「そういえば豹さん、さっきのお話に出てきて気になったんですけど、夢月さんと私たちまで見てたのも魔眼だったんですか?」
思い出したようにくるみが聞いてきた。そういえば何一つ説明してなかったか。
「ああ、使いこなしてるなんてとても言えないんだが。サリエル様から直々に受け取った預かりもの、俺ごときが使うのは畏れ多い強力な魔眼だ。
ただ、預かりものにすら俺の攻撃魔法制限は影響するようでな。即死の邪視に昇華させることは出来なかった…それを理解したときに俺にはもったいないと一度サリエル様に返そうとしたんだが」
あの時は、サリエル様自身に余裕が無かったのと、俺の左目が潰されていたのを癒す意味があったから預けてくれたのだと思っていた。
「『ここ魔界において神綺に次いで信頼できるのが君達兄妹だ。己が役目を果たすためにも、そのまま持っていなさい』と言われてな…結果的にその信頼を裏切った挙句持ち逃げする形になってしまった。俺なりに研究と鍛錬を続けて切り札として使ってるが、サリエル様に対しての罪悪感は今でもある」
魔法や術具と組み合わせて俺なりに使ってはいるが…魔眼本来の力は相手を身動き取れなくさせるのが精々だ。さっきは奥の手だった魔力付与済みの腕輪に魔眼を同調させてエリー・くるみと夢月の戦闘を視るために使っていた。
「先程の話を聞いた限りだと、サリエルさんは裏切られたなんて思っていないと思いますよ?確かに豹さんは魔界神に反逆したのでしょうけれど、それはサリエルさんとは関係のないことです。豹さんは悪い方向に考え過ぎている気がします」
「何事も最悪を想定しないと、生き延びることは出来ないってのが俺に染み付いた考え方だからな…これは治らないだろう」
サリエル様も神綺様と同じで優しい方だ。俺と直接顔を合わせても、そのまま神綺様に突き出すなんてことはしないだろう。
だが、後がなくなった今の俺ではその優しさに甘えてしまう。それはサリエル様だけでなく神綺様、ひいては魔界全体に影響を及ぼしかねない。会うのであれば…俺の方に覚悟が必要になる。サリエル様とも袂を分かつ覚悟が。
「…こういうとこだけ逃亡者らしいこと言いますねー。私たちはいいですけど、本気でそう思ってるならこれ以上幻想郷の住人たちを頼るのは止めた方がいいですよ?豹さんにとっての最悪が、絶対増えますから」
「そうですね。見捨てられなくなって余計追い詰められる事態になるのが私にすら想像できます。切り捨てるつもりが無いのであれば、もう頼らない方がいいです。豹さんもお相手も両方望まない結果になると思います」
「痛いところを突いてくれるな…まあ、大丈夫だ」
「「いえ絶対大丈夫じゃないです」」
そんな声を揃えないでもいいだろう…
椛と別れて人里に辿り着く。リリカを合流させて雷鼓に事情を話しておいてもらう手筈だったのだけど…二人を見つけるなりアリスが同行していたらしい女性に反応した。
「なっ…!?ルイズがどうしてここにいるのよ!?」
「あ、ホントにアリスの知り合いだったのね。助かったわ!」
白いツーピースに揃えた白い帽子、そして人里の住人には珍しい金髪…それでアリスの知り合いって、もしかして。
「いやーこんなことあるんだねー。魔界から旅行に来て、案内を頼んだのが雷鼓だったんだってさ」
「ルイズです、旅行に来た魔界人ですわ」
「旅行って…魔界と幻想郷の行き来はかなり厳しくなってたじゃない。そんな理由で許可が下りるはずないでしょう」
「神綺様があっさりOKしてくれたわよ?私が好きに行き来してるからって、なんなら一緒に来る気だったみたいだけど、夢子さんから止められちゃった結果の一人旅ですもの」
「あの創世神は…」
アリスが頭を抱えている。でも、今はそれより気になることが…!
「魔界人ってことは、豹のことは…!?」
「あら―…本当に大切な相手だったのね。でもごめんなさい、私の知り合いにはいないのよ。心当たりがないわけではないのですけれど」
「それでもいいわ!手掛かりが少なすぎるから総当たりするしかないのよ。教えてちょうだい!」
私だけでなくカナも身を乗り出す。魔界側の情報なんて、貴重も貴重…!!
