そして、44話にしてようやくここすき機能とその確認が出来ることを知りました。ここすきしてくれてた読者様もいらっしゃいまして、今更ながらお礼を言わせていただきます。
ここすきありがとうございます。これも励みに続けていきます!
「照準が不安定だったのです。わざとではないのです」
「それより先に言うべきことがあるな?」
「…ごめんなさい」
明羅の庵を吹き飛ばした砲塔から少女が顔を出し頭を下げている。これは…いわゆる戦車というものだろうか。
魔法が廃れ科学の発達した外界において、乗員を保護する盾と敵を撃つ砲撃武装を兼ねる戦闘兵器。科学技術に関する存在は紫さんが幻想郷に入り込むのを相当警戒しているが、こういった戦闘兵器は特に厳しく取り締まっている。
なぜなら、もはや外界ですら廃れ無縁塚に流れ着いた火縄銃ですら弱体化した妖怪には脅威となるからだ。当たり所が悪ければ人里の力無き少年ですら妖怪を滅ぼし得る。幻想郷における人妖のパワーバランスを崩しかねない武器は、まだ流通させるのは早いというのが管理者たちの一致した方針ということだろう。
「うん…?豹じゃないか。私に何か用でもあるのか?」
「はい?」
こちらに気付いた明羅が声を掛けてきた。見知らぬ少女もこちらを振り向く。
「ああ、少し手を貸してほしくてな…だがその前に一応聞いておく。庵は大丈夫なのか、あれ」
「……中を見たくないと思っている」
「あんた誰なのです?明羅の知り合いですか?」
「豹と名乗らせてもらってる魔界人だ。君は?」
「あたいは里香。戦車技師なのです」
地面に降りつつ少女が名乗る。技師…河童と似た感性の持ち主ということだろうか。
…まあ、今やるべきは明羅に恩を売ることだからな。里香との話は後にさせてもらおう。
「とりあえず、俺の修復魔法で直せるかだけは試してみるから、明羅は内部の確認をしてくれ」
「そうだな…こんなことで気後れしていられんか」
「って、修復魔法!?その話詳しく聞かせるのです!」
なんだ…?里香がものすごい勢いで食いついたぞ。
「悪いが、俺も明羅に用があってな…落ち着いて話すためにも庵の修復を優先させてくれないか?この雨の中、外で長々と話したくない。俺と明羅が話し終えるまで待ってくれ」
「むぅ…仕方ないのです」
渋々といった風に里香が戦車の内部に戻っていく。いや、庵の修復を手伝う気はないのか?
…無いんだろうな。明羅が声すらかけず内部の様子を確認に戻っているのを見る限り。
「しかし…修復魔法をここまで多用するのは俺ぐらいなものだろうな」
夢幻館の次は明羅の庵、そして里香も修復魔法に用があるらしい。たしかに使いどころが限られる魔法だから使い手は少ないのだろうが…修理屋としてやっていけたりしたのかもな、俺は。
…追手がすぐそこに迫っている今、考えることじゃないんだが。
「結論から言うと、完全修復は無理だな…熱線による気化消滅は修復魔法では再構築できない。災害用の打ち付け板なんかは用意してあるか?」
「いや、材木は常備していない。そのあたりの木を切り落として必要な時になってから用意していたからな。だが、今日のような雨では湿気て資材として即座に使うことが出来ない…私の考えが浅かった」
「…見てくれと内部の汚損に目を瞑れば、雨風を凌ぐ程度ならすぐに出来るが」
「ぜひお願いしたい」
「土のゴーレムを使役して穴を塞ぎ、筵で覆う。その状態で使えそうな資材をかき集めて内部から固定すれば何とかなると思うが、資材を調達するまでの土汚れが問題になるぞ。いいのか?」
「幸いなことにここは物置だったからな。そこまで気にすることは無い…頼めるか?」
「わかった。その代わり面倒事に付き合ってくれ…博麗絡みの情報を仕入れてきた、それが報酬だ」
「任せろ。これから冬になるというのに、気兼ねなく無料で寝泊りできる場所を失うのは避けたいからな。私はこの穴を塞げる程度の資材を持ってくればいいのか?」
「頼む。あともう使わない布があればないよりはマシだろう、敷物としてここに敷いておくが」
「それならこの部屋にある埃避けをそのまま使え」
早速明羅は出て行った。…今更だが、俺を庵に一人残してよかったのか?相変わらず自分が絶世の美女という自覚が薄いな明羅は。
まあそれは俺から指摘する必要はないだろう。俺もさっさと作業を終わらせるか。
「話は終わりましたね!わたしの話も聞くのです!」
戦車の中で着替えたのだろうか。帽子を脱いで赤マントを羽織った里香が飛び出してきた。それに一人称もわたしに変わっている…さて、どちらが素だ?
