25・27・32話の誤変換を修正してます。
「おじゃましまーす」
お留守番を任せられていた妹たちがルイズさんをお迎えします。私もお手伝いしようとしましたが、すでにご主人様が指示を出していたらしくもう部屋の準備まで済んでいました。やっぱりご主人様は凄いです。
「とりあえず、今夜はその部屋使いなさい。そのかわり知ってることは話してもらうわよ」
「いいけど…私じゃ知らないことの方が多いのは理解してよ?」
椅子に腰掛けながらご主人様が対面に座るよう促し、ルイズさんもそのまま腰を落ち着けます。私はご主人様の傍らに控えることにします。
「それじゃ…上海から説明しなさい」
「あ、わかりました。それではあらためて…ルイズさん、上海です。隠れ家さんの記憶を頂いた際に、このように喋れるようになりました。今は豹さんに会うため、皆様に協力していただいています」
「記憶を頂いた?乗っ取られたわけじゃなくて?」
「はい。ご主人様の人形としての意識を残したまま、私のものではない記憶と魔力が宿りました。もし私が乗っ取られるとすれば…豹さんと会えたその時でしょう」
その時は、大人しく私は意識を手放すつもりです。逢瀬が終われば、隠れ家さんは私にボディを返してくれる。それは信じられるのです…なぜ?と聞かれると困ってしまうのですが。
「上海が凄いのか、隠れ家が凄いのか…こんなことも起こるのね。そして、その隠れ家の家主がヒョウということかしら?」
「ええ、素人建築を強化魔法で固定するというとんでもない家。只者じゃないと理解はしていたけれど…ユキの兄なんて言われたら、あり得そうと思えるわね」
ユキさんは魔界でも有数の黒の魔法使いです。そんなユキさんのお兄さんであるというのであれば、豹さんがあれだけの魔法使いであることに説得力があります。
「頂いた記憶と、ほんの少しですが私を相手にしてくれた時間を振り返って―――私も、もう一度豹さんに会いたいと思ったんです。ですが、あまりにも情報が少なくて…ルイズさんが知る豹さんのことでも貴重な情報なんです。どうか教えていただけないでしょうか」
「それは別にいいんだけど、本当に名前しか知らないのよね…マイから聞き出したというより、思わず口に出したのが印象に残ってたって感じですもの。私が聞き直してもそれ以上のことは教えてくれなかったわ」
「つまり、名前以外はマイは隠したということ?」
「そういうことなのよー。アリスも驚いてたわよね、ユキが最年長には見えないって。私も同じでマイの前で口に出しちゃったの。そしたら、
『――ヒョウの妹としての意識が強すぎるから』
ってポツリと口に出して…その後は無口モードに入って何も教えてくれなかったのよ」
私がユキさんと接することがあったのは、ご主人様が私に自立意思を持たせてくれてから幻想郷に移住するまでの短い間でしたが…その言葉はとてもしっくりきました。
年長に見えないというより、妹っぽい。人形である私がそう評価するのもおかしな話ですが、ユキさんは妹と言われると物凄く納得できます。
「妹として、か。たしかに今はユキが最年長でも、兄と呼べる存在がいたのであればあの性格も納得できる。
そして、生粋の魔界人であるユキが兄と呼ぶ存在なら…話を整合すればすぐに兄本人か別人かの判断は出来るでしょうね」
魔界人という種族は神綺様が創造した存在のほかに、創造された魔界人が子をなして産まれた存在も魔界人と呼称されています。そのため兄弟姉妹のいる魔界人は決して少なくは無いのですが、ユキさんは今ご主人様が話した通り【神綺様が創造した生粋の魔界人】です。全ての魔界人を息子・娘として見ている神綺様が、当事者本人がはっきり《兄妹》として認識するように創造したという方は、少なくとも私は知りません。
「だから、私からも聞きたいことが一つあるの。アリスたちが探しているヒョウっていう魔界人は、いつからここ…幻想郷にいるのかしら?」
それは、今の私が知っています。
「とても、とても遠い昔からのようです。カナさんと私で記憶の残滓を辿ってみた限り、間違いなく千年は優に越しています」
「そんなに!?それは本当に当たりになりそう…少なくとも、私が知る限りはずっとユキはマイと行動を共にしてたのですもの。幻想郷に来たのがここ最近の話であれば別人の可能性もあったけど…」
「ああ、そういう判断基準があったか。ここ三日は私はまだまだ小娘に過ぎないということを思い知らされてばかりね」
ご主人様が言葉を溢しましたが、私はご主人様以上に…小娘どころか赤子同然です。それなのに、隠れ家さんの記憶だけは遥かな過去のことまで識っている―――私なりに歪な記憶を整理したつもりではありますが、ご主人様よりこういった判断基準を持っているかというと…情報が足りなさすぎるのです。だからこそ、ご主人様の言う通りユキさんにここへ来てもらうというのは間違いなく最善手です。
―――間違いなく、最善手なのですが…
「ですが、豹さんは魔界から追われているようなのです。隠れ家さんを置き去りにしてしまって、隠れ家さんは追いかけるために私に宿りました。
