寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第42話 お試し上海と物騒な相手

今更な気もするが、己の魔力を封じてから湖から出る。隠棲する上で命綱となった、対外的には魔力を消しつつ索敵・探知魔法だけは高度な魔法を行使できる状態…護衛というより暗殺に適しているのは我ながら皮肉だな。

 

(さて…問題は明羅が庵にいるかどうかだが)

 

力を求めて修行として放浪しているのがほとんどな彼女のことだ。藍たちには当てがあると言ったが、実は空振りに終わる可能性の方が高い。だが、ユキと夢子が先行してくる状況を考えると足止め役と警戒役が各一名欲しいのだ。夢子の足止め役は藍の手配を信じるとして、もう一人俺がユキを説得する間に邪魔が入らないよう警戒態勢を取ってもらえる実力者が。

 

明羅と接触できれば有益な情報が一つ入っているのでそれと引き換えに手は貸してくれるだろう。問題は明羅が不在の場合に頼る相手。麟を頼るのは早すぎるし、カナは隠れ家の留守役としてこの策を打つ以上動かせない。雛は妖怪の山にいる都合で連絡を取るだけでリスクがあり、リリーやノエルは戦闘に巻き込むわけにはいかない。

 

(となると妹紅を頼らざるを得なくなる…サリエル様を頼れなくなる可能性を考えると、永遠亭と繋がってる妹紅はなるべく避けたいんだが)

 

幻月は本気で俺とサリエル様を会わせるつもりでいる。俺にとってもメリットがある以上、余計な火種を作って幻月に見捨てられるのが現状だと最悪なパターンだろう。それを避けるためにも明羅が最適なんだが…

 

(こればかりは運次第か。俺の悪運、残っていてくれよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま。メルランはまだいるかしら」

「あら、姉さん?随分と早いお帰りね~」

 

間に合ったわね。先に人里に向かわれた方が合流に時間がかかるから家に寄ったのは正解だった。

 

「小町が話をする前に人里に逃げてね。閻魔に捕まる方が面倒になるからアリスたちに追ってもらって、メルランを連れてくることにしたのよ」

「え…?私は留守番しなくていいの~?」

「メルランも動きたがってたでしょう?リリカがいるし、今は目的の相手がはっきりしたからね―――手を貸して、メルラン」

「わかったわ!すぐ準備する」

 

準備してる間にもう一人。

 

「―――で、リリカはどうなのよ?」

「あー…だいぶマシにはなったかな…でも今日は引きこもるわー…」

 

まあ、そうだと思ってたわ…昨日の時点で。カナが普段通りだった分余計リリカが調子に乗って飲み過ぎたのが情けないというか。

 

「お待たせ―、それじゃ、行きましょ!」

「ええ、先行してくれてるから急ぐわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

雨の人里に辿り着いたけれど、小町はどこに行ったのかしらね。目立つ上に割と有名だから、目撃情報を拾えれば楽なのだけど。

 

「お、アリスじゃないか。この時間から人里に顔を出すのは珍しいな」

 

…先に私が捕まったわね。幻想郷の住人には傘を持たない者も少なくないから、傘を差しながら飛行して人里に降り立った私たちはかなり目立ってしまう。人形を傷めたくないから仕方ないとはいえ…

 

「ちょっと小町を追いかけててね。魔理沙は見てないかしら」

「小町?私は見てないぜ。それより修行に付き合えよ!昨日久しぶりに魅魔様が顔出してくれてな!弾幕ごっこが性に合わなくて隠居してたとはいえ、魔法使いとしてはやっぱり別格だぜ魅魔様は。アリスのためにもなるだろ!」

 

よりによって魔理沙と鉢合わせるとはね。しかもご機嫌な上にその理由が魅魔…半分は私の反応を楽しみたいだけねこれは。

 

「――あ~、あの時の東洋のソーサラーかあ。紫のローブはもう着てないのね」

「うげ、なんでそれを知ってるんだ…って、どっかで会ったなお前。いつだったか」

「古代遺跡でやり合ってるわよ」

「…ああ思い出した、カナだったな。魅魔様以外のあの頃の知り合いには会いたくなかったぜ…」

「…カナ、魔理沙と知り合いだったの?」

 

カナも只者じゃないのはわかってたけど、まさか魔理沙と交戦したことがあったなんてね…

 

「顔見知り程度だけどね~。たぶんアリスが魔理沙って名前を出してくれなかったら気付かなかったんじゃないかな。服も口調もあの頃と違うし」

「やめろ、そこを深く突っ込むな。とりあえずアリスは手が空いたら私の家に来いよ、待ってるぜ!」

 

随分と昔のことは聞かされたくないようね。私の返事も聞かずに逃げていったわ…しばらくは魅魔に構ってる暇なんてないし、放っておきましょう。

 

