寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第32話 似た者の諦念と下っ端の直情

上手く離脱して人里にとうちゃーく!いやールナ姉から聞いてはいたけどもっと早くカナとは会っときたかったなー。同族ということを差し引いてもあそこまで話が合うなんてね。

 

おまけに思った以上にやり手だし。あの烏天狗をこうもあっさり出し抜くなんて驚きだわ。私たちが助力したとはいえ長く愛用してるであろうカメラを簡単に没収しちゃうなんて、私たち姉妹だけじゃ無理な芸当。豹もあれで相当実力は隠してたっぽいし、そこに憑りついてたってことはなかなかの実力者ってことなんだろうねー。

 

「あら、リリカじゃない。留守番じゃなかったの?」

「いたいた!ちょっと手伝いしてきてさ。悪いんだけどしばらく一緒に居させてもらうね!」

 

雷鼓と合流、これで一安心。流石にあの烏天狗も人里で2対1になる真似はしないだろうしねー。

 

「まあ、別にいいけど…この人も一緒よ?案内引き受けちゃったし」

「気にしないでいいわ!この国の言葉で、旅は道連れって言うんでしょう?お土産話に色々聞かせてもらえると嬉しいわ」

 

…ん?なんだかおかしいこと言ってないこの人。

 

「はじめまして、私はルイズ。幻想郷に旅行しに来たのよ。邪魔はしないから、しばらくよろしくね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

雛さんの佇む川辺に向け、5人という集団で飛びます。私が先導していなければ、同僚達は増援を要請するでしょう戦力です。皆の被害を減らすという意味でも、私が対応したのは運が良かったです。巫女と魔法使いの前例があるせいで先制攻撃を仕掛けることも辞さない血気盛んな者もいるのですが、この方々だと相手が悪すぎます。アリスさんは言うまでもないですし、騒霊の皆様も射命丸様を退かせるほどとは知りませんでした。

 

下手に負傷者が出ると他の皆の負担が増えるのです。私たち白狼天狗は下っ端でしかなく、補充人員など回してもらえません。仲間の中でも千里眼に長けた私が率先して動く理由なのですが…暇を持て余して玄武の沢で大将棋を打っていた頃が懐かしく思えます。山頂の神社を訪れる者が増えた結果、白狼天狗の負担と消耗は無視できなくなりつつあります。どうして侵入者は私たちをわざわざ蹴散らして行こうとするのでしょうか。

 

「今更ですが、雛さんと話すことによる危険性は承知の上ですね?」

「気休め程度の対策はしてきたわ。ただ今日になって人数が増えたから気休めにすらならないかもしれないけれど」

 

どういう集まりなのか想像がつきませんが、アリスさんが中心になっているようです。活動的ではあるのですが、集団行動をする印象が無いので仕切る立場にいるのが不思議に思えます。

…豹さんと、どんな関係なのでしょうか。

 

「…あの川辺です。皆様、降りますよ」

 

 

 

 

 

「…こんな大勢で私に近付かれるなんて、いつ以来かしらね」

 

私たちが降り立つと、川を眺めていた雛さんがこちらに振り向きました。

 

「久しぶりね、雛。少し話を聞かせてもらいたいわ」

「私としては大歓迎だけど、厄が移る覚悟は決めてきたの?」

「一応、対策として厄受け用の人形を用意してきたわ。急に人数が増えたから二人で一体という心許なさだけどね」

 

その言葉で私たちを守るよう、3体の人形が雛さんとの間に浮き上がりました、が…2人で1体というのはどういうことでしょう?私を含めても、アリスさん・ルナサさん・メルランさん・カナさんで5人…ですよね。

 

「流石ね…私と話したのは一回きりなのに、これだけ厄を引き寄せる人形を作れるなんて」

「雛さんが作ってくれた、豹さんの家のひな人形さんのおかげです。豹さん自身も、魔法で効果を再現できないか研究した記録が残っていましたので…ご主人様がそれを参考に、役目を終えた妹たちに術式を施してくれました」

 

………今のは、誰の声でしょう?

 

「あら…?たしか、上海と呼ばれていたわね貴方。でも…今は違うのかしら?」

「いえ、私は上海です。今の私も、そう名乗ることをご主人様が許してくれました」

「あの、とても信じられない光景が見えている気がするのですが」

 

なぜ、この人形はこんな流暢に話しているのでしょう。そして雛さんはなぜそんな簡単に受け入れているのでしょう?

