「―――これが俺とサリエル様の出会いだ。護衛どころか逆に妹共々助けられた」
長い過去語りを終え一息つく。かつて俺が、気力体力魔力全て充実していた全盛期。そこから転がり落ちた地が幻想郷…そして、ついに魔界に俺の落ち延びたことが知られ、今ここにいる。
「夢月とは違う意味でヒョウをサリエルに会わせたくなりました」
「…どうしてそういう考えになったのか教えてくれ」
…話したのは失敗だったか?どうやら幻月の中では俺を魔界に連れて行く理由が強化されたらしい。
「一番やりたいのは、連れて行くのではなくサリエルをこちらに呼び出して、私は隠れて見ていたいです」
「さすが姉さん、私と違う方向で悪魔らしい」
「でも、それは私も見たい!凄く貴重な光景が見れそう!」
「そうですね。豹さんが魔界に向かうことが出来なくても、サリエルさんをこちらへお呼びするのであれば問題はないですよね?」
エリーとくるみまであちらに回っている。今の話のどこにそんな要素があったのだろうか。
「教えるも何も、今の話を聞いてそう思わない方が薄情ですよ。今の話のサリエルさん、女の子だったら一度は憧れる、助けられるお姫様みたいじゃないですか。その相手が千年以上行方不明というお話ですよね?かわいそうですし、運命の再会を間近で見れる機会なんてそうそうないです。
ここにいる中で桁違いに子供な私ですらそう思うんです。長く生きている皆様の方が、もっと正確にサリエルさんの想いを理解できているはずです。むしろ会おうとしない豹さんがひどいです」
麟の怒りも収まってなかった…そこまで責められるのは予想外過ぎる。
「その通りです。私たちは強い力を持ち、長く生きてきましたが…危機に颯爽と現れた相手に助けられた経験なんてないです。正直なところ、サリエルが羨ましいですよ。身命を賭してまで護ってもらえるなんて、力尽くで敵を叩き潰せる私たちだからこそ巡り会える可能性の低い状況です」
「姉さんはそういう話好きだから。私だったら護られなきゃ逃げられないなんて状況自体避けたいけど。
でも、そう考える私だからこそサリエルがどれだけ本気で再会を祈っているのかがわかる。敵を目前に気を失ったところを救出してくれた相手…借りはしっかり返したいはず」
「結果的に守られたのは俺の方だから、借りなんてとっくに返してもらってるんだが…」
サリエル様と顔を合わせたくないわけじゃない。問題なのは―――
「反逆者である俺をサリエル様が庇護するというのがまずい。神綺様とサリエル様が仲良くしたくても、部下はそうもいかないんだよ。まあ、今の魔界がどうなっているのかわかっていない俺が言うことじゃないんだろうが…
少なくとも、俺が反逆者であることを知る連中からすると歓迎できない状況になるのが問題なんだ」
これでも一応魔界を管理する側だったのだ。自由意志の強い魔界人を統治することの大変さは知っている。神綺様はその大変さこそ求めていたようだが、不満でしかなかった中間管理職もそれなりに居たのだ。俺やユキ、夢子といった猛者が神綺様に全幅の信頼を置いていたため表立って動こうとはしなかったが。
そういった奴らは、担ぐ神輿を変えたがっていたのだ。そしてサリエル様はその候補になり得る…そこに俺が転がり込んだら神綺様と対立することを厭わないと見られてしまう。
「というか、今のお話だと豹さんが魔界神に反逆した理由が全然わからないんですけど。お互いに信頼してる理想的な上司と部下にしか聞こえなかったですよ?」
「そうですね、私もそれが一番不可解な点です。豹さんの口振りも表情も、魔界神を信じ切っていて不満があるように見えません」
まあ、そう返って来るよな。ただ、ここから先は俺に情報が足りない。
「俺が反逆者になった理由自体は簡単だ。サリエル様の件で力不足を痛感した俺は、新たな強さを求めた―――まともに使えなかった攻撃魔法の習得だ。だが、どうやってもはかどらなかった…まるで
「…ああ、そういうこと。それはどちらにも落ち度があるわね」
他の4人はまだ理解できていないようだが、夢月はこれだけで察したらしい。どちらにもという感想が出てくるあたり、ある程度俺に同情はしてくれてるか…これなら下手な取引なんてせず、ストレートに協力を頼む方が効果がありそうだな。
「もし俺にそんな制限が掛けられているのであれば、それを解けるのは神綺様だけだろう。
…だが、この行動を見事に利用され俺は反逆者となった。
反逆者たちを見捨てられないような、状況にしてしまった」
