寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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誤字報告により魔方陣→魔法陣に修正しています。ここにきてまた妙なミスしてましたね…

本編はこれにて完結となります。


最終話 反逆者の帰郷

隠れ家に入ると、すでに家ごと魔界へ空間移動するための作業がだいぶ進められていた。力仕事は俺がやるからと伝えておき、移動による衝撃に耐えられない割れ物や魔力に反応してしまう物質をひとまとめにしておいてもらったのだ。後は俺が仕分ければ終わりってところまで進んでる。

 

「あ、おかえりヒョウ!」

「「おかえりなさい、ヒョウさん」」

 

カナが気付き上海とゴリアテの声が揃う。そして藍も地下室から上がってきた。

 

「戻ったか、ヒョウ」

「ああ、茨華仙とも直接話してきた。地下室の維持、ありがとな」

「気にするな、私の方がずっとヒョウに世話になってばかりだったんだ。これぐらい大した労力じゃないしな」

 

そう言いながら平然と呪物や魔導書を抱えて仕分けするモノをまとめたスペースに置いている。カナや上海、ゴリアテに任せるのは危険なモノだから俺がやろうと思っていたが…茨華仙に頭蓋骨を渡すついでに藍が気を利かせてくれたらしいな。

 

「皆ありがとな、ここまで進めてくれてるとは思わなかった」

「ゴリアテちゃんまで手伝ってくれたからね~。要するに隠れ家が三人いるような状態だったから、作業効率がわたし一人の時と段違いだったよ」

「そうか、上海とゴリアテも隠れ家の家族と認められたから効率的に片付けられたんだな」

「はい、どこに何が保管されてるのか教えてくれましたので」

「危険なモノがどれなのかも教えてくれました!そういうモノは藍さんが対応してくれましたので、あとはヒョウさんにお願いする家具の固定と外壁の補修が終われば隠れ家さんの引っ越し準備は完了です!」

「明日には魔界に帰れそうだな。

…紫、回収しておきたいモノはまだあるか?」

「ヒョウにあげたものなのだから、取り返すなんてしないわよ。それとも引き取ってもらいたいモノがあったりするのかしら?」

「いや、俺の判断で他者に譲ってしまってもいいか?」

「構わないわ。ヒョウが幻想郷を害する方向に動くことはないって信じてるもの」

「ありがとな。

 それじゃ上海、受け取ってくれ」

「え…?い、いただいてしまっていいのですか!?」

「俺より上海の方がずっと有効活用してくれてただろ?

 俺の管理下で燻るより、上海に使われる方がいいだろうさ。夜叉にとってもな」

 

名刀・夜叉を上海に差し出す。俺が実戦で使う機会を見ることはなかったが、上海が魔力付与対象として夜叉を使いこなしていたということはルナサとカナに麟から聞いている。実際、俺が魅魔からカナと上海を救出した戦闘でも使っていたそうだしな。

俺も最低限の剣術の心得はあるが剣士を名乗るには修練不足。そもそも護衛があからさまに武器を携帯していると、神綺様の交渉相手に余計な悪印象を与えるため格闘に修練時間を長く割いたのだ。魔界に帰って護衛に復帰できるかはまだ不透明だが、そうなった場合ますます俺が帯刀する機会は減るだろう。

 

それなら、使いこなしてくれた上海に渡すのがいいだろう。魔力付与に耐え得る名刀なのだから。

 

「ありがとうございます!大切に使わせていただきますね!」

「よかったですね、お姉ちゃん!」

「ゴリアテもヘルゲの剣が欲しいなら譲るが、どうする?」

「えっ!?いいんですか!?

 ぜひお願いします!ヒョウさんとのつながりはいくつでもほしいです!!」

「なら使いこなしてあげてくれ。

 道具は使ってあげてこそだ。俺が隠し持って放置するよりずっと良い」

「ありがとうございます!!」

「ふふ、ゴリアテちゃんもよかったですね」

 

夜叉とヘルゲの剣、どちらも魔力付与に耐え得る名刀だ。上海とゴリアテの方が俺より有効活用してくれるだろう。しばらく上海とゴリアテとは離れることになるのだから、少しでも俺が力になるために。名刀二振りであれば十分な力になるだろう。

 

そしてふたりに名刀を託したタイミングで、声がかけられる。

 

「兄さん、ただいま!」

「お邪魔しますね」

「入らせてもらう」

「おじゃましまーす!」

 

準備を終えたらしいユキと麟に、神綺様とサリエル様も家の中に入ってくる。

 

「おかえり、ユキ。麟の準備はもう済んだのか?」

「はい、元々私物はあまり持っていなかったので」

「必要なモノは移住する以上、魔界で調達する方が使い慣れる意味でもいいだろうからな…そうなるか。

ユキももう帰る準備は済んでるのか?」

「わたしは長居する気なかったからね。アリスの家に置いてある荷物を持ってくるだけで済むよ」

「そうか…神綺様、サリエル様。こちらの準備はもう?」

「うん!後は魔界の方だけで引っ越し準備はOK!

