寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第278話 和解のとき

「幻想郷と魔界の話が終わったのなら、こちらの話をしていいかしら?」

「月と話すことなんて私にはないけど?」

 

摩多羅隠岐奈が引き下がらざるを得なくなったタイミングで、魔界にとってのもう一人の要警戒対象である八意永琳がここに来て初めて口を開く。俺の処遇に関しては一切発言しなかったことを顧みると、八意永琳自身は【魔界と事を荒立てたくない】とユキに語ったのは本心だったのだろう。妹紅も俺の予想に同意してくれたように、昨日取引を反故にして交戦したのは永遠亭の姫である蓬莱山輝夜の命令に従っただけということだ。

 

そうでなければ、俺の処分が決まった後で奴が魔界に接触する理由などないのだから。

 

「月ではなく八意永琳個人として魔界と交渉させてもらえるかしら?」

「一度約束を違えた貴様と交渉の余地があるとでも?」

「あれは私の判断じゃない、永遠亭の主である輝夜の命令だったのよ。

 月でも永遠亭でもなく、私個人としての交渉。これに関しては輝夜にも干渉させない」

「お前があの姫を拒むことが出来るとは思えないんだが?」

「甘く見ないで頂戴。輝夜のためなら命令無視ぐらいするわ」

 

…本気だな。つまり昨日の時点ではまだ勝ちの目があると踏んで蓬莱山輝夜に従ったが、敗北が決した以上は主命より状況の悪化を防ぐことを優先するということか。

それなら話を聞く価値はあるだろう。ハッキリ言ってしまえば、蓬莱山輝夜が八意永琳より優れているとは考え辛い。油断して椛に不覚を取ったり、昨日の状況で傍観せず参戦したりと、八意永琳に比べ()()()()のだ。要は八意永琳が総指揮を執る方が厄介になる…その八意永琳が個人として交渉したいと言って来ているわけだ。ここで魔界優位な条件を飲ませれば、八意永琳が蓬莱山輝夜を抑える形で永遠亭を黙らせられる。

 

そう判断して神綺様とサリエル様に視線を送る。ユキも同感だったようで俺に続いて頷いてくれていた。

そして俺とユキを信じてくれたようで。

 

「仕方ないわね、話だけは聞いてあげる」

「礼を言いましょう。

今後、永遠亭は魔界に対し不干渉を貫く。相互不干渉とまでは言わないから、私たちが幻想郷で隠棲することを黙認して貰えないかしら?」

「魔界が月に侵攻したとき、月の援護に回らないことが交換条件。それが破られた場合は魔界と幻想郷への侵入禁止。これを飲めるなら私は構わないわよー。

みんなは?」

「神綺に任せる。私から貴様等に関わる気など無いからな」

「私は神綺様の判断に従います」

「わたしは兄さんが納得してるならいい」

 

神綺様もやっぱサリエル様と同意見だったようだな。敵に回すのは避けたいが、味方としても信用できない…これが前提となる以上このあたりが妥協できるラインだろう。

―――それなら、魔界に帰ることになる俺の代わりに面倒事を押し付けてやるか。

 

「俺から条件を追加させてもらおう。

昨日俺の力になってくれた皆が、今後敵対した連中に襲撃された場合。永遠亭は襲撃者の撃退に向かうこと。

博麗の巫女や幻想郷の管理者、鬼の四天王が相手であってもだ。ユキとの取引を堂々と無視しやがったんだ、これぐらいの誠意は見せてもらうぜ?」

「いいでしょう。ただし地理的な面で初動が遅れるのは認めてもらうわ」

「なら神綺様の言葉通りに。紫さん、永遠亭の監視をお願いしても?」

「ええ、橙の仕事に追加しておくわ」

「交渉成立ね。予想以上の寛大な処置にあらためて感謝するわ」

「私もあなたレベルの神をわざわざ敵に回したくないからねー。紫、私からもお願いするわ」

 

よっしゃ、あっさり要求が通った。メルラン救出を強行したのは結果的に大正解だったらしい、八意永琳が俺らをかなりのレベルで警戒してくれたってことだ。敵に回すよりは友好的にしておいた方が得策と考えたんだろう…永遠亭からの襲撃を考慮せずに済むのは皆にとってかなり大きいハズだ。

 

