寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

43 / 289
第43話 不出来な師匠と弟子の覚悟

豹と麟の伝令に向かわせた藍が一度戻ってきて報告を受けて。頭を抱えたくなるのを抑えつつ麟の元へ向かわせると、次は橙が一度戻って来たわ。

 

「紫さま、一つ気になる言葉を拾えました!人里でアリスと魔理沙が顔を合わせてたんですが、『昨日久しぶりに魅魔様が顔出してくれてな!』って魔理沙が言いました!」

「魅魔ですって?今更どういうことかしら…」

 

吸血鬼異変を片付けてからは隠居していた悪霊。その理由を知る者はごく少数…ある意味当事者ともいえる豹と麟すら知らない。そして、その理由を知る私からするとある程度の予測は付くのだけれど…

 

(どうして魔界が動いていることを知った?隠居していた以上水面下の動きまでは知ることは出来ないはず)

 

霊夢のことを考えると責任の押し付け先として扱える魅魔が表に出てくれるのはありがたいのだけれど、豹と魅魔がお互い微妙な感情を持っているのは豹にとって不安要素になり得る。そして魅魔相手に監視を付けるのは見破られる可能性の方が高いわ。

 

「私が直接聞きに行くのが最適解ね。橙、次のアリスの行き先は?」

「太陽の畑です。それと、今日はルナサさんがメルランさんを連れてきてます」

 

ルナサがどういう考えで妹を連れてきたのかも読めないけれど、これは私にとっては好都合。もし今日夢幻館にアリスが向かったとしても、ルナサとカナにメルランが加われば夢幻姉妹と戦闘になっても死者は出ないでしょう。豹が一度離れた以上、逆にアリスには早めに夢幻館の存在を知ってもらいたかったところだものね。

…そこまで情報を整理して、一つの可能性を思い付く。

 

(麟は一日で豹を探し当てたわ。その過程で魅魔に接触した可能性があるか。

 …本当に、麟のことは悔いが残るわね)

 

癒しの力だけでなく、情報整理能力や推理力を持ち合わせている。天性の行動力を持つ霊夢にとって、相性の良い補佐役になれたはずの少女。豹が師として育ててくれたのが大きいのでしょうけれど…隠者として扱うのは勿体ない存在。これは豹にも同じことが言えるのだけどね。

 

「橙は一度ここで待機していて頂戴。藍が戻ってきたら、私が魅魔の様子を見に行ったことを伝えた上でアリスの追跡に同行してもらいなさい。橙一人で風見幽香の周囲に張り付くと、私と藍の援護が届く前に監視を見破られかねないから」

「わかりました!紫さまもお気を付けて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

雨は今日いっぱい降り続きそうですね。この雨が上がったら、冬支度を始めなければなりません。去年までは豹さんに甘えさせてもらっていたのですが…今年はそうもいきません。豹さんは冬に暖を取るのに必要になる薪などを人里から離れたここまで持ち帰るのを手伝ったりしてくれていました。

―――あの日から、私は豹さんに頼りっぱなしです。何一つ恩を返せていません。

 

「甘えるだけでなく、力になりたい…そして、傍に居させてほしい」

「もう少し待て。今はまだ早い…だが、豹が麟を頼るのはそう遠くない」

「――っ!?」

 

全く気付けませんでした。ですが、この声は忘れることは無い…!

 

「藍様…!?」

「久しぶりだな、麟…どの面下げてと思われても仕方ないが、力を貸してくれ」

「そんなこと思うはずがありません!今の状況は、私の未熟による自業自得です…

一時的に思い出してもらっているだけだとしても、藍様がそう思う必要なんてないです!」

 

まだ私が人里に居た頃、力の扱い方を教えていただいた師匠の一人が藍様です。お父さんは私が力を受け継ぐであろうことを覚悟していたので、その片鱗が見えてすぐに伝手を当たってくれて…私は魔力を暴走させたりせず人里で人間として暮らすことが出来ていました。

 

「藍様に感謝することはあっても、恨みがましくすることなんて絶対に無いです。私に出来ることなのであれば、迷わず使ってください。何もできないほど、寂しいので…」

「…そうか、ならば駒として動いてもらうぞ。余裕は全くないからな。

先程、豹と話してきた。先走った形とはいえ、ほぼ一日…しかも一人で豹の下に辿り着いたのは称賛に値する。見事だった、麟」

「…ありがとうございます。ですが、豹さんの選択肢を狭めてしまったのも事実です。この失敗を帳消しにするために、私は何をすればよいのでしょうか?」

 

豹さんは約束通り私に八雲から連絡を取るように頼んでくれました。次は私が豹さんの力にならないと。

 

「まず、今朝に大きく状況が変わったことを伝えなければならん。麟もサリエルの話は聞いているな?幽玄魔眼と名乗るサリエルの使い魔が豹を襲撃してきた」

「っ!?豹さんは無事なのですよね?」

「被弾はしていたようだが、麟を頼るほどの負傷は無かった…そういえば豹の右腕も礼を言わなければならなかったな。助かったぞ、麟」

「いえ、数少ない私が豹さんの力になれることですから。藍様からも治療が必要な時はわたしを頼るよう伝えておいていただけますか?」

「むしろ私からも頼みたいところだ。―――だからこそ、麟も気を付けてくれ。麟さえ無事なら、豹が無理しても癒すことが出来る。ゆえに麟を認識できる敵からは最優先排除対象にされかねない」

「はい。それは、師匠と呼べる皆様全員から教わりました」

 

