寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第281話 はじまりの少女たち

「―――と、いうわけで完全勝利だ。幻想郷を離れることにはなるが、呼んでくれれば戻ってこれる。

通信には麟の家を使うことになるから、位置を知ってるルナサなら問題ない」

「…そう。寂しくなるわね」

「そう言ってもらえると裏方として協力してた甲斐があった。今となっては察してるだろうが、俺はルナサにユキの面影を見てたからな…色々と失礼だったよな、すまない」

「気にしてないわ、私を妹として見てるのには気付いてた。そんなことが気にならなくなるぐらいヒョウには助けられてきたのだから、責める気はない。

…ただ、傍から見ればヒョウはハーレムを築こうとしてるようにしか見えないってことは自覚して。皆を一律で【妹】扱いしてるなんてこと、私や麟ぐらいの付き合いがないと察せないわ。幽玄魔眼が分かりやすい例よ」

「返す言葉が無い…というか、そこまで感付いてたのか」

「私も姉だから。

まあ、雛とカナはともかく麟はちょっと特別だったみたいだけれど」

「そうだな。だがそれも解決した…正直言って今日で麟の解呪が済むとは思ってなかったよ」

 

名も無き霊場に辿り着いてほどなく、察したルナサが一人で来てくれた。俺が教えた探知魔法を使わない限り気付かれないのだから、結構な時間待つつもりだったが予想以上に早く気付いてくれた形だ。時間を気にする必要がある俺にとって助かる察しの良さだ。

 

「サリエル様は本当に凄いのね…そんな一瞬で解呪してしまうなんて」

「ああ、元々俺ら魔界人や大妖怪である紫さんは白系統に属する回復魔法が不得手ということもあるとはいえ、解呪の方法を見つけられたとしても同じ速度と労力で忘却の呪いを解呪出来るはずもない。

本当に、麟に関してはサリエル様のおかげで救うことが出来た…サリエル様にも恩を返さなきゃならない」

「サリエル様もヒョウを求めているものね。

本当に…この一週間、私は不相応な舞台で踊っていた。八雲紫主従・サリエル様・神綺様・レミリア…振り返れば、普通なら私が真正面から会話することなんてなかったはずの相手ばかり」

「だがルナサは無事に演じ終えた、演奏者ではなく役者として。

本当にありがとな。俺の逃亡が始まったあの日からずっと、ルナサは俺の力になってくれてたんだ…だからこそ、この恩は必ず返す。

俺が必要になったときは、すぐ魔界に連絡をくれ。可能な限りの最短で幻想郷に戻る」

「ええ、お願い。私は魔界まで付いていけない…私一人だけレイラが残したあの家から離れるわけにもいかないから。

だから幻想郷で待ってる。戻ってこれたら、会いに来て」

「勿論だ」

 

生まれた家を失っているカナと違い、ルナサ達姉妹はまだ憑りついて守るべきプリズムリバー邸()がある。そして家ごと魔界に移住するなんて選択は選べないだろう。神綺様とサリエル様の庇護がある以上、魔界に移住しても危険はない。だが幻想郷を離れるだけの理由もない…バンドとして、幻想郷屈指の人気を誇るのだから。

 

それが理解できてたからこそ、ルナサとはしっかり別れの挨拶をしておきたかったのだ。いつでも戻ってこれるとはいえ…幻想郷で隠棲していた俺を、人里に向かわせてくれた恩人。寂しがりやの俺はルナサに導かれる形で妹紅と再会し、慧音やライブの裏方の面々と知り合った。俺が人里において新たな繋がりを持てたのは、他でもないルナサのおかげ。

 

だからこそ、ひと時の別れを惜しむように。必要な約束を交わしても、俺は話を続ける。

 

「…ルナサは人里の様子を聞いてるか?」

「そうね、妹紅からの又聞きだから細かいところまでは知らないのだけれど。

昨日までの騒ぎは【悪魔異変】って呼ばれ始めたそうよ。人里の住人からすれば、稗田一族から2人も死者が出たのが何よりも驚愕の事実…人里においても厳重な警備体制が敷かれてるのだから。

その襲撃者だった双子が悪魔だったのを慧音と小兎姫が断定したことと、一昨日メルランが一時的に自警団詰め所へ避難した際の襲撃者も目撃者の証言から悪魔だったってことが昨日のうちに広まった。そして昨日は慧音が早々に人里を隠したことで、神綺様のことも人里の住民は悪魔だったと思い込んだみたいよ。

