寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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今回も独自設定が出てきます。


第45話 大人の駆け引きと子供のケンカ

「久しぶりね、魅魔。今更あなたが動くなんて、何かあったのかしら?」

「そりゃわたしの台詞なんだがねえ。忘却の楽師が動くとしたら紫の指示じゃないのかい?」

 

魔理沙が戻ってくる前に終わらせたいのだけれど、魅魔から麟のことを出してくれたおかげで答え合わせが出来たわね。麟のことを忘れていないあたり、流石は魅魔。その実力を霊夢の盾として使ってもらおうかしら。

 

「麟にはまだ指示を出してないわ。独断で魅魔のところに向かうなんて思いもしなかったけれど…しっかり育ってくれているようね」

「なるほど、つまりは豹絡みか。あの子が自発的に動く理由はそれだけさね」

「ご明察。惜しいけれど、豹は切らなくてはならないわ。それに不満を持つというのであれば、麟もね。

まあ、余計なお世話でしょうけど…魔理沙が侵入した魔界人に喧嘩を売った場合、全面戦争を回避するための生贄にするわ。それが嫌なら師として貴方が止めることね」

「よく言う。同じことが靈夢にも言えるだろう?」

「霊夢は幻想郷の維持のために私以外の管理者も保護する理由があるわ。でも魔理沙には管理者として保護する理由が無い…それこそ、霊夢の身代わりとして使うことはあってもね?」

「…フン、動いて正解だったってわけかい。その忠告は覚えておいてやるわ」

 

管理者からすると魔理沙が一番切り捨てやすい相手だわ。霊夢は博麗大結界の関係で論外、魅魔と風見幽香は捕らえる労力がかかり過ぎる。実力があろうと若さと性分から罠に引き入れやすい魔理沙が消去法で選ばれるのは当然の帰結。

魅魔のように魔理沙本人に思い入れのある有力者以外は、ね。

 

「今回の件においては貴方が動いても誰も文句は言わないでしょう。相手が相手…積極的に関わろうとする有力者はそういない。上手く動いてくれることを期待させていただくわ」

「そうだね、好きにさせてもらうよ。ま、魔理沙のためにも派手には動けないが」

 

魔理沙の行動を多少でも制限できたのは大きいわね。ここまでは即席の手回しとして上々。

まあ、幻想郷の住人が予測通り動くとは思えない以上、油断はできないけれどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「期待通りなのです!ここまで修復できれば再利用の目途が立つのです!」

「いや、まさか残骸をこれだけ保管してるとは思わなかった」

「私には廃材にしか見えないが…これを魔法で修復できるとはな。豹が攻撃魔法を使えないのは知っていたが、やはりそれ以外の魔法の精度は桁違いだ。私などではとても再現できない」

 

里香が戻ってきたが、俺が思っていた以上に残骸を回収していた。先程動かしていた戦車に牽引させて来るほどの量だ。というか、今日の時点で対応できたのは運が良かったと言えるな…戦車による資材輸送とか神綺様が探査魔法を行使したら確実に不自然な地点として捕捉される。むしろよく管理者から目を付けられなかったな…

 

「次はこれなのです!主砲を副砲として再利用できれば火力増強がお手軽なのです!」

「里香、俺の魔力消費という点を全く考慮してないだろう」

「里香にそんなことを期待しても無駄だ、豹」

「失礼なのです!戦車は燃費も重要だし。ですがその封じている魔力を解放すればまだまだ修復魔法を使えるはずなのです」

「潜伏するために封じてる魔力を里香のために解放するわけにはいかないんだよ。持ってきた残骸で再利用できるもの片っ端から修復しろと言いたいんだろ?自然回復を考慮に入れても一週間は見ないと俺の魔力が枯渇する。俺にやれというのなら修理費用として魔力回復薬を用意してくれ、とても無償で付き合える案件じゃない」

「おい豹、そんなこと言ったら…!」

「言質を取ったのです!魔力回復薬ですね、どうせ優秀な魔法使いなのに魔法嫌いな理香子なら宝の持ち腐れしてるのです。在庫処理させるので待ってるのです!」

 