「もう少しだけ待ってくれ、あの穴を塞ぐ」
「むー!約束なのです!次は待ちませんよ!」
…これは計算外だな。明羅の知り合いということは、八雲や博麗とは対立軸になるはず。あまり協力するわけにもいかないんだが、どうも逃がしてくれそうにない。内容にもよるが…ここに来てますます紫さんに迷惑を掛けてしまうかもな。
「《優しき大地よ。我が求めに応えその力を象れ》」
壁がわりに使うゴーレムに意識や能力など不要。吹き飛んだ外壁まで這いずらせて穴が塞がるような形に造形し直し、強化魔法で固定する。後はそこらの適当な植物を筵として被せ、浸み込んでくる雨を逃がすような形で内側に細工すれば一時凌ぎにはなるだろう。
…本職の大工が見たら怒りそうなやっつけ仕事だがな。
「…豹と言いましたね、あんた本当に何者なのです?いくら魔界人といっても、そんな少量の魔力でゴーレムを使役したり瓦礫を修復魔法で再構築なんて普通は出来ないのです」
「潜伏するためにほとんどの魔力を封じてるんだよ。その状態でいかに効率よく魔法を行使するかというのは死活問題だったからな…長年の研究の成果だ」
「これは燃費の改善に使えそうなのです。明羅のことなんて放っておいてわたしに協力するのです」
「無茶を言うな…せめて明羅がいるときに交渉してくれ」
しかし、修復魔法だけじゃなく対魔力効率の改善にも興味を示すか…技師というのは嘘じゃないようだな。里香本人の魔力はそれほど強くない…すなわち戦車技師という言葉通り自身で戦うのではなく戦車を操って戦うのだろう。幻想郷では研究の進んでいない科学技術分野を魔術で補うため俺の魔法が必要ということか。
「とりあえず、話だけは聞いてやるから庵の中に入れ。防水魔法を付与してるとはいえ、逃亡してる身にとって衣類は雑に扱えないからな」
「なるほど、なら匿ってやるからわたしに協力するのです!」
「だから話は聞いてやると言っただろう!説明なしに協力は出来ないことをまず理解してくれ!」
まったく…これだから天才肌の研究者は苦手なんだ。どうして自分の研究には協力して当たり前と思い込めるんだろうな…
「まず、ふらわ~戦車とイビルアイΣを修復してほしいのです。博麗の巫女を相手にして爆散してしまったのです」
「…いや、爆散してしまった物体は無理だ。修復魔法の原理を理解できてないようだから軽く説明するが、俺の行使できる修復魔法はある程度原形が残ってないと修復できない。崩れても瓦礫として個体が残っていれば元に戻せるが、熱線で気化消滅した部分と細かく砕かれて飛散した部分は魔法で感知出来ないから修復できないんだよ。この庵の外壁が不完全に修復されたのはこれが理由だ」
「むぅ…イビルアイΣで自爆したのは失敗だったのですぅ…」
自爆だと…漢のロマンを理解してるのかこの子は。その戦車は見てみたかったな。
「でも、ある程度残骸が残っていれば不可能ではないということなのです?」
「まぁ、自爆した方じゃない戦車なら、破壊された地点に残骸が瓦礫として残っていればある程度は元に戻せるだろうが…明羅が表に出た異変というと博麗神社を魅魔が襲撃したときだろう?それなりの時が過ぎてるが、まだ瓦礫が残ってるのか?」
「いえ、完全に修復するのは無理だとしても主砲といった一部分のパーツが残っていれば元に戻せるのです?」
「瓦礫が残っていれば不可能ではないが…少しでも欠けた部分があったりした場合は以前と同じように動くかの保証は出来ないぞ?俺は科学技術に疎いからな、精密な内部構造が正確に修復できているかなんて判断できない」
