寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第40話 後ろ髪引かれし移動

雨が降り始めましたね。紫様から指示があるまでは待機することにしたので、昨日の午後からは久しぶりに楽器を作っています。とはいってもルナサさんが持ち出した二胡ほどしっかりとしたものではなく、豹さんが持ち歩けるぐらいの小さいもの…お守りとして持ち歩いてもらうためのものです。私の魔法による細工なんて豹さんは簡単に気付いてしまうので、最初から私が豹さんの位置を知るために持っていてくださいと頼みます。

 

(豹さんは優しいですから、私から正直に頼めば断れない)

 

…私の境遇を使って良心に付けこむ形になってしまうのが申し訳ないですが、豹さんのことに関してはなりふり構っていられないのです。豹さんを失ってしまえば、私が私のままでいられる自信がありません―――私の心の弱さは、私自身が一番知っているのですから。

 

「カナさん、エリーさん、くるみさんが名前だけでも覚えていてくれたのが…豹さんが話してくれたからなのであれば。今度は私が豹さんを守らないと」

 

豹さんのように能力によって私を忘れないでいてくれる方もいます…呪いを受ける・受けない範囲の境界を操れる紫様や、忘れること自体が出来ない阿求など。ですが、ここ数日で確認できた皆様はそういった能力は持っていないようです。つまり、なにか共通していることがある可能性が高い。そして、即座に思い付くのが―――豹さんとの繋がり。

 

(少しだけ持てた希望も、豹さんがくれたもの)

 

私はもう、豹さんから離れることが出来なくなっています。だから豹さんが遠くに行ってしまっても、追いかけられるようにしておきたいのです。

今のように、傍に居させてくれないこともあるのですから…

 

考え事で集中が切れてしまいました。休憩を入れましょう…豹さんに受け取ってもらうものは、なるべく綺麗に作りたいですからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

くるみと共に戻ると、藍が頭を抱えていた。…そこまで俺の過去は問題があるのか?

 

「藍、どうしてその反応になった?」

「…右腕落とされるような戦闘をどうにかなったで済ませてくれるな。潜伏先で応戦してどうする」

「幻月と夢月を幻想郷中心部に近寄らせる方が問題だと判断したんだよ…」

 

そっちか。応戦せざるを得なかったのは理解してほしいんだがな。

 

「まあ、サリエルの件を聞かせてもらったことで豹が月絡みの案件は拒否していた理由はよくわかった。たしかに八意永琳からしても、豹は要警戒対象だろう。永遠亭の連中が首を突っ込んでこないよう、行商に来る月の兎が妙な動きをしたら釘を刺しておこう」

「え、それってどういうことですか?」

「八意永琳は今幻想郷に居るんだよ。月の姫様と暮らすため移住してきたと紫さんには話してるそうだが、俺は全く信用できない。月だけでなく永遠亭…奴らの拠点絡みの案件は頼まれても断ってた。幸いなことに紫さんも無理強いはしないでくれたからな。

…エリーは特に気を付けてくれ。裏を取られると、昼間にフラワーマスターのところへ向かうことのあるエリーが狙われる可能性が高い。妹紅に聞いた限りだと夜に行商に出ることは無いようだから、くるみの方が危険は少ないはずだ」

「いやいや豹さん、流石に幽香に会いに行くなら昼間ですよ。夜に行ったら問答無用で攻撃されても文句言えないです」

「そうですね。行商姿の兎妖怪に注意すべきということは心に留めておきます」

 

なにしろサリエル様を昏睡させたり俺の解毒魔法じゃ効果のない神経毒を扱ってるんだからな。不意打ちされれば無抵抗で捕まりかねない…ある意味、夢子よりも警戒すべき相手だ。

 

「そうだ、豹がかつてしてやられたと語っていた少女の話をしただろう?それは今口に出した藤原妹紅のことで間違いないか?」

「ああ…そういえば話してなかったか。口が滑るあたり、俺の平和ボケは深刻だなホント」

「今のヒョウが平和ボケという状態なら、ちゃんと逃げ切ってもらわないとね。全盛期に戻してまた相手してよ」

「夢月はカナ以上に好戦的だな…努力はするが期待に応えられるかどうかはわからないぞ?

それで、妹紅もその一人だ。最初に会って別れてから300年ぐらい経ってから再会してな…ただ、永遠亭の連中と付き合いがあるということを正直に教えてくれたから俺は信じてるよ。潜伏先にするわけにはいかないが、全面戦争になるようであれば共闘してくれるぐらいの信用はお互いにあるはずだ」

「そうか。一昨日の時点で時間稼ぎのためにルナサがアリスを藤原妹紅のところに誘導している。昨日は鍵山雛を訪ねていた…一応、この二人はアリスと話をしたということは頭に入れておいてくれ」

「ああ、助かる。二人とも直接頼めば誤魔化してくれるだろうから、問題ないだろう」

 

ただ…雛はどうやって俺と関わりがあると判断した?カナにも話していないはずだが…アリスと雛に交流があったということだろうか。人形というつながりがあるから、面識があってもおかしくはないか。

 

「それで、これから我々はどうすればいい?」

「藍はとりあえず麟に状況を伝えてくれないか?エリーから聞いたと思うが、麟は俺が夢幻館にいることを把握してる。だから俺が去った後でここに来て幽玄魔眼と鉢合わせると非常にマズい。