加えて言えば動く可能性が高いメンツ…博麗霊夢・伊吹萃香・摩多羅隠岐奈に対しても妨害に回る言質も取ったことになる。名前を出さずとも確定できる呼び方をしたのだから相手が悪かったでは通らない。サリエル様の脅しがかなり効いてるらしいな…このあたりの駆け引きは流石だ、俺じゃとてもこうは行かない。

 

―――そして、最後の最後に。幸運の女神が俺に微笑んでくれたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、まだ痛むぜ…」

 

昨日に比べりゃだいぶマシになったが、完全に腫れが引いたわけじゃない頬がまだ痛む。昨日は散々だった…魔法を封じられた挙句殴り合いに持ち込まれて私はKO。魅魔様が助けてくれたみたいなんだが、私は一度捕虜として紅魔館に連れてかれてたらしい。それを里香とリィスが利用して魅魔様も引き下がらざるを得なくなったなんていう、完全に私が魅魔様の足を引っ張っちまってた。

 

(霊夢もアリスにしてやられたとか言ってるし、お互い情けねえぜ…!

 そのせいで魅魔様だけ会談に呼ばれたしよ)

 

永遠亭の連中も永琳以外全員やられた挙句、睡眠魔法で眠らされた萃香を空間魔法で永遠亭に押し付けられたから私の治療までは手を回せないとか言って来やがった。魅魔様と明羅の処置で問題なく動けるぐらいにはなってるんだが、ところどころまだ痛む。何より…

 

「なんで思い出せねえんだよ…!」

 

誰にここまでやられたのかが思い出せないのがおかしい。お互いの魔力を封印する呪いをかけられて、肉弾戦に持ち込まれて負けたのは覚えてるのに、()()()()()()()()()()()()()()()()のかが思い出せない。

昨日魅魔様から聞いたはずで、魅魔様が会談に出る前にも聞いたのにだ。絶対におかしいぜ。

 

(魅魔様は「そういう相手だったんだよ」って言ってたのは思い出せる。

 なのに、なんでもう忘れてるんだよ。あり得ないだろ)

 

忘れてるのはおかしいが、思い出せないのは仕方ない。だから覚えてる状況から推測してみたが…相手はまず間違いなく人間。人間じゃなかったらこの程度のケガで済まないからな。だから魅魔様が出かけてすぐ、人里で阿求に話を聞こうとしたんだが。

 

「まさか人里じゃなく阿求を狙ってきてたなんてな…」

 

昨日私たちが動くことになったきっかけ…紫と夢幻姉妹の同士討ち。あれはもともと夢幻姉妹が人里を襲うのを止めようとしたんだと思ってたんだが、実際は阿求を狙ってきてたそうだ。その理由は「妖精を危険に晒す貴方は放置できません♪」なんて楽しそうに言われたらしい。阿求はかろうじて紫と藍が間に合ったから助かったが、長老と叔父が殺されてその後始末で私の相手なんかしてられないと追い返されちまった。

 

阿求に聞けないとなると、この少ない情報で昨日の相手を調べるのは人里じゃ非効率。だから諦めて別の方向で動くことにした。

 

(呪いだってのは覚えてんだから、それを無効化する手段があればいいだけだぜ。こういう時は図書館を使うに限る!)

 

阿求が落ち着くまでに対策を編み出す、これ以上ない待ち時間の使い方だろ!そう結論付けた私は紅魔館に向かうことにした。昨日はパチュリーが珍しく紅魔館の外まで出てきてたからな、昨日の今日ならパチュリーもしつこく追っかけてこない。そう踏んで私はいつものように居眠りしてる門番を無視して紅魔館に飛び込んだんだぜ。

 

…魅魔様に会談の場所を聞いておかなかったことを、思いっきり後悔することになった。

 

 

 

 

 

バタン!と大きな音を立てて図書館の扉が開く。当然のように集まっていた全員の視線がそちらに向いた。

 

「……は?」

 

そこには唖然とする霧雨魔理沙が立ち尽くしていた。

―――チャンスッ!!

 

「ユキっ!!」

「うんっ!!」

「げっ!?」

「魔理沙!?」

 

俺の言葉と侵入者のツラだけでユキは即座に理解してくれて、高速追尾弾を即座に撃つ!魅魔が慌てて止めようとしたが、神綺様とサリエル様・夢子が即座に妨害に回ってくれたことで動けない。霧雨魔理沙も今乗り込むのはマズいと瞬時に理解し逃走を図るが、この距離ならユキの高速追尾弾の方が早い!!霧雨魔理沙に着弾する直前に俺が空間魔法のゲートに創り変え!!