お母さんから受け継いだ麒麟の加護、それによって得られた癒しの力。私さえいれば、傷付いた仲間を助けられる可能性が跳ね上がる。だからこそ外敵からは狙われやすい…それを理解していたからこそ、お父さんは私を多くの師匠と引き合わせてくれたのでしょう。仲間のためにも、私は生き延びなければならないのです。

 

「覚えていたのなら大丈夫だな…本当に、弟子と比べると不出来な師匠だな私は」

「そんなことは無いです。藍様がいなければ私は今ここにいないでしょうから―――忘却の呪いで済まず、命を落としていたでしょう」

「…済まない。豹に対する無力感も合わさって、私も少々気が滅入っているな…

話を戻そう。夢幻姉妹とエリーとくるみの協力もあって幽玄魔眼は撃退したが、魔界に豹の居場所が知られたということになる。だからすでに豹は夢幻館を離れた」

「…そうですか。豹さんの次の目的地は?」

「それも含めて今後の予想を先に話すからしっかり頭に入れておいてくれ。まず、昨日ルイズという魔界からの旅行者がアリスと接触している。そしてその内容からして今日には豹が幻想郷にいることが神綺にも伝わるはずだ。奇しくも神綺とサリエル、魔界の有力者二人に情報が同時に回ることになるわけだが…

豹いわく、先行して妹のユキと神綺のメイドである夢子がこちらに来るだろうとのことだ」

 

昨日豹さんが語ってくれたお話でも、名前を聞いた方です。

…間違いなく、本気で豹さんを狙ってくるであろう二人。

 

「豹はユキは無傷で追い返せると言っていたが、はっきり言ってそうは思えん。一度退かせるのが精々だと私は予測している…が、豹の希望には沿ってやりたいからな。夢子とユキを分断させてくれというのが私に頼んできたことだ。幸いなことに八雲と無関係を装って足止めに向かわせられる当てはある。なのでおそらく明日か明後日にユキと夢子を分断する策を豹が打つだろう。そのために頼ると言っていたのが明羅だ」

「明羅さん、ですか。どなたでしょう」

「彼女のことは麟は気にしないでいい。豹が捨て駒のように扱うと言っていたし、事実八雲としてもそうしてくれなければ困る相手だ」

「…豹さんが、捨て駒なんて扱いを出来るとは思えないのですが」

「その通りだ。今思えば笑えることだが、さっきその言葉を聞いた夢幻姉妹にすら無理だと返されていたよ」

 

…幻月さんも夢月さんも、豹さんの人となりは理解してくれたみたいですね。私とは文字通り格の違う悪魔。豹さんの力になってくれるといいのですが。

 

「だが、明羅の援護を我々がする必要はない。むしろ麟に本格的に動いてもらうのはこの時だ…

昨日紫様が直接確認したことだが、ルナサには忘却の呪いが作用していない」

「―――っ!?本当ですか!?」

「ああ、橙が感じた違和感を紫様に伝えて、紫様が即座に動いたから間違いない。そして、ルナサは豹が隠れ家を離れたその日のうちに八雲の駒としてこちらに引き入れてある」

「それは、つまり…!」

「ああ、ユキと夢子に対して豹が動いたらアリスも動くだろう。そのタイミングで橙にルナサをこの家に案内させる。二人で今後の行動を擦り合わせろ」

 

どうしてルナサさんが私のことを憶えていられるのかはわかりませんが、豹さんが人里に姿を見せるのはほとんどルナサさん絡みのことです。藍様がそう言うのであれば、間違いなく豹さんのためだけに動いてくれる…私にとっての、仲間です。

 

「そして豹がユキと接触してしばらくしたら、麟のところに転移して来るとのことだ。それが何日後かは不定になるだろうが…長くても動いてから三日はかからないだろう。三日もすれば神綺も幻想郷に乗り込んでくるだろうからな。

アリスと夢子の動向次第で接触の翌日、遅くとも神綺が乗り込んで来たら豹が麟のところに来るはずだ。その時点までにルナサとこの情報を共有しろ」

「わかりました。橙がここに来るまでに最低限の備蓄を備えておくのが当面の私がすべきことですね」

「その通りだ。そして注意点として、幽玄魔眼と鉢合わせる可能性がある夢幻館にはしばらく近付くな。私一人では奴の創り上げた異空間に介入できなかったからな…捕まると救出が難しい。十分に気を付けろ」

「藍様ですら…わかりました。豹さんと合流出来るまでは向かわないことにします」

 

私では歯が立たない、危険な相手。豹さんのためにも、私はまだ倒れるわけにはいきません。

 

「ここから先、八雲は表立って豹を助けられなくなる…ルナサだけではなく、夢幻館の住人達も豹の力になってくれると言ってくれた。上手く協力して、豹の力になってくれ。頼むぞ、麟」

「はい。私の全霊を注いで豹さんに尽くします。

 私は、もう豹さんのいない世界には耐えられなくなっていますから」

 

藍様が、少し悲しそうな表情を見せてくれて。まだ私を弟子として見てくれていたのがわかって。

こんなときに思うことではないのでしょうけれど、嬉しくなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

目印が無い明羅の庵を地上で探すのは一苦労だが、潜伏しなければならない以上昼間に飛行するのはリスクが高すぎる。隠形魔法を行使しても、遮蔽物の無い空中では妖精の流れ弾や毛玉にぶつかると見破られる可能性があるのだ。

だが、俺の悪運は尽きていなかったらしい。どうやら今日は庵の近くで修行しているらしく、明羅のほかにもう一つ魔力を感じる。それを目印に辿り着いたのだが。

 

「いくなのです!」

「ばかもん!!やり過ぎだしどこを狙っている!?」

 

…辿り着いたと思ったら、庵の一部が砲撃で吹き飛んだんだが。

雨宿りすら出来なくなるのか、これは…

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。