 

「あ、気になるなら後で椛さんにもお話しするから、今は豹のことを優先させてね!」

「ええ、今はこういう子なんだと理解しておいて」

「…私にも教えてよ~。ビックリしたわ…」

 

カナさんとルナサさんは知っていたようだけど、メルランさんは私と同じ反応をしています。私がおかしいわけではないようですが…今は置いておくべきですか。

 

「そういうこと。椛もいるのは豹絡みだから、か。

私も詳しく話を聞きたいわ。だから場所を移しましょう…私の家にある流し雛にも、その術式を使えば話す時間を長くできるかもしれない。移動する間も話は進めさせてもらうけど」

 

 

 

「なるほどね…魔界人。豹の桁外れの魔力はそういうことだったの。

でも、悪いけど私じゃ力になれそうにないわ。豹から私のところに来てくれれば匿うどころか守るために監禁したいぐらいなのだけれど、豹がここに来る可能性は限りなく低い…もし来てくれたとしても一時凌ぎで、すぐに出て行ってしまうでしょうね」

 

雛さんが家の中から魔力と相性の良いひな人形を3体見繕ってくれて、それにアリスさんが魔法をかけたことで雛さんの纏う厄が私たちに届かないようになりました。この人形たちが厄を受け止めきれなくなるまでに、話を終わらせなければなりません。

 

「監禁という言葉が気になるけれど、今は置いておくわ。どうしてそういう答えになるのよ?」

 

なんだかルナサさんの言葉が刺々しい気が…ここに来るまでの話を聞く限り、仕方ないとも思えますが。

でもやはり、私に好機なんてない気がします…とてもかなわない相手が豹さんの周りに多すぎます…

 

「豹と私は天狗たちに睨まれてるのよ。元々この山の住人だった私はともかく、余所者の豹に関しては特に、ね。

そういえば、椛は知らなかったのかしら?その反応、豹から聞いていないの?」

「え、私ですか!?私はそもそも豹さんと話す機会すらなかなか作れなかったので…」

「そう。まあ、天狗の上層部からすればあまり広めたい話ではないものね。仕方ないか」

 

雛さんが一人で納得していますが、どういうことでしょう?豹さんはともかく、雛さんが大天狗様たちから睨まれているなんて私は聞いたことがありません。

 

「その話は聞かせてくれるのかしら~?」

「簡単に言うと、私の話し相手としてこの山に来ていた豹にちょっかいを掛けた管狐を豹が逆に生け捕りにして八雲紫のところに連れ去ったのよ。今の大天狗が地位を継いで間もない時期だったせいで、天狗の中で派閥争いが再燃して大騒ぎになったわ。

結果的に八雲紫と八雲藍が大天狗と協力して後始末を付けたそうだけど、そのとばっちりで豹はなかなか私に会いに来てくれなくなってしまった」

「そんなことが…知りませんでした」

 

私が下っ端ということを痛感させられる話です。そして納得したようにアリスさんが言葉を続けます。

 

「なるほどね。大天狗に因縁がある以上、妖怪の山に近付くこと自体が危険ということ…というかそんな状況に置かれながら豹は毎年一度は雛に会いに来てたの?」

「私が頼み込んだというのが正確ね。さっき豹の研究と言ったけれど、豹の能力については聞いてるのよね?」

「ええ。私の鬱の音の影響を受けないからこそ、豹は私にとって大切な観客よ」

「私もその話は豹から聞いたわ。それで豹自身も自分の能力に対する研究として私に価値があったみたいだから、私との付き合いを切らずにいてくれたのよ。

私は魔法使いじゃないから詳しいことまではわからない。でも豹の能力で【私が溜め込んだ厄】を完全に遮断することは出来ないけれど、他の人妖や神に比べると移る速度が明らかに遅かった。そこから豹が研究することによって逆に厄を集める付与魔法…さっき使った術式を編み出したんじゃないかしら。

豹は私とは違う意味で人付き合いを避けてたけれど、私と同じように寂しがりやだったから。似た者同士として、長い付き合いをさせてもらってた。こんな急にいつか来るとは言われてたお別れが近付くなんて思いもしなかったけど」

 

雛さんはどこか…諦めているような感じがします。厄神の運命として、受け入れているようで。

 

「だから私から言えるのは、豹はここに来ていないということと、この先来てくれたとしてもアリスたちに伝えようとするうちに出て行ってしまうということだけになるわ。椛に千里眼であっさり見つけられてるように、私じゃ豹が頼ってきてくれたとしても天狗たちを敵に回して隠しきることは出来ない…悔しいけどね」

