寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第30話 解散・集合・交渉

「では、私は家に戻って連絡を待ちます。ですが…私では頼りないのは十分理解できていますが、治療だけは豹さんよりできますから…大怪我をして自然治癒を待つぐらいなら迷わず私のところに来てください。それぐらいはさせてくれないと泣きますからね!」

「ああ、そうする…様子を見ることはせずに頼らせてもらうさ」

 

不満はあれど一度麟は引いてくれるらしく、俺の話を聞き終えると帰り支度を始めた。姉妹への敵意はなんとか捨ててくれたようで俺としては一安心。俺のために戦ってくれなんてとても言えないが、敵対するのは絶対に避けたい二人だ。おそらくただ一人俺だけのために動いてくれる麟とは協調してもらいたい。

 

「約束です。豹さんに出来ることがあるのに頼られないのは、私にはとても辛いですから…忘れないでください」

 

…いい子なんだよな、麟は。どうにかして忘却の呪いを解いてやりたいんだが…もはや俺にそんな余裕が無い。

それこそ、神綺様やサリエル様になら解呪の手立てがあるのかもしれないが。今の俺が頼んで見ず知らずの人間の少女に救いを与えてくれるかどうかはわからない。ただ…俺の関係者という理由で連座させるようなことはしないだろうから、機会さえあれば面識を持たせてあげたいところか。

…永遠亭を頼ることだけは止めたいが、俺が消えた後は誰も止められない。妹紅が言う限りだと信用していいそうだが、サリエル様を生かしたまま捕らえることを目的とした月の民は信じられない。

そう考えると、サリエル様との接触にも意味はある…解呪に関していえば、神綺様よりもサリエル様の領分の方が近い。リスクを負う価値はある…か。

 

「では、私たちも魔界に行ってきますね!」

「姉さんがここまで活発に動くのは本当に久しぶり。これだけでもヒョウと知り合う価値はあった」

「ああ、頼む」

 

幻月と夢月もご機嫌で魔界に向かっていった。そこまで俺とサリエル様の再会は見応えがあると思われてるということだが…普通に近況を報告して終わるだけなんだがなあ。俺がサリエル様を頼るわけにはいかないし、サリエル様も恩を仇で返す様な真似はしない方だ。月から逃れた先の魔界、その主である神綺様に反逆した俺を庇護するわけにはいかないだろう。

 

…そう考えると、サリエル様がいまだ俺と会いたがっているというのも不思議だが。おそらくは、俺自身の口から反逆の理由を聞きたいんだろうが。少しでも神綺様側の戦力を削ぐため、サリエル様が旧知と接触するため魔界を離れたタイミングで決起したのだ。サリエル様からすれば少し目を離した隙に俺が魔界から追放されていた形になる…神綺様からの報告だけでは納得できなかったということなんだろうな。

 

「それじゃ、俺たちも作業に戻るか」

「何を言ってるんですか豹さん。麟さんのおかげでもう大丈夫というのは信じますが、今日一日は安静にしていてください。夢幻館の修復は豹さんに負担をかけてまで急ぐ必要はないんですから」

「そーですよ!私たちが決着つくまで続けること自体反対したの忘れてますよね?今日はもう作業なんて考えずおとなしくしててください!」

 

…これは逆らわない方がいいか。

 

「わかった…ならさっき淹れてくれた紅茶、残っていたらもらっていいか?」

「それぐらい淹れなおしますよ。本当に豹さんは気を使いすぎです」

「ほんとにさあ、豹さんは少しぐらい匿われてる人らしくおとなしくしてください」

 

エリーとくるみがそう言うなら言葉に甘えよう。貴重な魔力回復薬を使ったのだ、流石にさっきほどの戦闘が立て続けに起きるとは思えないが…少しでも全快に近付けられるのはありがたいしな。

 

―――この時点で大きな見落としがあったことに、俺だけでなく夢幻館にいた全員が気付くことは出来なかった。

もっとも、誰一人知ることが無い存在だったのだから…仕方のないことではあったのだが。

 

 

 

(最後のひとつ、やーっと見つけた…♪)

 

 

 

 

 

 

 

 

(退屈だなー)

 

豹がこのお家から出て行って2日目。やっぱり話し相手が居ないのは寂しいわ。豹は自分から喋ることは少なかったけど、話し掛ければしっかり相手してくれてたから余計そう感じてしまう。

 

(上海ちゃんに取り憑いてまで追いかけようとするのがわかっちゃうなあ)

 

それほど長い付き合いじゃないわたしでさえ、早く帰ってきてほしいと思ってしまう。千年以上一緒にいたこのお家ならなおさらだよね。

豹は、どこまでこのお家のことを理解してたのかな…そんなことを考えていると、今日の一番乗りが来てくれた。

 

「お邪魔するわ。カナ、いるかしら?」

「あ、ルナサおはよう!」

 

情報収集において私は役に立たないから、なにかしら手伝いやフォローできることがあればいいんだけどね~。昨日の今日で何かあるなんてことは‥

 

「おはよう。それで、一つ情報が入ったわ。カナ、霧の湖の大妖精と面識あるかしら?」

 

あった!これはびっくり。だけどまたわたしは力になれない…もう少し外に出るべきかなあ。

 

「ごめんね、妖精はリリー以外知らない。自然から発生する妖精は、家屋に取り憑く騒霊とは相性が悪いのはルナサも知っての通りでしょ?」

「そうよね。その様子だとチルノすら知らないだろうし…まあそれは置いておきましょう。入った情報は…」

「カナ、入るわよ」

「お邪魔します」

 

立て続けにアリスと上海ちゃんもやってきた。すごくいいタイミング!

