寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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上海並に独自設定の塊な原作キャラ登場。


第37話 怒りの矛先

雨雲が太陽を隠すのは久しぶりね。もう秋も終わり…この雲が冬を運んでくるのでしょう。

 

「傘がいるわね。昨日のうちに上海の傘を作っておくべきだったかしら」

 

まだ降り始めてはいないけれど、間違いなく雨は降る。人形を傷めないために傘は複数置いてあるけれど、今後は上海に単独行動させることが多くなる。それであれば上海用に新しく一本用意した方がいいでしょう。

―――豹の影響であれだけのことが出来るようになるなんて思いもしなかったから、上海用の道具は足りないのよね。そういう意味でもカナが隠れ家の家族たちを上海に使わせてくれてるのは助かってる。

 

「おはようございます、ご主人様。ルイズさんを起こしてしまって大丈夫でしょうか?」

「まだ寝てたの…遠慮なく叩き起こしていいわ。今日は時間との勝負になるから、私たちの都合を優先させるわよ」

「わかりました、起きてもらいますね」

 

相変わらず妙な方向に肝が据わってるわねルイズは。昨日の時点で私たち今日は早いと伝えておいてもお構いなし。どう起こされても文句は言わせないわよ…上海に記憶が宿ってからまだ4日。上海が試したいことなんていくらでもあるというのにね。

 

「きゃー!?」

 

…上海も意外と容赦ないわね。誰の影響かしら。

 

 

 

 

 

「起こしてくれてありがとねー。せっかくの旅行、寝すぎるのはもったいないもの!」

「今の今までグースカ寝てたあんたが言うセリフじゃないわよ」

「申し訳ないですが、急いでくださいね?ご主人様も私もすでに準備は整ってますので…」

「うう、上海が思ったより冷たいですわ」

 

急かすように上海がルイズの荷物をまとめていく。というかゴリアテも手伝ってるのは驚きね…豹の魔力を通した影響がここまで大きいとなると、他の人形も手の空いた時に確認した方が良さそうね。上海の後継として扱う蓬莱はともかく、戦闘以外の雑用も兼務させてる人形の自立意識が強くなりすぎるのはちょっと面倒。ゴリアテのように戦闘専用なら自己判断力の向上は問題ないのだけれどね。

 

「ええと、これで全部でしょうか?ご確認お願いしますルイズさん」

「うん、だいじょうぶ!三途の川だったっけ目的地は?」

「って、ルイズも付いてくる気なの?」

「え?ユキに事情説明しろってことでしょう?もともと観光目的の旅行ですもの、三途の川なんて見たことないし付き合うわ」

 

…まあいいか。あの閻魔が出てきたら相手しておいて貰えばいいわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

藍を見送ってからエリーとくるみの元へ戻る。…あのジト目は止めてくれていて一安心。

 

「すまない、奴のことはわからなかった…だが、少なくとも現状だと味方ではないというのは確定だ。八雲ではなく、夢幻姉妹でもないのであれば今は敵と判断しなきゃならない」

「まあ、そうでしょうねー。でもなんかいなくなったって言ってました?」

「ああ、藍がスキマから出てきた直後に消えた…逆に言うと、藍を敵に回すのは得策じゃないと判断できるだけの頭があるということだ。厄介な相手だということは間違いない」

「警戒を解くわけにはいかないのですね。私たちはどうするべきでしょうか」

 

手の打ちようがないことに変わりないが、俺たちだけで進展があるとは思えない。であれば、情報を集めるべき。幸いなことに、まだ魔界へ向かっていないようだしな。

 

「夢幻世界にお邪魔させてもらうか…少しでも情報が欲しい」

「あ、でしたら私がお呼びしてきます。豹さんはゆっくりしていてください」

 

エリーが俺を制して立ち上がる。

 

「いや、あまり甘えるわけにもいかないだろう。今は監視が途絶えてるし、俺が…」

「豹さん、さっき言ったこと、もう忘れてますね?無理しないで休んでてください」

 

……エリーも心配性だな。本当に死神らしくない。

 

「マジになったエリーを知らないから豹さんはそう思えるだけですよ」

「くるみ、どういう意味かしら!?」

「俺の内心はそんなに読みやすいのか…?」

「いやー…魔界で大暴れしたことは忘れられないからね?私と一緒に止めてくれたギャングさん泣きそうになってたじゃん」

「あ、あれはしかたないじゃない!叩きのめしたのはくるみも同じでしょう!?」

「いや無関係な人は巻き込まないように私は加減したし」

 

…まあ、種族問わず温厚な者ほどキレたら怖いってことだな。神綺様がまさにそのタイプだ。

 

「話を戻すぞ。無理に入らないさこのぐらい…幻月と夢月相手に戦わなきゃならないなら俺も避けるが、エリーとくるみのおかげで友好的になってくれたからな。それに万が一狙われてるのがエリーだった場合のリスクが怖い」

「豹さん、昨日私が言ったことも忘れてません?割り切らないと繰り返しますよって。私とエリーすら駒として使い捨てられないんじゃ、この先どうあっても豹さんが自滅するとしか思えませんけどー?」

「そうですよ。豹さんは自分を大切にするということをまず知るべきです」

 

…ぐうの音も出ねえ。ユキと夢子に口を揃えて言われたことをエリーにまで言われるとは。

 

「…だとしてもだ。空間魔法に長けた俺が状況説明するのが一番正確だろ?せめて同行させてくれ」

「もう…しかたないですね。くるみはどうする?」

「一人で留守番も味気ないし、付き合うわ。孤立させたくないでしょう豹さんも」

「夢幻館がガラ空きになるが、それはいいのか?」

 