俺は魔界を乗っ取りたかったわけじゃない。神綺様を倒したかったわけでもない。
神綺様に、強くなるのを妨げる枷を外してもらいたかっただけ。
だがそれは、神綺様が意図的に俺を弱く創ったと見られてしまい。
「神綺様に不満があっても、俺には不満は無いという
―――このままじゃ、ヒョウだけ不自由な世界になる―――
野心があったのかもしれない。不満があったのかもしれない。
だがそれでも、俺のために動いてくれたことは間違いなかった。
「嵌められたことになるんだろうが…だとしても、最後に選んだのは俺だ。
もっと強くなりたかったから、神綺様を捕らえてでも枷を外そうとした。
反乱軍を率いて、神綺様に勝とうとした。
裏切り者として魔界から追放されただけの結果に終わったけどな」
「俺が魔界から追い出された後、反乱軍が敗北したことは紫さんが調べ、教えてくれた。
反乱軍の生き残りは俺を許さないだろうし、神綺様は魔界神として俺を赦すわけにはいかないだろう。
だから俺は、逃げ続けてここにいる…あの時と変わらず、弱いままでな」
俺の間違いは、俺だけで強くなろうとしたこと。俺は護衛なのだから、俺一人だけ強くなっても意味が無い。護るべき相手とともに強くならなければならなかった。
「そんな俺をサリエル様が受け入れたら、神綺様からも神綺様を引き摺り下ろそうとする連中からもサリエル様が敵視されるだろう。元から悪魔の故郷ともいえる魔界に天使がいること自体不快に感じる奴もいる。また俺が理由で魔界を戦場にしたくない。そのためには、サリエル様と迂闊に会うわけにはいかないんだよ…俺の時と同じように、サリエル様と関係ないところで争いの火種にされかねないからな」
神綺様が自由にさせていることで、統制が利かなくなるとどこまでも暴走するのが魔界人の特徴。そこに悪魔たちまで加われば内戦待ったなしだ。これ以上神綺様に迷惑をかけるわけにはいかない。
「豹さん、抱え込んだ相手を切り捨てられないタイプですよね。全部守ろうとして選択を間違う。
それ、割り切らないとまた繰り返しますよ?私とエリーなんて思いっきり過ちを繰り返しかねない存在だって気付いてます?」
「気付いてるし自覚もしてる。ただ、これを治す気はない」
兄として、弟と妹を支える。これだけは止めることを俺が許せない。
間違って、逃げ続けてる俺だからこそ。一つだけでも貫き通す―――これだけは貫いたと、最期の刻に胸を張るために。俺の過去すべてが無駄だったということにしないために。
「過去は変えられないし、忘れる必要もない。ですので、反逆に関して私からは何も言うことは無いです。
ただ、完全に情報を遮断した密会なら問題ないということですよね?」
「…そこまで俺とサリエル様を会わせたいのか?」
「はい!とっても素敵な光景が見れそうですから!」
よし。余程運命の再会とやらに興味があるらしき幻月がここまで乗り気なら、それを使って協力体制を作ってしまえばいい。本当に密会という状況を作れるのであれば、サリエル様と連絡を取るのは俺にとっても有りなのだ。
「だが、実際どうやって密会する?俺が魔界に出向くわけにはいかないし、サリエル様を幻想郷に呼び出すのも却下だぞ。さっきの戦闘でも目を付けられただろうしな」
「ああ、それは大丈夫。ヒョウを逃がさないために湖に結界張っておいたから。やりあってる途中で邪魔されたくなかったし」
…いつの間に。やっぱ敵に回られると困るなこの姉妹。
「夢月さんの言う通りですね。少なくとも私はここで戦闘があったことに気付けませんでした。だからこそ豹さんの大怪我に驚いたわけですから」
「…だとしてもだ。流石にここにいるメンツにサリエル様まで加わったらバレるだろ。ただでさえ博麗神社に近いんだから」
麟が気付かなかったということは今は信じて大丈夫だが…博麗の巫女の勘を甘く見てはならないのだ。大所帯になるほど危険性が上がるだろう。
「場所は夢幻世界なら大丈夫ですよね?部外者を私と夢月で遮断できますし、魔界側はエリスに任せて、幻想郷側は好き勝手やってる幽香をたまには手伝わせればいいですし」
「…姉さん、そこまで本気なの。まあいいけど」
ここだ。折れる代わりに協力してもらう。
「―――わかった。俺も別にサリエル様本人を避けてるわけじゃないからな…ただ、ひとつ聞かせてくれ。最初からずっと確認したかったことがあってな」
「え、私たちにですか?」
「ああ。幻月は俺を『サリエルの探してる魔界人のヒョウ』と認識しただろ?