忙しないな里香は…戦車も残骸も庵の外に置いたまま飛んでいった。

 

「いいのか?それほど魔法に詳しくない私でも、あれだけの残骸をすべて修復させるのは骨が折れるというのはわかるぞ?」

「まあ否定はしないが…長逗留する気が無いから魔力回復薬を本当に譲ってもらえれば損はしないんだよ。上質な秘薬レベルの回復薬を持ってきてもらえたら、俺が自作した方を消費して修復すれば確実に俺の方が得になる。持ち逃げという形でな」

「…豹が逃亡者らしいことを言うのは初めてな気がするな」

 

そりゃそうだ。明羅との付き合いは浅い…八雲の隠者であった俺に深入りしないよう最低限の情報しか与えていない。慧音と引き合わせたのも元は俺じゃなく人里を優先して頼るように仕向けるつもりだったのだからな。明羅本人の自身への認識がズレ気味なせいで誘導に失敗しただけで。

 

「まあ、今回はかなり深刻なんでな…利用できるものは全て利用するさ。今日初めて知り合った里香ならお互い諦めのつく関係で終われるだろ」

「私が言うことじゃないだろうが、豹は他人からどう思われてるかを真面目に考察し直した方がいい」

「本当に明羅には言われたくないな!」

 

男装しても隠せない美貌に対する自覚が薄い明羅に、なんでこんなこと言われなきゃならねえんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

雨の中太陽の畑に向かう。カナ以外はフラワーマスターの危険性を身をもって知っていたから、緊張感のある移動になっているわね…ルナサとメルランが直接風見幽香と対峙した経験があったのは意外だったけれど、季節問わず花が咲き乱れた異変の際に動いたリリカのフォローでやり合う羽目になったそう。弾幕ごっことはいえ、姉妹揃って大したものだわ。

 

「って、あれは…?」

「この雨の中、傘も差さずに?」

「それ以前にちっちゃいよね、あの子」

 

私たちと別の方向から太陽の畑に向かって飛行する小さな人影。でも私たちと同じ…いや、今日はメルランがいるから全員ではないけれど、雨の中でも目立つ金髪の少女がいる。

 

「って、あれメディじゃない。あまり余計なことを知られたくないわね…先に行かせて様子を見るか、さっさと私たちの用を済ませるか…どうしようかしら」

「…ご主人様、悩む必要はないみたいです」

「あら~、こっちに来ちゃったわね~」

 

方向転換してメディがこちらに向かってきた。仕方ないわね…相手しましょうか。

 

 

 

「アリスじゃない。それにいつかの騒霊も…幽香に何か用でもあったの?」

「まあそうだけど。メディもそうなら先に済ませていいわよ?私たちは時間がかかるかもしれないし」

「別に用があったわけじゃないけど…って、よく見たらひとり違う騒霊が混じってる?」

「あ、わたしが騒霊なのはわかるんだ~。わたしはカナだよ、カナ・アナベラル。あなたはメディでいいのかな?」

「メディスン・メランコリーよ。メディで構わないけど…カナは実体のある騒霊でしょ?私の毒が回らないように距離を取った方がいいわ」

「毒っ!?何それ怖い!」

 

そう、メディは平和な幻想郷においては危険な存在…鈴蘭の毒で動く人形の妖怪―――上海たちとは違う経緯で自立した人形。

今はだいぶ制御出来るようになったとはいえ、自身を動かしている毒を抑えることは出来ない。生物であれば、人間だろうが妖怪だろうが彼女に触れるだけでその毒に冒される。妖怪としてはまだ幼いのに、その力は強大…生半可な妖怪であればいとも簡単に返り討ちに出来るし、未熟な精神により無力な人間への容赦というものも無い。

何か問題を起こせば、幻想郷の管理者たちが処理する可能性すらある爆弾のような存在。

 

