寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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独自設定が増えていきます。


第3話 騒霊と逃亡者

「お人形さんに名前はあるの?」

\シャンハイ/

「シャンハイちゃんね!喋れて動けるなんて、凄い!」

 

カナは随分とアリスの人形…上海を気に入ったらしい。元々ここに取り憑いたのが不思議でならない明るい少女だ。元々は立派な洋館に居たそうなのだが、ここ幻想郷に現存する洋館となるとルナサたちの住むプリズムリバー邸と紅魔館、半壊した夢幻館ぐらいしか思い当たらない。つまり彼女を生んだ存在は………寂しがりやの俺が彼女を邪険に扱うことなんてできるはずもなく、妹のように扱っている。

 

「カナ、悪いが上海と話すのは少し後にしてくれ。いくつか頼みたいことがある」

「はーい、なんだか大変そうね」

「上海はこの部屋で大人しくしててくれ。置いてあるものは好きに使って構わない」

\ハ-イ/

 

魔法や陰陽術、妖術が関わるものは置いていない部屋に上海を放置。下手に作動させると危険なものはまとめて地下に封印してあるので、アリスと合流するまでは触れさせないべきだろう。誘爆したり魂が宿ったりしそうないわくつきの危険物も混じってるからな…

 

「それで、何があったの?展開してた魔法解除するなんてただ事じゃないのよね?」

「ああ、俺はしばらくここを出る。その間留守番を頼めるか?無理にとは言わないが」

 

魔力付与済みのアクセサリー類を回収、成金みたいにジャラジャラさせることになるが仕方ない。宝石や貴金属には魔力と相性が良い物質が多いのだ。

 

「上海の製作者が俺の…敵と関わりがあってな。捕まるわけにはいかない。だからカナに上海を利用した時間稼ぎを頼みたいんだが」

 

敵と認めることにいまだ躊躇いがある。本当に情けないな、俺は…

 

「え~、出て行っちゃうの?つまらなくなるな~」

「無理にとは言わない。それにカナまで彼女の敵にさせるのは悪いからな。嫌なら急いでここを出る用意をしてくれ。上海を取り戻しに来るのにそんなに時間はかからないはずだ」

 

ピラミッドを解除すればアリスは上海の位置を把握できるはず、それを利用して時間稼ぎをする。つまり隠れ家ごと上海を囮にするわけで、カナを巻き込まないようにするなら一刻も早くここを離れてもらわなきゃならないのだ。

 

「とは言ってもね、他にアテがあるわけでもないし。ちゃんと戻ってきてくれるならいいよ~」

「その確約が出来ない。状況によってはそのままここを放棄するだろうからな…」

 

思えばここに随分と長く居座ったが…逃亡者が定住するなんて状況が異常だった。だからこそしっかりとした建造物ではなく、使えそうな資材を魔力で継ぎ接ぎ補強した間に合わせの家なのだ。

 

「それで地下室まで造るとか普通じゃないよね?」

「…なぜ心を読めた」

「心を読んだというより、家のことだからかな。取り憑いてる家のことならだいたいわかるからね」

 

そう言ってカナは俺の目の前に移動してきた。脱出準備の手が止まる。

 

 

 

「いいよ、手伝ってあげる。でも、ここを捨てちゃうのは許さないからね。

 戻ってこなかったら、地獄の果てまでだろうと追いかけて連れ戻すからね」

 

 

 

…どこまで見抜かれているのだろう、この少女に。

カナに甘かった自覚はある。顕現した状況や幻想入りした経緯による同情、突然出来た話し相手。兄らしく振舞えたことによる自己満足…だがそれでも俺の恥ずべき過去は伏せていた。

しかし、取り憑いてる家のことならだいたいわかる―――つまり、ここに残る記憶を理解しているということだろうか。今目の前にいるカナは、とても妹分なんて言える相手じゃない。立派なポルターガイストだ。

いつの間にか、俺は彼女からも追われる立場になっていたらしい。

 

「それで、わたしは何をすればいいの?」

 

俺の作業を邪魔しないように、背後に回りながらカナが尋ねてくる。後が怖いが、手伝ってくれるというのなら利用させてもらおう。借りを返すまで追いかけられそうだけどな…

 

「一つは最初に言ったとおり、しばらくの留守番。次に上海が地下室に入らないように見張ること。最後にこれからやってくるであろうアリスに上海を返すこと」

「アリスっていうのがシャンハイちゃんのご主人なのね!頼めば譲ってもらえないかな~」

「いや返してあげてくれと言ってるんだが…」

「ふふ、大丈夫よ。ちゃんと返してから頼むから」

 

カナの様子はすっかり元通りだ。これはこれで若干不安になるが、手伝ってもらえるのに文句は言えない。

保存食をかき集めて鞄に放り込み、水筒を食器棚の奥から引っ張り出す。後は資金だが…紫さんと接触できれば助かるが、状況次第では香霖堂に寄る必要があるな。

 

「おそらく戦闘態勢でアリスは来るだろうが、無理に相手しなくていい。上海を返せば退いてくれるとは思う。どちらにしろ色々と聞かれるだろうが、別に隠すことはないからわかることは話して大丈夫だ」

「相手はするわ。どうせなら楽しみたいしね!」

 

やはりか。案外好戦的なんだよなあカナ。下手に誤解されなきゃいいんだが…

 

「あとしばらくは上海の相手を頼む。魔力切れの可能性を考えればそう活発に動くとは思えないが、地下室にまとめたものに興味を持たれて作動させられると面倒なことになるかもしれん。アリスが興味を持った場合も注意はしておいてくれ」