ただ、私はこれから命蓮寺に行って来なくちゃならないから」

「魔界の方は私が準備を終えておこう。私一人でも今日中には終わる…明日、ヒョウも隠れ家と共に魔界に移動するのが効率的になるかな?」

「それなら俺も手伝います。サリエル様だけにやってもらうわけにも…」

「気にするな、むしろこれぐらいやらせてくれ。

一時とはいえ、ヒョウとの別れを惜しむ者が何人もいるだろう?ヒョウはそちらを優先しなさい。

我々の我儘でヒョウを幻想郷から連れ帰るのだからな。皆がヒョウのことを信じて待てるようにしてあげてくれ」

「…わかりました。お言葉に甘えさせてもらいます」

「悪いわねーサリエル、押し付けちゃう形になっちゃって…」

「常日頃から時間を持て余している身だ、神綺の負担を減らすべく動くのは当然だよ。

神綺も旧交を温めてくると良い」

「わかった、そうさせてもらうねー。

それじゃ紫、このまま命蓮寺に向かっちゃっていい?」

「あまり良くないからスキマで送るわ。命蓮寺で騒ぎを起こさずに時間を過ごしてくれれば、帰りはそのまま動いても平気よ」

「はーい。

ヒョウくん、それじゃまた明日!魔界で待ってるから!!」

「はい、帰ります」

 

それだけ話して神綺様はスキマに飛び込む。魔界と幻想郷で友好的な関係を維持するためにも、神綺様が敵意を持っていないと示す行動は必要になってくる。そういう意味では命蓮寺からの招待はありがたい限りだった。神綺様が人里の住民が過ごす地に現れながら、危害を加えることが無かったという実績を作れるのだから。

 

「では、私も一足先に魔界に帰ろう。リィスもしばらく幻夢界ではなく魔界で過ごしてくれるそうだからな、その準備もしなければならない」

「俺も帰り次第直接顔を出します。お手数おかけしますが、どうかお願いします」

「任せてくれ。

ではな。私も魔界で待つ」

 

サリエル様も俺の言葉に快い返事を返し、そのまま幻夢界方面に飛び去ってゆく。リィスと合流して幻夢界経由で魔界に帰るのだろう。

もっとも、サリエル様の頼みはこれから問題なく果たせるのだが。

 

「それじゃ、後は俺がサクっと仕分けて終わりだな。

皆は先に紅魔館に向かってくれても構わないぞ?」

「何言ってるかな兄さんは!わたしたちは兄さんと一緒にいたいんだよ?」

「そうですよヒョウさん。お手伝いしますから、皆で一緒に向かいましょう?」

「スキマでひとっ飛びなのだから、付き合わせて頂戴」

「そうだぞヒョウ、少しは名残惜しい私たちのことも考えてくれ」

「ですね。私たちも同じ気持ちです」

「お姉ちゃんに同感です!」

 

この後、レミリアが紅魔館での会食に俺に力を貸してくれた皆を招待してくれている。レミリア自身が「私の知らぬお兄様の話をゆっくり聞きたいのでな!」とノリノリで昨日のうちに招待状を配っていたので、魔界に帰ることを優先する神綺様・サリエル様・夢子と地底に戻った勇儀・キクリ様・コンガラ様以外の皆は参加する気だった。

俺としても幻想郷の皆に直接別れを告げる丁度いい機会になるので、遠慮なく参加することにしたのだが…それまでの時間も俺のそばにいたいと思ってくれてるってことだ。

 

本当に、俺はここ…幻想郷で。(いもうと)に恵まれていた。

 

「そうか。なら、パッと済ませて紅魔館に向かおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして、翌日。

 

無事に隠れ家ごと魔界に帰り着いた俺は、皆への挨拶もそこそこに。神綺様とサリエル様の許可を貰い、教えてもらった墓碑を訪れていた。

名の刻まれていないこの墓標は、俺を信じて散った反逆者の慰霊碑。本来であれば、俺もここに葬られるべき存在。

 

だが…俺は死ではなく生存を望まれてしまった。返し切れない恩を、異界で作ってきてしまった。

ゆえに、まだ覚めることなき眠りに逃げることは赦されない。

 

「お前たちまで、俺は裏切っちまった。

 許してくれなんて言わない。

 だから…俺が許せなければ。命を取りに来てくれ」

 

墓碑の前に、ハルバートを捧げる。

俺の裏切りを赦せないのであれば、これで俺を討ち果たしに来てくれ。

 

「赦してくれるのなら、俺は再び魔界を守る。

 罪を背負い、贖罪のために生き延びよう。

 俺の生存を望む皆のためだけに、力を尽くすことをここに誓う」

 

俺の言葉を聞いている者などいないだろう。

自己満足でしかない誓いだが、俺なりに気持ちに整理を付けたかった。

反乱に失敗した、敗北者として。

 

「赦してくれるのなら。

 俺が最期を迎えたときは、俺もここで眠らせてくれ」

 

それだけ言葉を吐き、俺は墓碑に背を向け飛び去る。

今の俺には、いくつもの求められた役割があるのだから。時間を無駄にしていられない。

 

魔界と幻想郷を守るために、為すべきことを果たそう。

 

 

 

―――俺の背に向けて、二人の漢の声が聞こえた気がした。

 




この作品に最後までお付き合いしてくださいました皆様、ありがとうございました!

作者の体調不良により、本編完結を急ぐ形になってしまいました。そのため以前アンケートを取らせていただいた特別編以外にも、補足として後日談を投稿するかもしれません。

ですので、もし動向の気になるキャラなどいましたら【活動報告】に再度質問箱を設置しておきますのでぜひご意見お願いします。後日談の参考にさせていただきますので!



最後までお付き合いいただけた皆様の感想・評価・ここすきなどお待ちしています。お時間ありましたらこれらを送っていただけると嬉しいです。
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