寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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タイトルは割と頻繁にネタ切れします。


第31話 戦いは数だよ!

目撃者を出さないように湖から外に出ようとしましたが…索敵魔法に反応が二つ。これは少し待機しなくてはなりませんね。

 

(―――あれは、天狗のブン屋と…誰でしょう?)

 

白い帽子を被った金髪の女性。豹さんと同じような洋服を身にまとっているのを見る限り、人里の人間ではないのでしょうけれど…枯渇した湖なんて珍しいので、姿を確認できる位置に二人ともいただけで運がいいと思うべきですか。下手に動いて気付かれるわけにはいきません。

 

そして、何かに反応したらしき烏天狗が妖怪の山の方へ飛び去って行きました。もう一人の女性は人里の方へ風景を楽しむようゆっくりと移動していきます。ある程度距離を取ったのを確認し、私も湖の底から日の当たる地上へ飛び上がりましたが。

 

(…追うべき、なのでしょうけれど。私の力は豹さんだけのために使いたい。そう考えると無関係な相手との戦闘での消耗は避けたい)

 

そう考えると不審という点だけで追跡し、敵視されて交戦ということになったら目も当てられません。

…今日は大人しく帰ることにします。次に豹さんと会う時に、報告しましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

準備を終えて、妖怪の山へ向かう。理想は文と遭遇せずに終わらせることだけれど…幻想郷最速の称号は飾りじゃないのよね。神出鬼没(物理)とでも言えばいいのかしら。空間系魔法を使わずとも高速であちらこちらを飛び回れる文はいつ遭遇してもおかしくない相手。逃れるのは至難でしょう…豹はそれをやってのけていたそうだけど。

 

「―――それで、大慌てでその天狗を探すことになってね~。そういえば衣玖さんとお互い自己紹介したのもこの時だったわ~」

「後から話を聞いた時は滅茶苦茶焦ったよ…まさかライブで誘拐事件発生とか思いもしなかったもん。下手したら人里でのライブ禁止されかねない大事件だったからさ」

「そっか、男の子の方もテンション振り切れちゃってたから付いて行っちゃったの…大事にならなくてよかったね~」

 

カナの発案でルナサの妹たちも合流している。文のことを軽く話したら、脅しをかけるために手を貸してほしいから一度プリズムリバー邸に寄りたいということだったのだけど…ルナサと同じで馴染むのが早いわ。でも、考えてみれば同族というだけでなくカナもルナサ達も幻想郷の住人では珍しい西洋が故郷の存在。親近感が湧くのも当然ね。

 

「それで、ルナサから見てカナの作戦は成功しそうなの?」

「カナ次第としか、私には言えない。でも、私では思い付くことすらなかったでしょうね。過ごした時間はカナの方が私たちより短いはずなのに、ポルターガイストとしてはカナの方が私たちよりずっと上よ。

少なくとも、カナ抜きの私・メルラン・リリカでは思い付けても成功しないでしょうね」

 

ルナサより上、か。カナ自身は隠れ家のおかげと言っているけれど、私とあれだけ渡り合えるカナだものね。戦闘経験が少ないはずがない。

…どこでそんな経験を重ねたのかがわからないけど。少なくとも私が関わった異変で姿を見た覚えはないのよね。

 

「―――止まりなさい。これより先は我々の領域。無用な立ち入りは禁止です」

 

早速刀と盾を構えた白狼天狗が出てきたわ。たしか彼女は。

 

「椛だったかしら。大所帯で悪いけれど、厄神に用があるのよ。呼び出してもらえないというのなら押し通らせてもらうわよ」

「雛さんですか?…少しお待ちください、捜してみますので」

 

椛の能力は千里眼。この能力によって山への侵入者を真っ先に発見できる彼女は、豊富な戦闘経験により白狼天狗では指折りの実力者となっているらしいわ。

…そしてそれを待つ私たちに向かって、はるか遠くから高速でこちらに飛んでくる。異変における霊夢じゃあるまいし、文もどんな勘してるのよ。

 

 

 

 

 

「これはこれは楽団の皆様ではないですか!皆様お揃いでなぜ妖怪の山などに?もしや幻影の裏方のことを話してくれる気になったのでしょうか!?」

「うわ、本当に来た。なんでこんな簡単に見つかるかな」

 

リリカが呆れを含んだ表情を見せてる…この烏天狗が射命丸文ね。わたしよりず~っと長く生きてる相手を出し抜く…難しいけど、やらなきゃならないわ。

 

「そしてあなたは初めて会いますね?私は射命丸文、新聞記者をやっております。お名前と、あと一枚撮らせていただいても?」

「わたしはカナだよ~、カナ・アナベラル。わたしじゃ記事にならないと思うけどいいのかしら?」

「いえいえ、それを判断するのは私なので!」

 

そしてカメラにわたしが収められる。予想外にあっさり上手くいったわ!後はわたしの立ち回り次第…!