とりあえず――ユキと夢子から数日潜伏したら麟の持ってる出口を使うから、紫さんの指示以外ではなるべく動かないでくれ、と。麟ならこれで大人しくしててくれるはずだ」

「その数日、豹はどこで過ごす気だ?」

「ユキと夢子を分断するまでは明羅を利用させてもらう。幽玄魔眼の件で余計な問題が発生したからな…博麗に割を食ってもらうさ。捨て駒扱いされてもお互い文句言えない程度の付き合いだしな…」

「…誰ですか?」

「博麗の力を求める女侍だ。魅魔が博麗神社を襲撃した異変の際に靈夢が返り討ちにしたそうだが…なぜ豹が奴と面識がある?」

「ケンカ仲間とでも言えばいいのか…?簡潔に言えば魔法抜きの手合わせの相手として半年に一度ぐらい会ってる相手だ。お互い深く関わろうとしないでいたが…俺は紫さんに見咎められて事情を知った形だ」

 

椛と戦闘訓練してたところに割って入ってきて、侍として椛と手合わせしたいと言ってきて以来の付き合いだ。博麗の力を求めているとはいえ、根っこは剣士。剣腕で椛は敵わず一戦交えた後落ち込んだのを慰める羽目になり、ますます椛に懐かれることになったのだが…それを見て俺にまで手合せを申し込んでくるとは思いもしなかった。

 

「本当に豹さんが捨て駒として扱えるのかどうかが不安なんですが」

「同感です。思い通りに進まなかったら切り捨てられなくなると思います」

「信用無いな…くるみとエリーと違って手合せし終えたら即解散する相手だから大丈夫だ」

「駄目ですね」「駄目でしょ」「駄目だろうな」

 

…藍どころか夢幻姉妹にすら言われた。どうしてそう思うんだ。

 

「…とりあえず、分断してユキを追い返したらどこかに潜伏する。下手に誰かを頼るんじゃなく単独行動の方が夢子からは逃げやすい。というのも夢子が幻想郷を調査すれば絡みに行くであろう人妖が多数いるだろうからな、効率を考えれば夢子もアリスと合流するはず…その後どう動くかだ。

その動きを見て方針を決めたら俺が麟と一度合流する。そしたら麟に夢幻館に一度向かってもらう。

もしくは、神綺様が想像以上に早く来てしまった場合も麟と合流して夢幻館に連絡を取る。この場合は幻月と夢月に神綺様を押さえてもらうことになるかもしれないが…いいだろうか?」

「構わない。知らない相手じゃないし、交戦になれば楽しめるしね」

「…いや、幻想郷で暴れられるのは困る。そうするのであれば神綺に頼んで魔界に移動してからやってくれ」

「神綺がそこまで気を使ってくれたらそうします。ヒョウの話を聞く限り、難しそうだと思いますけれど」

 

夢幻姉妹の返答で再度頭を抱える藍。こうなると思ったからここで応戦したんだ、理解してくれ。

 

「それで、幻月と夢月は幽玄魔眼を始末したがってたが、先にマイから話を聞くのを優先してくれ。というのもこの状況で奴を片付けると逆にサリエル様の方から俺を拒絶せざるを得なくなる…それは幻月にとっても困るだろ?」

「そうなんですよね…独断とはいえ使い魔。理由なしに仕留めたら私の話なんて聞いてくれないでしょうし」

「姉さんの方針に私は従うよ。私はどっちの形でも楽しめそうだから」

「…夢月さん?豹さんを痛めつけるなら私も抵抗します」

「冗談よエリー。私も結構ヒョウを気に入ったから、ちゃんと穏当な方向で動く」

「夢月がそう言ってくれるのは助かるわ。それならヒョウの要望通り、反乱の話を聞くのを優先しましょう」

「すまないな…俺の要求通りに動きたくなんてないだろうに」

「本当にヒョウは自己評価が低いのですね…夢月だけじゃなく私もヒョウとは仲良くしたいと思ってます。そんなに卑下しないでいいですよ?」

「そうか…ありがとな」

 

エリーとくるみ、あと間接的にサリエル様もか。俺にこんな心強い味方を作ってくれるなんて、いくら感謝しても足りなさそうだな。

 

「それじゃ、一時のお別れだ…次に会う時はもっと面倒な厄介事を持ってくるだろうが。

 できれば、力を貸してくれ」

「私からも頼む。表立って豹を援護できないからこそ、ここの4名へ支援はしよう。

 豹を助けてやってくれ」

 

俺だけでなく、藍まで頭を下げている。藍がそこまでしなくてもいいのにな…

 

「もちろんです。私は豹さんの力になりたいのですから」

「私も恩を返せてないですからね、任せてください」

「私はやりたいようにしてるだけですから、気にしなくていいですよ」

「そうね、そう言ってくれるなら…ひと段落したら八雲に戻す前にヒョウを貸しなさい」

 

 

 

降り始めた雨に打たれながら、理想的な潜伏先を離れる。

…俺には再会を祈ることぐらいしか出来ないのだろう。双子のかわいい悪魔に、今は祈ろう。

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