「…そういうことだったのね。私たちと比べて随分強いポルターガイストの力を持っているとは思ってたけど。カナは実体も貰えてたの」

「それこそわたしの方がびっくりなんだけど!?ルナサもメルランも霊体なのにこんなに強かったの!?」

「私たちは騒霊として特例中の特例でしょうからね~。時間があったら今度お話しするわ。同じ騒霊として、レイラのことも知ってもらいたいしね~」

 

…意外なところでカナの強さの理由がわかったわね。というか私どころか本人同士も思い込みで把握してなかったカナとルナサたちの違いに気付けるあたり、メディは本当に素質があるわ…これからの成長次第では大妖怪となり得るポテンシャルを秘めている。おそらく幽香もそれを察して気に留めている面もあるのでしょう。

 

「…まあ、あなたたちに用は無いから別にいいけど―――アリスには用が出来たわ。これは、どういうこと?」

 

上海を見つめていたメディの視線が私に移り敵意が宿る。流石ね、同じ人形として上海の変化に気付いたか。

 

「私にも正確な状況が把握できてないわ。そもそも幽香への要件は上海の状態にも関係のある話なのよ」

「…メディスンさんは、今の私に何か問題があると言いたいのでしょうか?」

 

上海も察してメディに向き直るけれど…まずいわね、上海がかつてないほど刺々しい言葉を返している。豹のこと、カナのこと、隠れ家のこと――私はそれらを知っているから、上海の対応も理解できるけれど。

見抜かれているのであれば、今の私と上海はメディにとって看過できない存在。

 

 

「乗っ取られてるわけじゃないのね。でも、どうして受け入れてるのよ。

 アリスの人形への接し方に思うところはあるけれど、納得はできた。

 でも、今の上海は理解できないし納得もできないわ」

 

 

―――人形の開放。鈴蘭畑に捨てられた人形であるメディが、自身を捨てた人間を恨み、人間に操られるがままにされる全ての人形を自由にという遠い遠い理想。

今では人形遣いである私の在り方を知っても排除という手段を取らない程度に世間を理解しているけれど、理想を捨てたわけではなくて。

 

 

「私も全てを理解しているわけではありません。

 ですが、私のボディが必要なのであれば、お貸ししてもいいと思いました。

 言葉と、記憶と、力を与えてくれたお返しです」

 

 

そんなメディにとって今の上海は、一つのボディに二つの精神と、二つの魔力が宿っているように見えているのでしょう。

どれだけの負担を人形に与えるのか。なぜこんな好き勝手を許容しているのか。私にも上海にも不満を感じるのは当たり前。

 

「どうしてよ?アリスも上海も、それがおかしいことなのがわからないはずないでしょ?

上海のボディは、上海のためだけにあるべきよ。作り手であるアリスの魔力は仕方ない。そうしないと上海は自由に動くことすらできないのは知ってるから。

でも、別の人間の魔力なんて必要ないでしょ!今は隠れてるだけで、乗っ取られたらどうするのよ!」

「その時は、私は一度眠ります。この想いを届け終えたら、私に返してくれるでしょうから」

「信じられないわよそんなの!隠れるようにボディに潜む奴が、そんな殊勝なことするはずがない!そのまま使い捨てられておしまいよ!」

「信じられます!私は、隠れ家さんの記憶を頂いたんです!私が私のまま、上海のままで記憶だけ頂きました、言葉も力もです!これだけのことが出来るのに、私の心を壊さずに大人しくしてくれている。信じられないなんてことありません!」

 

弱ったわね…これは力尽くでメディを黙らせた方が手っ取り早いでしょうけれど、幽香に捕捉されてもおかしくない位置まで来てしまっている。多勢に無勢でメディを黙らせたのを知られれば協力なんてしてもらえるはずもない。

―――ところが、熱くなっていたように見えた上海は思った以上に冷静で。

 

「ご主人様、皆さん。我が儘を言わせてください。

 メディスンさんに納得してもらうので、手を出さないで貰えますか?

 出来れば、流れ弾が花を傷付けないように処理してもらえると助かります」

 

覚悟を決めた言葉と共に、メディの前に立ち塞がった。

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