寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

280 / 289
第280話 地底の用事は手早く済ます

「悪いねえ、私まで治療してもらっちまって」

「ヒョウの力になってくれた者に助力は惜しまないさ」

「ありがとうございます、サリエル様」

「やっぱり兄さんも本質は魔法使いなんだよね。肉弾戦の専門家にはやっぱ敵わないかぁ」

 

まあ、勝敗は見えてた通りでやっぱ勇儀には勝てなかった。俺最大の弱点・決定力不足がモロに出るのが勇儀のような【物理防御に優れる相手】…空間魔法などの搦手も組み合わせたところで、相手の防御を貫けない以上どう足掻いても勝てない相手なのだ。そういう意味では俺単独だと神綺様や紫さんより相性が悪い相手だと言える。

 

「やっぱ全力で殴り合えるのは最高だね!この三日は本っ当に楽しめたよ!

次は酒に付き合いな?」

「勇儀さん!?次は私の番だよ!

やーっとヒョウをここまで連れて来たんだから、お姉ちゃんを黙らせに行くの!勇儀さんの宴会に付き合わされたら明日まで放してくれないじゃん!」

「そういうことになっててな…悪いが酒の付き合いはコンガラ様も都合が付いたときにしてくれ。

幻想郷じゃなく魔界の方にも片付けなきゃならない後始末がある。なるべく早く一度魔界に帰らなきゃならない」

「つれないねえ、だがしっかりケンカの約束は果たしてくれたんだからしゃあないか。

それじゃまた幻想郷に戻って来たらこっちにも顔を出しなよ?」

「ああ、コンガラ様とキクリ様にも直接礼を言わなきゃならないしな。

ちゃんと顔は出す…紫さんはともかく四季映姫には問題視されそうだが」

「そんなこと言ってきたら私が文句言うもん!勇儀さんも一緒に言ってくれるよね?」

「もちろんだよ、私の楽しみの邪魔なんてさせないさね!」

「ふふっ、兄さんが好意的に見てるワケがよくわかるなあ」

「そうだな。ヒョウと同じ、信頼するに足る者だ」

 

そのまま宴会に付き合わされそうになったが、こいしがストップをかけてくれた。俺はそれほど酒に強くないので断れるのはありがたい…人並みには飲めるとはいえ、幻想郷の住民の多くは酒豪。特に勇儀はあの伊吹萃香とタメを張れるレベルなのだから、付き合わされちゃたまったもんじゃない。宴会に付き合うのであればコンガラ様だけじゃなく、キクリ様や藍あたりも参加させることで俺が抑え気味に飲んでるのがバレ辛い状況にしねえと俺が潰れる。

 

昔紫さんのヤケ酒に付き合ったとき、真っ先に潰れて紫さんと藍に迷惑かけた苦い思い出があるので二の舞は避けたいのだ。八雲邸に招かれたこともあり安全面で油断してハイペースに付き合った結果がこのザマである。もっとも、俺が飲める酒の限界量を知るという意味では貴重な機会だったわけだが。護衛が酔いつぶれるなんてことあってはならない、ゆえに魔界であれだけ飲むことなんて無かったのだから。

 

魔界の皆と比べても俺とユキは弱い方だからな。ちなみに神綺様と夢子はそこそこ強く、ルビーはそれなり。逆に俺たち兄妹より弱いのはマイぐらいで、魔界のメンツで圧倒的に強いのはサラだったりする。

 

「それじゃ、地霊殿に向かおうか…勇儀、本当に昨日は助かった。しばらく魔界に帰ることになるが、幻想郷に戻ったら必ず顔は出す。またな」

「おうよ、コンガラさんと期待して待ってるさ!

次は酒にも付き合ってもらうからね!」

「わかってる。行こうかユキ、サリエル様。

こいし、案内頼んだぜ」

「うん!」「ああ」「はーい♪」

 

地底で済ませなきゃならない片方を無事終えて、もう片方も終わらせに向かう。

まあ、こっちは勇儀相手のケンカよりゃ楽だろう。

 

 

 

 

 

「―――ってことだから!私も魔界に行ってくるよお姉ちゃん♪」

「………ああ、もう。

勝手にしなさい。ヒョウでしたね?心を読めないので釘を刺しておきます。こいしをちゃんと守りなさいよ?」

「当然だ、俺は元々神綺様の護衛だったんだぞ?それこそ本来の役目を果たせる機会だ、心配はいらない」

「こうまで堂々と返されると何も言えませんね。心が読めない以上信じるしかないですか」

 