人里で見ることなんて滅多にないはずの悪魔が、立て続けに人里で襲撃をかけてきた―――だからこの異変の名は、悪魔異変で固まったそう」

「結果的に騒ぎの中心が俺…魔界人だったってことは人里に広まることはなかったのか。これは嬉しい誤算だな…もっとも、幻月と夢月に思いっきり悪名を被せちまったが」

「二人とも気にしてなかったみたいよ?昨日ヒョウと別れてからは永遠亭の姫がしつこく動くのを夢月が期待して、妹紅の家に泊まっていったみたい。慧音から人里の状況を詳しく聞いた妹紅から私と同じことを伝えたら『いいじゃない、正義を振りかざして私に向かってくる人間が出てくるのを期待するよ』なんて言ってたそうよ」

「…夢月も勇儀ほどじゃないが戦闘狂の気があるな。幻月は?」

「幻月は一足先に夢幻世界に帰ったわ。『落ち着いたら夢幻館でお茶ついでに話を聞かせて♪』って私の家まで直接挨拶しに来てくれた。エリーとくるみも一緒に夢幻館に帰ってる」

「そうか。それこそ幻月と夢月ならエリーとくるみを連れて魔界に出て来れるからな…幻想郷の方が顔を出しづらいからこそのお誘いだろう」

「そうでしょうね。できれば雛やリリーも連れてきてほしいなんて言ってたわ」

「本当に、皆を気に入ってくれたんだな。ありがたい話だ」

 

悪魔異変――か。本当に最後まで上手く行ってくれた…ここまで魔界人(おれ)の存在が隠せるなんてな。

夢幻姉妹に稗田阿求を襲ってもらうのは紫さんに功績を上げてもらうためだったが、副次的にこんな大きな影響が出るとは予想できなかった。逃亡生活を始めてから、俺自身は徹底的に人里へ踏み込まないよう動いてたのも最後に理想的な結果につながったワケだ。

 

――ここまで話し終えたところで、近付いてきた相手を迎える。

 

「メルラン、何かあったか?」

「え?」

「って、ヒョウ!?な、なんでここに~?」

 

ルナサは探知魔法を切っていたらしく、メルランが降りてくるまで気付いていなかったらしい。どうやらルナサからメルランに俺の探知魔法を簡易的に教えてくれてたみたいだな。プリズムリバー邸を襲撃されたことで、メルランとリリカにも教えたんだろう。少しでもルナサ・メルラン・リリカの助けになってくれれば、教えた甲斐があったってものだ。

 

「今ルナサに伝え終えたところだが、俺たちの完全勝利で終わらせることが出来てな。

霧雨魔理沙から動いてくれたおかげで、麟の解呪までもう済ませられた。たぶん明日には魔界に帰れる」

「…そうなの。寂しくなっちゃうわね~」

「…やっぱり私たち姉妹ね。まったく同じ反応」

「はは、そうだな。

安心しろメルラン、呼んでくれれば幻想郷にちゃんと戻ってこれる。何かあったらすぐ呼んでくれ、魔界と通信できるポイントはルナサが知ってる場所だ」

「それ、私も知っちゃっていいのかしら~?」

「問題ない、麟の家だからな。

もっとも、麟は魔界に移住することになったから八雲の管理下に置かれるが」

「そっかぁ~…やっぱりライバル多いわね~…

 

……俺は索敵の関係で普段から視覚・聴覚を強化してるから、声が小さくなった後半部分も聞き取れてしまった。ルナサに忠告されたばっかだってのに、メルランがそういう感情を持ってしまったのか…本当に俺はどうしようもない女たらしだな。

 

「メルラン、私に何か用かしら?」

「あ、そうなの~!爆破された壁の補修なんだけど、河童と山童で修理してくれるそうよ~。

襲撃に加わってた河童と山童を烏天狗の大将が詰めに行ったら、楽団のファンが集まって無償修理してくれることになったって!今リリカが残って指示出してくれてるけど、こういうファンこそ大切にしないと!だから姉さんも顔を見せてあげて!」

「飯綱丸が動いたのか?