「そう、それだけでも私たちには貴重な情報よ。

ついでだけれど、椛はなぜ豹と面識があるのか教えて頂戴」

「私は…雛さんが言ったように、千里眼で偶然見つけてしまいました。それも雛さんと一緒に居るところを侵入者と判断して向かって行ったのですが…目が合ったと思ったら身動きできなくなってしまって。そのまま捕まったところを雛さんに助けてもらいました。

…助けるから今後豹さんは見逃せという取引に屈した情けない話です…」

「目が合った途端に動けなくなった、ですか?ご主人様、もしかして…」

「―――魔眼かしら。そんなものまで心得てるとはね…」

 

うう、切り札の一つと豹さんが言っていたからわかってないように言ってみましたが、すぐにアリスさんは見抜いてしまっています。つまり、せっかく豹さんに使い方を教わった私の切り札もここにいる皆様には通用しそうにないということです。

 

「もう一つ聞いておきたいのだけれど、エリーという名前に雛と椛は心当たりあるかしら?」

「エリー?そういえば豹がそんな名前を思わず漏らしたことがあった気がするわね…何の話をしてた時だったかしら」

「え!?ちょっとそれは本気で思い出して!多分その人のところに豹が逃げ込んでるの!」

 

私は知らない名前ですが、雛さんには心当たりがあるようです。そしてカナさんが勢いよく食いついています。集まりの中心はアリスさんですけれど、豹さんを必死になって探しているのは騒霊の皆様みたいです。

 

「………悪いわね、本当に思わず口に出たって感じで詳しいことはわからない。でもこう言ってたはず。

『ここ数年だとエリーとくるみに基礎的な修復魔法を教えたぐらいか』

たしか、椛に稽古を付けたって話を聞いた流れで漏らした一言よ」

「くるみ?また知らない名前が出てきたわね」

「…でも、今度は人里にもいそうな名前。もう一度人里に詳しい妹紅や慧音に聞いてみてもいいんじゃないかしら」

「一応私から言っておきますと、白狼天狗の仲間にはくるみという名の者はいないです」

 

私のほかにも豹さんが技術を教えている相手はやっぱりいるんですね…こういう話を聞くと、天狗社会の一員として自由に動けない私に豹さんがなかなか相手をしてくれないのは当たり前です。

 

「修復魔法なんて使いどころが限られるし、それを二人同時に教えてるというのは結構な情報になるんじゃないかしら~?」

「そうだね!少しは豹に近付けたかな」

「役に立ったならいいけど。そろそろ人形が限界みたいね…時間切れだわ」

 

あ、いけない。人形たちがすっかり厄に埋もれて、私たちの方に流れ始めています。

 

「そのようね…大天狗との話はもう少し聞いておきたかったけれど仕方ないわ」

「私は話し相手いつでも歓迎よ?豹と同じで寂しがりやだから」

「豹を見つけたら報告がてらわたしが聞きに来ようか?世間知らずだからいろんな人とお話したいし!」

「あら、期待しちゃうわよ?またいつか厄受けを持って来て話し相手になってちょうだい」

 

 

 

 

 

「収穫はいくつかあったわね。妖怪の山に来る可能性は低いということと」

「くるみという名前ね。エリー共々修復魔法を必要としている相手」

 

雛さんと別れて、アリスさんたちは人里の方角へ向かうようです。私はいつまでも皆様に付いて行くわけにはいきません…ですが。

 

「皆様。私も豹さんにお世話になったことのある身ですので、なにか新しいことがわかれば教えてもらえないでしょうか?

白狼天狗という身の都合で、自由に動くことは出来ませんが…私の千里眼が、役に立つかもしれません。逆に私がなにか情報を得られたなら、皆様にもお伝えしますので」

 

私では力不足でしょうし、好機を生かすことも出来ないでしょうけど。

今日の話だけで引き下がる気には、とてもなれなかった。

 

「いいの?とにかく少しでも情報が欲しいから、わたしたちからお願いしたいぐらいなんだけど!」

「そうよ~、本当に豹の情報が少なすぎるから、仲間はもっと欲しいわ~」

 

それは、ここにいる皆様も同じようで。

飯綱丸様の命に逆らうことなのに、この考えを曲げたくなくて。

 

「はい、よろしくお願いします」

「今更になってしまいましたが、上海です。椛さん、あらためてよろしくお願いします!」

 

皆、私を受け入れてくれて。私も豹さんにまた会いたいと、素直になることにしました。

―――それが誰の囁きだったのかを、よく考えることもせずに。

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