 

「なるほどね~、捏造、脚色なんでもありっていうのは本当なんだね!」

「あやや…訂正を求めたいですな。脚色はともかく、捏造なんてしませんよ。私は真実のみ記事にしますから!」

「脚色はするんだ…ルナサ達が避けるのがよくわかったわ」

「…皆様、雛さんを見つけました。ご案内します」

 

椛さんが絡まれてるわたしたちに助け舟を出してくれてるけど、もう少し待ってほしいんだよね。このチャンスは逃がすわけにいかないから。

 

「椛、これだけの実力者揃いとはいえ最初から山に立ち入らせるのはどうかと思うわよ?見なかったことにしてあげるからしばらく待ちなさい」

「………はい」

 

と思ってたらわたしのターゲットの方が椛さんを下がらせちゃった。仲悪いのかなこの2人。

 

「それにアリスがこんなところに来るなんて珍しいですねえ。河童に人形の改造でも頼もうとでもしに来たのですか?」

「椛が言った通り用があるのは厄神よ。特に用が無いなら帰ってくれないかしら」

「冷たいですな。用ならいくらでもありますとも!例えばこの集まりはどんな繋がりがあるのか!?などなど。アリスや楽団の皆様のような有名どころであれば、それはもう記事のネタになりますから」

 

あ~…これはたしかに付き合いたくない妖怪だね、記者というよりパパラッチみたい。

それなら、追い払う体で実力行使に出ちゃった方が早いわね。

 

「あんまりゆっくりしてられないんだよね~。椛さんに案内してもらうには、あなたを追い返すのが手っ取り早いのかな?」

「あやっ!?」

 

道路標識で後ろから不意打ち…って、たしかに速い!これは記者としてだけでなく敵としても遭いたくないわ。でも…ルナサもメルランも上手く合わせてくれた!これでわたしたちの策は打てる!

 

「これはこれはご挨拶ですな?見た目通り、頭の足りないお子様のようで」

「もちろん記者さんと比べたらずーっとわたしは子供だよ?常識は記者さんもわたしと大差ないみたいだけど♪」

「アリス、ちょっと子供の教育がなってないんじゃない?」

「知らないわよ。カナの保護者は私じゃないわ」

 

アリスは今回手を出さないでもらう…正確には上海ちゃんだけど。今の上海ちゃんに興味を持たれるととっても大変になっちゃいそうだしね。

そして、リリカも上手く動いてくれた。後は仕上げ…さあ、最速はどうやって取り返しに来るかなあ?

 

「ごめんね、急いでるから取材拒否ってことで!」

「いやいや、初対面で私にここまでのことをやれるなんてたいしたものですよ。俄然カナも記事にしたくなりました!付き合っていただきますよ」

 

葉団扇を構えて戦闘態勢に入ったけど…もう遅いんだよね~。わたしたちの狙いはあなたじゃない。

 

「ところで、そこのカメラ壊していい?」

「―――なっ!?」

 

屋内じゃなくても、自分のモノじゃなくても、騒霊4人掛かりならだいたいのモノは動かせるんだよね~。

 

「何も考えず騒霊にモノと縁を結ばせちゃダメだよ?わたしたち4人を撮ったことのあるカメラなんて、動かしてって言ってるようなものだから」

「……騒霊風情がやってくれるじゃない。それに手を出したら私も甘い対応は出来なくなるわよ」

 

効いてる効いてる。本気になってくれたわ…ここからが交渉の始まり。

 

「だから取引だね~。このカメラを返す代わりに、幻影の裏方のことは金輪際触れないでほしいわ。わたしは彼の関係者なの」

「つまりアンタを追えば引き摺り出せるってことか」

「あはは、どうだろうね~?「それに、幻想郷最速を甘く見過ぎよ」

 

うわ、凄い。気付かれないように動かしたカメラを奪い返されたけど、目で追うだけで精一杯だった。速いなあ。

 