まあ滅多に来客なんてないだろう立地だが、俺のように逃げ隠れしなきゃならない者にとっては理想的。侵入される可能性はゼロじゃない。

 

「逆に聞きますけれど、今の夢幻館に侵入されて困ることがあると思いますか?私たちの流れ弾ぐらいじゃ大した損傷にならないぐらい豹さんが強化してくれたのに?」

「いやそういう心配じゃなくてだな」

「豹さん、初めてここに来た時の目的はどんな結果になったか覚えてますか?」

「…その心配は要らなかったな、そういえば」

 

なら問題ないか。皆で夢幻世界に向かおう。

 

「それじゃ、先導を頼む」

 

 

 

ここに選択の余地はなかった。情報が足りなさ過ぎたから。

ここでの邂逅を避けるためには…あの時カナを信じて、先を急ぐことが必要だったのだ。

 

 

 

「それじゃ、行きましょう。こちらです」

「それほどの距離じゃないですけど、好戦的な雑魚はいるから油断はしないでくださいねー」

「ああ、言われな――」

 

夢幻館の裏手から通じる、夢幻世界への入口となる空間点をくぐったとき…すでに俺は罠に飛び込んでいたのだ。

 

「え…?豹さん!?」

「ちょ…ちょっとどういうこと!?豹さん!?どこ行っちゃったんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――やられた!俺としたことがこんなあっさり異空間に閉ざされるとは!

 

「即座に脱出経路を繋ごうとしたのは流石だけど、ここに飛び込んだ以上逃がさないわ」

 

夢幻世界と幻想郷を繋ぐゲート…それをくぐる瞬間消えたと思い込んでいた魔眼が2対の4つに増えてまた現れた。それを外周に異空間の入口を創られて減速できずに入ってしまい、脱出を図ろうとしたのだが。

 

「ここはアタシの創った異空間。夢幻姉妹ほどだだっ広い世界なんて作れないけど、獲物を招き入れて斃すにはむしろ狭い方が都合がいい」

 

空間自体を狭くすることで、主以外が外界へ干渉するために破らなければならない【異界との壁】が厚く、俺の空間魔法が外界と繋がる前に止められてしまっている…!

 

「…何者だ?昨日から俺を視続けてたが」

「そんなに早くバレてたとはね。サリエル様が直々に魔眼を下賜しただけはある…だからこそ許せないけど」

 

声はするが…目の前の少女は幻影でしかない。おそらくは、声を出すために創られた出来のいい幻影。

 

「アタシは幽玄魔眼。サリエル様の使い魔とでも思えばいい」

「なるほど…つまり俺の自己紹介はいらないわけだ」

 

魔眼。昨日から常に俺を視ていた奴の正体―――いや、最初から正体は見せていたのか。

幻影を映し出すように、二対と一つ…五つの魔眼が俺を睨む。

 

「忌々しいぐらい使いこなしてるわね…!即死の邪視に昇華できなかったクセに、その無効は難なくこなすとか―――本当に気に入らない」

 

この狭い空間に浮かぶ【邪】の漢字。耐性が無ければ、その一瞥で死に追い込める魔眼が、五つ。

 

「まあ、気に入られる要素が皆無なのは事実だが。俺を案内してくれてた二人はどうした?」

 

返答次第ではどんな手を使ってでもコイツは滅ぼす。

 

「そのまま夢幻世界よ。アンタ以外に用は無い、ヒョウ」

「なら用件を聞こうか。さっさと合流したいからな」

 

無事ならいい。ひとまずは信じるしかない。

逃げられない以上、俺が無事に済むかがわからねえがな…!

 

「その魔眼はアンタが持つ資格は無い。返してもらおうか」

「なぜお前に返さなきゃならない?これはサリエル様に返すべきものだ」

「そうだな。アタシもそうさせてもいいと今朝までは思ってたよ。

 ついさっき、裏切り者と知るまではな!!」

 

ついさっき…?藍との接触のことだろうが、それが理由で裏切り者と判断した?

どういうことだ…?魔界での反逆で裏切ったとは見ていないのか?

 

「あの巫山戯た陰陽玉の巫女。あの九尾はアイツの関係者だ…視ればアタシにはわかる。よりによって遊び半分でサリエル様を痛めつけたあの巫女に組するだと!サリエル様をどれだけ傷付ける気だテメエは!!」

 

――冗談じゃねえ!?あの巫女、コンガラ様だけじゃなくサリエル様にも陰陽玉で殴り込んでたのかよ!?こんな形でとばっちり喰らうのは想定外だ!!

 

「サリエル様が何度か話してくれたんだよ。窮地を救ってくれた、三対の魔眼の一つを預けた魔界人。サリエル様の翼と同じ数、六つの強力な魔眼の一つを、何を教えることもなく誰よりも使いこなした男。

永く再会を祈っている、魔界人のヒョウ」

 

自分に向けられる好意を軽く見過ぎだ――藍の言葉が今更刺さる。

 

「助けておいて、裏切るだと…!?サリエル様をなんだと思ってやがる!

 アタシは傷つくサリエル様を視たくない。だから、テメエはここで消す」

「巫女に関しては誤解だよ…!俺が関わってるのは八雲。博麗の巫女じゃねえ!」

「同じだ!サリエル様は優しいからそれで納得するかもしれねえけど、アタシは許さねえ!

預かり主を失った六つの魔眼を、悪用されないために創られたのがアタシだ。最後の一つ…今ここで回収する!そしてお前は消え失せろ!!」

 

逃げ場は無し、交渉も無駄、そして俺に殺意しか持ってない。

どう切り抜ける!?こんなところでくたばるわけにはいかねえ…!

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