寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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誤字報告により濁点ミスと、マヨ〔イ〕ガを覚えていた限り修正してます。
…完全にやらかしてましたねこれは。指摘入るまで全く気付かなかった…誤字報告ありがとうございます。


第39話 雨が降りそうで

隠れ家へ向けて飛んでいく途中で、先に行こうとしていたルナサに追いついたわ。

 

「おはよう、ルナサ。早いわね」

「…リリカが案の定二日酔い気味でね。相手するのも疲れるから、早めに出てきたのよ」

「…カナさんは大丈夫なのでしょうか」

 

ルナサも傘を手にしていた。楽器も雨ざらしにするわけにはいかないものね。

 

「ルイズも来たの。三途の川なんて、旅行で行くような場所じゃないと思うけどいいのかしら」

「いいのよー、魔界には存在しない場所ですもの。初めて訪れる場所はそれだけで価値があるのよ!旅行ってそういうものだから」

「…そう。なら私は構わないけど」

「もう一人の妹さんは介抱かしら?」

「ええ…落ち着いたら人里に出てもらうようお願いはしたけど。入れ違いになると困るから」

 

ルナサとルイズでやり取りしてるうちに、隠れ家の方からカナが飛んできた。

 

「あ、ルイズさんも一緒だったからか!一人多いわけね」

「おはようカナ。自分から来てくれるのは初めてね」

「昨日上海ちゃんがあっさり魔法使えるのを見て、今朝わたしも試してみたのよ。空間魔法みたいな高度なのはダメだったけど…探知魔法はわたしもなんとかできたわ!今日からは迎えに来なくても、先にアリスとルナサが合流してくれればわたしも探知して向かえそう!」

「あ、カナさんもある程度は出来たんですね!やっぱり豹さんは凄いです」

 

昨日雛に会いに行く前に上海がお願いしてきたこと―――隠れ家の記憶に残る魔法を一人でも再現できるか。少し時間を取って試させてみたら、完全再現とはならなかったけれど実戦で使える程度には使えていた。

それを見たカナも自発的に試して使えるようになった、か。記憶だけでなく研究資料のわかりやすさもあって、簡易術式を自力で再現できたのね。カナの才能も豹の資料も流石というべきかしら。

 

「ところで…カナ、傘は?今日は間違いなく降ると思うわよ」

「あっ」

 

…結局、隠れ家に戻って豹の傘を持ち出すことになったわ。まあ、豹が使っていただけあって私たちなら二人入れるぐらい大きい傘だから、蓬莱たちを入れるのに助かりそう。立ち寄った意味はあったと思いましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて…詳しい話を聞かせてくれ」

 

幽玄魔眼を退けると、あっさり夢幻館と繋がった。それもそのはずで、藍が俺の空間魔法を繋げてくれたのだ。そもそもあの異空間に当たりを付けたのも藍で、夢幻姉妹はその誘導に従い【異界との壁】を壊して入り込んでくれたそうだ。なので俺からも聞きたいことが出来てしまった。

 

「簡潔に言うと、サリエル様の使い魔を名乗る奴に捕まって、幻月と夢月のおかげで撃退した…だな。それで…藍が関わっても大丈夫なのか?」

「あくまで私は紫様の式だからな。私の独断で八雲とは無関係と押し通すさ」

「あまり良くは無いのか」

 

今回は完全に俺の油断だった。被害は俺の被弾だけで済んだとはいえ…俺の居場所が魔界に知られたのは致命的だ。

 

「それで、サリエルの使い魔ってどういうことですか?神綺はともかく、サリエルがヒョウを始末するなんて有り得ないと思います。どうして襲われることに?」

 

運命の再会を期待している幻月が納得がいかないとばかりに話を向けてくる。すでに藍を敵視する気は無いようで一安心、か。

 

「俺も聞かされて初めて知ったが、例の巫女がサリエル様に殴り込んだことがあったらしくてな…藍が博麗の巫女と縁のある相手と理解したことで俺を裏切り者と認定したようだ」

「なんだと…靈夢はそこまで魔界で暴れ回ったのか」

「いや、あの時より前の話らしい。陰陽玉の巫女と言っていたから、代替わりして最初に暴れた時の話だろう。まさかあの時地獄だけじゃなく魔界にまで入り込んでたとは思いもしなかった」

「…私も情報把握が甘かったか。靈夢として活動していた時期のことはそれほど重要視していなかった。今の幻想郷を維持するには必要ない情報が多くなっているからな…」

「二人で納得されても困るわ。私たちにもわかるよう話しなさいよ」

「ああ、順を追って説明する…藍、付け加えるべきことがあれば頼む」

「任せろ」

 

さて…俺の説明で通じるだろうか。

 

「俺が魔界から追われた理由は昨日話した通りだ。どうもサリエル様は俺の反逆自体を裏切りとは見ていないようだ。ゆえに今朝までは監視だけしていたようだが、藍と接触したことで巫女と通じた裏切り者とあの使い魔は判断したようだ」

「待て。反逆に関して話したのか?私どころか紫様にすら伏せていたのに?」

 

――しまった、藍からすれば先にそこが気になるのは当たり前だ。先に藍に説明がいるか…?