そういうわけで中に入らせてもらった地霊殿。こいしが案内してくれたことで敵視されることなく主であるこいしの姉・古明地さとりの待つ応接間まで辿り着いた。

こいしの口振りだと相当渋られそうな印象だったが、あっさりOKが出る。これなら俺が付き添わなくても問題なかったんじゃないか?と思ったが別口で異論が入る。

 

「さとり様!?そんな簡単にこいし様を向かわせちゃうのはまずいんじゃないですか!?」

「魔界ってどんなところなんですかー?」

 

…いや、地獄烏の方は異論じゃなく疑問だった。霊烏路空…守矢神社によって力を与えられた地獄烏。しかし言い方は悪いが種族的な鳥頭により、あらゆる意味で爆弾のような存在。正直に言ってあまり関わりたくない類の相手だから、最低限敵視だけはされないようにする必要がある…先にユキとサリエル様に説明する時間をもらったレベルの危険な妖怪だ。

 

そして不安からか消極的とはいえ反対意見を火車の少女、火焔猫燐が出している。彼女に関しては藍から少し聞いているが、地霊殿の住人の中では最も良識的らしい。過保護な藍が橙の遊び相手として認めているのだから、信用していい相手ってことだ。

…まあ、常識的な感性を持ってたらこいしを異界に向かわせるのは怖いよな。

 

「兄さんがこいしちゃんを守るから心配いらないよ!」

「ヒョウだけでなく私とユキもこいしを守ろう。昨日だけでもこいしには返し切れない恩ができたからな」

「その言葉に嘘はないわ。だからお燐も心配しないでいいわよ」

「そーだよ!ヒョウはいつでも私を見つけてくれるんだから平気平気!」

「ほ、本当に信じていいんですか?」

「ああ、さとりの読心能力が俺には効かないように、こいしのステルス能力も俺には効かない。

だからこそここまでこいしが俺を気に入ってくれたんだからな」

 

そんな燐に対しユキとサリエル様が説得に加わり、俺以外なら読心能力が通用するさとりも援護に回る。まあ実際は内心が読めない俺をさっさと追い出したいってのが本音なんだろうが、なるべく早目に地上に戻りたい俺としてはありがたい対応だ。

 

「さとり様とこいし様が大丈夫って言ってるんだし、だいじょうぶでしょ。お燐はなにが不安なのー?」

「いやね…こいし様の心配はいらないのはわかってるんだけどさ。

…魔界は大丈夫なのかい?こいし様が無意識にやらかしちゃったら…!」

「それを止めてくれるのがヒョウだもん♪お燐が心配性なだけだって!」

「ああ、こいしには本当に助けられたからな。今度は俺がこいしを助ける番だ。

こいしに魔界で問題になるような行動は取らせないさ」

「…信じていいんだね、お兄さん?」

「ああ、橙が世話になってる君のためにも必ず守る」

 

橙の名を出したことで、彼女の表情が少し柔らかくなった。やはり直接関係のある相手の名前を出されると信憑性が出るのだろう…これでこいしの同行も許可が下りたわけだ。

 

「それじゃ、こいしは魔界に出る用意をしてから俺のところに来てくれ。

今日は紅魔館の客室を借りるが、俺が紅魔館に向かう前に準備できたら直接俺と合流してくれても構わん」

「はーい♪じゃあヒョウ、また後でねー!」

 

そう言ってこいしが応接間を出ていく。自室で準備してくるのだろう…紫さんでも手を焼くわけだ。あの奔放な性格でステルス特化能力持ちなんざ制御できるはずもない。俺は本当、(仲間)に恵まれすぎてるな。

 

「…結果的に君にも迷惑をかけたようだ。すまなかったな」

「悔しいですが貴方を責める材料が無いんですよ。私が巻き添えを食ったのはこいしと勇儀さんと閻魔様のせいですし、最初から逃走を選んだ貴方はむしろ被害者側ですので。

おまけに心が読めないので対面しても弱みを握れない…正直言って相手にしたくないです。謝罪は受け取りますが深く関わりたくないので、用件が済んだのであればお帰り願えますか?」

「わかった、そうさせてもらおう」

「妹さん。私は元々こういう性格、そもそも覚妖怪という種族自体がこういうものです。こいしの方が例外ということをまず理解してもらえますか?」

「っ!?