どうして『反逆者のヒョウ』として思い当たらなかったんだ?」
「…そういえば、そうですね。今の話を聞いた限り、豹さんほどの方が魔界神から反逆したのでしたらいくら過去の話でも忘れられていることは無いはず。私たちと違って魔界と繋がりのある幻月さんなら、反逆者として名前を知っていてもおかしくないですね」
「…言われてみれば。私も姉さんに言われて思い出したけど、反逆者のヒョウなんて聞いた覚えがない。どういうこと…?」
動揺で流しかけてしまったが、これはおかしいのだ。エリーとくるみの話を聞いた限り、幻月と夢月は魔界に伝手があるはず。それなのにあれだけの内乱を起こした俺の名前が反逆者として残らないはずがないのに、サリエル様の探し人としてヒョウという名が出るのは違和感しかないのだ。
「たしかに、おかしいですね…かつて魔界で内乱があったというのは知っていますが、その首謀者の名前などは私は知らないです。今の話を踏まえた上でのこの状況、意図的に伏せられた可能性があるのですね?」
「ああ、もしそうだとすると神綺様がなにかしら伏せたいことがあって、そのために俺ごと情報統制したって可能性が出てくる。そうだとするとますます俺が迂闊に動くのが危険になるんだよ。俺に危険があるんじゃなくて魔界に迷惑がかかる方向でな。だからサリエル様と会うのであれば、先に探りを入れたい。
ただ、これに関しては話を聞くのに最適な相手に心当たりがある。俺の予想だと、神綺様にかなり近い立場にいるはずだから隠居とかしていなければ割と見つけやすいとは思う」
「へえ、つまりそいつに聞けば反乱について詳しいことが聞けるわけね。
いいよ。ヒョウ絡みの話は面白そうだから私が探してきてあげる。特徴を教えて」
夢月がここまで協力的なのは僥倖だな…!あれだけ怒らせたのだからもっと敵視されてるかと思ったが。
「白い翼を持つ水色髪の少女、マイ。白魔導士として最高クラスだったから、その方向で探しても見つかるとは思う」
あの反乱において、俺の敗北を決定付け、ユキを救ってくれた―――
「ただ、俺の話をすると確実に目を付けられる相手が3人いる。だからその3人と一緒にいるときの接触は避けてほしい。
神綺様と、妹のユキと、神綺様のメイドの夢子。この3人の前で俺の名前を出すのは避けてくれ…まず間違いなく捕まえるまで追ってくるだろうから情報収集どころじゃなくなる」
「そう言われると口に出したくなるけど。今回は姉さんが本気だから見逃しましょう」
「…ヒョウ、念のために私も行きます。夢月を止められるの私だけですから」
「ありがとな幻月…夢月もよろしく頼む」
これで、俺も反乱の結末を知ることができるだろう。
何があったのか、予想は出来ているが。それでも詳しい状況は最期を迎える前に知っておきたい。
俺のために散った皆の最期は、予想するのではなく真実を知るべきだからな………