 

「藍さん、今はあの魔眼のことを聞かせてもらいましょう。後で私とくるみが教えていただいたことをお話ししますので…豹さんも、話して構わないですね?」

「…そうだな、優先すべきはたしかにそちらだ。話の腰を折って悪かった」

「すまないな、二人とも。それであの魔眼――幽玄魔眼と名乗っていたが、サリエル様が直々に与えた魔眼を回収しているらしい。俺が最後の一つになるようだな」

 

余程俺が気に入らなかったらしいからな。感情のままに喋り続けてくれたおかげでそれなりの情報は聞けている。

 

「助けられた相手に裏切られてサリエル様が傷つくのが許せない。だからここで魔眼を回収し俺を消す…というのが奴の目的だった。ある意味、サリエル様自身が俺を切り捨ててくれていた方が対処はしやすい状況だったな…」

「えーっと…つまり使い魔が独断で豹さんを倒そうとしたってことですか?とんでもない使い魔もいるんですね…」

「力ある存在ほど、式や使い魔に自由意志を持たせるものだ。絶対服従の存在など奴隷と変わらん。奴隷に重要な物事を任せる者などいないだろう?」

「う、そうですね。一昨日から私の無力を思い知らされっぱなしだなあ…」

 

くるみも決して弱者なんかじゃないんだけどな。使役する側に回ったことが無いのだけなのだろう。

 

「俺からも聞かせてくれ。どういういきさつで藍が合流してくれたんだ?」

「逆だ。先に私が異常な空間の歪みを察知し、引き返してくるみに状況を聞いてな。豹の位置は予測できても【異界との壁】に手古摺った。そこにエリーが幻月と夢月を連れてきてくれた形だ。時間で修復されることを理解した上で強引に破壊して合流するという夢月の判断は正解だった…豹からも繋ごうとしてくれたら私も問題なく道を作れたからな」

「私と夢月だけだと逆にヒョウの位置を絞り切れなかったでしょうね。悪魔ですから壊すことは得意ですけど、異空間に飛ばされたヒョウを探し当てるなんてできる気がしないです。そういう意味では藍が協力してくれて助かりました」

「八雲の姓を名乗れるだけのことはある…夢幻世界の入口を塞がずにいる理由がわかった。いつでも閉じることが出来るからだったわけね」

 

―――なるほどな。藍からしても紫さんを介入させるのは避けたい状況だからこそ、夢幻姉妹と問題なく協調出来たということか。

 

「あらためて礼を言わないとな…ありがとな、藍、幻月、夢月。俺一人じゃどうにもならなかった」

「どういたしまして、だ。それよりもこれからどうする気だ?」

「そうですね…サリエルとの密会は難しくなりますよね…」

 

心底残念そうに幻月が漏らす。そうなんだよな…かなり厄介な状況になってしまった。

 

「あの様子じゃサリエル様が止めようと俺を狙ってくるだろうしな…魔界に俺の居場所が知られた以上、ここもしばらく離れなきゃならなくなった」

「…そうなります、よね。私としてはここにいてほしいのですけれど…」

「幽玄魔眼があれだけ空間魔法を使いこなしていた以上、すでにここは安全地帯と言えない…少なくとも、奴を倒すか懐柔するまでは戻れないな」

 

あの様子だとエリスも巻き込んでくるだろう。元々サリエル様と親しかった俺をあまりよく思ってなかったからなエリスは…奴とエリスの共闘とか考えたくもない。

 

「豹さんに、当てはあるのでしょうか」

「明日以降の動きを考えると上手く思惑が一致しそうなのが一人いる。ある意味捨て駒として扱うことになるが…問題はその次なんだよな。流石に3日4日でここに戻るのは危険だから、ある程度長く休ませてもらうとなると屋根付きの部屋でお願いしたいが…そうも言ってられそうにない」

「逆に言いますと、魔界で私たちがさっきのを仕留めれば夢幻館でも問題ないですか?」

「まあそうだが…諦める気は無いんだな、幻月」

「当然です。昨日も言いましたが、こんな貴重な機会滅多にないんですから!」

「…何の話だ?」

 

藍が話についていけてないな。そうだな、ここを離れる準備をするうちに、エリーとくるみに話しておいてもらうか。

 

「エリー、藍に昨日話したことを要約して話しておいてくれないか?その間に俺は荷物をまとめてきて、戻り次第どうしてもらうか頼むからさ」

「はい…わかりました。くるみ、念のため豹さんについて行って」

「え?私とエリーで話すってさっき…」

「幻月さんと夢月さんに話してもらった方がいいでしょう?昨日の話を聞く前のことは」

「あー…そうだね。じゃあ幻月さんに夢月さん、お願いします」

「はーい♪」

「まあいいけど…私は姉さんほど話すことないんだけどね」

 

 

 

 

 

「…悔しいですね。結局私は豹さんに恩を返せてない」

「そんなことはない。幻月と夢月を友好的にしてくれただけで十分すぎる」

「豹さんはそう言ってくれますけど、私はそれじゃ足りないと思ってますから」

 

…ホント、離れるのは惜しいな。くるみもエリーも、ここまで俺を良く想ってくれている。

だからこそ、手に負えない相手が来る前に離れなければな。幸いなことに夢幻姉妹がいるし、幽玄魔眼もエリーとくるみを意図的に狙うことは無さそうだった。俺がここから姿を消せば、一応は安全だろう。

 

「むしろ、こうなったからこそ最後の当てにさせてもらうかもしれない。一度放棄したと見せかけて戻る…幽玄魔眼さえどうにかできれば悪くない手だ」

「そっか…幻月さんの言った通り、私たちであいつをどうにかするという方法もありますもんね。

まだ、やれることが無くなったわけじゃない」

「前にも言ったが、命を捨てるような真似はしないでくれよ。割り切れと言われても…割り切れないのが俺なんだからな」

「豹さんは本当に…手遅れですよね。なんだか、妹さんが凄く苦労してたんだろうなって思えます」

「…否定できないな」

 

―――雨音が聞こえる。夢幻館の周囲にも、雨は届くんだな。

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