 

「ぐっ!?」

「逃がさねえ!麟の忘却の呪い、この場で解呪させてもらう!!」

「…なんだって?」

 

首根っこを掴んで俺の手元に引き寄せる。そして俺の出した言葉に魅魔が反応し戦意を引っ込めていた。

…そうか、魅魔からしても弟子の呪いを解呪するのはメリットしかないよな。

 

「言葉通りだ。コイツと麟が揃えば、サリエル様が忘却の呪いを解呪出来る。

 …魅魔。俺が麟を連れてくるまで、この魔法使いを逃がさないでいてもらえないか?」

「ふん、選択の余地が無い状況でよく言うよ。

 さっさと連れてきな。解呪できるなら私も願ったり叶ったりだよ」

「信じるぞ。サリエル様、準備をお願いします」

「任せろ」

 

 

 

―――その言葉を信じ、空間魔法で麟を迎えてすぐ戻る。師匠である魅魔には逆らえないらしく、霧雨魔理沙は魅魔の傍らで居心地悪そうに箒を抱えていた。だが、麟に視線を向けると言葉が漏れる。

 

「…ん?お前、どっかで会ったか?」

「…すぐ思い出しますよ、魔理沙。

 サリエル様、お願いします」

 

麟は昨日で魔理沙に対する気持ちの整理を付けられたらしい。激情に駆られることなく、今まで通りの儚げな笑顔で返し…サリエル様の前に跪く。

だが、今日で終わる。麟の儚げな笑顔は、今日から曇りない笑顔に変わるのだ。長く麟を苦しめていた、忘却の呪いから解放されることで…!

 

「ああ、始めよう。

 そちらの魔法使いも、麟に並びなさい」

「…わかったよ、こうすりゃいいのか?」

 

渋々ながら霧雨魔理沙も麟の隣に座り込む…サリエル様に対し跪く気はないようだが。だがその程度を気にするサリエル様じゃない。位置に着いたと同時に左手を麟、右手を魔理沙にかざし集中し始め。

 

「………あたたかいです」

「……っ!?

 ―――!!」

 

柔らかな光が二人を包み込み…溶けるように光が二人の中へ染み込むように消える。

麟にそれほど変化はなかったが、不満そうに座り込んでいた魔理沙は目を見開き硬直する。そしてサリエル様が声をかける。

 

「解呪は済んだ。

 魔理沙とやら、記憶は戻ったか?」

「………信じられない。こんな簡単に?」

「思い出しましたか魔理沙?

 昨日のことも、私のことも」

「……………ああ、思い出したよ。

 その……悪かったな」

「ふふ、思っていたより素直なんですね。

 その謝罪、受け入れます。これからは、協力できるといいですね」

 

麟は優しいな…こんな簡単に受け入れられるのか。

 

「驚いたわね…私も今まで忘れてたのに、豹の隠れ家で麟の名前を聞いてからのことが思い出せた」

「比較的関わりの薄いアリスも思い出せたのなら、問題なく解呪できたということね。

私からもお礼を。ありがとうございます、サリエル様」

「気にしなくていい。むしろヒョウを幻想郷で支えてくれた礼を、これで返せただろうか?」

「それこそ礼を言われるようなことではありませんわ」

「そういえば紫、霊夢はこの会談に参加させなくてよかったの?博麗の巫女として問題はないのかしら?」

「霊夢が嫌がったのよ。『ぐだぐだ話す暇があったら修行するわ』ってね。

やる気になってくれたのを邪魔する気はないし、この会談に霊夢が不在でも問題ないのだから好きにさせたわ」

「あの霊夢が修行ねえ…ヒョウにしてやられたのが相当堪えたようね」

「むしろヒョウよりアリスの方が堪えたみたいよ?

前は勝てたのに、昨日は完敗。これは修行不足と言われたらぐうの音も出ないもの…そういう意味ではアリスにも感謝しないといけないわね」

「…後で霊夢に付き合わされる覚悟はしておくべきかしら」

 

そして紫さんとアリスのやり取りで問題なく解呪できたことを理解する。流石はサリエル様、感謝してもしきれない。

 

(ようやく、麟を救うことが出来た…!

 魔界に帰る前に、果たすべきことを果たせたんだな)

 

まだすべての義理を果たせたわけじゃない。

だがこれで…魔界に帰る前に幻想郷で果たすべき最低限の責務は終わらせられただろう。

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