「らじゃ~。わたしもちょっと気になるから、一緒に調べてみるね」

「頼む。ほとぼりが冷めたら戻ってくるつもりではいる…時間はかかるかもしれないが」

「…うん。行き先は聞いてもいいのかな」

「一応、いくつかアテはあるが状況次第だ。資金を問題なく調達出来たらエリーを頼るつもりだが…それが出来なかったら春告精あたりを頼らざるを得ないかもしれない」

「名前を出されても場所がわからないんだけど…仕方ないよね。いってらっしゃい、豹」

 

―――ああ、また会えるといいな、カナ。

こんな言葉が出そうになったのは、俺自身がもう予感してたからなのかもしれない。

 

 

 

 

 

「行っちゃった」

 

この家に残る記憶の残滓から、豹のあんな表情を知ってはいたけれど。

 

「せっかくいい引っ越し先を見つけたのにな…」

 

わたしを生んだ私はもういない。お屋敷も災害でボロボロになって、使えそうな資材を再利用するために取り壊されたということを吸血鬼のメイドさんから聞いた。

 

わたしがお屋敷を離れたからこうなったとは思ってない。わたしは騒霊、座敷童じゃないから。でも、古代遺跡の一件で移住の決心がついて飛び出してから、こんなに早く生まれたお屋敷が無くなってしまったのはショックだった。

 

そんなところに見つけた不思議なお家。この幻想郷には珍しい洋風の景観で、森の中でなぜか魔法に覆われた、どこか不安定なお家。

不安定なのは当たり前で、素人が見た目だけ真似て作ったハリボテみたいな家だった。それを強大な魔力で頑丈に固定している。どんな人が住んでいるんだろうと取り憑いてみたら、もっと不思議な住人だった。

 

優しいけどどこか陰のあるお兄さん。わたしにとっての豹はそんな人だった。ごくわずかな魔力しか持っていないように見せてるけど、こんなお家をとても永く支え続けるなんて並の魔力じゃできない。この家を作る前はどれだけのウィザードだったのか…それがなんで魔力を隠しながら暮らしているのか…興味は尽きなかった。

 

「もっといろいろお話ししておけばよかった」

 

なんだか妹みたいに思ってたみたい。こんなちんちくりんに生まれてしまったのは割とラッキーなんだけど、釈然としないこともあるからね。危ない人だったらすぐ逃げるつもりだったけど、少し接してから恋愛対象として見られないのがちょっと残念に感じるぐらい素敵なお兄さんだった。

 

それはこのお家にとっても同じこと。わたしが想像してたよりずっとず~っと永く、豹はこのお家を支えてきたのだ。何かきっかけさえあれば、このお家は付喪神と化してもおかしくないぐらい豹に依存して、豹が頼りにしてる。新参者の私が、簡単に記憶の残滓を見つけられるくらい。もしはっきりとした意思を持つことが出来れば、この家は決して豹を離さないだろう。

家に取り憑く騒霊として、こんな状態で想い出の残るこのお家を捨てるというのは見過ごせなかった。

 

お留守番。騒霊が家主のいない家を守るなんて皮肉だなぁ、と思ったけど豹が話してくれた楽団という例を思い出して変な親近感を覚える。

 

「そうね、頼まれごとを終わらせたら会いに行ってみましょ」

 

道路標識を持ち出して、カナは上海のところへ向かっていった。

 

 

 

 

 

(私はどうすれば…)

 

慧音に説明と口止めをした後、二人が飛び去った方に向かってはみたけれど、すでに終わっていたらしい。人里から少し離れた草原、そこに不自然な地面の陥没を見つけられただけ。…飛んでくる途中でこちらの方から歩いてきた鼠妖怪を見かけたけれど、声をかけた方がよかったかしら。

 

たしか彼女は、新しく人里にできたお寺の関係者。空飛ぶ船が寺になったとよくわからない話を耳にしたけれど、それ以降特に騒ぎを起こしたという話は聞かない。追いかけるべき?

 

(いえ、ちょっと待って。たしか住職は)

 

魔界に封印されていた住職を救い出した。アリスは魔界から幻想郷に来た。豹は魔界人という種族。

もしかして、繋がってる?

 

「私の手に負える気がしない…」

 

これでもそれなりに力を持つ方だという自負はある。けれど…豹が逃げなければならない相手に対して、私が食い下がれるかどうかはかなり怪しい。

豹は末端妖怪を演じていたつもりなのだろうけれど、間近で見ると立ち振る舞いが常人じゃない。特に周りに対する注意力や警戒心。あの幻想郷最速という烏天狗…射命丸文が取材を試みようと何度も私たちのところに来ているのに、近くにいたはずの豹は毎回忽然と姿を消してしまうのだ。今では楽団のファンの間で《幻影の裏方》と噂されている。

 

(メルランとリリカは協力してくれるかしら)

 

疲れるくらいからかわれるだろうけれど、背に腹は代えられない。あとは雷鼓も豹と面識はある、意外と慎重だから断られるかもしれない…それでも連絡だけでも取っておきたい。

 

(そして、藤原妹紅。今の私が知る中で一番長く豹と付き合いのある人物)

 

協力してくれるかどうかはわからないけれど…アリスが言ったように情報を集めるなら彼女ぐらいしか心当たりがない。話を聞くだけでもするべきでしょうね。

一度帰って妹たちに手伝ってもらいましょう。そう思い家へ戻ろうとしたとき、聞きなれない声で呼び止められた。

 

「あーいたいた!ちょっと時間ちょうだい!」

「…?誰かしら」

 

振り返ると茶髪をツインテールにまとめた烏天狗が、なにか写真を持ってこちらに飛んできていた。

 

「私は花果子念報の姫海棠はたて、プリズムリバーの長女よね!彼が幻影の裏方で間違いないわよね!?」

「…っ!?」

 

こんな写真、撮られた覚えはないのに。

私と豹がカメラに目線を向けている姿が、そこに写っていた。

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