「それはわたしが確認すればいい話だし。そういうわけなので今から回収できたふらわ~戦車のパーツを持ってくるのでここで待っているのです!」
…呼び止める間もなく飛び出していった。なんというか、技師という割には行動的だな。対魔力効率の方まで聞いてから動くと思っていたんだが。
ただ、一人称はわたしが素のようだな。自己紹介の時だけ気取ったということだろうか。
「豹?里香が上機嫌で飛び出していったが…なにかあったのか?」
「俺の修復魔法で修復できるか試してほしい物体があるそうだ」
明羅が材木を担いで戻って来た。さて、庵の修復を再開するか…
「ざっとこんなもんか…あくまでその場しのぎだ、ちゃんとした修繕の手配もしておけよ?」
「無論だ。私だって常に放浪してるわけじゃない…腰を落ち着ける場所は必要さ」
ある程度は明羅自身も庵の設計を理解していたようで、使いやすい形に切り落とされた木材揃い。やっつけ仕事とはいえ冬を越せる程度には戻せただろう。
「いや、助かった…よりによって冬に入る直前だったからな。里香のところに転がり込むのは避けたかったし、あまり人里に出たくは無いしな」
「いや、冬場にこの庵は相当寒そうだが大丈夫なのか?明羅なら人里の自警団の詰め所ならいつでも貸してくれると思うが」
博麗の巫女を敵に回したことのある明羅だが、人里の守護者である慧音との面識はある。むしろ慧音からすれば戦力として人里に常駐してほしいと頼むほどなのだが…
「人里に行くたびに注目されるのが嫌なんだ。この時代に侍として生きる以上仕方ないとはいえ、限度というものはある…どうして私などに声を掛けてくるのか」
「前にも言ったが、自分の容姿を思い出せ…しかし、それが嫌なのであれば無理強いは出来ないんだよなあ。せめて冬の間だけでも寒さを凌げるのなら里香を頼った方が良くないか?」
「…その里香は今幻夢界の要塞で寝泊りしていてな。朝倉理香子という科学信者の魔法使いと組んで研究に勤しんでるんだ。私に研究内容は理解できないし行ったら肉体労働役としてこき使われるのが目に見えている」
朝倉理香子?どこかで聞いた名だ。俺が直接会ったことのない名前…
――ああ、カナが古代遺跡でやり合ったメンツの中にその名前があったな。となるとかなりの実力者だ。里香と二人掛かりで来られると休むどころじゃないということか。
「まあ、明羅がここでも平気というのであれば俺が口を出すことでもないか。
…とりあえず、俺からの依頼を伝えるぞ。明日か明後日ぐらいに、魔界から俺の追手が幻想郷に来る。その片割れを説得する間、邪魔が入らないよう周囲の警戒を頼みたい」
「その程度なら断る理由は無いが、豹がそれしか言わないということは余計な詮索はするなということだな?」
「その通りだ。だから報酬の情報は今ここで伝える。博麗神社最大の秘宝、陰陽玉。その製作者を突き止めた」
「っ!?誰だ、そいつは!?」
「玉造魅須丸。神の一柱にして最高峰の玉造部だ。ここ最近、妖怪の山で大天狗が龍珠を掘り出して何か企んでいるらしくてな。彼女がそれを知って調査する際に管理者の指示で俺が協力することになったとき、お互いの信用を得るための情報交換で貰った情報だ。まず間違いなく噓は言っていない」
「…豹、お前は本当に何者だ?
―――いや、余計な詮索はするな、だったな。有益な情報に感謝する。豹の依頼、この明羅が受けよう」
「助かる。長くて二日三日だろうが、世話になるぞ」
よし、ここまでは理想的な状況に出来た。後は出たとこ勝負だ。
「――豹!まずこれから頼むのです!」
……余計な火種を抱えてしまった気もするが。