…まあ、この程度で対立を帳消しにできるなら安いって判断か」

「…そんなこと関係なしに、ファンの善意は裏切れない。

ヒョウ、私も帰るわ。次がいつになるかはわからないけれど…」

「ああ、必ず俺は幻想郷に戻ってくる。

 ―――またな、ルナサ、メルラン」

「ええ、また会いましょう」

「うん!ずっと待ってるわ~!」

 

ルナサもメルランも、笑顔で返事を返してくれた。

それじゃ、俺も本格的な帰る準備をしないとな。

 

 

 

 

 

―――そうして隠れ家に帰り着くと、丁度茨華仙が頭蓋骨を抱えてスキマに飛び込もうとしているところだった。危ねえ、もう少し遅かったら彼女と話せてなかったな。

 

「少し待ってくれ!一言でもいい、直接礼を言いたい」

「あら、ヒョウ?思ってたよりずいぶん早いお帰りね」

「そうね、勇義に付き合わされるなら酒までと思ってたけれど」

 

玄関先に降り立ちながら声をかけると、気付いた紫さんと茨華仙がこちらへ振り返る。そして魔法陣を敷設していた神綺様とサリエル様も中断して俺の方へ歩いてきてくれた。

 

「ヒョウくん、おかえり!」

「話は済んだのか?」

「はい、ちゃんとひと時の別れを告げてきました」

「そういえば、サリエル様がこちらに合流していたのだからヒョウも戻ってきてるはずだったわ」

「地霊殿にも向かう必要がありましたから、それを利用して酒は断りました。

…あらためて、挨拶からした方がいいか。俺がヒョウ、かつて八雲の隠者を務めていた者だ」

「そうね。お互い顔は見知っているけれど、言葉を交わすのは初めてだったかしら。私が茨華仙よ」

 

八雲の隠者として、数えるほどだがお互いの姿を視界に入れたことはある。だが紫さんは俺の希望を尊重してくれたため、会話する機会を作らずに【保護下の魔界人】という情報だけ伝えてくれていた。

…結果的には俺は勝ち組に入れたものの、茨華仙とは会話する機会を作っておけばもう少し被害を出さずに立ち回れたかもしれない。今にして思えば、大きな判断ミスだったな…

 

だが最後に話す機会は出来た。礼をしっかり伝えなければな。

 

「椛と衣玖から聞きました。停戦に応じ共闘してくれたそうで、ありがとうございました」

「礼を言われることではありません。私がもう少し貴方と勇儀を信じていれば、少なくとも昨日の戦闘は避けられた可能性がありました。こちらこそ、この封印を預かってくれていたことに礼を言いましょう」

 

そう言って抱えた頭蓋骨に視線を送る茨華仙。同族として思うところもあるのだろう…かつては鬼に封印を預けるのは危険と判断した紫さんの判断で俺の隠れ家に保管していたが、仙人として幻想郷の管理者を務める現在の茨華仙であれば問題ないということだな。

 

「後の封印はお願いします」

「任せなさい。

 では、私は先に去りましょう。親しき者だけでもう終わらせられるはずです」

 

それだけ返すと茨華仙はスキマに飛び込んでいった。あくまで管理者として中立を貫くためにも、俺とあまり親しくすることは避けるべきと考えたのだろう。

魔界と幻想郷、どちらも守りたい俺にとってもありがたい対応だった。

 

「それでは、俺も手伝います」

「あ、もうこのお家を転移させるための魔法陣はほとんど終わってるの!だからヒョウくんは中の上海ちゃんたちを手伝ってあげて!」

「終わり次第私と神綺は魔界側の敷設に回らなければならないからな。

一足先に魔界で待っている」

「ほとんど任せてしまいましたね…ありがとうございます」

「お礼なんていらないわよー。ヒョウくんが帰るべきお家がここになったのは、上海ちゃんとゴリアテちゃんからしっかり聞いたから」

 

そう言ってウインクする神綺様。本当にこういうところは変わっていない。

魔界に帰るってことが、俺の中でもようやく現実味を帯びてきた。

 

「それじゃ、外と魔界はお願いします」

「はーい!」

「ああ、任されよう」

「藍も中で準備してくれているわ、私も手伝うわよ」

「ありがとうござ「もう敬語なんて使わないで。

もう八雲の隠者は名乗れないんでしょう?」

 

…そうか。紫さんがずっと求めてたことを、俺は拒み続けていたんだよな。

 

「ありがとな、紫」

「ふふふ…!どういたしまして」

 

そう返してくれた紫の表情は、本心を隠すような微笑みではなく。

年頃の少女のような、綺麗で無邪気な笑顔だった。

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