…ルイズさんは、魔界から追われているということになにか心当たりはないでしょうか?」
「魔界から追われてる魔界人?うーん…私は聞いたことないかなあ。そういった極秘事項を教えてもらえる立場じゃないからねー」
「その割に母さんに直接話に来るのよねルイズ。隠し事があるのはあなたの方じゃないの?」
「うふふ、否定はしないけれど…実は私が神綺様と今ぐらい距離が近くなったのはかなり最近のことなのよ。白の魔法使いの端くれとして、マイとはそれなりに長い付き合いなんだけど。だからここ最近はともかく、百年単位で昔の話となると魔界中枢の重要機密はさっぱりですわ」
「え、そうなの?…ということはもしかして、ルイズは私にとっての姉妹の中では下の方!?」
「やっぱりそのあたりは聞いてなかったのね。六姉妹で言うと私は五女になるわ」
「ええ……てっきり次女だと思ってたわ。この際だから本当の順番教えなさい」
私にとっても驚きです…ご主人様の言う六姉妹とは、物心つく前に魔界に放置されたご主人様を《魔界人の魔法使い》として家族のように育てていただいた皆様のことです。神綺様を母親として、メイドの夢子さん、ルイズさん、魔界と幻想郷を隔てる扉の門番であるサラさん、ユキさん、マイさん。
ここにご主人様が加わって六姉妹です。ちなみに私はこの順番だと思っていました。
そして、ルイズさんによるとユキさん→夢子さん→サラさん→マイさん→ルイズさんが正確な順番だそうです。
「まあ、ユキとルイズ以外は印象通りではあったわ…聞いてみるとやっぱりユキの長女が意外過ぎる。夢子が皆からさん付けされてるのも大きいのでしょうけど」
「逆に夢子さんを呼び捨てに出来るアリスに私はびっくりしたんだけどねー。ユキと同じようにさん付けしないでって言われたのかしら?」
「その通りよ。小さい頃はさん付けしてたのだけどね…七色の魔法を扱えるようになったときに、一人前になったのだからさん付けは無くしてと頼まれたわ」
「なるほどね。夢子さんも機会を狙ってたの」
ですが、これ以上の豹さんに関する情報はルイズさんは持っていないようです。
―――豹さんが本当に追われている場合、ユキさんが捕らえてしまう可能性があるということ。そうなってしまうと、隠れ家さんとカナさんは全力で取り返しに来てしまいます。私にとって、とても辛いことになってしまうのです。
ですが、ご主人様はそんな私の不安を見抜いていたようで。
「上海、安心しなさい。たとえどんな理由があっても、ユキも母さんも問答無用で魔界に連れ帰るようなことはしないわ。それは私が保証する…というかそうしようとするならカナと共闘するわよ。上海が思っている以上に、私は豹という男を好意的に見ているわ。直接会話するどころか顔を合わせたことすらない相手だけれど、周囲の話を聞く限り悪人とは思えないし。
なによりカナだけじゃなく何人か…少なくともルナサと雛は全力で止めに来る。この二人が手段を選ばなくなったら大惨事になるわよ?そもそもまともに戦わせてもらえなくなる」
「え、アリスがそう言い切るってどんな相手なのその二人…」
言われてみると、ルナサさんと雛さんの共闘は敵に回したくないですね…精神的に沈み切ったところに厄による防ぎようのない不運に襲われる。戦意を保つことすら難しい状況になります。
「まあ、その状況になるより先に豹の行方がわかるかもしれないしね。小町がどれだけ話を聞いてるかはわからないけれど…明日捕まえることが出来ればすんなり会えるかもしれないわ」
「…そうですね。悪い方向ばかりに考えてもいけない、ですね」
「本当に、上海は凄いことになってるのね…
アリスも上海も、あまり油断はしないようにね?今の上海は研究対象として極上になってるわ。質の悪い相手に狙われないように十分気を付けなさいよ?」
「ええ、わかってる。私だってそう思ってしまうぐらいなのだから」
「ルイズさん…私なんかのために、ありがとうございます!」
「いいのよ!そうね、私にとって上海は姪になるのかしら?旅行のお土産話としてもっと話をきかせてちょうだい」
そうです。ご主人様の家族である皆様ならきっと…豹さんとも、上手くやっていけるはずです。
今は、そう信じることにします。
はじめて誤字報告をしていただけました!…が、どうやって返せばいいのかわからないのでここで…(隠しきれない投稿初心者臭)
2話でご指摘いただきましたが、あの平原は「一瞬の戦場」だったんです。豹にとっても、アリスにとっても、上海にとっても。なのであのままでいいんです。
わかりづらい表現ですよね…ですが指摘していただけるほど読み込んで頂けているのは感謝しきりです。
作者本人でも誤字修正はしていくつもりですが、今後も出てくると思います。気を悪くするなんてことはありませんので、気になる読者様がいらっしゃいましたら容赦なく指摘して大丈夫です。むしろ励みになります。
今回投稿が遅れましたが、次は予定通り木曜になります。