なら私も神綺に賛成だね。ヒョウは生かしておく方が有用だ」

 

よし、あっさり魅魔が俺の擁護に回った。これで俺の処刑を求めるのは摩多羅隠岐奈と四季映姫だけだろう。

この二勢力だけなら組まれても、紫さんとレミリアを中心に対抗してもらえればこちら側に犠牲者は出ないはずだ。最低限の成果はもう出た…!

 

だが、この程度で摩多羅隠岐奈が引くはずもないワケで。

 

「どいつもこいつも甘過ぎるな。理由がどうであれ一度反逆を選んだ者を何故信用できる?

 次の反逆で幻想郷が滅びる可能性を何故考慮しないのだ?」

「ヒョウくんは一度護るって決めた相手はずっと護るわよ!ヒョウくんのことを何も知らないくせに勝手なこと言うな!!

私と魔界を護るために反逆したヒョウくんが、こんなに永く過ごした幻想郷を裏切るはずないでしょ!!」

 

摩多羅隠岐奈が改めて疑問を出した途端、感情的になった神綺様が叫んで二の句を告げさせない。そしてそれに便乗するように―――

 

「神綺の言う通りね。ヒョウは私と幻想郷を裏切ることはない…それだけの信頼関係は築いてきたわ」

「私も同感です。神綺様が信頼しているだけでなく、一度直接お話しさせていただいた身としても、ヒョウさんは信頼に足る方です」

「ヒョウ様は私のような者に対してさえ約束を違えずに果たす方ですわ。それも私が準備を終えた昨日のうちに…これほど義理堅く信用できる殿方はそういらっしゃらないでしょうね」

「こういう性格でなければ、私が【お兄様】などと呼ばんよ。

お兄様のことを知らないから見当違いな意見を出す、幻想郷の管理者の一角とは思えん情報収集不足だなあ?」

「………幻想郷からもここまで支持されているとは。

 私の一存で黒と決めつけるわけにはいかないということですか」

 

紫さん・聖白蓮・青娥・レミリアが立て続けに擁護意見を出し、それを受けて四季映姫が折れる。地獄の裁判長を務めているだけあって、ここまで擁護意見が出た以上それを無視して強行採決することは避けたいらしい。これでようやく勝ち確だろう。

 

ちなみに青娥が仙界の代表枠として会談に参加しているのは夢子のおかげだ。「先日神綺様に対し不信感を露わにした。交渉の余地なし」と紫さんが夢子からの伝言を摩多羅隠岐奈に伝え、豊聡耳神子の会談出席を拒否したのだ。当然摩多羅隠岐奈は不満を漏らしたが、「先輩に助力した霍青娥であれば認める」との妥協案に渋々従った。おそらく条件次第で青娥なら引き込めると判断したからこその妥協だったんだろうが、青娥は思っている以上に俺を買ってくれていたので完全に俺の味方だったわけだ。昨夜のうちに代価をしっかり払った価値はあった…何人かからの視線が痛かったが。

 

「魔界からの要求は簡単よ。

 ・ヒョウくんは魔界に帰ってきてもらう。

 ・幻想郷の住人から依頼があった場合、ヒョウくんが幻想郷に出向く。

 ・その依頼を果たすため、今後ヒョウくんは魔界と幻想郷の行き来を自由にする。

これだけ約束してくれれば魔界の対幻想郷強硬派はこっちで壊滅させておく!文句ないわよね?」

「勿論です。交渉成立ですわね」

「待て紫。お前に判断を委ねる理由が無いぞ」

「少なくともあんたよりはあるじゃないか。

 昨日夢幻姉妹の人里襲撃をスキマ妖怪が止めてたとき、あんたは内戦を起こしてただろ?

 幻想郷を守るという観点において、あんたの意見は信用ならないのさ」

「…っ!」

 

そして神綺様が強引に交渉を終わらせに行く。最後まで反対する摩多羅隠岐奈だったが、同じく最後まで中立として口を挟まなかった八坂神奈子の指摘を受け押し黙る。

…彼女とは全くミーティングをしていないのにこれ以上ない働きをしてくれたか。守矢神社にも時間を作って直接礼を言いに行かないとな。

 

―――こうして、俺の処遇に関しては完全勝利と言える成果を引き出した。

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