 

「おはよう!ルナサ、みんなと一緒に聞かせてね」

「そうね、それほど時間は取らないし…」

 

今日もまた、この4人で豹を追う。この繋がりをくれたことで、わたしは豹に感謝しなきゃいけないことがまた増えた。やっぱり、一人は寂しいからね…豹も、この中に入ってほしいんだけどな。

 

 

 

「雷鼓からひとつ目撃情報。あのお騒がせ天人が博麗神社を倒壊させた異変の少し後に、霧の湖近くの川辺で黒い春告精と翠髪の妖精に魔法を教える豹らしき男を竜宮の使いが見たそうよ」

「あの異変の時期で竜宮の使いというと、永江衣玖のことかしら?」

「アリスも面識あるの?雷鼓とは飲み友達で、メルランのソロライブに出没するというのは聞いてきたけど」

「…いや、その情報の方が驚きなんだけど。百歩譲って飲み友達はわからなくはない、あの天人のせいで苦労人というのは軽く接しただけで理解できたから。でもルナサの妹のソロライブって一度テンション上がり過ぎた天狗が人間の男の子持ち帰って大騒ぎになったアレよね?そんな大騒ぎに参加するようなキャラじゃないでしょ彼女」

「ノリノリで踊るのがストレス解消になるから、ってメルランは言ってたけど」

「わたしとしてはその天狗のお持ち帰りってのが気になり過ぎるわ」

「あの…思いっきり話が脱線しそうなので、戻していいでしょうか?

春告精と一緒にいた妖精も豹さんの関係者の可能性があるというお話ですよね?」

 

上海ちゃんが軌道修正に入ったわ。アリスの人形さんらしく、しっかりしてるな~。

お持ち帰り事件のことは移動中にでも聞けばいっか。

 

「まあ、情報としてはそれだけなのだけれど。外見からするとたぶん霧の湖の大妖精が当てはまるわ。鬱陶しい氷精を追い払う必要はあるけれど、春告精よりは見つけやすいと思う」

「そうね…一応私も光の三妖精のおとなしいのに春告精を探すよう頼んだけれど。チルノが面倒だけどそちらの方が掴まえるのは簡単そうね」

「…あの氷の妖精ですか。ご主人様、カナさん。お願いしたいことがあるのですが」

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず順調なようね。霊夢にも少しは見習ってほしいぐらい」

「そうですね。私もここまで理解されるとは思っていませんでしたし、あなた方管理者から黙認されるとも思っていませんでした」

 

不意打ちのように現れて無駄に反感を買う必要はないから、姿を現して聖白蓮がこちらに気付くのを待っていたけれど。八苦を滅した尼公は流石というべきね。私を警戒しつつも信徒を優先し、ひと段落させてから話に来た。私を待たせていることに気付いた妖怪たちは気が気でない顔をしていたけれど。

 

「ふふふ…黙認しているわけではないわ。私はともかく、管理者の中に警戒心を持ち始めているのがいないわけじゃない。ただ、そのあたりはまだ気にしなくてよくてよ。政治家気取りの聖人の方が、管理する側としては余程面倒だから」

「そうですか…それで、私になにかご用でしょうか?」

「ええ。幻想郷における命蓮寺の活動に関して、これまで通り黙認することを妖怪の賢者として約束するわ。そのかわり…魔界神との縁を切って頂戴」

「…!!」

 

昨日の時点で私たちがアリスと接触したことを把握しているとは予測できていなかった様ね。それならむしろ…寛大な方が話が早く進む。

 

「安心しなさい、今すぐ魔界の縁者全てとの関わりを捨てろなんて言わないわ…ただ、近いうちに魔界が動く。その時に内通されると困るのよ」

「…私は魔界で神綺様にお世話になりました。その縁を、切るつもりはありません。

ですが、幻想郷の敵に回る気もありません」

 

予想通りのいい子ちゃんな回答。これなら、取引しやすくて助かるわ。

 

「中立を貫きたい、と。私は構わないけれど、その場合他の管理者から魔界側とみなされると孤立するわ…ここの戦力だけで守り切れるつもりかしら?」

「それは…」

「無理よ。魔界相手となると、私たちも容赦できないわ。本隊と合流される前に潰さなければならない。

だから、私から条件を出してあげましょう。それを飲むのであれば中立を貫こうとも八雲から擁護してあげるわ」

「…その条件は?」

「ひとつは、アリスたちの捜している魔界人の豹。彼を発見してもアリスや神綺に伝えないこと。

 もうひとつ、ここの地下に残る夢殿大祀廟を豹の潜伏先として提供すること」

 

さて、どう出る?私にとってこれは保険でしかない。なぜなら豹が逃亡先に命蓮寺を選ぶ可能性は低いから。

 

「豹という魔界人は、何者なのでしょう?」

「そうね…それは神綺に聞くといいわ。彼を魔界に引き渡さないことさえ守れば、神綺との交友を止める理由が私には無いのだもの」

「………わかりました。神綺様に直接聞くことにします。ですが、口約束にしかなりません。あなたはそれでいいのでしょうか?」

「ええ、はっきり言ってしまえば、豹がここを訪れる可能性は低いのだもの。私からすれば、あくまで確認…神綺との繋がりが本当にあったのかの、ね?」

「そうですか…」

 

これで十分。住職が直接神綺に聞ける以上、命蓮寺が豹のことを嗅ぎ回ることは無い。

今日のアリスの動き次第では、明日にも豹と連絡を取りたいところね。




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