「ええと…いいのですかご主人様もカナさんも。話の流れを一方的に切られてましたが」

「付き合う理由も義理も無いわ。さっさと小町を探すわよ」

「豹の推測が当たってたらあまり覚えてないだろうし」

「「え?」」

 

突然豹の名前が出て上海と声が揃ってしまった。

 

「あ、気にしないでこれは。豹の行き先には無関係だし、確証の無い予想だから。

ルナサが麟さんの手掛かりを見つけられた時にでも話すわ」

「…麟?誰の事よ」

「…ご主人様すら、なのですか?」

「そうみたいだね…でも、わたしと上海ちゃんがなんとか覚えていられてるってことはやっぱりなにかしら作用する条件があるのかなあ?」

 

小町を探す時間で、二人に冴月麟のことを聞かされてやっと思い出した。―――正直言って、豹はともかく冴月麟には恐怖を覚えざるを得ないわ。ここまで強力な認識阻害魔法なんて、魔界人でも使いこなせるのはそういない。何者なのかしら…

 

 

 

 

 

 

「――ルナサとメルランの方が早かったわね。先に二人と合流しましょう」

「あ、それなら私にやらせてくださいご主人様」

「おお~、なにか試すのね上海ちゃん!」

「はい。私にとっては、これを使いこなせるかはとても重要です。ご主人様、なにか問題がありそうでしたらフォローをお願いします」

「それは当然するけど…何をするつもり?」

 

ルナサさんとメルランさんの魔力をご主人様がキャッチしてくれました。これを戦闘以外で試せる機会なんて滅多にないですから、ご主人様の返事を待たずに高度を上げます。

 

「ゴリアテちゃんの術式で大きくなれるか試してみます」

「………はあっ!?」

 

…お、思っていた以上にご主人様を驚かせてしまいました。でも、それはそうですよね。ゴリアテちゃんはまだ試験中なのです。未完成の術式を私が試すというのは、ご主人様には予想できないでしょう。私は無理をしない自意識を頂きましたので、こういった危険性の高い行動は取らないと思っていたはずです。

 

(ですが、今の私の中には隠れ家さんがいる。崩れることを恐れず、豹さんを追いかけるため…失敗したら、消え去ってしまうかもしれないのに。私のボディを求めて記憶と想いを預けてくれた)

 

その覚悟と想いに応えるために。記憶と一緒に頂いた勇気を奮って、試してみる。

怖いことなんてありません。私には、ご主人様がいてくれるのですから――!

 

 

 

「《試験術式・ゴリアテ》」

 

 

 

「――上海がここまでやれるなんてね。本当に、よくできた子だわ」

「す、すごーい…魔法にあまり詳しくないわたしでもわかる。狙ってあの大きさにするのって、難しいよね?」

 

ご主人様とカナさんの反応からすると、成功したようです。地に足を付けているわけではないので、私は大きくなれたのかすぐに自覚できなかったのですが。

 

「――貸してください、あの刀を」

 

私に隠れ家さんが同化したら、隠れ家に残された豹さんの魔力を私が操ることは出来ませんでしたが。カナさんの協力で、ちょっとした空間魔法を編み出すことが出来ました。

豹さんの残してくれた研究資料と、カナさんの制御する隠れ家に残った魔力と、私と同化した隠れ家さんの魔力。どれ一つ欠けても成功しない、私とカナさんと隠れ家さんと…豹さんだけの固有術式。

 

「…成功です。ありがとう、隠れ家さん」

 

滅びた未来でも朽ちることのなかった名刀・夜叉。この刀を扱えるような大きさになれました。そして、隠れ家に置いてきた夜叉を受け取ることが出来ました。

私一人でも、自衛ぐらいなら出来ると…そう思っても大丈夫でしょう。

 

 

 

 

 

「上海にはびっくりさせられっぱなしね~。この姿なら人里に紛れ込めるんじゃないかしら?」

「間近で見れば、人形だとわかるけれど。遠目ならまずわからないわね」

 

そして、これだけ目立つ魔法を行使すれば飛んできているルナサさんとメルランさんも気付きます。お二人をお迎えして地上に降りました。

 

「ただ、魔力消費が激しすぎて長時間の維持は出来ません。本当に私にとっての切り札です…戦闘になることなんて、なければ一番いいのですが」

 

夜叉をもう一度空間魔法を行使して隠れ家に戻し、術式を解除して元の大きさに戻ります。戦闘以外でこの姿を取るのは…隠れ家さんが豹さんに再会できたときだけでしょう。

ゴリアテちゃんが傍にいてくれたから思い付いた、私から隠れ家さんへのプレゼントです。お節介かもしれないですけれどね。

 

「それでも上海ちゃんはやっぱり凄いよ!あの空間魔法、一緒に創ったのにわたし使えなかったからね~」

「使えないのに固有術式を編み出したカナも十分凄いわよ。この異変が落ち着いたらちょっと真面目に魔法使いとして過ごす選択肢も考えてほしいぐらいだわ」

 