これは嫌われても仕方ないね、本人がそう在ろうとしてるんじゃ救いようがない」

「その通りですね、魔界人に救われたいとも思いませんが。

ですが魔界と敵対する気はありませんので、天使様も引いてください。私に手を出すと八雲紫にも被害が行きますよ?」

「そうだろうな、ヒョウからそこは聞いている。

ヒョウ、これ以上は私とユキが不愉快になるだけだ。帰ろう」

 

そして読心能力が通用するユキとサリエル様に対してこの言動である。聞いてはいたがマジでこうなんだな…あちらさんもそう考えてるなら長居する必要なんざない。さっさと帰らせてもらおう。

 

「ああ、時間を取らせて悪かった。

 俺はこれで失礼する…こいしのことは任せてくれ」

「ええ、しっかり首輪を付けておいてください。

 それが出来ればこいしに対する苦労がだいぶ減りますので」

 

これで古明地さとりと顔を合わせることはもうないだろう。あちらが俺を避けたがってるのだからな。

 

 

 

「もう…あのお兄さんとはもっと仲良くした方がいいんじゃないですかさとり様?」

「冗談じゃないわよ。心を読めない相手を私が信用できるとでも?」

「あはは…さとり様らしいですねー」

「お空には言われたくないけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そういうわけで地底で果たすべき約束を果たし、空間魔法で麟の家に移動すると。すでに麟は帰宅し身辺整理を始めていた。玄関のドアをノックして声をかける。

 

「麟、入っていいか?」

「はい、大丈夫です」

「お邪魔するぜ」

「お邪魔しまーす」

「入らせてもらおう」

 

返事が返って来たのでユキとサリエル様と共に中に入る。

…しっかり、伝えて来れたらしい。陰がなくなった明るい笑顔で、麟が迎え入れてくれた。

 

「親御さんは納得してくれたみたいだな」

「はい…お父さんを泣かせてしまいましたが、私の選択を尊重してもらえました。

『今まで放置してたんだ、俺は親失格だよ。だから麟の信じる道を行け。

 ………気が向いたときに、帰ってきて顔を見せてくれれば、それでいい』

――って言ってくれました。私もそれで泣いてしまいましたけれど…」

「でも、麟ちゃんはその覚悟が出来てたから。スッキリしたのかな?」

「はい。私がいるべき場所が【ヒョウさんのそば】なのは間違いありませんから。

お父さんも納得してくれたのですから、私も魔界に連れて行ってください!!」

「ああ、ここまでされて断るなんてしないさ。

ただ、俺が幻想郷に出向くときは必ず親父さんに会ってあげてくれよ?」

「もちろんです。私はお父さんを嫌いになったわけじゃないんですから」

「…麟なりに解決できたようでよかった。私が呪いに関しての知識を求めたことが、結果的にヒョウと麟の役に立ったのは喜ばしいことだ」

「本当にありがとうございました、サリエル様…!」

 

…機会があれば、俺もまた麟の親父さんに会いに行くべきだな。麟のことは忘却の呪いで忘れてしまっていたが、俺のことは覚えているかもしれない。忘却の呪いが解呪された今ならなおさらだろう。

一人娘を異界に連れ出すのだ、しかも麟の想いに答える覚悟が無いままに。殴られても文句の言えないクズムーブだが、魔界と幻想郷を守るためにも今はまだそういう方向での答えは出せない。麟だけじゃなく、他の皆に対しても。

 

「俺たちは隠れ家ごと魔界に移動する準備を進めてくるが、麟はまだこっちが終わらないよな?進み具合じゃ先に隠れ家だけ移動させることになるだろうが、明日ここに現地集合でいいか?」

「え?それでは今夜ヒョウさんはどちらに…?」

「紅魔館の客室を借りる。レミリアたちともゆっくり話さなきゃならないからな、夕食に誘われてるんだよ」

「そうなんですね…私にはともかく、この家に関しては藍様が後片付けをしてくれるそうですので、何か手伝えることがあればそちらを優先しますが」

「いや、そこは麟の方を優先してくれ。

…そうだな。ユキ、麟を手伝ってあげてくれないか?ちょっと俺だけで話しておきたい相手がいてな」

「へー、兄さんが一人でねぇ。

まあ、誰のことなのかわかるからいいよ。サリエル様も、兄さんに時間をあげてもらえませんか?」

「わかった。私は先にヒョウの隠れ家で神綺と合流しよう」

「ありがとうございます、サリエル様。

それじゃ、俺はちょっと野暮用を済ませてくる」

 

―――はじまりである彼女とは、ちゃんと話しておきたいからな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。