「あなたたちの捜してるヒョウと同一人物なのかはわからないですし、私もマイから名前を聞いただけなのですが。ユキのお兄ちゃんの名前がヒョウだったはずですわ」
「え、ユキに兄なんていたの!?」
「あらー、アリスは聞いてないの?――ということは今魔界に居る魔界人で最年長なのがユキってことも知らなかったりする?」
「………ユキが、最年長?夢子じゃなくてっ!?」
………アリスが私たちが知り得ないところの話で驚いてるのだけど。これは情報をまとめるのに時間がかかりそうね。
「―――悪かったわ、置き去りにする形にして。ただちょっと予想外過ぎて…」
「そうですね…私もご主人様ほどではないにしろびっくりしました。ユキさんが最年長には見えないです…」
「あら?上海に何かあったのアリス?」
「後で話すわ…というかこの時間まで人里に居て私を探してたということは、私の家に泊まる気でしょう?その時にね」
「あら、いいの?もっと嫌がられると思ってたのだけど」
「その代わりといってはなんだけどユキをこっちに送るよう母さんに頼んでおいて。私たちの持ってる情報と合わせて同一人物か判断してもらいたいから」
――これは、八雲紫に伝えるべきね。豹の居場所とは別口だけれど、本当に豹の妹だとしたら…行動を読まれる可能性がある。私がメルランとリリカに隠し事が出来ないように。
「それぐらいお安い御用よー!ちなみに2泊してもいい?」
「調子に乗らないで頂戴。そうしたいなら今日中にサラに伝えて戻って来なさい」
「うう、それは時間がもったいないですわ。今日と明日じっくり楽しんで帰りましょうか」
そうなると、私は今日中に一度マヨヒガへ向かう必要があるわね。この話は早めに切り上げて、二胡の方もなるべく急いで終わらせないと。
アリスがしばらくルイズと話し込むなら、今のうちに済ませてしまおうかしら。
「それで雷鼓?姉妹は私たちの相手してくれそう?」
「ああ、思ってたより気にしてなかったわ。そろそろ片付けも終わるころだろうし、行ってみようか」
「いや、遅いから来てあげたわよ。随分と目立つ大所帯じゃない」
「というか呼んどいて動かないでよ雷鼓も。少人数だったら見失ってたわ」
「っと、そんな時間経ってたか。悪い」
声に振り向くと、琵琶と琴の付喪神が足を延ばしてくれていたわ。
「…こうして直接話すのは初めてね。ルナサ・プリズムリバーよ。協力に感謝するわ」
「妹のメルランよ~。あらためてよろしく~!」
「ええ、よろしく…ってちょっと待って。何すればいいのか雷鼓に教えてもらってないのよ。無理なら無理と言うからね?」
琵琶の方…弁々から返事が返ってきた。なるほど、敵視されてるわけじゃない、と。助かるわ。
「危険のあることではないわ。この二胡なのだけれど、弾いてみてもらえる?
今のところ、これだけ人数が居て私しか音が出せないのよ」
「音が出せない?それはどういう…って、これ…」
「随分と新しい二胡なのに…どうして」
…弾くどころか、見ただけで気付くのね。やはり楽器自体に関しては、付喪神にはかなわないか。
「私もルナサに頼まれて試したんだけど、出そうとしていないことしかわからなかったわ。二人はどう?」
「私とリリカに至っては、音が出ないとしか感じなかったし~」
「って、ルナ姉もメル姉も私抜きで始めないでよ!」
リリカが慌ててこちらに合流するけれど、すでに姉妹は二胡に集中している。
「弾くことのできた私は、その二胡に2つの魔力が残っているのを感じたわ。豹と、おそらく冴月麟…
あなた達は、なにか感じるかしら?」
「うん…試さなくてもわかるわ。この二胡、私じゃ弾けないわ。姉さんも多分弾けないよね?」
「無理ね。音を出すことを嫌がってるわ…逆に、ちょっと弾いてもらえる?」
「わかった」
~~~♪
何も考えず弾いたけど、まだそれなりに人通りのある時間。それに昨日豹の隠れ家にいた皆が影響なしだったから油断してた。足を止めて聞いてくれた通行人たちが順調に沈んでる…
「……ごめん、周りに被害が出てるから、ここまででいい?」
「へ?被害――って…」
「うわぁ…同じ弾き手として嫉妬しそうなぐらいの演奏なのに、こんなことになるの?」
「あー…ルナ姉、私がなんとかしておくね~。二胡は任せるわ」
「あ、私もメル姉がやり過ぎないように見とくね」
「…お願い」
「いや、話には聞いてたけどここまでなの…これは豹に惹かれるのも無理ないわ」
でも、ここに集まった人外に影響は出ていないのよね。いつの間にかアリスとルイズにカナ、上海も聞いていたけれど、雷鼓・弁々・八橋も大丈夫そう……これも、なにか関係があるのかしら。
「とりあえず私にわかったことは、これはただの楽器じゃない。呪具…それも製作者本人が意図的に呪いが作用することを前提に作り上げてる。どうしてルナサともう一人が選ばれたのかはわからない」
「…私ともう一人?二人じゃなくて?」
「魔力を私は三つ感じた。一つはルナサで、一つは製作者。もう一つがルナサじゃない方の弾き手でしょ?」
「あっ!」
そうだ、最初から術具…いや呪具として作られたのであれば、製作者の魔力が残っていて当然。つまり、私と豹が弾き手である以上、製作者は…!