ご主人様の言う通りです。私はご主人様の補佐役のような立場でしたので駆け出しの魔法使いなどとは比べ物にならない魔法の知識を有していますが、カナさんは本当に魔法使いとしての知識は最低限戦える程度のものでした。そんなカナさんが豹さんの資料や隠れ家さんの記憶を組み合わせて新たな術式を編み出すなんて物凄いことです。

 

「う~ん…豹次第かなあ。上海ちゃんを豹と引き合わせた後のことなんてわたしは考えてないからね~」

 

…なんというか、カナさんらしいですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーいたいた!随分と派手なことしてたねえ」

「ようやく出て来たわね…最初から探し回らずに呼びかける方向で動くべきだったか」

 

やーっと見つけた!雨の中傘も差さずに大鎌もってふらついてる美少女なんてすぐ見つかると思ってたけど、人里って想像以上に広いのね~。まさか上海ちゃんの魔法お試しで寄ってくるまで捉まらないとは思わなかったわ。

 

「この雨だから屋根のある店で食べてたからねえ。遅くなったとはいえちゃんと話を聞きに来てやったんだから文句は受け付けないよ?」

「なら隠し事せずに答えなさ~い。エリーという名に心当たりがあるでしょ?彼女の居場所を教えなさい」

「へ、エリー?……ああ、あの死神かい」

「って、死神?三途の川に直接向かってたらもう会えてたってこと!?二度手間じゃないの~…」

 

さっき呼び止められなかったのが大失敗だわ…雨の日にこれはテンション下がるなあ。

 

「あー、あたいとは違う種族の死神だよ。西洋の死神…アンクゥさ彼女は」

「アンクゥって…物騒な相手に会いに行かなきゃならないのね」

 

ルナサが複雑な表情を浮かべているけれど…どんな死神なのかなあ?

 

「私は詳しく知らない種族なのだけれど。そんなに危険なのかしら」

「新築の家に最初に入った者の命を狩ると伝わる死神よ。三途の川の船頭の小町と違って、生者の魂を迎えに行く方の死神…よね?」

「詳しいねえ、あたいが説明する必要がなくなったよ。でも彼女はそもそも幻想郷を担当してる死神じゃないし、引退して幻想郷に来たらしいから命の危険は無いんじゃないかね」

「なら一安心ですね。それで、彼女の居場所をご存じないでしょうか?」

 

あ、上海ちゃんを紹介する前に喋っちゃった…

 

「…いや、驚いた。アリス、どんな魔法で人形をここまでにしたんだい?」

「私の力じゃないわ。詳しいことを話してもいいけど、先にエリーのことを聞かせることが条件よ」

「いや、別に構わないんだが大したことは知らないよ?ありゃ三日前か、アンクゥが堂々と人里に紛れ込んでるのが気になってちょいと散歩がてら話しただけでねえ。なんでも風見幽香に仕えてる身で、太陽の畑に向かう前に人里に寄ったってことしか聞いてないさ」

「う…風見幽香か。嫌な相手の関係者だったのね」

 

アリスが…いや上海ちゃんもなんか暗い感じが漂ってるわ。因縁がなにかあるのかな?

 

「…ある意味、アンクゥ本人よりずっと物騒な相手に会いに行かなくてはならないわね」

「でも、仕方ないわね~。手掛かりがそれしかないし…でもアリスは大丈夫なの?凄く渋い顔してるわよ~?」

「あのフラワーマスターは魔界に乗り込んで大暴れした1人なのよ。というか巻き込まれた被害者は彼女の手によるものが最多だからとても好印象は持てない。おまけに今はほぼ隠居同然とはいえ、幻想郷の強者の中でも単純な戦闘力は最強クラス。はっきり言って関わり合いになりたくないわね」

 

うわ~…噂には聞いてたけど魔界でそこまでしてたのは知らなかった。でも、ここに来て退けないわ。

 

「アリス、わたしは覚悟できてるよ。不安なら、事前情報をほとんど知らないわたし一人で聞きに行ってみるけど?」

「いえ、今更躊躇うわけにはいかないわよ。それにこれだけの人数で乗り込めば、花への被害を考えれば大掛かりな戦闘にはならないはず…行くわよ、太陽の畑に」

「って、行っちまうのかい?人形の話は…」

「探知魔法で三途の川の方から向かってくるのを捕捉してるのよ。説教に巻き込まれるのはごめんだから、次の機会にして頂戴」

「ちょっ…四季様かい!?先に言ってくれよ!あたいは仕事に戻るから、そのうち聞かせておくれよ!」

 

小町は大慌てで飛び出してっちゃったわ。そんなにひどいのかなあその閻魔様の説教って。

 

「…ご主人様、本当に閻魔様が?」

「上海もある程度察せるようになったのね。捕捉したことに嘘は無いわ…それがあの閻魔なのかまでは確認してないけれど」

 

…うん、わたしはやっぱり世間知らずのお子様なんだね。

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