「残念だけど、その状態じゃいつでもわたしたちは壊せるから取り戻しても意味ないよ?」

「アンタたち全員吹き飛ばして解除させればいい話ね」

「本気のあなたならわたしたち全員倒せるのかもしれないけど、リリカには先に逃げてもらったからね~。わたしはともかく、ルナサとメルランになにかしたらリリカが壊しちゃうよ?」

「…チッ、小賢しい」

「悪いわね。私もいい加減いちいち付き合いたくないのよ」

「彼には世話になってるからね~。彼が逃げてる以上、追ってほしくないわ」

 

メルランとリリカも巻き込んだのはこれが理由。わたしとルナサだけじゃ幻想郷最速から逃げ切れないだろうから、保険として一人は別の場所に居てもらう必要があったのよね。こういう時、姉妹の絆って強くてうらやましい。

そして、このタイミングで想定外の追い討ちが入った。

 

「クスクス…これは射命丸様らしくも無いですねえ。でも、私にとっては都合がいい状況です」

「…アンタが私に何の用よ?」

 

あまり見ない作りの白い服を着た狐少女が、妖怪の山の方から現れていたわ。

 

「飯綱丸様からご命令です。その男を嗅ぎ回るのは止めろ、だそうです」

「はあ?どうしてよ」

「扱いを間違えると、魔界と全面戦争になるからだそうですよ。ちなみに情報元は八雲藍です」

「………仕方ないわね。退いてあげるから、カメラ元に戻しなさい」

「リリカにも解除してもらわないといけないから、今日の夜までは待ってね。待てないならリリカを探し当てて話を通して」

「フン、今日は厄日だわ」

「…彼を嗅ぎ回るなという命令が出たのなら、もう一人伝えてほしい天狗がいるわ。

姫海棠はたてという烏天狗の念写で、私と彼が写った写真を撮られてる。彼女も止めてほしい」

 

地味にルナサが爆弾発言。それって、かなりまずくない?

 

「なんですと!?」

「情報提供に感謝しますねー。先に飯綱丸様に報告する時間はもらいますけど」

「ああ、もう!先も越されてたとか、やってられないわね」

 

そして不機嫌そうに射命丸は人里の方に飛び去って行った。なんとかなったみたい。

 

「ありがとう!本気でやり合うのは避けたかったから助かったわ!」

「いえいえ、私は飯綱丸様の命に従っただけなので。失礼しますね」

「あ、ちょっと…」

 

アリスが情報を聞き出そうとしたのか、彼女を呼び止めようとしたけれど。意に介さず狐少女は椛さんに何か囁くと妖怪の山の方へ帰ってしまった。

 

「…こんなに上手くいくなんて。カナ、凄いわね」

「本当!カメラを狙うなんてよく思い付くし、あんなにあっさり成功させるなんて~!」

「う~ん、ちょっとリリカが心配だけど、大成功だからいいのかな?」

「ええ。雷鼓と合流出来ればあの天狗相手でもそう遅れは取らないはず。雷鼓も相当な実力者だから」

 

上手くいきすぎてちょっと怖いけど、今それを心配してもしょうがないかあ。

 

 

 

 

 

『あなたは素直になった方がいいですよぉ。下っ端である以上、介入できる好機は少ないんですからぁ』

 

私などのことを、なぜ飯綱丸様の右腕たる菅牧様が知っているのか。なぜ背中を押してくれるのか。

全くわからない。それも、文様に釘を刺した直後にです。

 

(私は、どうするべき…?)

 

飯綱丸様が嗅ぎ回るなと言ったのであれば、それに従うのが白狼天狗として当たり前。でも…私個人として、先ほどの話は気になる。彼というのは、おそらく―――そうであるのなら、いったい何が起こっているのか…知りたい。

私の心は揺れていたけれど、考える時間は残されていなくて。

 

「…それで、椛?厄神の居場所を教えてくれるかしら」

 

アリスさんに声を掛けられて、我に返る。

 

「……いえ、私が案内します。そうすれば他の天狗たちからの介入が無くなるでしょうから。

 そのかわり、私にも話を聞かせてください。

 雛さんを、ルナサさんが訪ねるということは…彼というのは豹さんのことですよね?」

 

驚愕に染まる侵入者たちの表情を見て、あらためて私の覚悟が決まる。

菅牧様の言う通り、私に好機なんて滅多にない。であれば、聞けるだけ聞いて、私では力不足と感じたら引き下がればいい…元々は聞くことすら叶わない立場なのだから。

 

この好機を逃したら、何も知らないまま終わってしまう…そんな気がしたから。

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