「冴月麟は、この二胡の持ち主ではなく、製作者ということね…。ありがとう、弁々。完全に見落としてたわ」
「いや、大したこと出来てないけど…そうね、それならいつか私たちも加えて演奏させてよ。さっき軽く二胡を弾いただけでも、一緒にやりたいと思ったからさ!」
「あ、それは私も頼みたい!」
「喜んで。メルランもリリカも断るはずないわ」
「そういえばルイズ、エリーの方には心当たり無かったわけ?」
「そうね、ピンとこなかったわ」
通行人をメルランが強引に躁状態にして帰らせて、集まった面々で最後の確認。これを忘れずに行ったアリスは流石ね…情報があった。
「え、エリー?探してるやつかどうかは知らないけど、一昨日そう名乗ってた女性は見かけたわよ?」
八橋が、情報を持っていた。
「えっ本当!?何処で見たの?」
「サボって人里に降りてくる死神がいるでしょ?大鎌持ち歩いてるから目立つ赤髪のあいつ。一昨日あの死神が赤い服に白い帽子被った金髪の女性と道のど真ん中で話しててさ。気になって聞き耳立ててたんだけど、小野塚小町とエリーってお互い自己紹介して、そのまま連れ立って歩いて行ったわ」
「ああ、八橋が変なとこで立ち止まったと思ってたけど、そういうことだったの」
「助かったわ!本当にありがとう!完全に手詰まりになるところだったのよ!」
「ちょ、ちょっと痛い痛い!手加減してって、なんでこんな小さい子がこんな力あるの!?」
カナが八橋の両手を握ってブンブンと振っている。その気持ちが私にも痛いほどわかる。
ここまですべて空振りだったその名前が出てきたのだから…!
「次の目的地は決まりね、三途の川。でも流石に今から行くのは時間的に厳しいか…
少し早いけど、今日は解散にしましょう。変な時間に行って説教臭い閻魔に捕まると目も当てられないわ」
これは私にとっても幸運。ソロで弾いてくるという口実で今日中に八雲と接触を図る時間ができる。
「私もそれがいいと思うわ。明日は閻魔対策も考えて、午前中に豹の隠れ家でいいのかしら?」
「そうしましょう。私もルイズの相手しなきゃならないしね…」
「ごめんねアリス―。それじゃ、雷鼓、リリカ。今日は案内ありがとうね!」
「気にしないでいいわ、私も魔界のこと色々聞けたしね。もしまた旅行に来るようなら今度は飲みましょう」
「はーい、喜んで―♡」
「それでは皆様、また明日お願いします」
アリスはルイズと上海を連れて魔法の森の方へ帰路に就く。
「で、弁々と八橋は打ち上げするの?するなら付き合うわよ!」
「雷鼓が飲みたいだけでしょそれ。まあいいけど」
「あ、わたしも付き合うよ!隠れ家に一人は寂しいから、ギリギリまで!」
「…カナ、止めはしないけど明日ちゃんと活動できる程度に抑えてよ?」
「だいじょうぶ!もともとあまり強くない自覚あるから!」
「それむしろ不安になるじゃん」
「雷鼓~、ちゃんと見定めてよ?」
「大丈夫よ。姉さんと私が責任もって見ておくわ」
「…お願い。それと、今日は本当にありがとう、助かったわ」
雷鼓達は一飲みするようね。これも私にとって好都合。
「…それじゃ、私は少し考えたいことがあるから二胡を置きに帰るけど。メルランとリリカは雷鼓に付き合う?」
「私は遠慮するわ~。さっき半端に演奏したから酔うと悪ノリしちゃいそうだし」
「え、姉さんたち付き合い悪いな~。私は行くからね」
「いいけど、それならカナをお願いするわ。無理させないようにして」
「はいよー、じゃあ行ってきまーす」
リリカは雷鼓達を追っていった。
「それじゃ、メルラン。帰りましょうか」
「は~い」
メルランと並んで私も人里を後にする。
しばらく飛んでいると、メルランがポツリと言葉を漏らした。
「姉さん……明日も、私はお留守番?」
………やっぱり、感付かれてるわね。でも、豹のことを意識しているメルランだからこそ。
「いえ、むしろ人里に居てくれた方が助かるかもしれない。入れ違いであの死神がサボりに行くかもしれないから」
しばらく私とは、距離を取っていてほしい。
「……そっかあ。どうせ明日はリリカは動く気無くすでしょうし~、丁度いいわね!」
「…ごめん。メルランも動きたいわよね」
「いいのよ~。その代わり、豹をちゃんと連れ帰ってね」
…ああ。妹に隠し事をするのが、ここまで堪えるなんてね………
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